「在宅医療と 家族の位置/中立性」 京都橘大学看護学部看護学科 老年看護学 立命館大学大学院先端総合学術研究科 博士課程後期課程 仲口 路子

Slides:



Advertisements
Similar presentations
介護支援サービス(ケアマネジメント) 要援護者やその家族がもつ複数のニーズと社会資源 を結びつけること。 要援護者の生活の質を高めること。 保健,医療,福祉,住宅等の各種公的サービスだけ でなく,家族、ボランティア,近隣等の支援とも調整 し,在宅生活を支えていくもの.
Advertisements

MSW の役割について 広島大学病院 薬剤部 藤田啓子. MSW の仕事とは? ・主に医療機関や老人保健施設、在宅介護支援センター等 に勤務し、医師・看護婦・理学療法士などと共に、 医療チームの一員として、患者さんとその家族への相談 やさまざまな援助を行っています。 ・社会福祉の専門家として、患者さんに関わる経済的、
終末期医療に関するガイドライ ン ① 患者の意思・事前意思が確認できる場合 はそれを尊重し …… ⇒事前指示 ② (確認できない場合)患者の意思が家族 等の話より推定できる場合は、その推定 意思を尊重し …… ⇒代行判断 ③ (推定できない場合)患者にとっての最 善の利益になる医療を選択する …… ⇒最善の利益判断.
がん患者の意思決定について がん患者の意思決定と、その過 程、要因について知る がん患者の意思決定への支援に ついて考える 先端侵襲緩和ケア 看護学 芦沢 佳津美.
1.高齢者の健康とその支援 2.保健・医療・福祉の連携
84A-89 医の倫理に関する記述で誤っているのはどれか。
老後をみんなで考え、共に生きるためのシンポジウム
ノーマライゼーションかしわプラン策定に向けた基礎調査について
デイケアの施設基準 リハビリテーションを目的とした医療機関です Heart land
看護師がお宅へ訪問し、 疾患や障がいを持っていても、 在宅で安心して生活してゆけるよう お手伝いします。
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 3 支援体制整備③ 医療・福祉・教育の連携
Ⅱ 訪問介護サービス提供プロセスの理解 Ⅱ 訪問介護サービス提供プロセスの理解.
桑 名 市    市議会定例会[6月] 提出議案の概要について.
社会問題 安楽死、尊厳死 (参考)
ホスピス外来における STAS-Jを活用した看護の実際
第3回はままつCDE研究会 アンケート集計結果
9.医療制度と医療費 1.医療の供給と医療保険       2.医療費  .
後期高齢者医療制度では、生活を支える医療を目指します。
障害のある人の相談に関する調整委員会の設置
透析患者に対する 大動脈弁置換術後遠隔期の出血性合併症
集中治療室入室経験者の その後の生活・人生について
疫学概論 診療ガイドライン Lesson 22. 健康政策への応用 §B. 診療ガイドライン S.Harano, MD,PhD,MPH.
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 3 支援体制整備④ 資源開拓・創出方法
立命館大学大学院先端総合学術研究科 有松 玲
Ⅲ.サービス開発の方法.
脳血管障害 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 緊急処置 一般検査 画像検査 治療 診断
高齢者の救急搬送に係る意見交換会 資料7 1 意見交換会開催に至る経緯と今年度の取り組み  平成26年度    病院連絡会議にて,高齢者の救急搬送に関して,患者及び家族の延命治   療の希望確認ができているかの課題提起がなされた。  平成27年度   (1)介護サービス事業者協議会主催研修会および施設ごとの講演会の開催.
 クリティカルケア領域に             おける家族看護     ICU入室中の患者家族の      ニードに対する積極的介入について              先端侵襲緩和ケア看護学                    古賀 雄二 
テーマ:ALS患者の地域医療連携と呼吸リハの実際
学習目標 1.在宅療養者の特徴を理解する. 2.在宅療養の成立条件を理解する. 3.地域社会やシステムの改善の必要性を理解する. 4.保健・医療・福祉の連携の必要性を理解する. 5.施設と在宅を結ぶ看護継続の視点を理解する. 6.在宅看護の継続の視点とそのしくみを理解する. SAMPLE 板書(授業終了まで消さない)
~認知症患者の透析拒否への関わりを通して~
第2回 福祉の現在・現在 厚生労働省(2018) 障害者白書 厚生労働省(2016) これからの精神保健福祉のあり方に          関する検討会資料.
看護管理学特論 救急・集中治療領域における家族看護
介護支援専門員 ケアマネジャー サービス担当者会議.
若年性認知症支援コーディネーター設置等事業
1990年代以降の 高齢者医療政策の変容 ー「入院期間の短縮」から 「早期退院」へー
Evidence-based Practice とは何か
地域医療構想と地域包括ケア 千葉大学予防医学センター 藤田伸輔 2016/7/2 新潟朱鷺メッセ.
新たに在宅医療に取り組む方のための 研修教材のご案内
「“人生の最終段階における医療” の決定プロセスに関するガイドライン」
川村雄次 NHK 文化・福祉番組部 ディレクター
輝いて、自宅で ~終わりよければすべてよし~
トータス往診クリニック 国立がん研究センター東病院 血液腫瘍科 大橋 晃太
末期がん 【症例2】 ・口腔衛生不足 ・歯科疾患(う蝕・歯周病) ・口腔乾燥、口内炎、出血、 味覚異常など ・摂食嚥下機能低下
慢性期医療の視点から 読売新聞東京本社社会保障部 阿部文彦.
【「患者のための薬局ビジョン」における薬剤師・薬局の機能概要】
交通アクセス お問い合わせ先はこちら 社会福祉法人 ヴィラージュ虹ヶ丘 神奈川県川崎市麻生区虹ヶ丘1丁目22番1-2号
難病患者の地域生活支援における諸課題 ―退院から在宅へ-
重症心身障害児者等 コーディネーター育成研修 2 計画作成③ 重症心身障害児者等の ニーズ把握事例 ~久留米市のコーディネートの現状~
地域リハビリテーション -訪問リハビリテーションを中心に-
高齢慢性血液透析患者の 主観的幸福感について
生活支援 中央研修 H26.9.4(木)~5(金) 品川フロントビル会議室 H26.9.6(土)~7(日) JA共済ビルカンファレンスホール
筑波メディカルセンター病院 緩和ケア病棟 佐々木智美
背景:在宅医療の現状と意義 入院・外来に次ぐ『第三の診療体系』として 入院 外来 在宅 意義 ・多様化する病態や『生き方』への対応
認知症ケアパス 在宅生活 家族 地域資源 気づき 軽度 認知症の度合い 重度 終末期 介護・福祉・住まい・住民 地域住民 保健・医療・看護
我が国の自殺死亡の推移 率を実数で見ると: 出典:警察庁「自殺の概要」
新たに在宅医療に取り組む方のための 研修教材のご案内
今後めざすべき基本目標 ―「ケアの流れ」を変える―
ALS患者の在宅独居移行支援に関する 調査研究(3) ――在宅移行の困難――
     【症例2:91歳女性】  認知症、胆管がん 20XX年 1月(90歳): ・アルツハイマー型認知症の疑い、骨粗鬆症、変形性膝関節症で近医にて加療 ・黄疸のため近隣の病院にて入院加療。胆管ステント留置し退院 ⇒加療が奏功し、全身状態は比較的安定 ・サービス付き高齢者向け住宅に入所し療養 ・廃用により体幹・下肢筋力低下。ほぼベッド上での生活。移動はストレッチャ型車いす.
事前指示書作成における当院血液透析患者の現状意思調査
在宅医療施策の取組状況と今後の展開(案)
緩和ケアチームの立ち上げ (精神科医として)
高齢者の救急搬送に係る意見交換会 資料7-1 1  意見交換会開催に至る経緯  平成26年度    病院連絡会議にて,高齢者の救急搬送に関して,患者及び家族の延命治療 に関する意向確認ができているかという課題提起がなされた。  平成27年度   (1) 介護サービス事業者協議会主催研修会・施設ごとの講演会(救急課)                  
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
若年性認知症の人への支援 若年性認知症支援コーディネーター これらの支援を一体的に行うために を各都道府県に配置
2015/11/08 俊和会 さつき訪問看護ステーション 玉井真由美
学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題 日本福祉大学における障害学生支援を手がかりとしての考察
在宅医療をご存じですか? 編集:○○○○○ 訪 問 診 療 往 診 在宅医療を利用できる方(例) 在宅医療で受けられる主なサービス
在宅医療をご存じですか? 編集:○○○○○ 訪 問 診 療 往 診 在宅医療を利用できる方(例) 在宅医療で受けられる主なサービス
Presentation transcript:

「在宅医療と 家族の位置/中立性」 京都橘大学看護学部看護学科 老年看護学 立命館大学大学院先端総合学術研究科 博士課程後期課程 仲口 路子 仲口 路子 Eメール:nakaguchi.m@gmail.com 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

「ケアの社会化」 介護保険法(2000年施行) 障害者自立支援法(2006年施行) 「措置」から「契約」へ 「施設」から「在宅」へ 「介護の社会化」 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

「家族の位置」:1 1.身体を動かす(フィジカルな支援) 身体のままならなさを「補う」介助・介護・援助・ケアを行うこと. 社会化された介助・介護・援助・ケアを「使う」ことを行うこと.(情報収集・ネットワーク(ひとのつながり)形成・手続き・在宅リハビリテーション等) 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

「家族の位置」:2 2.「意思決定」に関わる 「終末期医療の決定のプロセスに関するガイドライン」 厚生労働省 2007年5月 「終末期医療の決定のプロセスに関するガイドライン」 厚生労働省 2007年5月 (1)患者の意思の確認ができる場合 (2)患者の意思の確認ができない場合 (3)複数の専門家からなる委員会の設置 「救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」 日本救急医学会 2007年11月 「家族」を重視し,決定権を認める        「意思決定に関わる家族」 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

事例1 患者:A氏 ALS療養者 入院から在宅への経過:「家族」不在のなか,「家族」同然の関係にあると認識される「仲間」が「家族」の役割を担わざるを得ない状況があった.またどうしても本人でなければならない場合は出向くための問題もあった. 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

事例2 患者:60代後半の女性 現病歴および入院経過:深昏睡により救急搬送された.気管内挿管など救命処置.その後本人には延命拒否の事前指示があることが家人から表明される.その後患者の意識が戻り,さまざまな説明の結果,本人から延命拒否は翻意された. 中島弘・飯原弘二・宮本亨「延命拒否事例に見る患者の自己決定権と生の尊厳に関する考察」脳外誌18巻1号. 2009年1月. pp35-40. 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

事例3-1 患者:70歳代男性(透析歴14年) 現病歴および入院経過:数年前から認知症が進行し,車椅子による全介助の状態となり,老健施設での生活を送っていた.就寝時に嘔吐し急速に意識障害におちいった患者を施設のスタッフが発見し,救急隊を要請,救急救命センターへ搬送された.開頭して血腫除去術を行うならば脳死を回避できる可能性が考えられたが,遷延性意識障害が残る可能性が高く,また人工透析にともなう頭蓋内再出血,脳浮腫増悪も懸念された. 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

事例3-2 結局,患者家族が,脳出血発症以前の患者との会話の記憶から,延命治療拒否の意向があったとして,血腫除去術は行わず人工透析も中止,第5病日に腎不全による高カリウム血症が明らかとなり,第6病日に患者は死亡した. 松本直也・小川尚子・松嶋麻子・田中裕・京力深穂・霜田求「重症脳出血を発症した慢性透析患者に対する透析の是非が問われた症例」救急医学.第33巻第2号.2009年2月.pp239-244. 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

「家族」は「中立」か‥? 看護専門職→「家族の介護力」のみきわめ a)「運命共同体」「(在宅での)介護の担い手」として「積極的介入」が期待され,求められもする. →事例1 b) また,「本人に成り代わって」「本人が考えるように」判断することも期待され,求められもする. →事例2 c)また異なる場面では専門職の意見や本人の意見をも踏まえて「客観的に」判断することも期待され,求められもする. →事例3 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

まとめ:その1 しかし,以上a) ,b) ,c)はそれぞれ対立する場合がある. さらに対立するだけにとどまらず,すべての判断に「負担」という関数が関与せざるを得ない,すなわち「家族は最大の利害関係者である」1)という危うさにも配慮しなければならない. 1)立岩真也「ALS不動の身体と息する機械」    医学書院. 2004.11.15. p135. 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

まとめ:その2 こういった「家族」の限界を踏まえて, さらに「介護の社会化」そのものを問う必要がある. つまり,      →「ケア(介護)」を「出す」              :社会化                               しかし社会化されたとされる「ケア(介護)」は細切れでしかないので,「選択」が余儀なくされる.またその逆の作用もありうる. 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学

まとめ:その3 現状の問題として「フィジカルな支援」も不足するなか, 先に見たように,終末期医療,脳死・臓器移植にかかわる場面など,「家族」の「意思決定」が重要視される傾向がますます強化されているが, さまざまな制度・施策・資源などを「利用するための調整や選択」にかかわる問題はまったく未解決な状態であるといわざるを得ない. 2009/05/16-17 第35回保健医療社会学会  熊本大学