原子核物理学 第6講 原子核の殻構造
殻構造を示唆するデータ 魔法数 結合エネルギー 液滴模型に基づいた質量公式からのずれ 中性子分離エネルギー 第1励起状態( 2+ 状態 )の励起エネルギー 電気四重極モーメント 元素の存在比 中性子吸収断面積 放射壊変系列の終点 核子の1粒子ポテンシャルへ
1.結合エネルギー 原子核の結合エネルギー 実験値-理論値(質量公式) 実験値-理論値(質量公式) 上図 N が等しい原子核を線で結ぶ 下図 Z が等しい原子核を線で結ぶ 魔法数の近傍で大きな値になる ⇒ 液滴模型の予言より,実際の原子核は,より強く結合している
2.中性子分離エネルギー 質量数が等しい中で結合エネルギーが最大の原子核 中性子数が増加するに伴って減少するが,魔法数の直後で急に減少 中性子の1粒子状態があり,殻構造をなしていると考えられる 魔法数の直後では,閉じた殻の外の1粒子状態に中性子が入る
核子放出に対して安定な,奇数個の中性子をもつ全ての原子核 陽子数が等しい原子核を線で結ぶ 魔法数をはさんで,分離エネルギーは急激に減少
3.2+状態の励起エネルギー 原子核の基底状態と第1励起状態とのエネルギー差は, 原子核の励起のしやすさを示す尺度 左図は Z = 14, 16 の原子核 : 34Si と 36S が N = 20 の魔法数 右図は N = 60, 62 の原子核 : 110,112Sn が Z = 50 の魔法数
4.電気四重極モーメント 電気四重極モーメントは球対称からのずれ(四重極変形)の尺度 閉殻をなす核子の集まりは球対称 閉殻をなす核子の集まりは球対称 Z = 奇数,N = 偶数の原子核 横軸には Z をとる Z = 偶数,N = 奇数の原子核 横軸には N をとる 魔法数の近傍では 0,魔法数の間で大きな値をとる
5.元素の存在比 鉄より原子番号が大きい元素のほとんどは,超新星爆発の際に, r-process (急速な中性子捕獲とβ崩壊)でつくられる 中性子数が魔法数の中性子過剰核が多くつくられ,その後,β崩壊によって安定な同位体へと変化していく
核子の1粒子ポテンシャル 原子核の殻構造が示唆すること 原子核には,核子が占める1粒子軌道がある 1粒子軌道は1粒子 Hamiltonian の固有状態として得られる 1粒子 Hamiltonian は運動エネルギーとポテンシャルからなる 核子は,エネルギーが低い1粒子軌道から順に占有していくと考えられる どのようなポテンシャルを用いたら,魔法数が説明できるか? 簡単なポテンシャルから考えてみる
簡単な中心力ポテンシャル 1粒子状態の固有値方程式 1粒子ポテンシャルとして,次の3種類の中心力ポテンシャルを考える 調和振動子ポテンシャル : 解析的に解が得られる 井戸型ポテンシャル : 有限の深さをもつ Woods-Saxon ポテンシャル : 原子核の電荷密度分布と同じ形
1粒子状態の量子数 演算子 : 1粒子 Hamiltonian と可換で,互いに可換 量子数 : は動径波動関数のノード数(0 点の個数)
1粒子 Hamiltonian のエネルギー固有値 右図の左から順に,1粒子エネルギーの縮退が解けていく 右端は,Woods-Saxon ポテンシャルの場合の1粒子軌道 量子数 占有できる核子の数 エネルギーが低い状態から全て占有したときの核子の数 1粒子エネルギーの大きなギャップがあるところが魔法数に対応する 小さいほうから3つの魔法数(2, 8, 20)は再現できるが,それより大きい魔法数は現れない
スピン-軌道相互作用 Meyer,Jensen はスピン-軌道相互作用を提案 1粒子状態の固有値方程式 1粒子状態の量子数 は の z 成分 は保存しない スピン-軌道相互作用 の効果(右図)
中心力ポテンシャル スピン-軌道ポテンシャル 原子核の表面付近にピークをもつ
魔法数の再現 スピン-軌道相互作用により の縮退が解ける 軌道のエネルギーが 大きく下がり魔法数が再現できる Z = 82 の魔法数の上 の縮退が解ける 軌道のエネルギーが 大きく下がり魔法数が再現できる Z = 82 の魔法数の上 まで閉殻になると Z = 114 寿命の長い超重元素 Z = 114 は新しい魔法数?
β安定線における1粒子エネルギー