門内 晶彦 理化学研究所 仁科加速器研究センター 理研BNL研究センター 理論研究グループ

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門内 晶彦 理化学研究所 仁科加速器研究センター 理研BNL研究センター 理論研究グループ AM, Phys. Rev. C 90, 021901(R) (2014) AM, arXiv:1408.1410 [nucl-th] Related work: AM and B. Müller, arXiv:1403.7310 [hep-ph] Quark chemical equilibration and thermal photons in heavy-ion collisions 門内 晶彦 理化学研究所 仁科加速器研究センター 理研BNL研究センター 理論研究グループ 熱場の量子論とその応用 2014 2014年9月5日、理化学研究所、和光

はじめに クォークグルーオンプラズマ (QGP): QCD非閉じ込め相に現れる超高温多体系 Graphics by AM ハドロン相 (クロスオーバー) 強結合QGP QGP相 ? 高エネルギー原子核衝突において生成することができる初期宇宙に実験的に迫る有力な手法 Au-Au, Au-Cu (200 GeV) and U-U (193 GeV) at RHIC Pb-Pb (2.76 TeV) at LHC RHIC 本質的にQCDの現象;電磁気学的な側面(光子)からその集団的性質を探る LHC はじめに

はじめに 原子核衝突における光子 (低いpT領域) 強い相互作用に対して不透明 ハドロンでは凍結以前の情報の大部分が失われる 崩壊光子 (decay photons) - ハドロン崩壊過程由来 熱光子 (Thermal photons; hadron) 熱光子 (Thermal photons; QGP) - 媒質の「黒体輻射」由来 即時光子 (prompt photons) - ハードな過程由来 直接光子 (direct photons) 強い相互作用に対して不透明 ハドロンでは凍結以前の情報の大部分が失われる 電弱相互作用に対しては透明 光子は時空発展の各点における情報を持つ はじめに

はじめに 重イオン衝突の観測量: Elliptic flow (v2) y py x px ハドロンv2は大きい 系の相互作用 座標空間の異方性 運動量空間の異方性 Kolb et al., PLB 500, 232 (2001) ハドロンv2は大きい RHIC (2001), LHC (2011) 流体的な記述とコンシステント 強結合QGPの「証拠」とされる 媒質の早い局所平衡化(τ < 1 fm/c)を示唆 Photon v2 puzzle

Photon v2 puzzle ? 直接光子(direct photon)の実験結果 直接光子v2が大きい 直接光子v3も大きい PHENIX, PRL 109, 122302 (2012) 直接光子v2が大きい RHIC (2011), LHC (2012) 流体モデルは小さなv2を予想      (実験ではπ0と同程度) ? 重イオンの「標準模型」が通用しない “photon v2 puzzle” 直接光子v3も大きい RHIC (2014) Talk by S. Mizuno (PHENIX) at QM14 π0のv3と同程度 原因(の少なくとも一部は)媒質自体の性質によることを示唆 本研究のアプローチ

本研究のアプローチ QGP生成において熱平衡化と化学平衡化が同時に起こる必然性はない 媒質自体の性質 τ > 10 fm/c: ハドロン気体 凍結 τ ~ 1-10 fm/c: QGP/ハドロン流体 平衡化 τ ~ 0-1 fm/c: グラズマ “Little bang” τ < 0 fm/c: カラーグラス凝縮 Graphics by AM - カラーグラス凝縮(CGC): 衝突原子核=飽和したグルーオン - QGP/ハドロン流体: 局所平衡化したクォークとグルーオン QGP生成において熱平衡化と化学平衡化が同時に起こる必然性はない 本研究のアプローチ

本研究のアプローチ + + … QGP流体初期におけるクォーク過疎状態 py py py px px px t クォーク・グルーオン・プラズマ クォーク・グルーオン・プラズマ クォーク・グルーオン・プラズマ 光子はクォークを含んだ過程で生成されるため時空発展後半の寄与が実効的に大きくなる; photon v2が大きくなる コンプトン散乱 クォーク対消滅 + + … 媒質のモデル

媒質のモデル (2+1)次元完全流体モデル + 反応速度方程式 エネルギー運動量保存 クォーク・グルーオン数変化過程 : 反応率 (a) グルーオン分岐 クォーク・グルーオン数変化過程 (b) クォーク対生成 (c) クォークのグルーオン放射 : 反応率 : (平衡状態の)パートン数密度 遅い化学平衡化は         に対応 化学的な緩和時間: インプット

インプット 初期条件 + 状態方程式・化学反応率 光子生成率 グルーオンエネルギー分布: クォークエネルギー分布: 0 GeV/fm3 Kolb, Sollfrank and Heinz, PRC 62, 054909 (2000) クォークエネルギー分布: 0 GeV/fm3 初期時刻: 0.4 fm/c 状態方程式: Hadron resonance gas (mass below 2 GeV) + Parton gas (Nf = 2) 化学反応率: ( ) and ( ) Turbide, Rapp and Gale, PRC 69, 014903 Traxler and Thoma, PRC 53, 1348 ただし and 結果

結果 熱光子(thermal photon) の elliptic flow – cb依存性 Thermal photon v2 クォーク数密度 クォークの化学平衡が遅いほど( ) thermal photon v2 が有意に増加する 局所平衡化モデル (AM and B. Müller, arXiv: 1403.7310) では             が示唆される のとき 結果

結果 熱光子(thermal photon) の elliptic flow – ca,c 依存性 Thermal photon v2 グルーオン数密度 グルーオンの化学平衡化が早いと thermal photon v2 は穏やかに増加する グルーオンは過密状態からスタート → 緩和が早いと、初期におけるクォークの生成が抑制されるため まとめと展望

まとめと展望 化学平衡にないQGPからの熱光子 (thermal photon) v2 を理論から数値的に評価した 将来の展望 クォークの平衡化が遅いとv2は有意に増加する “photon v2 puzzle” の解決に前向きな結果 媒質のカラーグラスからQGPへの時空発展が鍵 クォークの平衡化が遅いとv2はわずかに減少 熱光子分布はわずかに減少 化学非平衡における状態方程式、初期条件、光子生成率の改良、粘性の導入 etc. 即時光子 (Prompt photon) の影響の評価 化学非平衡QGPにおけるその他の現象論(heavy quark, etc.) Prompt photon vn

Prompt photon vn QGPにおける光学 透明なQCD媒質自体が(非一様・動的な)光学レンズとして機能する AM, arXiv:1408.1410 [nucl-th] 透明なQCD媒質自体が(非一様・動的な)光学レンズとして機能する 座標空間の異方性 (ε2, ε3, …) が直接     光子の運動量異方性 (v2, v3, …) に投影される 数値解析 – 即時光子 (prompt photon) vn 異方性に対して正の寄与; ただしHard thermal loopに基づく屈折率                では大きさが足りない - Tc付近の特異な振る舞い? - 超低運動量領域における半透明性 (vn と QGPのプラズマ周波数 が関連)? The end

The end Thank you for your attention! Website: http://tkynt2.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~monnai/

Results Transverse momentum spectra of thermal photons Thermal photon particle spectra pT spectra is reduced by late quark chemical equilibration Effect is limited for the chosen input; however more sophisticated photon emission rate and equation of state would be important (Cf. Gelis et al., JPG 30, S1031)