音声分析 フーリエ解析の定性的理解のために
はじめに 皆さんは「波動」と言われてどのような「波」を思い出すだろうか?高校では、「波動」の分野は学習したが、そこに出てきた波は、単純なsin,cos波が多かっただろう。 しかし、下の図を見てみよう。これは、人間の「アー」という声の波形であるが、この形は単純なsin,cos波とは異なることが分かるだろう。では、このような波形を数式で表すことはできないのだろうか?このような波の式を表すためには、フーリエ解析という数学を用いるが、今回は実験を通して、フーリエ解析を定性的に理解しよう。
目的 フーリエ級数とフーリエ積分という2つの フーリエ解析について、定性的に理解する。
実験1 波形の観察 まず、いろいろな波(sin波、矩形波、三角波、鋸歯状波)の波形を観察し、それぞれの音を聞き、いろいろな波の波形と音が違っていることをたしかめよう。 この実験1では、いろいろな波を観察するが、これらには周期があるという共通点がある。周期のある波として、高校で既に学習しているのはsin波であるが、このsin波を応用して、矩形波、三角波などを数式で表すにはどうしたらよいか考えてほしい。
問い1Step2,3のための補足実験 問い1step2,3では、周期的な波を数式で表すために必 (2)の波を観察することによって、どんな条件が必 要であることが理解できるか。 ここでは、後の実験4(波の再合成)でも使用する Sound createrを用いて実験を行ってください。
実験2 フーリエ分解 考察1によると、各項の係数(フーリエ係数)と、基本振動数 (一番小さい振動数)が求まれば、どんな波の式でも表すこと 実験2 フーリエ分解 考察1によると、各項の係数(フーリエ係数)と、基本振動数 (一番小さい振動数)が求まれば、どんな波の式でも表すこと ができることが分かるだろう。これをするための方法が、フー リエ分解である。フーリエ分解とは、周期性のある波を様々なsin,cos波に分ける手段である。 実験2ではsignal scopeというソフトのFFT(Fast Fourier Transfo- rmation)をブラックボックス的に用いて、実験1で観察した様々 な波形(sin波、三角波、矩形波、鋸歯状波)をフーリエ分解して、それぞれの波がどのような波の合成になっているか観察してみよう。また、ブラックボックスはどのような原理のもとに計算しているか考えてみよう。 *実験1で観察した波形だけではなく、モノコード、口笛、携帯電話の着信音などについても実験してみるとよいだろう。
実験3 フーリエ係数の手計算 実験2(フーリエ分解)では、signal scopeというソフトを使って、様々な波のフーリエ係数を求めたが、実験3では、フーリエ分解の原理に従って三角波、矩形波、鋸歯状波のようにフーリエ係数の形がはっきりしている波のフーリエ係数を実際に手で計算してみよう。そして、計算結果が実験2(フーリエ分解)で、ブラックボックス的に求めた結果と等しくなるか確かめてください。
実験4 波の再合成 実験3(フーリエ成分の手計算)より、実験2(フーリエ分解)で求まったフーリエ係数と基本振動数はほぼ正しいことが理解できるだろう。 では、実験2(フーリエ分解)で求まったフーリエ成分を重ね合わせれば分解前の波が再現できるのだろうか。実験4では、任意のsin波を任意の振幅、初期位相で重ね合わせることができるsound createrというソフトを使って、実験2で求まったフーリエ成分を重ね合わせて、もとの波が再現できるか確かめてください。
実験5 フーリエ積分 実験1〜4では周期のある波を扱ってきた。しかし、これは一般的ではない。波の中には周期のない波もある。 実験5 フーリエ積分 実験1〜4では周期のある波を扱ってきた。しかし、これは一般的ではない。波の中には周期のない波もある。 実験5では周期のない波はどのように扱えばいいかを、実験1〜4で学習したフーリエ級数から考えたい。波の周期を大きくしていき、最終的に周期がない波、つまり、周期が∞の波にした場合、フーリエ成分は周期がある時とどのように違うか、実験を通して見てみよう。
考察1 注)考察は実験がすべて終わってから考えるのではなく、実験が1つ 終わる度に考えるようにしてください。そうでないと次の実験にうつれません。 Sin波、三角波、矩形波、鋸歯状波の波形と音の違いは確認できましたか?では実験1の結果をもとに次の問いを考えてみましょう。 問い1.周期性がある波の式を考えよう。 <step1>高校までで学習したsin,cos波をどのように応用したら複雑な形の波 が出来上がるか? <step2>重ね合わせた波の周期が重ね合わせる波のうちで一番小さい振動数 (基本振動数)の波の周期と一致する波を作るはどうしたらよいか? (1) (2) (1)(2)を比較し、考えてみよう。 <step3>基本振動数の整数倍のみの波の重ね合わせで様々な波を作るには? (1)(2)を比較し、考えてみよう。 *step2,3に関しては、『問い1step2,3のための補足実験』を実行して考えよう。
問い2.各項の係数について考えてみよう。 1. はどのような意味を持つか? 2.他の係数はどのような意味を持つか?
考察2 注)考察は実験がすべて終わってから考えるのではなく、実験が1つ 終わる度に考えるようにしてください。そうでないと次の実験にうつれません。 それぞれの波がどのような波の重ね合わせになっているか確認できましたか?実験2では、ブラックボックス的にフーリエ分解を行ないましたが、フーリエ分解の数学的原理を考えてみてください。 問い3.フーリエ分解がどのようにフーリエ係数を 求めているのか考えてみよう。 <ヒント>フーリエ級数式の両辺に、 をして、-L〜Lの範囲で積分する。 *ただし、signal scopeでは、単純にこの原理で計算しているのではなく、FFT(Fast Fourier Transformation)という原理に従って計算を行なっている。このFFTに関しても調べてみよう。
考察3 注)考察は実験がすべて終わってから考えるのではなく、実験が1つ 終わる度に考えるようにしてください。そうでないと次の実験にうつれません。 三角波、矩形波、鋸歯状波のフーリエ成分は計算できましたか?実験の結果をもとにして、次の問いを考えてみてください。 問い4.実験2で求まったフーリエ係数と 比較して、計算値と実験値の絶対 値がほぼ一致していることを確か めよう。
問い5.計算値と実験値の相違点は何か?
考察4 注)考察は実験がすべて終わってから考えるのではなく、実験が1つ 終わる度に考えるようにしてください。そうでないと次の実験にうつれません。 分解前の波は再現することができましたか? 実験の結果をもとに、次の問いを考えてみてください。 問い6.もとの波形と再合成した波を比較するとどうか?相違点はあるか?
考察5 注)考察は実験がすべて終わってから考えるのではなく、実験が1つ 終わる度に考えるようにしてください。そうでないと次の実験にうつれません。 実験1〜4で学習した周期のある波と実験5で観察した周期のない波はフーリエ成分にどのような違いがあるか分かりましたか?実験の結果をもとに、周期のある波と周期のない波はなぜフーリエ成分に相違点が生じるのか、次の問いで考えてほしい。 問い7.問い1のフーリエ級数式、問い3のフーリ エ係数の公式は2Lという周期を持っている が、この周期をなくす、つまり周期を∞に したら、式はどのように変化するか?
問い8.フーリエ積分の公式を用いて、次のフーリエ 積分を計算し、実験結果を考察してみましょう。 *なお、この座標には値は何も記入されていないが、値については 各自が考えた上で、計算してください。
問い9.周期がある波と、周期がない波は、数式で はどのように違うか?また、実験ではどう 違うことが分かるか?