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デュアルユース生命倫理学の発展 講義 その13 本講義に関する追加の情報は、以下のスライドに設けられた右の各リンクボタンより参照可能です。 講義 その13 本講義に関する追加の情報は、以下のスライドに設けられた右の各リンクボタンより参照可能です。 追加情報 1

1. 目次 倫理的問題としてのデュアルユース デュアルユース科学に伴う義務 便益・リスク分析における葛藤 予防原則  倫理的問題としてのデュアルユース スライド 2 – 3  デュアルユース科学に伴う義務 スライド 4 – 9  便益・リスク分析における葛藤 スライド 10 – 12  予防原則 スライド 13 – 16  科学的公表と安全保障に関する声明 スライド 17 - 18  デュアルユースジレンマに関する意思決定 スライド 19 - 20 注釈:本講義の目的は、デュアルユースジレンマに伴う倫理的問題の解決に資すると考えられる生命倫理分野の論理的思考方法を紹介することである。 2

2.倫理的問題としてのデュアルユース(i) 個別的若しくは複合的な科学研究が平和的目的と同時に非平和的目的に利用可能であるという事実を受けて、生物学及びその他の科学研究の文脈においてデュアルユースジレンマは発生する。 注釈:デュアルユースに関するより詳細な説明は講義その14及び講義その15を参照のこと。 追加情報 3

3.倫理的問題としてのデュアルユース(ii) デュアルユースは倫理的疑問を提起する。科学者が意図せずに招いた結果や、時には個人のコントロールから離れたところで発生した結果に対して科学者はその行為について責任を負うべきであろうか? この問題は、望まざる結果を回避するために個人は倫理的に事前注意を払うべきか否かを問いかける。 注釈:自己の活動ではなく潜在的な他者の行動にたいする注意を考察する点で、研究者にとってデュアルユースとは倫理的ジレンマである。例、悪意のある非研究者による危険な生物学的資材の窃盗若しくは有害な目的への科学研究の利用。 追加情報 4

4.デュアルユース科学に伴う義務 (i) 生命倫理における無害の原則(危害を発生させない義務)に関する一つの有力な定義は、意図的な有害行為を回避する義務だけではなく、潜在的なリスクの回避に対する義務も負うとする。 それゆえ重要なことに、諸個人は意図的に危害を与える可能性があると同時に、無意識のうちに他者にリスクを与える可能性があると理解されるため、その科学的活動に関して倫理的責任を負うと考えられる。 注釈:何が妥当な行動のために役立つのか、またどの程度危害が制御可能であるのかが不明確であるため、研究者の自由と危害の予防義務との間には解決が難しい根本的な対立が存在する。 5

5.デュアルユース科学に伴う義務 (ii) 危害の予防に向けた義務の5原則 研究者は次の点に関して危害の予防に努める必要がある。 - 専門職上の責任に関して、 - 専門職上の資格及び能力に関して、 - 合理的に予見可能な結果に関して、 - 危害が便益を大幅に上回る可能性のある研究に関して、  研究目的が達成可能なその他のより容易な方法の模索に関して 注釈:本論文はデュアルユース研究に携わる科学者の道徳的義務の分析をその目的としている。予防可能な危害に関する5つの基準が提示され、多数提案された生命科学者のための義務がこれらの基準を基に考察されている。 追加情報 6

6.デュアルユース科学に伴う義務 (iii) クーラウその他(2008)は、以下の倫理的義務を提案した。 - 生物テロの予防、 - 生物テロの予防、 - 生物テロ攻撃に際した対応措置への協力、 - 自己の科学研究に伴う潜在的危険性の検討、 - 機微情報の公表及び共有の回避、 - 危険な資材の監視と入手制限、 - 懸念行為の報告 注釈:スライド5の引用文献ページ482-487参照。 7

7.デュアルユース科学に伴う義務 (iv) クーラウその他(2008)は次のように結論した。「より合理的な義務は、自己の研究に伴う潜在的な危険性を検討し、機微物質・技術・情報へのアクセスを制限し、懸念行為に対してその報告を関係当局に行うことである。それゆえ科学者は予見可能で蓋然性の高い危害を予防するための義務を負う。」 8

8.デュアルユース科学に伴う義務 (v) 「ここでの問題は、科学者が意図的に招いた結果に関してどこまで責任を負うのかということではなく、彼らの科学研究の結果の事前的考察やその予防、並びに特定の結果を予見する取り組みに関してどの程度責任を負うかということである。」 注釈:本論文及びスライド5における引用文献の概要に関してはダンドー(2009)による次の文献を参照。 (2009) ‘Bioethicists Enter the Dual-Use Debate’, Bulletin of Atomic Scientists 20 April. Available from http://www.thebulletin.org/web-edition/columnists/malcolm-dando/bioethicists-enter-the-dual-use-debate Ref: Ehni, H-J. (2008). Dual Use and the Ethical Responsibility of Scientists Archivum Immunologiae et Therapiae Experimentalis 56(3) 147-152. Available from http://www.springerlink.com/content/vh61601545017112/ 追加情報 9

9.デュアルユース科学に伴う義務 (vi) エニ(2008)は、悪意を伴うデュアルユースを回避するための科学者の一般的な義務と、その予防が可能である場合はそれを推進する義務を提議する。 これは次に挙げられたより専門的な責任につながる、 - 特定の科学研究を回避する、 - デュアルユース研究から発生する危険を警告するために、デュアルユースに関係する科学研究の応用を制度的に予見する、 - そのような危険に関して関係当局の意識を啓発する、 - 危険な科学知識を非公開にし、むやみに流布しない。 注釈:ゆえに、我々はここで二つの問題を確認できる。まず、潜在的に安全保障上の影響を伴う実験を実施するか否かという問題、そして安全保障上影響を及ぼしうる研究結果を公表するか否かという問題である。 10

10.便益・リスク分析における葛藤(i) ここでの葛藤は、まさに公的利益の追求のために行われているその科学研究及び科学的進歩の自由が、同じく公的な理由(安全保障上の理由)で危険にさらされている点である。 注釈:この緊張はデュアルユースの論争に関する多くの文献を通呈する論点となっている。秘匿性は科学の「核心を打ち砕く」とオッペンハイマーは主張したと言われている。そして、科学者の個人的責任の問に答えようとして、アインシュタインとボーアの両者は公私において苦悩した。アインシュタインはノーベル受賞式において次のように述べた、「歴史上最も恐ろしく危険な兵器の製造に参加した者は、罪意識といっていいほどの責任を感じ苦悩している。」 11

11.便益・リスク分析における葛藤 (ii) 我々が権利(科学的進歩の追求)と責任(科学研究を一定程度制限する必要)のバランスを理解するとこが倫理的に要求される。 生物学分野のデュアルユース研究に関する倫理的分析は現実的及び潜在的なリスク・便益の数値化、並びにそれらの現実的及び潜在的な受益者に関する数値化も必要であると考えられる。 注釈:ミラーとセルゲリッドは、実際のあらゆる公表に際したリスク便益に関する意思決定と、誰が最終的に科学の検閲の意思決定権を持つのかという難題は未解決であると記した。この問題は以下のスライドで考察を行う。 12

12.便益・リスク分析における葛藤(iii) 「科学的発展を公表する権利が一方で存在し、それは他方において安全保障・公衆衛生上の必要性と相殺される必要性があるという点が一般的な見解である。この見解によると、我々は科学的進歩に伴う大きな便益にたいして、安全保障・公衆衛生上の取り組みを積極的に、時に少なくとも僅かは犠牲にする必要があり、また同時に異なる場面においては、安全保障・公衆衛生上の重要な必要性にたいして、科学的進歩に関する取り組みを、非常に限られた範囲でしかし積極的に、抑制する必要性が生じる。」     注釈:スライド2における参考文献 Miller and Selgelid, ページ 553を参照。 13

13.予防原則(i) 予防原則は、予測不確実性を伴う深刻な悪影響が発生しうる場合に適応されるべき意思決定の原則を制定している。予防原則の基本的なメッセージは、「幾らかの場面においては、たとえ科学的に危険を証明する根拠が不十分であったとしても、潜在的な危険に対する措置が講じられる必要性が存在する」という見解である。 注釈:クーラウその他(スライド5引用文献)が記すには、予防原則の設定として広く引用される内容として、「ある行為が環境若しくは人間の健康を害する脅威を増加させる場合、幾らかの因果関係が完全に科学的に立証されていなくても予防措置が実施されるべきである」と記した、1998年に開催された予防原則に関するウィングスプレッド会議の声明文がある。 また別の予防原則として、「深刻若しくは不可逆的な被害の脅威が存在する場合、完全な科学的確実性の欠如を、環境破壊予防のための費用便益措置を延期する理由としてはならない」、とした 1992年のリオ宣言がある。 引用:Kuhlau, F., Hoglund, A., Evers, K., and Eriksson, S. (2009) A Precautionary Principle for Dual Use Research in the Life Sciences, Bioethics, [Early View] Available from http://www3.interscience.wiley.com/journal/122499297/abstract 追加情報 14

14. 予防原則 (ii) 予防原則は多くのバイオセキュリティ行動規範において示唆されている。例えば、 「生物テロや生物戦を通じてデュアルユース性の情報・知識が容易に不正利用される可能性を示唆する合理的な根拠がある場合、あらゆる生命科学分野に携わる全ての人間と機関は、(平時においては)情報・知識を知る必要がある者に対してその普及の制限を行う。」 引用: Somerville, M. A., and Atlas, R. A. (2005) Ethics: A Weapon to Counter Bioterrorism, Science 307(5717) 1881-1882. Available from http://www.sciencemag.org/cgi/content/short/307/5717/1881 15

15. 予防原則 (iii) 異なる種類の予防原則において、主に4つの概念的区分が見受けられる。 脅威、不確実性、(対応措置の)処方、及び行動である。 つまり、「 (1)脅威が存在し、(2)それが不確実性を伴うものである場合、(3)幾らかの行動は(4)義務的・強制的となる。」 注釈: 前スライド参考文献のSomerville, M. A., and Atlas, R. A. (2005)は予防原則の有用性に対する他者の議論を紹介している。例えば、予防原則は科学的発展を抑制し、実際上の応用性を欠き、さらにその定義が不完全で曖昧であるが、同原則はデュアルユース問題に応用が可能であると結論している。予防原則は社会における科学者の役割を検討させることが可能で、情報に通じた選択と決定によって科学的発展がどのように方向付けられて正当化されるべきであるかを検討させることも可能である。デュアルユースの問題において予防原則のより概念的な側面に関しては、クーラウ2009年度の論文(スライド13)内のサンディンの担当箇所を参照のこと。 16

16. 予防原則 (iv) クーラウその他(2009)はデュアルユースのための予防原則を以下のように提案する。 生命科学分野における正当な目的のための生物剤、技術及び知識が公衆衛生及び安全保障に対して深刻で信憑性のある脅威をもたらす時と場合、科学者コミュニティーはその脅威の対処のための措置の発展、実施及び遵守が義務付けられる。 注釈:驚異の信憑性、情報の入手可能性、責任に関する明確な規範要件及び行動のための指針といった要素が、予防原則の適用可能性とその成功を決定付ける。もちろん、著者達(スライド13引用文献)が示すように生物兵器に関して信頼に足りうる情報が存在するであろうが、なぜそれが大学における分子生物学者一個人である必要があるのか?という疑問も同時に提起される。ゆえに、脅威の存在が確かであるだけではなく、特に脅威の存在の信憑性を示すことが、当事者(科学者)に注意を促す際に必要と考えられる。この科学者と脅威の関係の説明では(予防原則の実施条件としては)不十分であると考える者もいる。しかし、予防原則はその実施条件に不明瞭さを残すことで、科学者と脅威の明確な関係の問題に大して潜在的な回答を提示できる利点があると考えることもできる。 17

17.科学的公表と安全保障に関する声明(i) 「公表に伴う潜在的な危険性がその社会的便益を上回ると(科学誌)編集者が判断する場合が時として存在していることを我々は確認できる。そのような場合、その論文の内容を変更するか、若しくはその公表を差し止める必要がある。 公共利益を最大化し、不正利用の危険を最小化する方法で科学者が研究を執り行うことを奨励する際に科学誌や科学連盟は、重要な役割を果たす。」 注釈: 一方において安全保障の強化と他方における科学的自由・公開性の担保とのバランスを取る重要性は、 2003月2月にScience, Nature, the Proceedings of the National Academy of Sciences, そしてthe American Society for Microbiology Journalsを含む「科学誌編集者及び著者グループ」によって同時に公表された「科学的公表と安全保障に関する共同声明」においても主張されている。 本声明文は科学者、科学研究公表コミュニティ及び安全保障の専門家により執り行われたワークショップでの議論に基づきまとめされた。(同ワークショップは、特に、講義その 15において紹介されているマウス痘ウイルス及びポリオウイルスの研究結果に啓発され開催された)。本講義のスライド2の参考文献Miller and Selgelid ページ 554参照。 Ref: Journal Editors and Authors Group. (2003) Uncensored Exchange of Scientific Results, PNAS 100(4) 1463-1464. Available from http://www.pnas.org/content/100/4/1464.full 追加情報 18

18.科学的公表と安全保障に関する声明(ii) 「本声明は、編集者が時として検閲を通じて公表過程に介入することを主張しているが、しかしこれは一般的に編集者や科学者コミュニティーが安全保障上の危険を判断できるということを意味していない。ゆえに、重要な問題は科学的検閲に関して、どの程度政府、生命倫理学者及び安全保障コミュニティーが協業するべきかという点である。」 注釈:Miller and Selgelid(スライド2)ページ 556参照。このスライドで紹介されているように、デュアルユースに関する生命科学研究において1つの重要な問題は、その責任の所在が何処にあるかという点である。次のスライドでも紹介されるが、講義その14と18がより詳しくデュアルユースの研究的側面を考察する。 19

19.デュアルユースジレンマに対する意思決定(i)   - 科学者個人の自立性の貫徹、   - 組織における(自主的)コントロール、 - 組織と政府によるコントロールの調和、 - 独立した権限(第三者機関によるコントロール)、 - 完全な政府コントロール、 注釈: これら個別の要素の詳細に関してはMiller and Selgelid(スライド2)ページ 558-573を参照のこと。 20

20.デュアルユースジレンマに対する意思決定(ii) 殆どの生命倫理学者は、科学者コミュニティーによる自律的管理と政府機関による管理を調和させる権限がデュアルユースジレンマに対応できる唯一の方法であると理解している。特定の事例において誰がその権限を持つかは「(個別的な)文脈に基づいて判断される」と理解される。 注釈:本講義で紹介された諸論文(Kuhlau et al, Ehni, and Miller and Selgelid)はデュアルユース上の責任が科学者個人、科学コミュニティ及び部外当局者(政府並びに独立機関)の間で共有されるべきであるという点で合意している。しかし、実際の意思決定権限の構造と機構がどの様に機能するかは問題発生の際に個別的に議論されることとなる。 21

参考文献と質問 参考文献 質問