弱電離気体プラズマの解析 (LVII) 低気圧グロー放電中のベンゼン分解と 分解生成物の濃度測定

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◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
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弱電離気体プラズマの解析 (LVII) 低気圧グロー放電中のベンゼン分解と 分解生成物の濃度測定 平成16年度 電気・情報関係学会北海道支部連合大会 平成16年10月23日  公立はこだて未来大学 弱電離気体プラズマの解析 (LVII) 低気圧グロー放電中のベンゼン分解と 分解生成物の濃度測定 Studies on weakly ionized gas plasmas (LVII) Concentration measurement of the fragments of benzene and by-products in a low pressure glow discharge 後藤 洋介 佐藤 孝紀 伊藤 秀範 田頭 博昭 (室蘭工業大学) 下妻 光夫 (北海道大学) Y.Gotoh, K.Satoh, H.Itoh and H.Tagashira(Muroran I.T.), M.Shimozuma(Hokkaido Univ.) 背景 実験装置・条件 実験結果 ・ベンゼン分解生成物の特定 ・生成物の濃度測定 4. まとめ MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

背景 ベンゼンの毒性 プラズマによる処理 低気圧直流グロー放電によりベンゼンを分解し、 主に質量分析によって分解過程を調査する 目的 ・発癌性 ・催奇形性 ・白血病との因果関係 除去・無害化処理が必要とされている プラズマによる処理 ・ベンゼン環を開裂する ・低濃度の処理へ適応できる 放電プラズマによるベンゼン分解の研究 McCorkleら[1] 希ガス中での低気圧グロー放電による分解 後藤ら[2] 窒素-酸素混合ガス中での大気圧バリア放電での分解 ベンゼン分解過程は、必ずしも完全には解明されていない 低気圧直流グロー放電によりベンゼンを分解し、 主に質量分析によって分解過程を調査する 目的 [1] J.Phys.D:Appl.Phys.Vol.32,1999,pp.46-54 [2] 後藤他、「微量の酸素を含む窒素ガス中でのバリア放電によるベンゼン分解」、 電気学会 論文誌A、123巻9号、2003、pp.900-06 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

実験装置 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY 上部電極 (ステンレス製) 直径 : f 60mm  平板電極 放電チェンバー (ステンレス製)  内径 : f 155mm  高さ : 300mm DC output range : Vmax=±1kV    Imax=±40mA KEPCO BOP 1000M 下部電極 (真鍮製)  直径 : f 60mm  平板電極 (中央部:7mmの空洞) 関東化学製 純度    : 99% 湯煎温度 : 60℃ ANELVA製M200QA- M エア・ウォーター製 純度 : 99.999% 質量数範囲 : 1~200amu 分解能   : M /ΔM 2M MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

実験条件 電極間隔 20 mm 放電電流 2.5 mA 印加電圧 -295~-430 V 封入ガス圧 ① ベンゼン:アルゴン=13:54 Pa ② ベンゼン:窒素=13:54 Pa (封じきり状態で実験) MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

アルゴン中での質量スペクトルの変化 放電後に増加するスペクトル 放電後に減少するスペクトル ベンゼンからの分解生成物 1(H) 40(Ar) 2(H2) 78(C6H6) 26(C2H2) 18(H2O) 25 (C2H) 17(OH) 放電後に増加するスペクトル 放電後に減少するスペクトル m/z=2(H2),25(C2H),26(C2H2) m/z=38,39,50~52,76,77,80 質量分析装置でのイオン化室 で生成されたイオン ベンゼンからの分解生成物 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

四重極質量分析計(QMS) 質量分析計の構成 フラグメントイオン イオン化室 質量分離部 (四重極) イオン化室での電子衝突により 1(H) 40(Ar) 2(H2) 78(C6H6) 26(C2H2) 18(H2O) 25 (C2H) 17(OH) 質量分析計の構成 イオン化室 (イオン化電圧=40V) 質量分離部 (四重極) イオン化室での電子衝突により 分解され、検出された分子 フラグメントイオン MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

窒素中での質量スペクトルの変化 m/z= 2(H2) 25(C2H) 26(C2H2,CN) 27(C2H3, HCN) 28 (N2) C2H3 HCN 27 2(H2) C2H2 CN 18(H2O) 26 25 (C2H) 17(OH) m/z= 2(H2) 25(C2H) 26(C2H2,CN) 27(C2H3, HCN) ベンゼンの分解生成物と考えられる分子 アルゴン中では増加せず、窒素中では増加する 窒素中ではベンゼンの分解によってHCNが生成される MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

注入エネルギーに対する質量スペクトル ・m/z=78→注入エネルギーとともに単調に減少し、ゼロとなる ベンゼンは放電により完全に分解される ・m/z=25,26,27(窒素中)→一旦増加するが、その後減少する(中間生成物) ベンゼンの分解生成物は生成されながら、放電によって分解される ・m/z=2→増加した後、ほぼ一定の値を保つ(最終生成物) 水素は放電によって分解されない 窒素中でのm/z=26は、C2H2とCNの可能性が残る MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY m/z=25(C2H)はベンゼンの分解生成物か

ベンゼン分解量に対するm/z=26,25のスペクトル ・ アルゴン中でも窒素中でも同様のプロファイルを示す m/z=26の分子はC2H2である m/z=25 ・ 0 Jでは現れていない ・ m/z=26と出現点および消失点が同じ ベンゼンのフラグメントイオンではない C2H2からのフラグメントイオン C2Hはベンゼンの分解生成物ではない MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

イオン電流値の補正(C6H6-N2) m/z=26 m/z=2 m/z=27 C H :N =13:54 Pa 分解生成物としてのC2H2 -12 input energy [J] 30x10 25 20 15 10 5 ion currents [A] 800 600 400 200 C 6 H :N 2 =13:54 Pa m/z=2(H ) 27(HCN) 26(C 78(C m/z=26 分解生成物としてのC2H2 +ベンゼンのフラグメントイオンとしてのC2H2 m/z=2 分解生成物としてのH2 +ベンゼンのフラグメントイオンとしてのH2 +C2H2のフラグメントイオンとしてのH2 m/z=27 分解生成物であるHCN +ベンゼンのフラグメントイオンとしてのC2H3 +窒素(m/z=28)の裾スペクトル チェンバ内に存在する分子のみのイオン電流値 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

イオン電流値から分圧値への変換 H2,C2H2 HCN イオン電流値 分圧値 標準ガスを用いて作成した検量線により イオン電流値から分圧値へ変換 ・ 分解生成物の分圧はベンゼンの初期圧力以下 ・ 水素分圧はC2H2分圧の最大値と同程度 HCN FT-IRでの吸光度スペクトルとガス検知管 によって濃度を求め、分圧値に変換 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

C原子のマスバランス -気相中のC原子数変化- 1分子中のC原子数 (C6H6:6個  C2H2:2個  HCN:1個) 分解されたベンゼン中のC原子数に対する生成物中のC原子数の百分率 (C2H2中のC原子数)+(HCN中のC原子数) (分解されたC6H6中のC原子数) = (C2H2の分圧×2+HCNの分圧×1) (C6H6分圧の減少量×6) ×100 = ×100 ・分解されたベンゼンに対する気相中のC原子の割合は最大でも20%ほどである ・ほぼ全てのC原子は電極等へ堆積すると考えられる MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

まとめ アルゴン-ベンゼン混合ガスおよび窒素-ベンゼン混合ガス中に グロー放電を発生させ、ベンゼンの分解過程を調査した ベンゼンの分解生成物の特定 ・アルゴン-ベンゼン混合ガスでの分解生成物はC2H2およびH2である ・窒素-ベンゼン混合ガスでの分解生成物はC2H2,HCNおよびH2である ・C2H2およびHCNは中間生成物であり、気相中の最終生成物はH2である ベンゼンと分解生成物の分圧値(窒素-ベンゼン混合ガス中) ・ ベンゼン13 Paを分解したとき、分解生成物の分圧の最大値はそれぞれ C2H2→4.4 Pa , HCN→2.7 Pa , H2→5.0 Pa ほどとなる ・ 分解されたベンゼン中のC原子数に対する分解生成物中のC原子数の割合は 最大でも20%ほどであり、ほぼ全て堆積物となって気相中から消失する MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

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I = Ams(e)nIe QMSの出力イオン電流 A :比例定数 m :質量分析計の感度によって決まる係数 s(e) :電離衝突断面積 ・ 本研究ではIe=0.1 mA, イオン化電圧e=40 Vに固定 QMSの出力イオン電流値は、各分子の分圧と電離衝突断面積に比例する MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

ベンゼンとフラグメントイオンのスペクトル MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY