計算と実測値の比較 高エネルギー加速器研究機構 平山 英夫.

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計算と実測値の比較 高エネルギー加速器研究機構 平山 英夫

計算で求めることのできる「量」 どの様な「量」を計算しているか EGSで求めることができる最も基本的な「量」は、リージョン中での「吸収エネルギー」 吸収エネルギーは、リージョンを構成している物質の「吸収エネルギー」に対応している 物質中の光子や電子のスペクトル スペクトルを測定できる検出器との比較であれば、計算との対応は可能 スペクトルの比較をするのか、検出器の応答を比較するか スペクトルを使って求める「線量」等の場合、「換算係数」等が介在する

測定できる「量」 計算と直接比較できる様な測定は非常に限られている 信号の増幅や、発生した光の反射・吸収等との関係 自由空気電離箱(空気中の電離量の測定) 計算との対応には、W値が必要 測定器からの信号は様々な物理現象に係わっている 空洞電離箱ー壁とガスの関係 半導体検出器ーε値(電子正孔対を生成する平均エネルギー) シンチレーションーWs(シンチレーション効率) 信号の増幅や、発生した光の反射・吸収等との関係 測定で絶対値を得ることは、難しい 通常は、特定のエネルギーについて線源その他による規格化の処理が含まれている

線量(物理量)(1) 物理量としての線量 吸収線量:対象物質の吸収エネルギーに対応 種々の物理現象を使用することにより計算に対応する量を測定することが可能 照射線量:光子により微少体積中で生成した荷電粒子により、空気中に生成する正負いづれかの電荷量の和 自由空気電離箱 空洞電離箱 空洞の大きさと壁の関係、壁の材質とガスの材質 対象気体は「空気」 粒子の種類によっては、周辺の影響を受けるので、物理量であっても、計算との比較では注意が必要

線量(物理量)(2) カーマ 衝突カーマ 間接電離放射線(光子、中性子等)により、電子等の荷電粒子に最初に与えられたエネルギーの総和 荷電粒子による物質へのエネルギー付与の形態は考慮しない 衝突カーマ 上記の荷電粒子に与えられたエネルギーの内、衝突損失により失われるエネルギーの総和 制動輻射の生成に使用されるエネルギーは含まれない 対象を空気とすると、照射線量に対応する量

線量(物理量)(3) 吸収線量とカーマ、照射線量の関係 吸収線量は、ある領域中で放射線(放射線の種類を問わない)により与えられたエネルギー 領域外に持ち出されるエネルギーは対象外であり、領域外で発生した荷電粒子が領域内で与えるエネルギーは対象となる 荷電粒子が持ち込むエネルギーと持ち出すエネルギーが等しい場合「荷電粒子平衡が成立している」という。 荷電粒子平衡が成立している場合、空気については、吸収線量と照射線量は対応する線量となる 更に、領域中での制動輻射の発生による領域外へのエネルギーの持ち出しが無視できる場合(空気の場合、1MeV以下)は、吸収線量とカーマは対応する線量となる

0.5MeV 1MeV 3MeV

(ΔEE)c= (ΔEL)c 荷電粒子平衡が成立 領域内で生成した荷電粒子のエネルギーの総和(カーマ)=5.956MeV=衝突カーマ 領域に付与されたエネルギー= (ΔEE)c- (ΔEL)c +(ΔEE)u- (ΔEL)u- (ΔER)u =1.4-1.4+10.0-3.022-1.022=5.956

E4 E1 E2 E3 (ΔEE)c= (ΔEL)c=0 荷電粒子平衡が成立 カーマ(K)=E2 衝突カーマ(Kc)=E2-E4 吸収エネルギー(D)=E2-E4 D = Kc D≠K

照射線量及びカーマの計算 吸収線量と「照射線量」及び「カーマ」が一致する場合には、吸収エネルギーから計算することが可能 一致しない場合で、「照射線量」や「カーマ」を計算する場合 当該領域に入ってきた光子の反応で、発生した荷電粒子のエネルギーのみをスコアする工夫が必要 荷電粒子平衡が成立していることを前提に、光子エネルギー束と質量エネルギー吸収係数(照射線量)あるいは、質量エネルギー移行係数(カーマの場合)から求めることが多い。(前提があることに留意)

光子のエネルギー転移係数(μtr)

エネルギー吸収係数 電子の制動X線放出によるエネルギー損失の割合(電子のエネルギーの内、制動X線に移るエネルギーの割合の平均値g)を考慮した係数をエネルギー吸収係数、enと言い、次式により定義される。  en= tr(1-g) 荷電粒子平衡が成立している場合には、 吸収線量(D)=tr/ρxhΦ(MeV/g) 質量エネルギー吸収係数は、光子の反応により生じた電子のエネルギーの内、衝突により失うエネルギーのみを考慮した係数であるので、質量エネルギー吸収係数にエネルギーフルエンスを掛ける量により、衝突カーマを計算する事ができる。

放射線防護のための線量(1) 放射線防護のための線量は、物理量ではなく、直接測定できる「線量」ではない 防護の「線量計」は、当該放射線のエネルギー応答が、防護のための線量のエネルギー応答と「形」が似るように構造を工夫したもの 中性子のレムカウンター Sv単位の光子用サーベイメータ 個人被ばく線量計 ファントムを使った校正が前提 個人被ばく線量計を場の測定に使用する場合には、どの様に校正されたのかを確認する必要がある

放射線防護のための線量(2) 放射線防護のための線量のエネルギー応答がどの様に定められているかの理解が必要 場の測定に使用される「周辺線量当量」は、直径30cmのICRU球に、平行ビームが入射した時の軸方向1cm深さでの「線量当量」 単位粒子束当たりの応答が「換算係数」となる ICRPがカーマ当たりの係数で示しているのは、換算係数の値がエネルギーによりあまり変化しないようにするためと思われる 定義通りの測定は不可能 従って、様々な工夫により、エネルギー応答が、単位放射線に対する「周辺線量当量」に近いものが作られたとしても、物理量の線量に比べて誤差が大きい 実際の場に適用した場合には、定義の様な平行ビーム入射となるとは限らない 放射線の場の情報と換算係数を用いて計算した結果と条件が異なる場合が生じる 計算で、粒子束と「換算係数」を使用する場合には、換算係数算出の条件が前提となる

線量についての計算と実測値の比較(1) 自分で、測定を行う場合 使用する測定器の特性(エネルギー応答、精度等)を把握する 物理量の場合は、計算と実測の条件を出来る限り一致させる 防護量の場合は、換算係数を用いた計算による評価と実際の場と条件が異なること、線量計の測定精度が悪いことを理解した上での考察が必要 防護量の比較で、計算精度を検証することは、原理的に難しいので、計算の検証には、防護量を目的とした計算であっても、物理量(スペクトルや物理線量)での比較を行う方が良い

線量についての計算と実測値の比較(2) 文献値の実測値と比較する場合 どの様な測定器を使用して得られた結果であるかということを理解し、最終結果の数値だけでなく、使われた測定器の特性(エネルギー応答、精度等)を可能な限り理解した上で比較する 文献値の場合、測定条件等が明確でない場合もある。計算値と実測値に違いが生じた場合には、計算のチェックを行うと共に、文献内容(測定方法、測定条件等)をより詳細に検討し、違いの原因を検討することが必要

絶対値か、相対値か 絶対値での比較が望ましい 相対値での比較しか出来ない場合には、条件の異なる複数の比較を行う必要がある。 ほとんどの計算の目的が、絶対値の評価 絶対値の比較の方が、問題点が明確になる場合が多い。簡易的な手法との比較が可能な場合も多い。 実測値を絶対値で求める場合には、線源強度の絶対値が重要。強度の誤差は、そのまま測定結果の誤差に反映するので、比較の際には留意すること 相対値での比較しか出来ない場合には、条件の異なる複数の比較を行う必要がある。

スペクトルの測定 光子や中性子の場合、単一エネルギーの粒子であっても、検出器の応答は複雑な形になる 光子の場合、全吸収ピーク、コンプトンテール(多重散乱の場合はより複雑に)等 スペクトル測定の場合は、検出器の「レスポンス」やアンフォールディング操作が必要になることが多い アンフォールディングによる誤差を避けて計算と測定を比較したい場合には、検出器の応答で比較することもある。 検出器中での吸収エネルギー分布での比較 検出器のレスポンスを考慮した応答の比較(フォールディング)

参考資料 http://rcwww.kek.jp/research/archives.html 計算と測定の間にあるもの -X線・ガンマ線検出器について- (原子力学会誌掲載の解説記事のプレプリント) 光子の線量概念と実効線量