明治学院大学 法と経営学研究科 設立時委員長 名古屋大学 名誉教授 加賀山 茂 2017/4/27 保険法における 第三者のためにする契約 明治学院大学 法と経営学研究科 設立時委員長 名古屋大学　名誉教授 加賀山　茂 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

目次 保険法における第三人利益契 約 保険法の構造 第三人利益契約の典型例 第三人利益契約の応用例 結論 第三人利益契約を学習する効 用 2017/4/27 目次 保険法における第三人利益契 約 第三人利益契約を学習する効 用 保険契約における比較法の効 用 保険法の構造 保険契約と第三人利益契約 第三人利益契約 中華民国 民法269条 中華民国 民法270条 第三人利益契約の典型例 債権譲渡（債権譲與） 債務引受（債務承擔） 中華民国 民法300条，301条 中華民国 民法303条 第三人利益契約の応用例 契約の地位の移転 賃貸借契約における契約移転 使用収益権の引受け（債務承擔） 賃料債権の譲渡（債権譲與） 債権譲渡と債務引受の同時実現 結論 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

第三人利益契約を学習する効用 総ての法律関係は，多角関係を含めてすべて，三角関係へと解消できる。 2017/4/27 第三人利益契約を学習する効用 総ての法律関係は，多角関係を含めてすべて，三角関係へと解消できる。 すべての土地の測量は，三角測量によって行われている。 円も，無限の三角形として分析されている（積分の考え方） 二当事者の契約関係も，三角関係を学んだうえで，三者のうちの，二人が同一 人物である場合であると考えればよい。 保険契約も，二当事者間の契約関係に解消するのではなく，第三人利益契約（保険法45条， 民法269～270条）を基本として考察した上で，要保人＝受益人と考えればよい。 第三人利益契約をマスターすると，保険契約だけでなく，ファイナンスリース契 約，クレジット契約など，これまで，学習が困難とされてきた複合契約も，簡単 に理解できるようになる。 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

保険契約に関する比較法の効用 保険契約は，台湾では，商事法の特別法として扱われている。 2017/4/27 保険契約に関する比較法の効用 保険契約は，台湾では，商事法の特別法として扱われている。 日本に先駆けて，民商統一を実現した中華民国 民法の偉業を考慮するな らば，保険契約も，民法の一部として規定すべきではなかっただろうか（立 法論）。 実は，民商統一を実現している義大利民法典も，民商統一を実現できてい ない法国民法典も，保険契約を民法の中に規定している。 この講義では，保険契約を民法の契約法の中で，三角関係を考察 する基本ユニットとしての「第三人利益契約」の視点から，再構成す ることを試みる。 保険契約を「第三人利益契約」の視点で考えると，保険契約の全体像を，財 産保険，人身保険の区別を超えて，簡単に理解できるようになる。 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

保険法の構造と第三人利益契約 保険法の構造 （保険法第45条参照） 第三人利益契約 （民法269条～270条） 保険金 受益人 要保人・ 2017/4/27 保険法の構造と第三人利益契約 保険法の構造 （保険法第45条参照） 第三人利益契約 （民法269条～270条） 保険金 受益人 要保人・ 被保険人 第三人（受益人） 要約人（債権人） 保険 契約 第三人利益 契約 保険金請求権 直接請求権 保険人 債務人（承擔人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

第三人利益契約（1/2） 中華民国 民法 第三人利益契約の構造 第269条（第三人利益契約） 第三者（受益人） 債権者（要約人） 2017/4/27 第三人利益契約（1/2） 中華民国 民法 第三人利益契約の構造 第269条（第三人利益契約） ①契約によって第三者に対して給付すべきことを定 めたときは、債権者は、債務者に対して第三者に給 付をすることを請求することができる。その第三者 もまた、債務者に対して直接に給付を請求する権 利を有する。 ②第三者が前項に定める契約についてその利益を 享受する意思を表示しない以前には、当事者は、 その契約を変更し、又は取り消すことができる。 ③第三者が、当事者の一方に対してその契約の利 益を享受することを望まない旨を表示したときは、 初めからその権利を取得しなかったものとみなす。 第三者（受益人） 債権者（要約人） 第三人利益 契約 直接請求権 債務者（承擔人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

第三人利益契約（2/2） 第270条（第三人利益契約 における債務者の抗辯） 中華民国 民法 第三人利益契約の抗辯 2017/4/27 第三人利益契約（2/2） 中華民国 民法 第三人利益契約の抗辯 第270条（第三人利益契約 における債務者の抗辯） 前条に定める債務者は、契 約から生ずる一切の抗辨を 以て利益を受けるべき第三 者に対抗することができる。 第三人（受益人） 債権人（要約人） 第三人利益 契約 直接請求権 抗辯 債務人　（承擔人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

2017/4/27 第三人利益契約の典型例（1/3） 契約当事者の一方（承諾人）が，第三者（受益人）に対して直接債務を負担する ことを契約の相手方（要約人）に約束する契約（民法269条～270条）。 対価関係 売主の 債権人 （受益人） 当事者 売主 （要約人） 典型例 原因（対価）関係 売主が， その債権人に負って いる債務を弁済するため， 当事者 売主（要約者）と買主（承諾人）間の約束で， 効果 売買代金を買主から売主の債権人（受益人）に直接支払わせることができる。 　債権 　　　　売買代金債権 　　　売買代金債権 第三人利益 契約 補償関係 抗辯 受益の意思表示 当事者 買主 （承擔人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

第三人利益契約の典型例（2/3） 中華民国民法 第300条（債権人と新債務人間の 債務引受契約） 2017/4/27 第三人利益契約の典型例（2/3） 中華民国民法 対価関係 受益人 （債権人） 要約人 （債務人） 　　　　　　　債権 債権 第300条（債権人と新債務人間の 債務引受契約） 第三者が債権者と契約を締結して債務者の 債務を引き受付たときは、債務は、契約の 成立時にその第三者に移転する。 第301条（債務人と新債務人との間の債 務引受契約） 第三者が債務者と契約を締結してその債務 を引き受けたときは、債権者の承認を経な ければ債権者に対して効力を生じない。 抗辯 債務承擔契約 （補償 関係） 債務 引受 受益の意思表示 承諾人 （新債務人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

第三人利益契約の典型例（3/3） 中華民国民法 第303条（債務引受人の抗辨の 対抗） 2017/4/27 第三人利益契約の典型例（3/3） 中華民国民法 対価関係 受益人 （債権人） 要約人 （債務人） 　　　　　　　債権 債権 第303条（債務引受人の抗辨の 対抗） ①債務者がその法律関係によって債 権者に対抗することができる事由は、 引受人もまたこれを以て債権者に対抗 することができる。但し債務者に属する 債権を以て相殺をすることができない。 ②引受人がその債務引受の法律関係 によって債務者に対抗することができ る事由は、これを以て債権者に対抗す ることができない。 抗辯 債務引受契約 （補償 関係） 債務 引受 受益の意思表示 承諾人 （新債務人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

第三人利益契約の応用例（1/3） １．使用収益 させる債務の 債務引受 第301条（債務引受における債権者の承認） 2017/4/27 第三人利益契約の応用例（1/3） 対価関係 　　　　　　　債権 　　　　　　　　（使用・収益権） １．使用収益 させる債務の 債務引受 受益人 （賃借人） 要約人 （賃貸人） 抗辯 賃貸借契約の譲渡 （補償 関係） 受益の意思表示 第301条（債務引受における債権者の承認） 　第三者が債務者と契約を締結してその債務を引き受けたときは、債権者の承認を経なければ債権者に対して効力を生じない。 諾約人 （新賃貸人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

第三人利益契約の応用例（2/3） ２．賃料債権の 債権譲渡 第299条（債権譲渡における債務者の譲受人に対する抗弁の対抗） 2017/4/27 第三人利益契約の応用例（2/3） 対価関係 ２．賃料債権の 債権譲渡 　　　　　（賃料債権） 債務人 （賃借人） 債権譲渡人（旧賃貸人） 債権譲渡通知 債権譲渡契約 抗辯 第299条（債権譲渡における債務者の譲受人に対する抗弁の対抗） ①債務者が譲渡の通知を受けた時に譲渡人に対抗することができた事由は、すべてこれを以て譲受人に対抗することができる。 債権譲受人（新賃貸人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

第三人利益契約の応用例（3/3） 旧賃貸人が権利を譲渡 （通常の債権譲渡によることで可能） 2017/4/27 第三人利益契約の応用例（3/3） 旧賃貸人が権利を譲渡 （通常の債権譲渡によることで可能） 新賃貸人が債務を引受け （第三人利益契約によることで可能） 対価関係 賃借人 （債務人） 賃料債権 旧賃貸人 （債権人） 賃借人 （受益人） 使用収益 使用収益 賃料債権 旧賃貸人 （要約人） 債権譲渡通知 譲渡 債権譲渡 契約 引受 抗辯 債務引受契約（補償 関係） 抗辯 受益の意思表示（不要） 新賃貸人 （譲受人） 新賃貸人 （承擔人） 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017

結論 保険契約のバックボーン（後胎）となる契 約の基本ユニットは何か❓ 民法269条～270条（第三人利益契 約） 2017/4/27 結論 保険契約のバックボーン（後胎）となる契 約の基本ユニットは何か❓ 民法269条～270条（第三人利益契 約） 第269条（第三者のためにする契約） ①契約によって第三者（受益人）に対して 給付すべきことを定めたときは、要約人 （債権人）は、承諾人（債務人）に対して 第三者（受益人）に給付をすることを請求 することができる。その第三者（受益人） もまた、債務人に対して直接に給付を請 求する権利を有する。 保険契約の出発点となる契約は，誰と誰 との契約か❓ 要保人と保険人との間の契約（第三 人利益契約） 保険契約が通常の二当事者契約となる のはどういう場合か? 保険法第45条（第三人利益契約） 保険契約者は、委任を経ずに他人の 利益のために保険契約を締結するこ とができる。 受益者について疑義があるときは、保 険契約者が自己の利益のために締結 したものと推定する。 2017/4/27 KAGAYAMA Shigeru, 2017 KAGAYAMA Shigeru, 2017