電子線を用いた 高分解能Λハイパー核分光用 散乱電子スペクトロメータの研究 東北大学大学院理学研究科 物理学専攻 松村 彰彦
概要 電子線を用いたΛハイパー核分光 前回の実験の問題点と改良 Tilt法、Background study 散乱電子検出器の開発、ビームテスト まとめ
電子線を用いたΛハイパー核分光 反応 入射ビーム 変換 運動量移行 スピン 断面積 (e,e’ K+) 1次ビーム p→Λ 2次ビーム n→Λ ~100 MeV/c spin-non-flip ~1 mb/sr (π+,K+) ~400 MeV/c ~10 μb/sr (e,e’ K+) 1次ビーム p→Λ spin-flip ~100 nb/sr
散乱粒子の角度分布 e’ 、K+共に前方ピーク ⇒可能な限り前方に散乱された粒子を測定
世界で最初の電子線を用いた Λハイパー核分光実験E89-009 0度方向に散乱した e’ 、K+を測定 (Enge、SOS スペクトロメータ) 世界最高となる、 900 keV(FWHM) のエネルギー分解能
E89-009の問題点と改善策 ハイパー核生成率 エネルギー分解能 主に制動放射による多量の散乱電子側のバックグラウンドのため、ターゲット厚、ビーム強度が制限 (それでも計数率200MHz; 12Cターゲット 22 mg/cm2 、ビーム強度0.66μAの場合) ⇒散乱電子側は0度を避けて測定 エネルギー分解能 SOSが分解能を制限 ⇒HKS(高分解能大立体角K中間子スペクトロメータ)の導入
E01-011セットアップ
散乱電子側の実験条件 0.4 MeV(FWHM) 全体での目標エネルギー分解能 中心運動量 0.316 GeV/c 運動量アクセプタンス ±30 % 運動量分解能(δp/p) 4×10-4(FWHM) 飛跡測定用検出器 ドリフトチェンバー TOF測定及びトリガー用検出器 プラスチックシンチレータ
散乱電子スペクトロメータ (Engeスペクトロメータ) Split-pole型 ハードウェア スペクトロメータ E89-009でも使用 運動量分解能 5×10-4(FWHM) focal planeと飛跡とターゲット位置 中心運動量
散乱電子側のバックグラウンド 制動放射 & Møller散乱 散乱電子側のバックグラウンド 制動放射 & Møller散乱 制動放射に付随する 電子 ⇒0度方向にピーク Møller散乱 ⇒散乱電子の運動量が 決まると散乱角も 一意的に決まる。 一次元の図にメラー追加 めらーの図を重ねる
Tilt法 散乱電子はsplitter magnetで水平方向に 分散 ⇒ビーム分散に対して 垂直方向に傾ける バックグラウンド電子 (制動放射 & Møller散乱) を避け、仮想光子に関与した電子をできるだけ多く検出する
パラメータの最適化 ⇒ Tilt angle = 7.75° Offset = 6 cm FoMが良くなる ターゲット厚5倍、 ビーム強度50倍 K+ arm側と合わせて Yieldが50倍、 S/N比が10倍良くなる ⇒ 2次元図→1次元図
GEANT3によるシミュレーション 目的 検出面での散乱電子の 現実的な計数率を調べる 周囲の物質(collimator、 Enge pole face等) に当たった電子の振る舞い 高い運動量の電子の 振る舞い mott散乱 絵の説明 Bz magnet 削除
シミュレーションの条件 Splitter及びEnge magnetの磁場 発生電子分布 物質 ⇒有限要素法を用いた3次元磁場計算ソフト「TOSCA」 発生電子分布 ⇒それぞれの物理プロセスの角度分布に 従うようにターゲットで発生、運動量0~1.8 GeV/c 物質 鉄⇒Enge pole、Splitter pole 鉛⇒検出器シールド用 タングステン合金⇒collimator 真空⇒virtual detector (detector plane含む)、その他の空間
初期運動量0~1.8 GeV/cの電子 ⇒ 検出面に到達する 電子の初期運動量は 0.2~0.5 GeV/c に集中 高い運動量の電子が 周辺の物質に当たって エネルギーを失い、検出面 に到達する割合は ほぼ0 ⇒ 図の説明、横軸初期運動量
Engeアクセプタンス (0.186~0.470 GeV/c)の電子 検出面に到達した電子の数 物理プロセス 到達電子数/発生電子数 ハイパー核生成に関与した 電子 4.9×10-3(2.2×10-4) Bremsstrahlung 2.1×10-5(2.2×10-7) Møller scattering 2.6×10-5(1.3×10-6) ※括弧内の数値は周辺の物質に当たった電子を表す ※発生電子数⇒約107 events 有効数字2けた 検出面に到達する電子の約5%は周辺の物質に 当たってエネルギーを失っている
バックグラウンド発生源 主にEnge入口や 上poleに当たった 電子がエネルギーを 失い検出面に到達 する。
シミュレーションまとめ 2.5×10-3 (1.1×10-4) 150(1.6) 26(1.3) 検出面での電子の計数率 (0.186~0.470 GeV/c、ビーム強度30 μA、12Cターゲット100 mg/cm2 の場合) 物理プロセス 到達電子数/ 発生電子数 Targetでの 発生率[GHz] 検出面での計数率 [kHz] ハイパー核生成に関与した電子 4.9×10-3(2.2×10-4) 5.1×10-7 2.5×10-3 (1.1×10-4) Bremsstrahlung 2.1×10-5(2.2×10-7) 7.2 150(1.6) Møller scattering 2.6×10-5(1.3×10-6) 1.0 26(1.3) ※括弧内の数値は周辺の物質に当たった電子を表す バックグラウンドとなる電子(制動放射 & Møller散乱) の計数率はおよそ180kHz (E89-009の散乱電子計数率~200MHz)
散乱電子検出器の開発 広い角度分布(0~40度)を持つ電子の 飛跡測定 ⇒ハニカムセルドリフトチェンバー 目標分解能:200μm(位置、水平方向) 300μm(位置、鉛直方向) 1.5 mrad(角度) TOF測定及びトリガー測定 ⇒プラスチックシンチレータ 目標分解能:75 ps(σ;TOF分解能) 目標となる分解能 一覧表
ハニカムセルドリフトチェンバーの仕様 10 layers (xx’,uu’,xx’,vv’,xx’) uu’,vv’ ±30° セルサイズ0.5 cm Anode⇒W-Au plated 20 μmΦ Cathode⇒Al-Au plated 80 μmΦ Ar+C2H6 (50%,50%) 有効領域 100×12×32 cm3
ハニカムドリフトチェンバーの性能 ⇒ 4×10-4(FWHM)以下 各分解能 X Y Y’ X’ 位置(水平;X) 86 μm 0.7 mrad 角度(鉛直;Y’) 2.8 mrad X Y ⇒ 中心運動量0.316 GeV/cの 電子に対して 4×10-4(FWHM)以下 の運動量分解能 Y’ X’
プラスチックシンチレータの仕様 TOF分解能 ~100 ps (σ) for 1.2 GeV/c,π+ (単体:~70 ps (σ)) ⇒BC420 (4×12×1 cm3) PMT ⇒Hamamatsu, H6612 1 layer ⇒25 segments TOF分解能 ~100 ps (σ) for 1.2 GeV/c,π+ (単体:~70 ps (σ))
まとめ 散乱電子側のバックグラウンドを 減らすために、Tilt法を考案、採用 散乱電子検出器の開発 Tilt angle=7.75°,offset=6.0 cm ⇒ターゲット厚を5倍、ビーム強度を50倍にしても バックグラウンド電子の計数率を 180kHz以下にまで軽減できる 散乱電子検出器の開発 ⇒中心運動量0.316 GeV/cに対して 4×10-4(FWHM)以下の運動量分解能を 見込むことができる
ホドスコープの性能 TOF分解能 ~99 ps(σ) for 1.2 GeV/c,π+ ホドスコープ単体の分解能 ~70 ps(σ)
初期パラメータ:Bremsstrahlung
初期パラメータ:Møller scattering
初期パラメータ:ハイパー核生成に 関与した電子
Tilt法のパラメータの最適化