中部学院大学人間福祉学部 教 授 宮 嶋 淳 博士(ソーシャルワーク) 2018年度 子ども家庭福祉論 子 ど も の 幸 せづくり 中部学院大学人間福祉学部 教 授 宮 嶋 淳 博士(ソーシャルワーク)
Q.私が幸せだと感じる瞬間!
子どもの「幸せ」って?! ←頼れる大人と一緒 仲間と一緒⇒ ←頼れる大人と一緒 仲間と一緒⇒ 私たちは、不登校・ひきこもりの子どもたち、犯罪の被害者として、または、加害者として、犯罪に巻き込まれた子どもたち、親の虐待を受けた子どもたち、いじめに悩む子どもたち、先が見えずに深夜徘徊するこどもたち、リストカットを繰り返すこどもたち、たくさんの子どもたちと出会ってきました。 子どもたちとの出会いをとおし、今の「子どもたちの問題」、それは、実は子ども問題でなく、「大人、社会の問題」であると強く感じます。 子どもたちは、「できる」こと、「する」ことを求められ、「そのままでいる」こと、「そのままである」ことを認めてもらえないでいます。 「そのままでいい」と言われないことは、自分の存在価値を認めてもらえないことであり、自信を失います。今、自己肯定感がもてない子どもたちがたくさんいろいろな形で自分の危機のサインを送っているのです。
家族の「幸せ」って?! ←安心して遊べる 見ててくれる→ ←安心して遊べる 見ててくれる→ 子どもたちが出会う大人たちが、子どもたちが「そのままである」ことを認めてくれ、自分を「受けとめてくれる大人」との出会いをとおし、自己肯定感を取り戻し、再び自分の力で成長をはじめていく姿も見てきました。 子どもたちにとって必要なのは、「受けとめ手」としての大人の存在です。 私たちは、ソーシャルワークのさまざまな活動をとおして、地域社会に子どものそばに寄り添い、耳を傾け、子どもを受けとめていく存在をつくり、そして、こどもたちが出会える機会をつくっていきたいと考え、活動を展開していきます。
子どもの権利条約 1989/1994 世界中のすべての子どもたちがもっている“権利”について定めた条約。 子どもの権利条約 1989/1994 世界中のすべての子どもたちがもっている“権利”について定めた条約。 戦争に巻きこまれてしまったり、防げる病気で命をうしなってしまったり、つらい仕事で1日が終わってしまったり…世界には厳しいくらしをしている子どもたちがいる。 「子どもの権利条約」は、世界中の子どもたちの強い味方。
第1条 子どもの定義 18歳になっていない人を子どもとします。
第3条 子どもにとって もっともよいことを 子どもに関係のあることを行うときには、 子どもにもっともよいことは何かを第一に考えなければなりません。
第6条 生きる権利・育つ権利 すべての子どもは、生きる権利をもっています。 国はその権利を守るために、できるかぎりのことをしなければなりません。
笑顔! その背景を「聴く」 子どもは、大人が適切な育児・保育・教育を保障しなければ、その身体の成長も心の発達も損なわれる危険にさらされている。子どもとは“Children at risk”である。この状態を“Child Well-being”にしていくことをめざすのが、ソーシャルワークである。 子どもは、私たち大人が適切な育児・保育・教育を保障しなければ、その身体の成長も心の発達も損なわれる危険にさらされています。子どもとは、つねに“Children at risk(危機にある子どもたち)” なのです。 その危険性を取り除くには、子どものことを考え、子どもの立場に立って、子どもの生活環境の中にあるすべてのモノやコトをデザインする “Child-Caring Design(成育デザイン)” が必須です。 このCCDを作り出すためには、子どもに関係する人々が、学者、実践家(保育士、教師など)ばかりでなく、親までも含めて話し合い、その成果を、関係する学問の研究(“studies” あるいは “research”)を発展・深化させ、包括的・統合的に話し合う必要があります。 その基盤となる、学際的あるいは環学的な学問体系は、「子ども学」(“Child Science” )と呼ばれています。
ファミリーの物語を「聴く」 不妊に悩むカップルと生殖補助医療技術で生まれてくる子どもにより構成された「新しい家族」の、“Family Well-being”が追求されるとき、胎生期の人間関係や家族システムに着目しなければならない。 また不登校・ひきこもりなど子どもたちの問題は、実は「大人や社会の問題」である。 この認識がソーシャルワークの社会システム理解である。 生殖補助医療技術により形成された「新しい家族」の豊かな育ちとWell-beingの獲得をめざす。 20世紀において「新しい家族」とは、養子縁組家庭を指していた。 しかし私がいう「新しい家族」とは、21世紀になってその存在が認知されるようになった不妊に悩むカップルと生殖補助医療技術で生まれてくる子どもにより構成された「21世紀型の『新しい家族』」をさす。 不妊治療という生殖補助医療技術の進歩は、ヒトの発生に医療の関与を可能とし、「ゆりかごから墓場まで」という福祉の範ちゅうを揺さぶり、出生以前におけるヒトの萌芽の段階から、ヒトの福祉を捉えていくための明確で説得力のある思想・哲学を必要としている。 すなわち、人間のWell-beingに関する社会科学である人間福祉学の範ちゅうは「ヒトの萌芽(胎生期)」のあり方にまで及ぶマイクルレベルを想定して、ヒトの福祉を問うていく領域に踏み込んだ議論が必要になってきたのである。
社会に「聴く」 日本の15.7% 子どもの貧困率 =14.2% 経済協力開発機構 (OECD)加盟国中 =下から4番目
第7条 名前・国籍をもつ権利 子どもは、生まれたらすぐに登録(出生届など)されなければなりません。 子どもは、名前や国籍をもち、親を知り、親に育ててもらう権利をもっています。
どうやって生まれてきたの? ヒトはいつからヒトなのか? 祖先は、子孫を残してきた 男性の「精子」と女性の「卵子」が出会い、受精する。 そして、女性(=母)に迎えられる。 新しい生命が誕生する。 各々の生命は「受精の瞬間」から始まっている。 (米国:ルジューヌ・ジェローム博士(発生学))
生殖技術 代理出産 人工授精型 人工授精 ⇒配偶者間人工授精 非配偶者間人工授精 (AIH) (AID) 体外受精型 体外受精(IVF) 第三者の関わる 生殖技術 代理出産 人工授精型 体外受精型 人工授精 ⇒配偶者間人工授精 非配偶者間人工授精 (AIH) (AID) 体外受精(IVF) ⇒配偶者間体外受精 非配偶者間体外受精 14
第三者の関わる生殖技術とは AIDとは 非配偶者間人工授精 (Artificial Insemination by Donor : AID) 提供精子 体外受精 卵子提供 胚提供 代理母 代理懐胎 精子 第三者 本人 卵子 出産 ・ずっと大きな問題は起きていないと言われてきた。しかしそれは追跡調査に基づくものではなく、あくまで推測ではないか。 AIDとは 非配偶者間人工授精 (Artificial Insemination by Donor : AID) DI :Donor Insemination と言われることもある 男性側に不妊の原因がある場合に用いる人工授精 匿名の第三者の精子を利用 15
人 工 授 精 図① 配偶者間人工授精 (AIH) 図② 非配偶者間人工授精 (AID) = = 16
これまでの技術提供の問題点 事実が積み重ねられ、後から追認される。 ←法律がない 技術実施後の追跡調査が行われていない。 ←子の福祉 事実が積み重ねられ、後から追認される。 ←法律がない 技術実施後の追跡調査が行われていない。 ←子の福祉 技術で生まれた人の意見が反映される ←社会制度 システムになっていない。 多くの人が生まれ、今も選択しようとしている ←不妊を隠す 人たちがいるなか、この技術について 議論することが難しい。
読売新聞 2012年 5月 18日
AIDで生まれた子が感じている問題 告知の時期が遅い、親の積極的告知でない 親自身がこの技術を肯定できていない 親子の間の信頼関係が崩れる 家庭内の危機的状況の末の告知であり二重のショックを受ける 親自身がこの技術を肯定できていない 親に認められていないと感じる 悩む自分が親をさらに悩ませてしまう 不妊を隠すための技術として使われている 「夫婦がいて血のつながった子どもがいる」という家族をつくるため 今まで信じていたものが突然崩れてしまう その空白を埋めるための情報、環境が整えられていない
第三者が関わる生殖技術は、 子どもへの社会的虐待ではないか? 生殖技術は、医療者と不妊カップルのための隠された医療処置である。 子どもに「真実を告知しないこと」を原則とする。 生殖技術は、提供者が減るという理由で、子どもの出自を知る権利を封じている。 「私の情報は私のもの」という個人情報の保護の観点から、社会的に問題があり、責任は大きい。 成人し、事実を知り、混乱状態にある者がいる。 彼らは、なぜ真実を話してくれなかったのかと怒り、声を聴いて欲しいと訴えている。
「社会的虐待」の構造 虐待の起こっている場 ・・・医療現場や関係者を取り巻く社会 加害者 ・・・医療現場や関係者を取り巻く社会 加害者 ・・・医師や医療者、提供者、AID希望者、親戚・縁者、一般市民、 被害者 ・・・DI者、DI者が形成した家族 社会的ネグレクト 社会的排除 社会的虐待(加害者) 孤立(被害者)
「社会的虐待」の定義 生殖技術で生まれた子どもは、医療者等から「社会的孤立」の状態に追い込まれる。 虐待者である医療者等の社会的地位の高低は、被虐待者である子どもの「社会的虐待」の強化に関わる。 「社会的虐待」が強まると、子どもは「社会的孤立」を強め、自ら「社会的孤立」の道をたどっているかのようにみえる。 結果、市民による良心的な「社会的排除」が生じる。 子どもが「社会参加」する権利を奪う、良心的な「社会的排除」は社会的なネグレクトな状態である。
第三者の関わる生殖技術について考える会 第三者の関わる生殖技術について、さまざまな立場から 現状と問題を明らかにする。 第三者の関わる生殖技術について、さまざまな立場から 現状と問題を明らかにする。 社会に対し問題提起を行い、第三者の関わる生殖技術に ついて社会的議論が起こることを求める。 これまでをふり返り、そして社会的な議論なしに、現状の まま、これら技術が進み続けることには反対する。 第三者の関わる生殖技術の是非を、今一度問い直す。 会の目的
誕生にまつわる物語を「聴く」 秘密主義=「不妊は恥だ」というレッテルを夫婦が貼られないようにするため. 長く事実が隠されれば、されるほど,子どもはより傷ついていく. 両親に「騙された」と感じる.「怒り」を感じるようになった. 子どもは「もっと早くに告知して欲しかった」し、「提供者を知りたい」という共通の思いを抱いている. 不妊治療はステップアップするといわれている。 そのステップの先端は「代理母」であり「非配偶者間体外受精」である。 2000年12月に国は「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」を公表し、 法制化するために①生まれてくる子の福祉を優先する、②人を専ら生殖の手段として扱ってはならない、③安全性に十分配慮する、④優生思想を排除する、⑤商業主義を排除する、⑥人間の尊厳を守る、基本原則とすることとしている。 それから約10年が経過した今も、結論が出ず議論され続けているのである。 失われた10年が問いかけてくるものは「生まれてくる子の福祉を優先する」という理念を、私たちがいかに具現化することができるのかという叡智の集積の必要性である。 一つの視点として定着しつつある見解に、国連子どもの権利条約の第7条に「親を知る権利」があり、これが「子の出自を知る権利」を擁護しているというものである。 つまり、わが国が子どもの権利条約の批准国であるならば、子どもが親を知る権利も子どもの権利の1つとして保障しなければならないという考え方である。 その一方で、同条約第7条が遺伝子レベルに及ぶ見識を含んでいるという根拠は見当たらないのも事実である。 また、不妊治療を選択したカップルが、子に対して「あなたを心から愛し、あなたを私たちの家族に迎えたかったから、私たちは不妊治療を選んだの」と、自信をもってテリング(真実告知)し、ウソのない、安定した安心できる家庭を築ける保障もないのである。 現状で唯一言えることは、ウソが長く続かないほうが子どもの傷つきが少なく、ある情動が生起されても、次第に回復し、新しい物語を構築する力が子にも親にも沸いてくるということである。 すなわち、真摯な親子の対話こそ、失われた物語を再構築していく過程で欠かせないといえるのである。 「子どもの福祉」を実現するためには「子どもの声」に耳を傾け、子どもが参画の梯子をのぼれるよう、条件・状況を整えることが、私たちにできることではないだろうか。 とくにソーシャルワーカーが担う権利の擁護とは、当事者の声(非言語含)を無私・無知の姿勢(先入観に囚われない)で聴くことからはじまると考えられる。
幸せな私 自分の土台となるルーツが「嘘」 積み重ねられた自分が崩れる. 不幸せな私 自分を再構築しなければいけない. 積み重ねられた自分が崩れる. 不幸せな私 自分を再構築しなければいけない. ① 正直な訴えに耳を傾けて. ② 私の人生の物語は「悲しみ・怒り・悲痛」にあふれている. ③ 変化に向かって希望ももっている. ④ 「生まれながらの権利」を,社会は尊重してほしい. 情報の共有 信頼できる親子関係 積極的な告知 「出自を知る権利」を 社会のルールに みんなを支えるしくみを 第一にユニセフが提唱する21世紀型市民の啓発・養成をめざした。 すなわち、21世紀型市民とは、グローバルな視点を持って、身近なところで起こっている課題に主体的に取り組む人々である。 この観点に立つとき、生殖補助医療技術は現在の私たちの世代が、未来の世代とどのようにつながっていこうとしているのかを、遺伝子レベルで問いかけていく問題を提起しているといえる。 このことを私は問い、皆さんとともに考えていこうとするものである。 第二に保健・医療・福祉・保育の専門家養成のプロセスで、不妊に悩むカップルをサポートする[不妊相談]、生殖補助医療技術で生まれてくる子どもを支援する[生殖ケア]、 さらには[新しい家族]が社会的に認知されることをサポートする[生殖ケア・ソーシャルワーク]の視点やアプローチを説く。 つまり、人間について科学であることを標榜し、人間についての専門家を養成するプロセスにおいて、人間とは何か、生とは何か、生殖とは何かを考えていくとき、遺伝子レベルでの問いかけも当然に必要であるという観点に立っている。 幸せな私
「聴く」から、社会を動かす =ソーシャルワーク 「聴く」から、社会を動かす =ソーシャルワーク
ソーシャルワークとは何か ソーシャルワーク専門職は、 人間の福利(ウェルビーイング)の増進を目指して、社会の変革を進め、人間関係における問題解決を図り、人びとのエンパワメントと解放を促していく。 ソーシャルワークは、 人間の行動と社会システムに関する理論を利用して、人びとがその環境と相互に影響し合う接点に介入する。人権と社会正義の原理は、ソーシャルワークの拠り所とする基盤である。
子どもたちをサポートする取り組み例
ライフストーリーブック 1.わたしについて知っていること (精子・卵子の提供により生まれた子ども用)の中味 2.わたしの健康 ライフストーリーブック (精子・卵子の提供により生まれた子ども用)の中味 1.わたしについて知っていること 2.わたしの健康 3.わたしの生まれた家族 4.「告知」を受けた時のこと 5.提供者、そして同じ提供者から生まれたきょうだい 6.わたしの考えと気持ち 7.今のわたしと家族 8.わたしの学校 9.わたしの職場 10.ある一週間を振り返る 11.第三者の関わる生殖技術について思うこと 12.未来
レジリエンスの問題解決戦略 利用者への肯定的な関心 背景と文脈のアセスメント 間接的実践 複雑さの包含 間接的実践 複雑さの包含 非定型的解決の優位さの主張 (個別性) 文化的関連性 (アイデンティティ&ソウル) 方向づけ (ナビゲーション) 交渉・協働 (ネゴシエーション)