坂井 丈泰、武市 昇、福島 荘之介、工藤 正博、藤井 直樹 電子情報通信学会 宇宙・航行エレクトロニクス研究会 July 25, 2008 GNSS進入の導入による 欠航回避効果の検討 電子航法研究所 坂井 丈泰、武市 昇、福島 荘之介、工藤 正博、藤井 直樹 山本 哲士、行木 宏一、宮津 義廣、福田 豊
Introduction 就航率が上がらない要因: 進入フェーズにおけるGNSS(衛星航法システム)の利用: GNSS進入による効果の試算: July 2008 - ENRI Introduction 就航率が上がらない要因: 我が国における欠航件数の1/4は視程が原因となっている。 就航率を改善するには、低視程でも着陸を可能とするシステムが有効。 進入フェーズにおけるGNSS(衛星航法システム)の利用: 我が国ではすでにMSASが供用を開始しており、GBASも開発中。 GNSSのメリットのひとつは、地上の航行援助施設の配置と関係なく柔軟に進入コースを設定できること。 特にMSASでは、地上施設なしで精密進入を実現できる可能性がある。 GNSS進入による効果の試算: GNSSによる精密進入が可能となった場合に、実際にどの程度の就航率改善効果(欠航の回避)が期待できるか。 空港気象情報を利用して、欠航率を試算した。
July 2008 - ENRI 就航率の現状 (「航空保安システムのあり方について」、交通政策審議会第7回航空分科会資料、2007年3月)
GNSSのメリット 衛星航法の特徴: 進入フェーズでのメリット: GNSS進入による就航率の改善: 広い範囲に均質なサービスを提供。 July 2008 - ENRI GNSSのメリット 衛星航法の特徴: 広い範囲に均質なサービスを提供。 地上の航行援助施設の配置によらない。 進入フェーズでのメリット: 柔軟な進入コース設定が可能:山を避ける、市街地上空を避けるなど。 地形などの理由でILSが設置できなかった滑走路でも、GNSSの利用により精密進入を設定できる可能性がある。 地上施設なしで精密進入を設定(MSASの場合):コスト・施設用地の問題を解決。 GNSS進入による就航率の改善: ILS非設置空港:精密進入の設定により、着陸のための気象条件を緩和。 ILS設置空港:反対側滑走路にも精密進入を設定し、風向によらず両方向の滑走路を利用可能とする。
精密進入用GNSS:MSAS 2007年9月より運用中の我が国のGNSS。 July 2008 - ENRI 精密進入用GNSS:MSAS 2007年9月より運用中の我が国のGNSS。 ICAO SBAS規格に準拠:米国WAAS、欧州EGNOSと同一のシステム。 広域システムなので、サービスエリア(福岡FIR)内の全域をカバー。 MSAS(WAAS)対応受信機(FAA TSO-C145/146、ARINC743A)を使う。 いまのところ、航空路~非精密進入(NPA)までのサービス。 静止衛星 GPS衛星 モニタ局ネットワーク ユーザ アップリンク局 (FAA HPより)
精密進入用GNSS:GBAS 進入・着陸フェーズのために開発中のGNSS。 ICAO GBAS規格:VHFにより補強情報を放送する。 July 2008 - ENRI 精密進入用GNSS:GBAS 進入・着陸フェーズのために開発中のGNSS。 ICAO GBAS規格:VHFにより補強情報を放送する。 サービスエリア:GBAS地上局から半径20NM以内。 GBAS対応受信機は、ILSと共用のMMR(Multi-Mode Receiver、ARINC755)として市販されている。 (FAA HPより)
進入方式 計器進入方式: 計器進入方式でない進入: July 2008 - ENRI 進入方式 計器進入方式: 目的の飛行場に接近するための手順。視界ゼロの状態であっても、安全かつ確実に接近させることができるよう設計されている。 進入限界高度あるいは進入復行点(MAPT)まで(進入復行も含む)。 各滑走路について、利用する航行援助施設の別にいくつかの進入方式が設定される。 MAPTまでに滑走路(特定の灯火でもよい)が視認できればそのまま着陸を継続する。視認できない場合は着陸はせず、進入復行する。 直線進入:滑走路を視認後、そのままその滑走路に着陸。 周回進入:滑走路を視認後、周回飛行を経てから着陸。反対側の滑走路にも降りられる。 計器進入方式でない進入: 目視進入・視認進入による場合。
精密進入(PA) 精密進入方式(Precision Approach): 精密進入の概略: July 2008 - ENRI 精密進入(PA) 精密進入方式(Precision Approach): コースおよびグライドパスを設定して、接地点に向けて一定の降下角で降下していく方式。 在来航法では、ILS(計器着陸装置)のみが対応。ローカライザとグライドパスの組合せで、いずれもVHFを使用。 水平・垂直方向とも確実に誘導できるので、着陸のための気象条件は緩くできる(視界が悪くても進入できる)。 進入限界高度:DA(決心高度、気圧高度による場合:CAT-I)、DH(決心高、電波高度計による場合:CAT-II/III)。 精密進入の概略: ローカライザ信号を捕捉してコースに乗せ、滑走路に接近する。 グライドパスを捕捉して、降下を開始する。 進入限界高度に達した時点で、滑走路が視認できればそのまま着陸。
非精密進入(NPA) 非精密進入(Non-Precision Approach): 非精密進入の概略: July 2008 - ENRI 非精密進入(NPA) 非精密進入(Non-Precision Approach): 方位情報のみしか与えられない進入方式。高度は気圧高度計による。 VOR/DMEやNDBを使用する。 ILSのグライドパスが利用できない場合、ローカライザのみを使う非精密進入が可能。 着陸のための気象条件は、精密進入よりも厳しい(視界が良くないと進入できない)。 進入限界高度:MDA(最低降下高度)。 非精密進入の概略: VOR/DMEやNDBを利用して、決められたコースで滑走路に接近する。 MDAまで降下して、MAPT(進入復行点)までに滑走路が視認できればそのまま着陸する。 DMEがない(距離情報がない)場合、MAPTは飛行時間で判断する。
GNSS進入の導入 LNAV進入(Lateral Navigation): 精密進入: July 2008 - ENRI GNSS進入の導入 LNAV進入(Lateral Navigation): RNAV(GNSS)進入方式として一部の空港で公示されている非精密進入方式。 FAA TSO-C129対応のGPS受信機が必要。具体的には、RAIM機能を有すること(MSASやGBASは必ずしも必要ではない)。 精密進入: いまのところ設定されている方式はない。 本検討では、GLS(GNSS Landing System)と称してGNSSによる精密進入方式を想定する。 MSASあるいはGBASの利用により、垂直方向も含めて十分な誘導性能が得られるものと想定。 参考:米国はICAO APV-I(垂直誘導付進入)モードをWAAS LPVモードとして実用化しており、DH=250FTまでの運用がなされている。
欠航回避効果の検討 検討の概要: 空港気象情報の適用: July 2008 - ENRI 欠航回避効果の検討 検討の概要: GNSS進入の導入により、欠航をどの程度抑制できるか(=就航率をどの程度改善できるか)を調べる。欠航率=着陸できない時間割合。 天候が原因の欠航(最初から出発しない)・引返し(出発空港に引き返す)・ダイバート(代替空港への着陸)をすべて欠航として取り扱う。 天候以外の原因による欠航は考慮しない。 空港気象情報の適用: 着陸の可否は、空港気象情報により判断する。対象時間帯は07:00~22:00。 2004年6月21日~2007年12月31日の空港気象情報(METAR/SPECI)を収集。 風向・風速により、着陸可能な滑走路を決める。 雲底高度(シーリング)・滑走路視程(RVR)・地上視程(卓越視程)により、着陸のための気象条件が満たされているかどうかを判定する。 雲底高度:MDA/DAよりも雲底が高いこと。 RVR・地上視程:最低気象条件で指定されている値よりも大きいこと。
空港気象情報の例 帯広空港における2008年4月8日19:00~20:42の気象情報 July 2008 - ENRI 空港気象情報の例 RJCB 081000Z VRB03KT 4500 BR FEW003 BKN004 02/01 Q1023 RJCB 081024Z 16005KT 3100 BR FEW003 BKN004 01/01 Q1023 RJCB 081100Z 14004KT 0600 R35/0700V1300N FG VV001 01/01 Q1023 RJCB 081105Z 15004KT 0600 R35/0650V1300D FG VV001 01/01 Q1023 RJCB 081139Z VRB02KT 0400 R35/0400V0700D FG VV001 01/01 Q1023 RJCB 081142Z VRB02KT 0400 R35/0400V0650D FG VV001 01/01 Q1023 帯広空港における2008年4月8日19:00~20:42の気象情報 19:24=もやは出ているものの視程は3100mあり、上空300~400FTを底とする雲がある。 20:00=霧が出てきて、滑走路視程が700mまで下がっている。鉛直視程が100FTしかなく、ILS(DH=200FT)では着陸できない可能性がある。 実際に、JAL1157便(羽田発18:15、帯広着19:45)が濃霧のため欠航した。
着陸可能性の判断 利用可能な滑走路の決定: 着陸可能かどうかの判定: LNAV進入・GLS進入の最低気象条件: July 2008 - ENRI 着陸可能性の判断 利用可能な滑走路の決定: 風速が10KT以上の場合、追い風となる向きの滑走路には着陸できない。 風速が25KT以上で横風の場合、いずれの滑走路にも着陸できない。 着陸可能かどうかの判定: 非精密進入方式:直線進入の最低気象条件(MDAとRVR)が満たされているなら、その滑走路に着陸できる。周回進入の最低気象条件(MDAと地上視程)が満たされているなら、反対側の滑走路にも着陸できる。 精密進入方式:直線進入の最低気象条件(DAとRVR)が満たされているなら、その滑走路に着陸できる。周回進入の最低気象条件(MDAと地上視程)が満たされているなら、反対側の滑走路にも着陸できる。 以上のいずれによっても着陸可能な滑走路がない場合、欠航となる。 LNAV進入・GLS進入の最低気象条件: 進入限界高度:LLZ進入を参考に、付近の障害物件を考慮して設定。 RVRと地上視程:灯火条件により設定。
強風のためILSの反対側の滑走路しか使えない July 2008 - ENRI 強風時の就航率改善 強風のためILSの反対側の滑走路しか使えない ILSによる進入コース 強風 GLSによる 進入コース GPS ILSによる進入コース 強風 ILSなし 周回飛行 (a) GLSがない場合 周回飛行により 反対側の滑走路へ (b) 反対側にGLSがある場合 周回飛行をしなくても 反対側の滑走路に降りられる → 最低気象条件の緩和
試算対象(1):富山空港 精密進入が利用できない空港の例。 富山湾付近の河川敷にあり、標高は低い。 南側や東側は山岳に囲まれている。 July 2008 - ENRI 試算対象(1):富山空港 精密進入が利用できない空港の例。 富山湾付近の河川敷にあり、標高は低い。 南側や東側は山岳に囲まれている。 滑走路 RWY20 LLZ進入・VOR進入などが設定されており、直線進入で降りられる。 進入灯・滑走路灯あり。 滑走路 RWY02 周回進入のみ。 滑走路灯あり。
最低気象条件:富山空港 進入方式 直線進入 周回進入 進入限界高度 [FT] 滑走路視程 [m] 地上視程 VOR/DME — July 2008 - ENRI 最低気象条件:富山空港 進入方式 直線進入 周回進入 進入限界高度 [FT] 滑走路視程 [m] 地上視程 VOR/DME — 750 (643) 3200 LLZ RWY20 520 (457) 1600 640 (563) VOR/DME/LLZ RWY20 LNAV RWY20 LNAV RWY02 520 (425) 2000 GLS X RWY20 270 (206) 750 GLS Y RWY20 320 (256) GLS Z RWY20 370 (306) 800 GLS X RWY02 300 (200) 1000 GLS Y RWY02 350 (250) GLS Z RWY02 400 (300) 1200 進入限界高度は、ILS/GLSではDA(DH)、それ以外はMDA(MDH)
欠航率:富山空港 シナリオ RWY34 DH [FT] RWY16 着陸不能の 時間割合 [%] 現状 — 0.7970 July 2008 - ENRI 欠航率:富山空港 シナリオ RWY34 DH [FT] RWY16 着陸不能の 時間割合 [%] 現状 — 0.7970 RWY02にLNAVを導入 0.6976 RWY02にGLSを導入 300 0.6433 250 0.5098 200 RWY20にGLSを導入 306 0.2318 256 0.2075 206 両方向にGLSを導入 0.1099 0.0836 効果大 (既存調査による欠航率: 約1.05%)
富山空港における試算結果 現状では0.8%程度の欠航率と予想。調査結果の約1.05%と矛盾しない。 July 2008 - ENRI 富山空港における試算結果 現状では0.8%程度の欠航率と予想。調査結果の約1.05%と矛盾しない。 現状では周回進入しかないRWY02にLNAV進入あるいはGLS進入を設定すると、欠航率を0.8%から0.5~ 0.7%程度に軽減できる。 現状でもLLZ進入ができる RWY20にGLS進入を導入すると、 欠航率を0.2%程度に改善できる。 富山空港では、風向よりも視程が 問題となっている。 強風時の風向は、RWY20側が 多い。 富山空港における強風時の風向
試算対象(2):鹿児島空港 ILS設置空港の例。 鹿児島市北方の山間部にあり、標高は比較的高い。 離島行きのコミュータ路線が多く就航。 July 2008 - ENRI 試算対象(2):鹿児島空港 ILS設置空港の例。 鹿児島市北方の山間部にあり、標高は比較的高い。 離島行きのコミュータ路線が多く就航。 滑走路 RWY34 CAT-I ILSを設置。 他にもVOR/DME進入などが設定されており、直線進入で降りられる。 進入灯・滑走路灯あり。 滑走路 RWY16 周回進入のみ。
最低気象条件:鹿児島空港 進入方式 直線進入 周回進入 進入限界高度 [FT] 滑走路視程 [m] 地上視程 VOR/DME — July 2008 - ENRI 最低気象条件:鹿児島空港 進入方式 直線進入 周回進入 進入限界高度 [FT] 滑走路視程 [m] 地上視程 VOR/DME — 1680 (788) 3200 VOR/DME RWY34 1320 (461) 1600 LLZ RWY34 520 (457) 1400 ILS RWY34 600 LNAV RWY34 1300 (441) LNAV RWY16 1300 (394) GLS X RWY34 1080 (221) GLS Y RWY34 1130 (271) 650 GLS Z RWY34 1180 (321) 800 GLS X RWY16 1160 (245) 750 GLS Y RWY16 1210 (295) GLS Z RWY16 1260 (345) 900
欠航率:鹿児島空港 シナリオ RWY34 DH [FT] RWY16 着陸不能の 時間割合 [%] 現状 — 0.4986 July 2008 - ENRI 欠航率:鹿児島空港 シナリオ RWY34 DH [FT] RWY16 着陸不能の 時間割合 [%] 現状 — 0.4986 RWY16にLNAVを導入 0.1340 RWY16にGLSを導入 345 0.0906 295 0.0895 245 0.0820 RWY34にGLSを導入 321~221 両方向にGLSを導入 321 271 221 CAT-IIIb ILS導入 0.4114 345~245 0.0420 効果大 効果無 効果小 (既存調査による欠航率: 約0.58%)
鹿児島空港における試算結果 現状では0.5%程度の欠航率と予想。調査結果の約0.58%と矛盾しない。 July 2008 - ENRI 鹿児島空港における試算結果 現状では0.5%程度の欠航率と予想。調査結果の約0.58%と矛盾しない。 現状では周回進入しかないRWY16にLNAV進入あるいはGLS進入を設定すると、欠航率を0.1%程度にできる。 富山空港の場合よりも効果が 大きいのは、周回進入の最低 気象条件が厳しいから。 現状でILSが設置されている RWY34では、GLS進入の導入に よる効果はない。 ILSをCAT-IIIb運用とするよりも、 反対側滑走路にLNAV進入や GLS進入を導入するほうが 効果が大きい。 鹿児島空港における強風時の風向
Conclusion GNSS進入を導入した場合の欠航率を試算: 試算結果の例: 今後の課題: July 2008 - ENRI Conclusion GNSS進入を導入した場合の欠航率を試算: 空港気象情報を利用して欠航となる時間割合を算出する。 既存調査結果とは矛盾せず、計器進入方式の有効性を計算可能。 試算結果の例: 富山空港では、ローカライザが設置されている側の滑走路にGLSを導入するのが効果的。 鹿児島空港では、ILS設置滑走路と反対側にGLSを導入するとよい。既存ILSをCAT-IIIb運用するよりも効果的。 今後の課題: 離島空港など、効果が大きいと思われる例について試算する。 具体的な進入方式の設計。