認定鳥獣捕獲等事業者 講習会資料 技能知識講習編 認定鳥獣捕獲等事業者 講習会資料 技能知識講習編 この講習は、認定鳥獣捕獲等事業者を目指している捕獲従事者の方が受講する必要があるものです。講習会は、環境省が作成した講習テキストの内容に沿って、必要な時間を受講すれば、環境省主催でも、事業者が従事者に対して開催した講習会でも、又は第三者が主催した講習会であっても、講習会終了後、修了証を発行する講習会であれば、いずれを受講しても構いません。 この講習会は、平成26年の法改正によって、事業者の認定、それに必要な講習会も初めて行われるということもあり、環境省が、法施行の前に、最低限講習すべき内容をまとめたテキストを元に開催しています。 この講習では、捕獲事業に関する基本的なこと、捕獲従事者が知るべき必要最低限の内容をお伝えします。 認定鳥獣捕獲等事業者(以下、認定事業者と呼びます)を目指す皆さんは、このテキストでお伝えすることに加えて、それぞれが委託される事業の方針や採用する捕獲方法などもふまえたより具体的な内容を、従事者向けに講習することも必要になります。 従事者を目指す皆さんは、この研修の内容に加え、所属する事業者の方針に従って、安全管理には万全を期してください。
認定鳥獣捕獲等事業者講習会 技能知識講習(1日目) 安全管理講習(2日目) 1 科学的・計画的な鳥獣の保護及び管理 1 科学的・計画的な鳥獣の保護及び管理 2 鳥獣の保護又は管理に関連する法令 3 認定鳥獣捕獲等事業者制度 4 鳥獣捕獲等事業における捕獲手法 安全管理講習(2日目) 5 鳥獣捕獲等事業の工程管理 6 鳥獣捕獲等事業における安全確保 これが今回の研修の内容です。 1日目は、捕獲に必要な技能を講習します。 1.科学的・計画的な鳥獣の保護及び管理 鳥獣管理は科学的、計画的に行われています。どのように鳥獣の保護及び管理が行われているかを理解し、捕獲を計画する上で必要な事項、留意点について説明します。 2.鳥獣の保護又は管理に関連する法令 鳥獣の捕獲を行うには、様々な守るべき法令があります。それらを確認し、事業として捕獲を行うには、それらの法令について理解、把握していただくようにお願いします。 3.認定鳥獣捕獲等事業者制度 皆さんが認定を受けようとしている認定鳥獣捕獲事業者制度について、その要件、留意点を説明します。 4.鳥獣捕獲等事業における捕獲手法 事業として捕獲を行うためには、発注者側から求められる契約内容、捕獲する場所、環境に応じて、捕獲手法を検討する必要もありますので、様々な捕獲手法の留意点について説明します。 2日目:安全管理について講習します。 5.鳥獣捕獲等事業の工程管理 認定事業者として、法人として鳥獣の捕獲を契約して行うことにより、これまでの個人として関わっていた捕獲と異なり、発注者と確認すべきことや制約、注意点がありますので、その工程管理について、順に説明します。 6.鳥獣捕獲等事業における安全確保 実際の鳥獣の捕獲の現場において、どのように安全を確保すべきかについて、説明します。
1 科学的・計画的な鳥獣の保護及び管理 1.1 鳥獣の保護及び管理の現状 1.2 鳥獣の管理の強化 1 科学的・計画的な鳥獣の保護及び管理 1.1 鳥獣の保護及び管理の現状 1.2 鳥獣の管理の強化 はじめに、捕獲事業の背景として、現在進められている科学的・計画的な鳥獣の保護及び管理がどのようなものか、説明します。
1.1 鳥獣の保護及び管理の現状 1.1.1 ニホンジカ、イノシシ等の鳥獣の増 加と被害の深刻化 1.1.2 主な鳥獣の生態と捕獲の留意点 1.1.3 科学的・計画的な鳥獣の保護及び 管理の必要性 1.1.4 鳥獣捕獲の担い手にかかる現状 まずは、現在の鳥獣の保護、管理の現状です。 鳥獣の保護、管理の背景には、ニホンジカ(以下、便宜上口頭ではシカと表現します)やイノシシなどの分布域の拡大や生息数の増加と、それに伴う被害の深刻化があります。 次に主な鳥獣の生態と捕獲の留意点を説明します。 それを受け、被害対策や個体数管理の必要性が高まり、強化されつつあるのなかで、これらの対策は、科学的・計画的に行い、さらに社会の要請や地域の実情を踏まえて対応することが求められています。 そうした中で、捕獲を適切に実施していく、事業者や従事者が必要になってきました。 この流れを順を追って説明します。
ニホンジカの推定生息数 推定生息数の中央値:約304万頭 (平成27年度末,北海道のぞく) テキスト 2ページ テキスト 2ページ ニホンジカの推定生息数 推定生息数の中央値:約304万頭 (平成27年度末,北海道のぞく) 近年、捕獲の必要性が高まってきた背景には、一部の鳥獣の生息域の拡大や生息数の増加があります。 ニホンジカの生息数の増加の状況について図1-1のグラフを見てください。これは、全国の捕獲数等のデータを用いて統計的手法を用いた生息数の推定結果です。平成27年度時点の本州以南のシカの推定生息数は、ある程度の幅を持って推測されており、中央値で約304万頭と推定されています。 中央値というのは、統計的に、これより多い可能性とこれより少ない可能性が五分五分だという値です。多くの場合、行政は中央値を目安にして目標値などを立てています。 中央値で約304万頭とは、9割程度の確率で、これくらいだろうと推定される生息数の範囲が、224万頭から456万頭の間だろうというような言い方になります。 いずれにしても、シカが増加傾向にあり、その増加ペースがかなり速いことがわかります。 (※環境省では、全国のシカとイノシシの推定生息数を毎年公表することとされており、新しいデータを追加して、過去の推定値も含めて見直されています。様々なデータを追加していくことで、より推定の精度が上がっていくと考えられているため、過去の推計値との差ではなく、毎年発表される推定データをご覧いただければと思います。) (参考)平成27(2015)年度の北海道の推定個体数は約49~55万頭(北海道資料) 「統計手法による全国のニホンジカ等の個体数推定等について(環境省)」より
イノシシの推定生息数 推定生息数の中央値:約94万頭 (平成27年度末) テキスト 2ページ テキスト 2ページ イノシシの推定生息数 推定生息数の中央値:約94万頭 (平成27年度末) また、イノシシの推定生息数については、平成27年の時点で中央値で約94万頭と推定されています。 イノシシは、春に4~5頭の子供を生むため、1年の中でも数の変動が激しいのですが、おおむね年度末の一番少ない時期を想定した推定です。 (もし仮に、子供を産むメスが、このうちの30万頭だとして、4頭ずつ産めば、一時的には120万頭増えることになります。) 9割の確実性がある範囲は73万頭から123万頭になります。 (※スライドでは、捕獲数のデータからイノシシの個体数推定を出していますが、各都府県レベルでは、捕獲数以外に生息密度を表す有効な指標となるデータがなく、データ数が少ないこと、個体数の変動が大きいことなどにより、個体数の推定が困難な状況です。そのため、多くの府県では被害量あるいは被害額を指標とした管理目標を設定しています。捕獲努力、捕獲数を調整しながら進めるフィードバック管理が必要です。) 「統計手法による全国のニホンジカ等の個体数推定等について(環境省)」より
ニホンジカ個体数の将来予測シミュレーション テキスト 3ページ ニホンジカ個体数の将来予測シミュレーション 現状の捕獲率※を維持 → 359万頭(2023年度) 捕獲率を1.90倍 → 124万頭(2023年度、2011年度の約1/2) 捕獲率を2.40倍 → 62万頭(2023年度、2011年度の約1/4) ※ 捕獲率:推定個体数に対する捕獲数の割合 この個体数は、将来的には、どう変化して行くのでしょうか? これは、シカの生息数の将来予測です。 一番左のグラフを見て下さい。シカを、平成27年度(2015)と同じ割合で捕獲をしていくと、平成35年度(2023)には生息数が約1.2倍に増加し、増える一方と予測されています。 中央値で約359万頭にもなってしまいます。 平成35年度(2023)までに、シカの数を半減させる場合が、真ん中のグラフになります。 シカの数の半減というのは、環境省と農林水産省が平成25年に、シカとイノシシの生息数を10年後までに半減させるという目標を立てています。なぜ半減かというと、全国的に生態系や農林業被害が顕著になり、個体数調整の必要性が高まった頃の生息数に戻すことを当面の目標にしているためです。 半減させるためには、今の2倍以上の割合で捕獲を進めなければいけないという予測結果になっています。 これは一つの予測結果です。まずはこの結果に沿って捕獲強化の対策を行い、モニタリングもしながら、これからの適切な捕獲数を見極めて行く必要があります。 いずれにしても、問題となる野生鳥獣の数を減らして行くためには、かなりの捕獲努力を投入することが必要であることは間違いありません。 また、捕獲により生息数が減ってくると、その分、捕獲は難しくなってくると考えられます。そのため、1頭あたりの捕獲のための費用や労力は、増加してしまうことにも考慮しておく必要があります。 「統計手法による全国のニホンジカ等の個体数推定等について(環境省)」より
分布域の拡大 ニホンジカ 1978年→2014年に 約2.5倍 テキスト 4ページ 分布域の拡大 テキスト 4ページ ニホンジカ 1978年→2014年に 約2.5倍 次に、分布域の拡大について見ていきます。 この図は、シカとイノシシの分布域の拡大の様子です。(自然環境基礎調査、捕獲された位置情報、都道府県、市町村、森林管理署へのヒアリング等でまとめたもの。1メッシュは5km四方。) 環境省の最新の分布調査によると、シカの生息メッシュ数は、1978 年から2014 年の36年間に約2.5倍になり、全国の約6割の地域でシカが生息しているということになります。 紫色の部分を見てください。2011年度から2014年度、ここ4年間でも、1.2倍に増加しており、近年も、北海道の道南地域、東北地方、北陸地方で、分布域の拡大が続いていることがわかります。 「全国のニホンジカ及びイノシシの生息分布拡大状況調査について(環境省)」より
分布域の拡大 イノシシ 1978年→2014年に 約1.7倍 テキスト 4ページ 分布域の拡大 テキスト 4ページ イノシシ 1978年→2014年に 約1.7倍 次に、イノシシの分布域の拡大の様子です。 環境省の最新の分布調査によると、イノシシの分布メッシュ数は、1978 年から2014 年の36年間に約1.7倍に拡大しており、イノシシの分布域は西日本を中心に5割を超えています。 紫色の部分を見てください。2011年度から2014年度のここ4年間にかけても、東北地方や北陸地方を中心に、分布域の拡大が続いていることがわかります。 「全国のニホンジカ及びイノシシの生息分布拡大状況調査について(環境省)」より
ニホンジカの採食圧による下層植生の衰退 大台ヶ原 剣山 テキスト 5ページ 2002年 2008年 次に、シカによる森林被害の状況です。 テキスト 5ページ ニホンジカの採食圧による下層植生の衰退 大台ヶ原 剣山 (高知県鳥獣対策課提供) 次に、シカによる森林被害の状況です。 増えすぎたシカは、例えば、樹皮を食べて樹木を枯死させたり、林床植生を消失させたり、または森林内をシカがあまり好まない植物のみの単純な構成に変えるなど、森林の生息環境を変え、生物多様性の減少を引き起こします。 国立公園においても全32のうち20の公園で生態系への影響が確認されています。 写真は、奈良県と三重県の県境にある大台ケ原と高知県の剣山の様子です。 これらの衰退の原因は、複合的な要因(大台ヶ原における森林衰退理由:昭和34年の伊勢湾台風による大量の風倒木による乾燥化、公園利用者の増加による踏み荒らし等)もありますが、シカの食害による影響も大きく影響しており、数年の間に下層植生がかなり衰退しているのがわかります。 2002年 2008年
ニホンジカの採食圧による高山植物への影響 テキスト 5ページ ニホンジカの採食圧による高山植物への影響 ※南アルプスの事例 高山帯では、植物の成長量も少ないため、被害はより深刻になる場合もあります。南アルプスのお花畑といわれる、 高山植物の消失は象徴的なできごとで、希少な植物への影響も心配されます。 また、シカの影響として、森林の持つ水源涵養や国土保全等の公益的機能を低下させ、斜面崩壊による土砂災害を引き起こすことも各地で懸念されています。 増沢武弘撮影 鵜飼一博撮影
ニホンジカ・イノシシ・サルによる農作物被害 →全体の約7割 テキスト 6ページ ニホンジカ・イノシシ・サルによる農作物被害 →全体の約7割 農作物被害金額の推移 (平成29年度, 農林水産省資料) シカに食害されたダイズ 次に、農業に対する被害の現状です。 農作物被害額は、シカ、イノシシが多くを占め、ニホンザルやカラスの被害がそれに続きます。 グラフを見ると、総額は、平成20年度以降、年間200億円前後で推移しています。 捕獲だけでなく、防護柵等の被害防除対策等も進められていますが、なかなか被害を減らすことが出来ないのが現状です。 イノシシによる水稲の踏倒