発光と発光励起スペクトルから見積もる 低次元電子系のキャリア温度

Slides:



Advertisements
Similar presentations
超伝導磁束量子ビットにおける エンタングルメント 栗原研究室 修士 2 年 齋藤 有平. 超伝導磁束量子ビット(3接合超伝導リング) 実験 結果 ラビ振動を確認 Casper H.van der Wal et al, Science 290,773 (2000) マクロ変数 → 電流の向き、 貫く磁束.
Advertisements

顕微発光分光法による n 型ドープ量子細線の研 究 秋山研究室 D3 井原 章之 ’ 07 11/20 物性研究所 1次元電子ガスを内包し、 状態密度の発散や 強いクーロン相互作用の 発現が期待される。 しかし試料成長や測定が難しいた め、 バンド端エネルギー領域の 吸収スペクトルに現れる特徴を.
Localized hole on Carbon acceptors in an n-type doped quantum wire. Toshiyuki Ihara ’05 11/29 For Akiyama Group members 11/29 this second version (latest)
プラズマからのX線放射 X-ray Radiation from Plasmas 高杉 恵一 量子科学フロンティア 2002年10月17日.
m=0 状態の原子干渉計による パリティ依存位相の測定 p or 0 ? 東理大理工 盛永篤郎、高橋篤史、今井弘光
生体分子解析学 2017/3/2 2017/3/2 機器分析 分光学 X線結晶構造解析 質量分析 熱分析 その他機器分析.
非線形光学効果 理論 1931年 Göppert-Mayer ラジオ波 1959年 Winter 可視光 1961年
較正用軟X線発生装置のX線強度変化とスペクトル変化
PLの実験内容(2002~2003) He-Ne 一様励起のみ 魚の地図を作成 Ti-Sa 魚、船、原子的平面の温度依存性 (4K-60K)
導波路放出光解析による量子細線の光吸収測定
X線による超新星残骸の観測の現状 平賀純子(ISAS) SN1006 CasA Tycho RXJ1713 子Vela Vela SNR.
単一分子接合の電子輸送特性の実験的検証 東京工業大学 理工学研究科  化学専攻 木口学.
「高強度領域」 100 MW 〜 1 GW 50 Pcr 〜 500 Pcr 高強度レーザーパルスは、媒質中で自己収束 光Kerr効果
シリカガラスの熱的性質 II ガラス転移,仮想温度 福井大学工学部 葛生 伸.
第1回応用物理学科セミナー 日時: 5月19日(月) 15:00ー 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室 Speaker:鹿野豊氏
Real Time PCR Ver.1.00.
2次元蛍光放射線測定器の開発 宇宙粒子研究室 氏名 美野 翔太.
生物機能工学基礎実験 2.ナイロン66の合成・糖の性質 から 木村 悟隆
me g 探索実験用液体Xeカロリメータの
前回の内容 結晶工学特論 第5回目 Braggの式とLaue関数 実格子と逆格子 回折(結晶による波の散乱) Ewald球
顕微発光分光法によるドープ量子細線中の 1次元電子系の研究
ドープT型量子細線の発光(PL)および 発光励起(PLE)スペクトルと電子温度
Astro-E2衛星搭載 XISの データ処理方法の最適化
MBE成長GaAs表面の平坦化とそのAFM観察
信号電荷の広がりとデータ処理パラメータの最適化
井原章之 (Toshiyuki Ihara) 東京大学 秋山研究室 D2
1次元電子系の有効フェルミオン模型と GWG法の発展
一連のドープ細線における バンド端とフェルミ端の構造
有機化合物に対する第一原理GW計算 arXiv: 東京大学
Dissociative Recombination of HeH+ at Large Center-of-Mass Energies
東京大学 物性研究所、CREST(JST)
T型量子細線レーザーの利得測定と 多体理論計算との比較 秋山研 助教 吉田正裕 Outline: 1. 背景と目的
グラフェンのランダウ準位構造 (+最近の進展)
発光と発光励起スペクトルから見積もる 低次元電子系のキャリア温度
軽井沢合宿@上智大学セミナーハウス ( ) GaAs T型量子細線における 高密度キャリア効果 秋山研  吉田正裕.
シリカガラス表面および表面付近の構造変化
Kennard-Stepanov関係式を用いた ドープ量子井戸中の電子温度の絶対測定
原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布.
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
Arm-Stem電流注入型T型 量子細線レーザーの発振特性
Arm-Stem電流注入型T型 量子細線レーザーの発振特性
T型量子細線における励起子-プラズマクロスオーバー(現状のまとめ)
空洞型ビーム軌道傾きモニターの設計 東北大学 M1 岡本 大典 .
T型量子細線レーザーにおける光学利得のキャリア密度依存性
量子細線における1次元電子正孔系 の多体効果 物性研究所 秋山研 助手 吉田正裕 今回の発表内容 単一T型量子細線について
2次元系における超伝導と電荷密度波の共存 Ⅰ.Introduction Ⅱ.モデルと計算方法 Ⅲ.結果 Ⅳ.まとめと今後の課題 栗原研究室
光スイッチングデバイス.
References and Discussion
黒澤君計算との違い 岸本 祐二.
顕微発光分光法によるドープ量子細線中の 1次元電子系の研究
産総研・計測標準 寺田聡一 東大地震研 新谷昌人、高森昭光
Numerical solution of the time-dependent Schrödinger equation (TDSE)
わかりやすいパターン認識 第7章:部分空間法  7.1 部分空間法の基本  7.2 CLAFIC法                  6月13日(金)                  大城 亜里沙.
一連のドープ細線における バンド端とフェルミ端の構造
機器分析学 赤外吸収スペクトル ラマンスペクトル.
発光励起スペクトル測定法で見る ドープ量子井戸の光放出と光吸収の関係
楕円型量子ドットの電子・フォノン散乱 1.Introduction 2.楕円型調和振動子モデル 3. Electron-Phonon散乱
報告080710 東大 ICEPP 森研 M2 金子大輔.
計算と実測値の比較 高エネルギー加速器研究機構 平山 英夫.
Multi-Purpose Particle and Heavy Ion Transport code System
Geant4による細分化電磁 カロリメータのシミュレーション
MOAデータベースを使った セファイド変光星の周期光度関係と 距離測定
My thesis work     5/12 植木             卒論題目 楕円偏光照射による不斉合成の ためのHiSOR-BL4の光源性能評価.
ガス電子増幅器を読み出しに用いた タイムプロジェクションチェンバー (GEM-TPC)の開発
弱電離気体プラズマの解析(LXXVI) スプラインとHigher Order Samplingを用いた 電子エネルギー分布のサンプリング
TES型カロリメータのX線照射実験 宇宙物理実験研究室 新井 秀実.
0次元計算による定常高イオン温度STの可能性
GRBから期待される ガンマ線光度曲線 浅野勝晃(東工大).
T-型量子細線レーザーにおける発振および発光の温度特性
60Co線源を用いたγ線分光 ―角相関と偏光の測定―
Presentation transcript:

発光と発光励起スペクトルから見積もる 低次元電子系のキャリア温度 ’07 3/18 @ 鹿児島学会発表 発光と発光励起スペクトルから見積もる 低次元電子系のキャリア温度 Carrier temperature of low-dimensional electron systems estimated by photoluminescence and photoluminescence-excitation spectra 東大物性研、CREST(JST)、ルーセント・ベル研 井原章之、吉田正裕、秋山英文、Loren N. Pfeiffer、Ken W. West Outline Ⅰ イントロ  ~ 発光と吸収の関係について Ⅱ 実験結果 ~ 基底準位のPLとPLEの測定           ~ PLとPLEから温度を見積もる Ⅲ 考察・まとめ 10

イントロダクション 低次元電子ガスの電子温度 電流によるジュール熱の発生や 光照射による加熱 → 量子効果デバイスの研究・電子物性の研究における重要なパラメータ フォノン散乱・電子-電子散乱 ↓ 移動度、緩和速度、均一幅 BCS ・ BEC ・ FES ・ BGR Screening ・ filling Fermi liquid ・ T-L liquid 格子温度とは独立に電子温度を測ると、、、 電流によるジュール熱の発生や 光照射による加熱 などの影響を調べることができる C. H. Yang, Jean M. Carlson-Swindle, S. A. Lyon, and J. M. Worlock, Phys. Rev. Lett. 55, 2359 (1985). K. Hirakawa, M. Grayson, D. C. Tsui, and Ç. Kurdak, Phys. Rev. B 47, 16651 (1993). S. Komiyama and Y. Kawaguchi, T. Osada and Y. Shiraki, Phys. Rev. Lett. 77, 558 (1996).

光学スペクトルから2次元電子ガスの温度を求める方法 従来試された方法: ◆ 発光のテール から温度を求める [1] ◆ 有効質量近似でモデルフィッティングする [2] [1] Jagdeep Shah and A. Pinczuk, H. L. Störmer, A. C. Gossard, and W. Wiegmann, App. Phys. Lett. 44, 322 (1984). [2] R. Kuchler, G. Abstreiter, G. Bohm, and G. Weimann, Semicond. Sci. Technol. 8, 88 (1993). 発光と吸収の比 から温度を求める 今回採用する方法: 関係式 傾きから温度が求まる

関係式は左の2つの条件さえ 満たせば厳密に成立する 関係式が成立するための条件 ① 線形応答である ② 準熱平衡である 関係式は左の2つの条件さえ 満たせば厳密に成立する by 浅野先生(阪大) Denise A. Sawicki and Robert S. Knox, Phys. Rev. A 54, 4837 (1996). Kubo-Martin-Schwinger relation S. Chatterjee, C. Ell, S. Mosor, G. Khitrova, and H. M. Gibbs, W. Hoyer, M. Kira, S. W. Koch, J. P. Prineas, and H. Stolz, Phys. Rev. Lett. 92, 067402 (2004). McCumber-Neporent relation Kennerd-Stepanov relation Y. B. Band and D. F. Heller, Phys. Rev. A 38, 1885 (1988). 浅野-井原関係式の発見!

n型ドープ量子井戸に対して 反射配置でPL(発光)とPLE(発光励起)スペクトルを測定 光学測定系とサンプル構造 n型ドープ量子井戸に対して 反射配置でPL(発光)とPLE(発光励起)スペクトルを測定 Siドープ量 1×1011 cm-2 工夫① 励起強度の揺らぎが±1%程度。 工夫② 励起レーザーの偏光(P1)に対して     直交する偏光(P2)のみを検出。 工夫③ 試料を傾けて、さらにアイリス(I)で      励起光の散乱を空間的に遮断。 井戸幅 : 6.3 nm 2DEG濃度 (VDP測定値)       : 6×1010 cm-2 3つの工夫により、基底準位のPLとPLEの両方の検出が可能

基底準位のPLE測定 ~ 発光ピークと同じエネルギー領域を測定 次にチェックすべき点 PLに非線形性が現われて いないか? 準熱平衡か? PLEが線形の吸収 スペクトルとみなせるか? 励起強度依存性を測定し、 条件を満たすもので温度を求める

PL PLE PLとPLEの線形性を検証 10mW共鳴励起のPL を解析に用いる 10mWで測定したPLE 1~2000mWの範囲で励起強度を変えてPLとPLEをそれぞれ測定 PL 弱励起・共鳴励起ならば加熱や 非線形性の影響が小さい 10mW共鳴励起のPL を解析に用いる PLE 50mW以下であれば 非線形性の影響が小さい 10mWで測定したPLE を解析に用いる ※ 1mW励起はPL・PLE共にS/Nがあまりよくなかった。

7.0±0.5K PLとPLEから温度を求める 今回採用した関係式 傾きから温度が求まる 見積もられた温度は、、、 励起強度:10mW 測定温度:5K 今回採用した関係式 傾きから温度が求まる 見積もられた温度は、、、 7.0±0.5K

補足 : 強励起や高エネ側励起のPLで解析した場合 共鳴励起 ⇒ 400mW以上でPLの形状が非線形に変化 高エネ励起 ⇒ 100mW以上でPLの形状が非線形に変化 共鳴励起 (2mW) +4meV 励起 (2mW) (7.5K±1K) ×線形 ?加熱 ?準熱平衡 ×線形  ?加熱

ヒーターで温度を変えた場合 測定した温度の値は、5~200Kの領域で温度計の表示にほぼ比例。 測定精度は低温(5~50K)で ±10%程度。 励起光の調整をうまく行うことで、さらなる精度の向上が見込める。

先行研究との比較・考察 2DEGの発光だけから温度を求める実験 [1-3] 量子井戸の発光と吸収の関係を調べた実験 [4] [1] Jagdeep Shah and A. Pinczuk, H. L. Störmer, A. C. Gossard, and W. Wiegmann, App. Phys. Lett. 44, 322 (1984). [2] C. H. Yang, Jean M. Carlson-Swindle, S. A. Lyon, and J. M. Worlock, Phys. Rev. Lett. 55, 2359 (1985). [3] R. Kuchler, G. Abstreiter, G. Bohm, and G. Weimann, Semicond. Sci. Technol. 8, 88 (1993).    厳密性・一般性の観点では、有効質量近似やI∝exp(-hv/kT)の式よりも、今回採用した関係式の方が優れている。ただし、PLEは測定が難しい。    準熱平衡・線形応答の条件さえ満たせば、ピークの形状、温度、電子濃度、ラフネス、系の次元に依存しないはず。これらの検証は今後の課題であり、さらに関係式を利用した応用も多く期待できる。 量子井戸の発光と吸収の関係を調べた実験 [4] 8nm 6% InGaAs/GaAs non-dope multi QWs (×20) Eexciton = 1.471 eV @4K [4] S. Chatterjee, C. Ell, S. Mosor, G. Khitrova, and H. M. Gibbs, W. Hoyer, M. Kira, S. W. Koch, J. P. Prineas, and H. Stolz, Phys. Rev. Lett. 92, 067402 (2004).   彼らの実験では、KMS関係式が成立しない、という結果となった。しかし彼らはパルス光で非共鳴励起(13.2meV高エネルギー側を励起)しており、この場合は系が準熱平衡状態とみなせないという主張なので、KMSが成立する今回の結果と矛盾するわけではない。

まとめ 精度の向上、一般性の検証、応用が今後の課題である。 電子をドープした量子井戸に対して 基底準位のPLとPLEスペクトルを低温で測定し、 それらの比をプロットしたところ、 光子エネルギーに対して指数関数で減衰した。 減衰率が温度の逆数に比例するという関係式を用いて 温度を見積もったところ、7.0±0.5Kという値が得られた。 ヒーターで試料を加熱しながら測定を繰り返したところ、 求まる温度は温度計の表示にほぼ比例した。 測定の精度は低温(5~50K)で±10%程度だった。 精度の向上、一般性の検証、応用が今後の課題である。