L1-SAIF信号における電離圏補強情報の調整 第59回宇宙科学技術連合講演会 かごしま県民交流センター Oct. 7-9, 2015 2H10 L1-SAIF信号における電離圏補強情報の調整 坂井 丈泰、 北村 光教、伊藤 憲 電子航法研究所
Introduction 準天頂衛星システム(QZSS): L1-SAIF補強信号による測位精度: Oct. 2015 Introduction 準天頂衛星システム(QZSS): 準天頂衛星軌道上の測位衛星による衛星測位サービス。 GPS補完信号に加え、補強信号を放送。補強信号:L1-SAIF、LEXの2種類。 初号機「みちびき」を2010年9月に打ち上げ、技術実証実験を実施中。 L1-SAIF補強信号による測位精度: GPS L1 C/A信号と同一方式の信号でサブメータ級の測位精度を提供する補強信号。 通常時は所期の測位精度を達成。 電離圏活動活発期に、特に南西諸島において測位精度が劣化するため、対策を検討している。 内容: (1) 準天頂衛星システムL1-SAIF補強信号 (2) 通常時の測位精度と、電離圏活動活発期における測位精度 (3) 補強情報の調整による精度改善方式の検討 (4) 実験による性能評価
準天頂衛星システムの構想 準天頂衛星(QZS) GPSや静止衛星 高仰角からサービスを提供可能。 Oct. 2015 準天頂衛星システムの構想 準天頂衛星(QZS) GPSや静止衛星 高仰角からサービスを提供可能。 山間部や都市部における測位・放送ミッションに有利。 高仰角から放送する情報により、GPS衛星の捕捉を支援できる。 東経135度を中心に配置 初号機「みちびき」: 離心率0.075、軌道傾斜角43度
Space Segment: QZS-1 L1-SAIF Antenna 25.3m Oct. 2015 Space Segment: QZS-1 L-band Helical Array Antenna L1-SAIF Antenna Laser Reflector C-band TTC Antenna Radiation Cooled TWT TWSTFT Antenna 25.3m Successfully launched on Sept. 11, 2010 and settled on Quasi-Zenith Orbit (IGSO). Nickname: “Michibiki” Mass 4,020kg (wet) 1,802kg (dry) (NAV Payload:320kg) Power Approx. 5.3 kW (EOL) (NAV Payload: Approx. 1.9kW) Design Life 10 years
準天頂衛星の機能 GPS補完機能: L1C/A, L2C, L5, L1C信号 GPS補強機能: L1-SAIF, LEX信号 Oct. 2015 準天頂衛星の機能 GPS補完機能: L1C/A, L2C, L5, L1C信号 GPS補完信号として、GPS信号に似た測位信号を放送。 天頂付近の高仰角から測位信号を提供することで、都市部や山岳地域などで衛星数の不足を補い、いつでも位置情報が得られるようにする。 ユーザ側は、既存GPS受信機のソフトウェア改修程度で対応できる。 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が技術実証実験を実施。 GPS補強機能: L1-SAIF, LEX信号 すべてのGPS衛星を対象として、ディファレンシャル補正情報等を補強信号に乗せて放送する。 L1-SAIF信号:移動体測位用。補強信号の国際標準SBASと同じ信号形式。 ユーザ側は、既存SBAS対応受信機のソフトウェア改修程度で対応できる。 電子航法研究所がL1-SAIF補強信号の開発を担当。衛星打上げ後に技術実証実験を行い、現在も引き続き実験を実施中。
SAIF: Submeter Augmentation with Integrity Function Oct. 2015 L1-SAIF補強信号 一つの信号で3つの機能 補強信号 (補完機能) ①補完機能 準天頂衛星 GPS衛星群 補強信号 (誤差補正) ②誤差補正機能 測位信号 補強信号 (信頼性付与) ③信頼性付与機能 一つの補強信号で3つの機能:補完機能(レンジング)・誤差補正(目標精度=1m)・信頼性付与。 ユーザ側では、1つのGPSアンテナによりGPSとL1-SAIFの両信号を受信:受信機の負担軽減。 ユーザ (GPS受信機) SAIF: Submeter Augmentation with Integrity Function
サブメータ級補強の仕組み 準天頂衛星 GPS衛星 さまざまな誤差を補正 信頼性の情報 クロック誤差 補強情報 軌道誤差 Oct. 2015 サブメータ級補強の仕組み 対流圏 電離層 測距機能 準天頂衛星 GPS衛星 0100101001…… 補強情報 さまざまな誤差を補正 信頼性の情報 高仰角 ユーザ(1周波GPSアンテナ) 軌道誤差 クロック誤差
L1-SAIF実験局(L1SMS) L1-SAIF実験局(L1SMS:L1-SAIF Master Station): Oct. 2015 L1-SAIF実験局(L1SMS) L1-SAIF実験局(L1SMS:L1-SAIF Master Station): L1-SAIF補強メッセージをリアルタイムに生成し、 JAXA地上局(つくば)に送信する。 電子航法研究所構内(東京都調布市)に設置。 補強メッセージの生成に使うGPS測定データについては、国土地理院電子基準点ネットワーク(GEONET)から取得する。 L1SMS GEONET 準天頂衛星 QZSS主制御局 GPS衛星 測定 データ L1-SAIF メッセージ 国土地理院 (配信拠点=新宿) 電子航法研究所 (東京都調布市) JAXA地上局 (つくば) L1-SAIF信号 測位信号 アップリンク ループ アンテナ
リアルタイム動作試験 東西方向誤差(m) 南北方向誤差(m) Horizontal Error Vertical 1.45 m 2.92 m Oct. 2015 リアルタイム動作試験 Standalone GPS L1-SAIF Augmentation 東西方向誤差(m) 南北方向誤差(m) L1-SAIF補強 GPS単独測位 6 reference stations User location for this test L1-SAIF expe- rimental area Horizontal Error Vertical 1.45 m 2.92 m 6.02 m 8.45 m System Standalone GPS 0.29 m 0.39 m 1.56 m 2.57 m w/ L1-SAIF RMS Max 電子基準点940058(高山)におけるユーザ測位誤差。 モニタ局配置は、札幌・茨城・東京・神戸・福岡・那覇の6局構成。 実験期間: 2008年1月19~23日 (5日間) 使用衛星:GPSのみ Note: Results shown here were obtained with geodetic-grade antenna and receivers at open sky condition.
最大の誤差要因:電離層伝搬遅延 電離層 遅延マップ (NASA/JPL) 赤道異常:磁気赤道の南北にある、電子密度が高い領域。 Oct. 2015 最大の誤差要因:電離層伝搬遅延 電離層 遅延マップ (NASA/JPL) 赤道異常:磁気赤道の南北にある、電子密度が高い領域。 常に存在するが、密度や大きさの変化を予測することは難しい。 特に南西諸島方面では電離層伝搬遅延を補正しきれず、誤差となってあらわれる。
電離圏活動活発期の測位精度 南西諸島での例(960735 和泊) 北海道での例(950114 北見) Oct. 2015 電離圏活動活発期の測位精度 LT 14:00 南西諸島での例(960735 和泊) 北海道での例(950114 北見) 2013年10月23~26日(4日間、Kp指数~7+)のユーザ測位誤差(L1-SAIF補強あり) 。 南西諸島で測位精度が大幅に劣化する。 二周波数モードでは劣化は大きくない。また、北海道では一周波数モードと二周波数モードで同様な精度となっている。 →原因は電離圏伝搬遅延にある。
電離圏伝搬遅延の補正量 南西諸島(960735 和泊) 北海道(950114 北見) Oct. 2015 電離圏伝搬遅延の補正量 PRN20 PRN28 5m 南西諸島(960735 和泊) 北海道(950114 北見) 南西諸島では、実際の遅延量に対して補正量が5m以上違ってしまっている。 測位精度の劣化は、電離圏伝搬遅延の補正残差に原因がある。 より正確な補正情報を生成する必要がある。
L1-SAIFの電離圏伝搬遅延補正 120 150 180 30 60 Longitude, E Latitude, N Oct. 2015 L1-SAIFの電離圏伝搬遅延補正 120 150 180 30 60 Longitude, E Latitude, N 15 45 IGP 広域補強を行うL1-SAIF補強信号では、広い範囲にわたって有効な補正値が必要。 5度×5度の格子点(IGP)における補正値を放送する。 ユーザは、各衛星から到来する測距信号の電離層通過点(ユーザIPP)を求め、その位置の補正値を内挿により求める。 補正精度は、モニタ局の配置に依存する。 IGP ユーザIPP
メッセージタイプ26:電離圏遅延補正 メッセージタイプ26:電離圏伝搬遅延量 IGPにおける垂直遅延量を伝送。 Oct. 2015 メッセージタイプ26:電離圏遅延補正 メッセージタイプ26:電離圏伝搬遅延量 IGPにおける垂直遅延量を伝送。 メッセージタイプ26のメッセージ1個で、15ヶ所のIGPにおける遅延量を伝送できる。 メッセージタイプ26:電離圏伝搬遅延量 Repeat Content Bits Range Resolution 1 IGP Band ID 4 0 to 10 IGP Block ID 0 to 13 15 IGP Vertical Delay 9 0 to 63.875 m 0.125 m GIVEI (Table) — IODI 2 0 to 3 Spare 7
GIVEI (GIVE Index) GIVEI (Grid Ionosphere Vertical Error Index) Oct. 2015 GIVEI (GIVE Index) GIVEI (Grid Ionosphere Vertical Error Index) 4ビットのインデックスで、換算表によりσGIVEを得る。 電離圏遅延量の補正後の残差の大きさを表す。 GIVE値の効果 保護レベルの計算にあたり、擬似距離の補正後の精度の計算に用いられる。 GIVE値が大きいと、保護レベルが大きくなる。 補正後の擬似距離の重みが下がる。 GIVEI=15 (Not Monitored):当該IGPについては、電離圏遅延量の情報がない。 ユーザ側IPPの周囲4個のIGPのうち、2個以上がNot Monitoredの場合は、そのIPPについては補正ができない(その擬似距離は使えない)。 GIVEI 3.29 σGIVE 0.3 m 4 1.5 m 8 2.7 m 12 6.0 m 1 0.6 m 5 1.8 m 9 3.0 m 13 15.0 m 2 0.9 m 6 2.1 m 10 3.6 m 14 45.0 m 3 1.2 m 7 2.4 m 11 4.5 m 15 Not Mon
補正精度の評価 ユーザ側IPPにおける、 観測値と補正情報による推定値の差 4:30 北海道(950114 北見) 4:30 Oct. 2015 補正精度の評価 ユーザ側IPPにおける、 観測値と補正情報による推定値の差 Difference, m 4:30 北海道(950114 北見) Over 2.5m Difference, m 4:30 南西諸島(960735 和泊)
| I(fIPP_i, lIPP_i) - IIPP_i | Oct. 2015 補正値の品質 MCS自身で補正値の品質をチェックできる。 補正値の生成に使用した観測データを、補正情報でチェックする。 例:嵐検出アルゴリズム:残差に対してカイ二条検定を行うもの(すでに実装済み)。 すべてのIPPについて、観測データと推定値の差を計算する。 IPPで観測された電離圏垂直遅延量 生成された補正情報により、IPP位置に おける補正値を計算した結果 差が大きい場合 =そのIPPにおいて補正に使用される 補正情報が有効ではない。 たとえばこのあたり Difference, m | I(fIPP_i, lIPP_i) - IIPP_i | ^ MCS側IPPにおける、 観測値と補正情報による推定値の差
電離圏補強情報の調整 補正値が有効でないIPPを検出した場合に、GIVEIを調整する: Oct. 2015 電離圏補強情報の調整 補正値が有効でないIPPを検出した場合に、GIVEIを調整する: 赤道異常のため、当該IPPの南側には、電離圏の不規則性がある可能性がある。 IPPにおける観測値と補正値の差がスレッショルドを超えた場合に、そのIPPよりも南側にあるすべてのIGPについて、 QC-NM: スレッショルドTHNMを超えたら ‘Not Monitored’ (NM)をセットする。 QC-45: スレッショルドTH45を超えたら 最大値(GIVE=45m)をセットする。 Difference, m QC-45: TH45=3.0mを超えている2個のIPP(赤丸)のため、20N以南のIGPはすべてGIVE=45mにセットされる。 QC-NM: THNM=5.0mを超えているIPP(黒丸)のため、15N以南のIGPはすべてGIVE=Not Monitoredにセットされる。
|I(fIPP_i, lIPP_i)-IIPP_i| : TH Oct. 2015 電離圏補強情報の調整 For All IPPs For All IGPs For All IGPs > fIGP_k : fIPP_i IPP I における補正値を求める: I(fIPP_i, lIPP_i) ^ IGP k の 補正情報を生成 < |I(fIPP_i, lIPP_i)-IIPP_i| : TH ^ GIVE = NM or 45mを IGP k にセット > < 観測データ 補正情報 から計算 通常の 補正アルゴリズム 今回の追加分:GIVEIを調整する
実験:モニタ局の配置 GEONETを利用 国土地理院のGPS観測ネットワーク 30秒データ(RINEXファイル)を使用 Oct. 2015 実験:モニタ局の配置 GEONETを利用 国土地理院のGPS観測ネットワーク 30秒データ(RINEXファイル)を使用 L1-SAIF実験局: RINEXファイルによるオフラインモード GEONETの6局を使用: MSASや通常運用のL1-SAIFの設定に近い、 モニタ局 (a)~(f) を使用して補強情報を生 成。 評価用ユーザ局: GEONETの5局を使用: 北海道から南西諸島までの評価局 (1)~(5) L1-SAIF実験局が生成した補強情報を適 用して、各地点でのユーザ測位誤差を算 出。
ベースライン性能 南西諸島 = (5) 和泊 北海道 = (1) 北見 Oct. 2015 ベースライン性能 南西諸島 = (5) 和泊 北海道 = (1) 北見 実験期間: 2011年10月23~26日(強い電離圏嵐: Kp~7+) L1-SAIF実験局のパラメータ: GMS局数 = 6, 電離圏補強 = Planar Fit
GIVEI調整あり (QC-45) 南西諸島 = (5) 和泊 北海道 = (1) 北見 Oct. 2015 GIVEI調整あり (QC-45) 南西諸島 = (5) 和泊 北海道 = (1) 北見 GIVEI調整あり: TH45=1.0m (QC-45) and THNM= (No QC-NM). 南西諸島において若干の改善がみられる。 測位処理のアベイラビリティには低下はみられない(測位処理ができなくなることはない)。
GIVEI調整あり (QC-45+QC-NM) Oct. 2015 GIVEI調整あり (QC-45+QC-NM) 南西諸島 = (5) 和泊 北海道 = (1) 北見 GIVE調整あり: TH45=2.0m (QC-45) and THNM=3.0m (QC-NM). 明らかな改善効果はみられない。 測位処理のアベイラビリティが低下している(測位処理ができなくなることがある)。
GIVEI調整の効果 10% QC-45のみ適用 QC-45及びQC-NMを適用 QC-45: 10%程度の改善がみられる。 Oct. 2015 GIVEI調整の効果 10% No loss of Availability QC-45のみ適用 QC-45及びQC-NMを適用 QC-45: 10%程度の改善がみられる。 QC-NM: 改善は明らかではなく、アベイラビリティの低下がある。
Conclusion 電子航法研究所では L1-SAIF補強信号を開発 性能低下の要因:電離圏擾乱 検討課題: Oct. 2015 Conclusion 電子航法研究所では L1-SAIF補強信号を開発 信号形式: GPS/SBAS-like L1 C/A code (PRN 183) 移動体ユーザに対する補強情報の伝送に利用することを想定 性能低下の要因:電離圏擾乱 日本の大部分の地域では、L1-SAIF補強信号により1m程度の測位精度を達成。 特に南西諸島地方において、電離圏擾乱現象により測位精度が低下する場合がある。 このような現象の対策として、電離圏遅延量の観測値と補正値の差にもとづいて、補強情報を調整することを試みた。 実験の結果、10%程度の精度改善を期待できることがわかった。 検討課題: 本方式について、他の時期のデータによる性能検証。 電離圏補強情報の品質を改善する他の手法の検討。 外部データ(宇宙天気情報やGNSS以外のセンサなど)の利用。 日本以外のアジア諸国における性能改善手法。