すばる /HDSによる系外惑星 HD209458bの精密分光観測

Slides:



Advertisements
Similar presentations
系外惑星系 TrES-1 における Rossiter 効果の検出可能性と その観測意義 東京大学大学院 理学系研究科 成田憲保 共同研究者 太田泰弘、樽家篤史、須藤靖 (東京大学) Joshua N. Winn ( Harvard-Smithsonian Center ) Edwin L. Turner.
Advertisements

SSA22 領域の過大な Lyα 輝線の EW を示す LAEs 大塚 拓也 1 山田 亨 1 、松田 有一 2 、林野 友紀 1 1 東北大学、 2 国立天文台.
太陽系外地球型惑星の 発見に向けたロードマップ 成田 憲保. 目次: 地球型惑星の発見に向けて 1. これまでに何がわかったか? 2. 今何をやろうとしているのか? 3. 将来何がどこまでわかるのか?
系外惑星系セミナー速報 Balmer line features of HD 東京大学大学院 理学系研究科宇宙理論研究室(須藤研)修士1年 成田憲保.
YohkohからSolar-Bに向けての粒子加速
国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
日本トランジット観測ネットワークによる Transit Timing Variationの探索
TMT可視分光観測のサイエンス <太陽系外惑星の光と影の観測>
Spectroscopic Studies of Transiting Planetary Systems
系外惑星の大気透過スペクトル 観測による大気成分の分析 ( Swain et al レビュー)
すばる望遠鏡・高分散分光器を用いた系外惑星HD209458bの大気吸収探索
国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
第9回 星間物質その2(星間塵) 東京大学教養学部前期課程 2012年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)
プロポーザル準備/観測準備 ダストをたくさん持つ銀河 の赤外線分光観測の例 国立天文台 今西昌俊.
AOによる 重力レンズクェーサー吸収線系の観測 濱野 哲史(東京大学) 共同研究者 小林尚人(東大)、近藤荘平(京産大)、他
「Constraining the neutron star equation of state using XMM-Newton」
輻射優勢円盤のMHD数値実験 千葉大学宇宙物理学研究室 M2 松尾 圭 Thu.
地球起源散逸酸素イオンと 太陽風との関連性
国立天文台・太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
銀河物理学特論 I: 講義3-3:光度関数の進化 分光探査サンプルによる Lilly et al. 1995, ApJ, 455, 108
謎の惑星スーパーアースを探れ! 国立天文台・成田憲保.
○山口 弘悦、小山 勝二、中嶋 大(京大)、 馬場 彩、平賀 純子(理研)、 他 すざくSWGチーム
トランジット法による低温度星まわりの地球型惑星探索と大気調査
みさと8m電波望遠鏡の 性能評価 富田ゼミ 宮﨑 恵.
東京大学大学院 宇宙理論研究室 成田 憲保(なりた のりお)
宇宙物理II(9) Planetary Formation
Astro-E2衛星搭載 XISの データ処理方法の最適化
すざく衛星による、2005年9月の太陽活動に起因する太陽風と地球大気の荷電交換反応の観測
すばる望遠鏡を用いた 太陽系外惑星系の観測的研究
信川 正順、小山 勝二、劉 周強、 鶴 剛、松本 浩典 (京大理)
Transmission Spectroscopy and the Rossiter-McLaughlin Effect
神戸大大学院集中講義 銀河天文学:講義6 特別編 観測装置の将来計画
系外惑星系セミナー速報 Balmer line features of HD209458
系外惑星大気の研究最前線 最新の研究会より
B型星の非動径振動 増田盛治 (国立天文台岡山) B型脈動星について HIDESによるSPBsの観測.
国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
系外惑星探査の現在 2003年天文・天体若手夏の学校 成田 憲保
COSMOSプロジェクト: z ~ 1.2 における星生成の環境依存性 急激な変化が起こっていると考えられる z ~1 に着目し、
太陽系外惑星の トランジット観測 和歌山大学  教育学部  自然環境教育課程   地球環境プログラム  天文学ゼミ   玉置 順大.
系外惑星系TrES-1におけるRossiter効果の検出可能性と その観測意義
トランジット惑星系TrES-1での Rossiter-McLaughlin効果の観測結果
~系外短周期スーパー地球シリケイト大気に関する研究~
大離心率トランジット惑星HD17156bの ロシター効果の観測結果
大離心率トランジット惑星HD17156bの 公転軌道傾斜角の測定
実習課題B 金属欠乏星の視線速度・組成の推定
ANIRによるM型星まわりの トランジット地球型惑星の観測 国立天文台 成田憲保.
COSMOS天域における ライマンブレーク銀河の形態
東邦大学理学部物理学科 宇宙・素粒子教室 上村 洸太
高速分光システム 透過率および限界等級について
CTA報告19: CTA時代におけるSNR研究
CCDカメラST-9Eの      測光精密評価  和歌山大学 教育学部           自然環境教育課程 地球環境プログラム 天文学専攻 07543031   山口卓也  
(2048x2048 pixel; pixel size13.5μm sq.)
下降流(Downflow)の観測と磁気リコネクション
S1 装置開発と観測 長田哲也 教授 栗田光樹夫 准教授 木野勝 助教 望遠鏡および可視光と赤外線の観測装置の開発を行います。
ESS-II報告: Atmosphere関連
すばる望遠鏡、 主星の自転に逆行する 太陽系外惑星を発見
星間物理学 講義 3: 輝線放射過程 I 水素の光電離と再結合
国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
トランジット惑星系TrES-1における 初めてのRossiter効果の観測結果
すばる/HDSによる系外惑星HD209458bの精密分光観測
トランジット惑星系におけるRossiter効果 I. HD209458での観測結果
地上分光観測による金星下層大気におけるH2Oの半球分布の導出
すばる&マグナム望遠鏡による 系外惑星トランジットの 同時分光・測光観測
観測的宇宙論ジャーナルクラブ 2006年5月22日 成田 憲保 1
COSMOS天域における 高赤方偏移低光度クェーサー探査
Z=0.24 の Hα輝線天体でみるSFR(UV), SFR(Hα), SFR(MIR) 相互の関係
教育学部 自然環境教育課程 天文ゼミ 菊池かおり
すばるFMOSでの系外惑星大気観測 成田 憲保.
(FMOS戦略枠観測で余ったファイバーによる) M型星まわりのトランジット地球型惑星探し
Presentation transcript:

すばる /HDSによる系外惑星 HD209458bの精密分光観測 東京大学大学院 理学系研究科 成田憲保 共同研究者 Joshua N. Winn (Harvard-Smithsonian Center) 須藤靖 (東京大学) Brenda L. Frye, Edwin L. Turner (Princeton Univ.) 山田亨、青木和光、佐藤文衛(国立天文台) 日本天文学会 2004年春季年会

3.5日周期のRadial Velocityの時間変化により発見された後、 Transit(惑星の食による減光)が初めて確認された系外惑星 Introduction HD209458b 3.5日周期のRadial Velocityの時間変化により発見された後、 Transit(惑星の食による減光)が初めて確認された系外惑星 Mazeh et al., Henry et al. 1999 Brown et al., Charbonneau et al. 2000 主星からの光が惑星の大気を通過 惑星中の元素による余分な吸収 惑星大気の元素組成を知ることができる Transmission spectroscopy

Introduction HST observation 2002年 中性NaのD線で微小な吸収量の増加が報告された 2003年 中性水素のLy α線で非常に大きな吸収量の増加 2004年 中性酸素と炭素イオンでも同様の吸収量の増加 Charbonneau et al. 2002 Vidal-Madjar et al. 2003 Vidal-Madjar et al. 2004  http://www2.iap.fr/exoplanetes/images_hd209458.html

Motivation × ノイズや天候による精度の不安定性 ○ 高い波長分解能 ○ 広い波長領域で複数の吸収線を同時に観測できる HSTだけで検出されているこの惑星大気の存在を すばる(地上から)の観測でも検出することはできないか? すばる望遠鏡の特長(vs HST) × ノイズや天候による精度の不安定性 ○ 高い波長分解能 ○ 広い波長領域で複数の吸収線を同時に観測できる 系外惑星の大気を地上で調べる初めての試み

Subaru HDS observation 2002年10月の2晩の観測で 合計72フレームのデータを取得 観測設定 観測波長領域 4100~6800 Å 波長分解能 45000 SN / ピクセル ~150 公転周期3.5日 観測phase

total fluxをテンプレートに合うよう較正 余分な吸収があれば、引き算した結果にresidualが残る Analysis method 取得したTransit外のフレームを 足し合わせたテンプレートを作成 時系列ごとにそれぞれのフレームの total fluxをテンプレートに合うよう較正 余分な吸収があれば、引き算した結果にresidualが残る

Transitを含む日のresidualを Result テンプレート 時刻 地球大気の吸収 1目盛は1%のfraction Transitを含む日のresidualを 時系列で並べたもの 2 hour 時刻 緑:中性水素(Hα) 青:短波長側 赤:長波長側 の3つの領域で積分してプロット σ< 0.1%の精度でTransit中に 有意な吸収量の増加は見られない

Discussion 今回の観測結果 中性水素 Hαでの吸収量の増加の上限は0.1%未満 中性水素 Lyαで15%の吸収量の増加 → もしLTEだと仮定すると、水素の準位のボルツマン分布と Hαがoptically thickである条件より、上限として T<12000 K Winn et al. 2004 中性水素 Lyαで15%の吸収量の増加 → 惑星から大量の大気が漏れ出している → 大気モデルを仮定すると、下限として T>8000 K Vidal-Madjar et al. 2003 Vidal-Madjar et al. 2004 Optically thick=強い吸収線 Vidal-Madjarらの大気モデルに制限をつけることができた

Conclusions さらなる追試と議論が必要 今回の観測結果の意義 惑星大気の検出には至らなかったが、 HSTから独立した地上からの初の観測結果として、 モデルに制限をつけることで議論に一石を投じることができた どの大気モデルが正しいのか、あるいは本当に漏れ出しが 起こっているのかなどの議論はまだ決着がついていない さらなる追試と議論が必要