いろいろな人工衛星による積雲対流活動の観測例 全球降水観測計画(GPM)主衛星打ち上げ成功!

Slides:



Advertisements
Similar presentations
2012 年 7 月黒潮続流域集中観測 モデル感度実験 防災科学技術研究所 飯塚 聡 2012 年 12 月 17 日:東北大 学.
Advertisements

宇宙開発事業団 (NASDA) が開発した、環境観測技術衛星「みど りⅡ」 (ADEOS- Ⅱ ) 搭載の高性能マイクロ波放射計 (AMSR) による オホーツク海の流氷 ( 海氷 ) 画像。左図は 2003 年 1 月 18 日の夜間 (20 時半頃 ) に取得されたデータによる擬似カラー合成画像。
CMIP5 気候モデルにおける三 陸沿岸の SST の再現と将来予測 児玉安正・ Ibnu Fathrio ・佐々木実紀 (弘前大学大学院・理工学研究科)
気候 - 海・陸炭素循環結合モデルを用い た 地球温暖化実験の結果 吉川 知里. 気候 - 海・陸炭素循環 結合モデル.
CMIP5 気候モデルにおける ヤマセの将来変化: 海面水温変化パターンとの関係 気象研究所 気候研究部 遠藤洋和 第 11 回ヤマセ研究会 1.
リモートセンシング工 学 2007 年 1 月 11 日 森広研 M1 本田慎也. 第 11 章 気象レーダーによる観 測 雲、雨、風など 気象災害 → 特に台風、集中豪雨、竜巻、 ウインドシアー 大気の激しい撹乱現象をレーダーで 観測し防災に役立てることが重要.
温暖化に対する 寒冷圏の応答 予想以上に氷流出進行? 2月 17 日朝日新聞 3月 25 日朝日新聞 阿部彩子 地球 Frontier 研究センター 東大気候システム研究センター 国立環境研究所.
JRA-55再解析データの 領域ダウンスケーリングの取り組み
数値気象モデルCReSSの計算結果と 観測結果の比較および検討
熱帯太平洋における季節内スケールの 赤道波動特性の解析 5AOOM007 萩原 右理 指導  轡田 邦夫 教授.
北日本における4月と8月気温の強い相関関係とその時間変動(2)
地球環境のリモートセンシング 生物圏 植生分布,バイオマス,プランクトン量,・・・ 固体地球圏
(Precipitation Radar)
GLI初画像 冬の低気圧の渦 九州と東シナ海
国立環境研究所 温暖化リスク評価研究室長 江守 正多
A④_05 (チーム4:雲解像モデリング) 「雲解像モデルの高度化と その全球モデル高精度化への利用」
惑星大気大循環モデル DCPAM を用いた 地球大気に関する数値実験
*大気の鉛直構造 *太陽放射の季節・緯度変化 *放射エネルギー収支・輸送 *地球の平均的大気循環
いまさら何ができるのか?何をやらねばならないのか?
CMIP5マルチ気候モデルにおける ヤマセに関連する大規模大気循環の 再現性と将来変化
平成24年8月下旬~9月中旬の 北・東日本の高温について
CMIP5マルチ気候モデルにおける ヤマセに関連する大規模大気循環の 再現性と将来変化(その2)
南西諸島で梅雨期に観測されたセル群列の構造と形成過程
水の災害について学ぶ 国土交通省 北海道開発局 事業振興部 防災課.
1km格子で再現された2003年・2004年7月の気温場 気温場 降水分布の比較 沢田雅洋 岩崎俊樹 (東北大学) Miyagi Pref.
2013年7月のヤマセについて 仙台管区気象台 須田卓夫 昨年のまとめ(赤字は研究会後の調査)
2005年度・公開講座( ) 長期予報はなぜ当たらないか? 北海道大学大学院地球環境科学院 山崎 孝治.
全球の海霧の将来変化 気象研究所気候研究部 川合秀明、 神代剛、 遠藤洋和、 荒川理 第12回ヤマセ研究会 2016年3月10日
アンサンブル気候予測データベース(d4PDF)における東アジア気候の再現性と将来変化
2.温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 温暖化 - 雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
地学b 第5回雲と降水 Koji Yamazaki (山崎孝治)
炭素循環モデルグループの進捗状況 吉川知里 共生2連絡会議   C. Yoshikawa.
YT2003 論文紹介 荻原弘尭.
2006年4月9日 衛星搭載降雨レーダのアルゴリズム開発 生産技術研究所 沖・鼎研究室 瀬戸 心太.
熱帯海上における降水特性による 降水・循環の将来変化パターンの マルチモデル間の違い 廣田渚郎、高薮縁 (東大AORI) 2011/6/9.
講義ノート(ppt)は上記web siteで取得可 #但し、前日に準備すると思われるのであまり早々と印刷しない方が身の為
南北両半球間を横断する 水蒸気輸送と降水量との関連性
海上下層雲のパラメタリゼーション及び、海上下層雲と高気圧の関係
気候モデルのダウンスケーリングデータにおける ヤマセの再現性と将来変化
菅野洋光 (農研機構東北農業研究センター) 渡部雅浩 (東京大学大気海洋研究所)
Johnson et al., 1999 (Journal of Climate)
CMIP3/CMIP5気候モデルにおける ヤマセに関連する大規模大気循環の再現性 ~モデル解像度による違い~
冬季、東シナ海・日本南方海域における 温帯低気圧の発生に関する気候学的研究
CMIP5気候モデルにおける ヤマセの将来変化
気候モデルのダウンスケーリングデータにおけるヤマセの再現性と将来変化2
梅雨前線に伴う沖縄島を通過した 線状降水システムの構造の変化
CMIP3 マルチモデルにおける熱帯海洋上の非断熱加熱の鉛直構造 廣田渚郎1、高薮縁12 (1東大気候システム、2RIGC/JAMSTEC)
学部生対象 地球水循環研究センター(一部)説明会 趣旨説明
夏の中高緯度海上には、なぜ下層雲が多いのか?
2015 年 5 月下旬のインドの熱波について 報 道 発 表 資 料 平成 27 年 6 月 2 日 気 象 庁
2015 年5 月下旬のインドの熱波について 報道発表資料平成27 年6 月2 日気 象 庁
竜巻状渦を伴う準定常的なスーパーセルの再現に成功
MIROC5による将来のヤマセの再現性について(2)
ラジオゾンデで観測された 千島列島周辺の 激しいSST勾配が駆動する大気循環
2006 年 11 月 24 日 構造形成学特論Ⅱ (核形成ゼミ) 小高正嗣
地球環境気候学研究室 513M230 松本直也 指導教員 立花義裕
北極振動の増幅と転調は 何故20世紀末に生じたか? Why was Arctic Oscillation amplified and Modulated at the end of the 20th century? 地球環境気候学研究室 鈴木 はるか 513M228 立花 義裕, 山崎 孝治,
地球温暖化実験におけるヤマセ海域のSST変化- CMIP3データの解析(序報)
全球モデルにおける中緯度下層雲の鉛直構造の解析
海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 河宮未知生 吉川知里 加藤知道
将来気候における季節進行の変化予測 (偏西風の変化の観点から)
ヤマセ海域のSST変動と 海洋内部構造の関係 ー2011年の事例解析ー
中高緯度の海上下層雲の鉛直構造、海上霧の発生頻度、及びそれらと大気状態との関係
400MHz帯ウィンドプロファイラとCOBRAで観測された台風0418号の鉛直構造
雲解像モデルCReSSを用いた ヤマセ時の低層雲の構造解析
地球環境気候学研究室 谷口 佳於里 指導教員:立花義裕 教授
夏季日本における前線帯の変動と その天候への影響
K2地球システム統合モデル 成層圏拡張の進捗について
CMIP3マルチ気候モデルにおける 夏季東アジアのトレンド
従来研究 本研究 結果 南極大型大気レーダーPANSYで観測された大気重力波の数値モデル再現実験による力学特性の解明
Presentation transcript:

いろいろな人工衛星による積雲対流活動の観測例 全球降水観測計画(GPM)主衛星打ち上げ成功! 気候と降雨 (高薮研究室)  地球は低緯度で大きく高緯度で小さい太陽放射エネルギーを受け取っています。このアンバランスが地球大気の大循環を駆動しています。そして、低緯度の地表面で受け取る太陽放射エネルギーを大気に運び上げる役割を果たすのが、積雲対流活動です。熱帯の積雲対流活動は、雲<中規模雲群<大規模雲群という具合に階層的に組織化しながら大気を加熱し、数千kmスケールの大気循環とも相互作用しています。その一方で、降水過程の本質は水蒸気・水・氷の相変化を含む微物理過程であるため、モデル化はもちろん正確な現象把握も容易ではありません。私たちの研究室では、主に衛星データや全球気象データを用いたデータ解析により、熱帯大気・降雨・気候をキーワードに、様々な角度から研究しています。 いろいろな人工衛星による積雲対流活動の観測例 全球降水観測計画(GPM)主衛星打ち上げ成功! CloudSat衛星 TRMM(熱帯降雨観測衛星)  GPM主衛星が2014年2月28日に種子島宇宙センターから無事打ち上げられ、観測を開始しました。 TRMM/PRを発展させた2周波降水レーダ(DPR)を搭載し、弱い雨や降雪も観測可能になります。また、観測域が緯度±65度まで拡大(TRMMは±35度)し、地球上のおよそ9割を観測できるようになりました。GPM計画では国内外の複数の衛星と連携し、約3時間毎の全球降水観測が可能になります。本研究室では、このような新しい観測データをどんどん活用し解析していく予定です。 2006年に打ち上げられた、世界で初めて雲レーダー(CPR)を搭載した人工衛星。降雨に加え、雲の鉛直プロファイルが得られます。 1997年に打ち上げられた、世界で初めて降雨レーダーを搭載した人工衛星で、熱帯・亜熱帯全域を観測しています。降水量の水平分布のみならず、降水の鉛直構造まで得ることができます。 x z アマゾン10月 アマゾン1月 図3:CloudSat が捉えた、アマゾン域での雲システムの例。左は10月(雨期の直前)、右は1月(雨期中)で,季節によってシステムの形状が異なることが示唆される。(Higuchi) 図1:TRMM模式図。(JAXA) 20km 1 その他にも、例えば、MTSAT-1R(ひまわり6号)などの静止衛星観測データを活用すると、積雲対流の時間変化を詳細に追うことができます。 DPRによる降水3次元観測 図5:平成26年3月10日22時39分頃(日本時間)に、GPM主衛星が捉えた、日本の東海上にある発達した温帯低気圧による降水。 13:56 JST 14:11 JST 14:16 JST 14:21 JST 14:30 JST 14:36 JST 図4:MTSAT-1R(ひまわり6号)ラピッドスキャン観測がとらえた、積乱雲の発達の様子。 (Hamada) 図2:TRMM降雨レーダーで観測された台風セパート(2007年8月)の降雨分布。(上)水平分布。(下)TRMMによる3次元レーダ観測。(Yokoyama) Courtesy of JAXA/NASA Courtesy of JAXA/NASA 統計的特性の解析 ② 極端な降水現象の分布  極端な降水現象は、社会的な影響のほか、地球の水循環にも大きな影響を与えます。  特に激しい降水が見られる地域は、熱帯域(特に海洋大陸)のほか、南米やインド、日本などの島嶼部です(図8)。 日本は世界的に見て、降雨強度も強く降雨面積も大きい地域であることが分かります。(図9)。  極端に強い降雨は激しい雷雲に伴うと考えられることもありますが、実際には両者はそれほど一致しません(図10)。 ① 発雷頻度の海陸コントラスト  TRMMの降雨レーダーと雷センサーのデータを複合的に利用することで、降雨量あたりの発雷頻度が海域と陸域で異なることがわかりました(図6上)。すなわち、海と陸では雲降水システムの特性が全然違うのです。  降雨量分布(図6下)よりも海陸コントラストが明瞭な点がとても興味深いところです。 ③ 梅雨前線に伴う降雨特性  梅雨は日本に住む私たちには馴染み深い現象の一つです。私たちのグループでは、梅雨前線の南側と北側では大気成層が大きく異なることに注目し(図11上)、それに伴って雨の降り方も異なることをTRMM観測データから明らかにしました。たとえば、対流性の高い雨の出現頻度は梅雨前線の南側で顕著に増加しています(図11下)。  また、同様の視点から、気候モデル実験データによる梅雨の解析も行っています。 陸上:雷が多発! 海上:雷は少ない 気圧[hPa] 図8: 各2.5度格子内で最大降雨強度が上位0.1%を超える雨域として定義した降水システムの雨の強さの分布。(Murayama) →大 面積[km2]   →強 降雨強度[mm/h] 梅雨前線 図6: TRMMのPRおよびLIS観測から求められた8年平均の(上)降雨/発雷比(赤系の色は雷の多い性質の雨,青系は少ない雨を示す)、および(下) 降水量全球分布(36N-36S)。(Takayabu 2006) 降雨頂高度[km] 図9:図8と同じ定義の降水システムの地域的な特徴。(Hamada et al. 2014) こんな研究もしています 南太平洋収束帯付近では、降雨頂の高い雨が年間を通して多く降っており、その詳細や要因について解析しています。季節ごとの解析から、そのような背の高い雨は、特に南半球の夏に多いことが分かりました(図7)。 梅雨前線の中心からの相対緯度 N 図11:(上)JRA25-JCDAS再解析データによる14年平均した6-7月の日本付近の相当温位(色, K),東西風(黒コンター; m/s)、鉛直流(白コンター; Pa/s)。(下)TRMM PRによる対流雨の降雨頂高度の頻度分布のコンポジット(%)。横軸は梅雨前線を中心とした相対緯度。 (Yokoyama et al. 2014) 図10:極端降水をもたらした降水システムのうち、激しい対流活動を伴うものの割合(単位%)。(Hamada and Takayabu 2014) 図7: -20℃以下の降雨頂高度を持った雨が地表付近での全対流雨量に対する貢献率分布。2002年~2010年の12月~2月の季節平均。(Itagaki) 熱帯域の数1000 kmスケールの降雨システム IPCC気候モデルのマルチモデル解析 図14: (a)観測,降雨分布の再現性の(b)高いモデル(HS),(c)低いモデル(LS)の降水量(色; mm/day)と海面温度(等値線; ℃)。(Hirota et al. 2011) (b)HighScore (c)LowScore (a) 観測 9-11月  熱帯域の数千kmスケールの降雨システムは2種類の東進速度を持ちます(図12)。対流と結合したKelvin波とMJOと呼ばれるものがこれに対応し,降雨特性や擾乱の構造なども異なります。   MJOとKelvin波のどちらがより出現しやすいかは,季節や経度、またはエルニーニョの位相などで変化します。この違いには,対流圏中層の比湿や海水面温度といった環境場が関係していると考えられます(図13)。  観測データ解析で得た知見やノウハウを生かして,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書に参加した世界各国の気候モデルの実験結果を包括的に解析し,降雨特性や台風などの大気擾乱の特性の再現性能を評価し,地球温暖化による影響の将来予測を行っています。  左の図14で、熱帯降雨分布の再現性が高い5モデル(HS)と低い5モデル(LS)を比較すると,観測・HSとは異なり,LSでは南太平洋の降雨帯(SPCZ)が海面水温分布に沿って東西に延びています。これはモデルにおける対流活動の海面水温と大気中下層の湿度に対する感度の違いから整合的に説明できます。 MJO Kelvin波 MJOが強い Kelvin波が弱い 図13:環境場の散布図。MJOのケルビン波に対する強度比の上(下)位30%が青(赤)点で示されている。擾乱強度・環境場は3ヶ月平均の平年値,50E-270E (Kogawa) ←図12:MJOとKelvin波擾乱の例。2009年10月から2010年5月の赤道域(10N-10S平均)のOLRの経度-時間断面図。青色ほど強い対流を意味する。赤・青線で囲まれた部分はそれぞれMJOとKelvin波擾乱を示す。(Kogawa)