配偶者選択による グッピー(Poecilia reticulata)の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究

Slides:



Advertisements
Similar presentations
頻度の分析 頻度データ 着果率,発芽率,生存率 離散量と離散量の比率である 頻度データに相当しないパーセント表記 のデータ 糖度,含水率 連続量と連続量の比率である.
Advertisements

生物統計学・第 5 回 比べる準備をする 標準偏差、標準誤差、標準化 2013 年 11 月 7 日 生命環境科学域 応用生命科学 類 尾形 善之.
日本近海におけるホシササノハベラの 遺伝的分化の解析 保全生態学研究室 川瀬 渡 2006 年 2 月 21 日 -日本沿岸域の環境保全のために-
生体情報論演習 - 統計法の実践 第 1 回 京都大学 情報学研究科 杉山麿人.
配偶者選択による グッピー (Poecilia reticulata) の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究 生物多様性進化分野 A1BM3035 吉田 卓司.
●母集団と標本 母集団 標本 母数 母平均、母分散 無作為抽出 標本データの分析(記述統計学) 母集団における状態の推測(推測統計学)
多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野
看護学部 中澤 港 統計学第5回 看護学部 中澤 港
データ分析入門(12) 第12章 単回帰分析 廣野元久.
パネル型クエリ生成インタフェース画像検索システムの改良
第4章補足 分散分析法入門 統計学 2010年度.
様々な仮説検定の場面 ① 1標本の検定 ② 2標本の検定 ③ 3標本以上の検定 ④ 2変数間の関連の強さに関する検定
ハルリンドウにおける 繁殖ファクターの個体間変異の解析  野口 智 未.
クラウドにおける ネストした仮想化を用いた 安全な帯域外リモート管理
背景と目的 結論と展望 材料と方法 結果と考察
多変量解析 -重回帰分析- 発表者:時田 陽一 発表日:11月20日.
みかけの相関関係 1:時系列 2つの変数に本来関係がないのに,データだけから相関係数を計算すると相関係数がかなり大きくなることがある.
配偶者選択による グッピー(Poecilia reticulata)の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究
検定 P.137.
統計的仮説検定 基本的な考え方 母集団における母数(母平均、母比率)に関する仮説の真偽を、得られた標本統計量を用いて判定すること。
実証分析の手順 経済データ解析 2011年度.
データモデリング 推薦のための集合知プログラミング.
第4回 (10/16) 授業の学習目標 先輩の卒論の調査に協力する。 2つの定量的変数間の関係を調べる最も簡単な方法は?
分布の非正規性を利用した行動遺伝モデル開発
絶滅危惧植物シラタマホシクサの 保全に関する研究 岩井貴彦 システムマネジメント工学科 UCコース
統計的仮説検定の考え方 (1)母集団におけるパラメータに仮説を設定する → 帰無仮説 (2)仮説を前提とした時の、標本統計量の分布を考える
疫学概論 母集団と標本集団 Lesson 10. 標本抽出 §A. 母集団と標本集団 S.Harano,MD,PhD,MPH.
心理統計学 II 第7回 (11/13) 授業の学習目標 相関係数のまとめと具体的な計算例の復習 相関係数の実習.
多様性の生物学 第9回 多様性を促す内的要因 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.
寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 社会統計 第12回 重回帰分析(第11章前半) 寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部
カイ二乗検定の応用 カイ二乗検定はメンデル遺伝の分離比や計数(比率)データの標本(群)の差の検定にも利用できる 自由度
第3章 重回帰分析 ー 計量経済学 ー.
第3章 重回帰分析 ー 計量経済学 ー.
幼虫期の環境による クワガタの形質変化 弘前南高校 2年  東海 峻也.
突然変異 ♂:♀=4:1 ♂:♀=1:4 計 85 なぜ1:1の性比なのか? Fisherの性比理論 ♀ ♀ ♀ ♂ ♂ ♂ ♂ ♀ ♀ ♀
確率・統計輪講資料 6-5 適合度と独立性の検定 6-6 最小2乗法と相関係数の推定・検定 M1 西澤.
正規性の検定 ● χ2分布を用いる適合度検定 ●コルモゴロフ‐スミノルフ検定
V. 不正直な信号の原因 多くの場合,信号は正直であるが,以下の場合,不正直であるかもしれない。 ○非平衡の共進化,
早稲田大学大学院商学研究科 2016年1月13日 大塚忠義
離婚が出生数に与える影響 -都道府県データを用いた計量分析
疫学概論 横断研究 Lesson 11. 記述疫学 §A. 横断研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
母集団と標本:基本概念 母集団パラメーターと標本統計量 標本比率の標本分布
相関分析.
第6章 連立方程式モデル ー 計量経済学 ー.
HP動物生態学資料のサイトは です。 テキストは,
統計学 西 山.
ゲノム科学概論 ~ゲノム科学における統計学の役割~ (遺伝統計学)
ゲノム科学概論 ~ゲノム科学における統計学の役割~ (遺伝統計学)
シラタマホシクサの地域文化の検証とフェノロジーの年変動
配偶者選択による グッピー(Poecilia reticulata)の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究
COSMOS天域における ライマンブレーク銀河の形態
Gine, Townsend, and Vickery (2008) “Patterns of Rainfall Insurance Participation in Rural India” World Bank Economic Review 22(3): 報告者:有本寛 2009/12/2.
部分的最小二乗回帰 Partial Least Squares Regression PLS
「アルゴリズムとプログラム」 結果を統計的に正しく判断 三学期 第7回 袖高の生徒ってどうよ調査(3)
CMIP3 マルチモデルにおける熱帯海洋上の非断熱加熱の鉛直構造 廣田渚郎1、高薮縁12 (1東大気候システム、2RIGC/JAMSTEC)
情報経済システム論:第13回 担当教員 黒田敏史 2019/5/7 情報経済システム論.
クロス表とχ2検定.
秘匿リストマッチングプロトコルとその応用
自律神経系(autonomic nervous system)起源の信号
クローン検出ツールを用いた ソフトウェアシステムの類似度調査
銀河系とマゼラン雲に共通する ダストの遠赤外輻射特性
環境配慮型水田におけるイシガイ類の生息域及び 水管理による成長量の違い
表紙 分散遺伝的アルゴリズムのための 新しい交叉法.
■ 背景 ■ 目的と作業内容 分子動力学法とフェーズフィールド法の融合による 粒成長の高精度解析法の構築 jh NAH
欅田 雄輝 S 北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科
Food web structure and biocontrol in a four-trophic level system across a landscape complexity gradient 著者 Vesna Gagic, Teja Tscharntke, Carsten F. Dormann,
平成23年12月22日(木) No.9 東京工科大学 担当:亀田弘之
疫学概論 横断研究 Lesson 11. 記述疫学 §A. 横断研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
<PC48> エゾマツ・トドマツ稚樹群の動態に 環境条件が与える影響
各種荷重を受ける 中空押出形成材の構造最適化
Presentation transcript:

配偶者選択による グッピー(Poecilia reticulata)の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究 生物多様性進化分野 A1BM3035 吉田 卓司

配偶者選択による性選択 派手なオスの進化 ♂ ♂ 交配相手としてメスに好まれるため進化 ♀ クジャク ♀ グッピー

メスの選好性の進化仮説 (Anderson 1994) 間接的選択メカニズム Runawayモデル Good-geneモデル

例:Runawayモデル 遺伝相関の 形成 片方の形質に選択がかかると もう一方の形質にも 間接的に選択がかかる オレンジを好きな メス (オレンジ) オレンジの オス (オレンジを好き) オレンジを好きな メス オレンジの オス 遺伝相関の 形成 片方の形質に選択がかかると もう一方の形質にも 間接的に選択がかかる

例:Runawayモデル 集団全体でみた場合 オレンジを好むメスが多い オレンジのオスが 高い繁殖成功を得る オレンジのオス の増加 オレンジを好む性質 が増える 間接的選択 オレンジを好きな メスの増加

本研究の目的 間接的選択メカニズムが働く条件 1. メスの選好性は実現している 2. メスの選好性によって オスの形質頻度が変化する これらの条件を満たしているか調べることで メスの選好性が進化する可能性を検証する

本研究の目的 間接的選択メカニズムが働く条件 1. メスの選好性は実現している 2. メスの選好性によって オスの形質頻度が変化する

(Kirkpatrick and Barton 1997; Hall et al. 2000) 間接的選択メカニズムが生じる条件 :メスが好みのオスと 交配すること メスの選好性の実現性 これが高いレベルで達成されないと 遺伝相関が生じず 選好性は進化しにくい (Kirkpatrick and Barton 1997; Hall et al. 2000) …しかしこれまで選好性の実現性は 正しく調べられていなかった

実際の野外での交配 好まれるオス オレンジ好き 好まれないオス

実際の野外での交配 オレンジ好き

実際の野外での交配 × 強制交配 好みのオスと交配できる とは限らない

メスの選好性の実現を妨げる要因 オスによる強制交配 オス間競争 雌雄が出会う頻度 性比 個体密度 周囲の環境 などが影響

メスの選好性の実現性 選好性以外の要因が 入り込む可能性がある 従来の研究 交配相手 野外観察 メスの選好性 自然状態を 反映していない可能性 交配相手 実験 比較 メスの選好性 実験 メスの選好性は実験 交配相手は自然状態 で調べる必要がある

オス メス 研究材料 グッピー(Poecilia reticulata) メスはオスのカラーパターンに選好性を示す  メスはオスのカラーパターンに選好性を示す  縄張りや子育ての性質はない 間接的選択メカニズムによる メスの選好性の進化が示唆されている (Houde 1997)

メスの交配相手を推定できる グッピーを用いる利点 ・ 小型淡水魚である 実験的にメスの選好性を調べやすい ・ オスのカラーパターンに高い遺伝率がある ・ 卵胎生で体内受精を行う 野外で交配したメスを採集し、 その子供を調べることで メスの交配相手を推定できる

研究材料 沖縄の野外集団 野外で交配済み ♀ ♂ これら3タイプの グッピーを用いる ♂ メスの 交配相手の指標 採集 61個体 153個体 58腹 産仔 ♂ メスの 交配相手の指標 これら3タイプの グッピーを用いる

オスの形質の測定 デジタルカメラで撮影したオスの写真から 体や尾びれ、カラーパターンの サイズ・色(明度・彩度・輝度)を測定

メスの選好性の測定 側にいた時間 メスの選好性 を測定 産仔後のメスに Brooks (2000)の装置で 配偶者選択実験 メスが各オスの そのオスに対する メスの選好性 選好性関数(Preference function)を求める

選好性関数(Preference function) ある形質を持ったオスに対する メスの選好性を定式化したもの 求め方 メスがオスの側にいた時間に オスの形質をメスごとに重回帰する 選好性=a+b1【オレンジ面積】+b2【黒面積】 +b3【オレンジ明度】

選好性の 実現度 選好性の実現性の解析 個々のメスの選好性関数を求める 野外のオスに対する 選好性の平均値 交配相手に対する 選好性 好き 嫌い 野外のオスに対する 選好性の平均値 交配相手に対する 選好性 選好性の 実現度 個々のメスの選好性の実現度を調べた

結果:メスの選好性と実際の交配相手 有意にゼロより大きい (一標本t検定:P=0.0012) メスは有意に好みのオスと交配している

本研究の目的 間接的選択メカニズムが働く条件 1. メスの選好性は実現している 2. メスの選好性によって オスの形質頻度が変化する

メスの選好性(オスの側に滞在した時間)に オスの形質を集団全体で重回帰する どのようなオスがメスに好まれるか メスの選好性(オスの側に滞在した時間)に オスの形質を集団全体で重回帰する オスに示す選好性 = 全体面積 0.0152 黒面積比率 全体輝度 0.00270 0.0148 0.0116 0.0143 + - × オレンジスポット の明度 (p=0.0008) 全体面積の大きいオス 黒面積比率の高いオス オレンジスポット明度の低いオス 全体輝度の高いオス が集団のメスに好まれる

交配を通じてオスの形質頻度が変化しているか   を調べる方法 野外集団の オス 平均値の変化 繁殖成功 メスが産んだ 子供 交配・産仔 オス形質の平均値 の変化を調べた

交配を通じてオスの形質頻度が変化しているか 野外集団のオス 野外で交配したメスの子供 野外オス メスの子供 (p<0.0001) (p=0.0013) オレンジ面積比率やオレンジ明度では減少 黒面積比率では増加

メスの選好性によって オスの形質の頻度が変化している メスの選好性とオスの形質頻度の変化 形質 メスの好み 形質の 頻度変化 オレンジ面積比率 (低いオス) 低下 黒面積比率 高いオス 増加 オレンジの明度 低いオス メスの選好性によって オスの形質の頻度が変化している

間接的メカニズムが重要である 結論 間接的選択によるメスの選好性の進化 が生じる条件はよく満たされている グッピーのメスの選好性の進化において 間接的メカニズムが重要である 可能性が高い 本研究が はじめて 本研究の意義 メスの選好性の実現性=遺伝相関の指標 間接的選択メカニズムの可能性

今後の課題 オスの形質とメスの選好性の間の 遺伝相関が本当に存在するか直接調べる 間接的選択メカニズムにより オスの形質とメスの選好性が共進化する 様子を直接的に示す というような研究が求められる