荷電粒子の物質中での エネルギー損失と飛程 内容: 柴田研究室 05_05556 岡村 勇介 Bethe-Blochの式と飛程

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荷電粒子の物質中での エネルギー損失と飛程 内容: 柴田研究室 05_05556 岡村 勇介 Bethe-Blochの式と飛程 2009年3月4日 卒業研究発表会 荷電粒子の物質中での エネルギー損失と飛程 内容: Bethe-Blochの式と飛程  ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程と粒子識別 まとめ (stopping range) 柴田研究室 ・私の発表のタイトルは「荷電粒子の物質中でのエネルギー損失と飛程」です ・内容は、Bethe-Blochの式と飛程(stopping range)、ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程と粒子識別、まとめ、です。 05_05556 岡村 勇介

1. Bethe-Blochの式と飛程 (stopping range) 重荷電粒子 (陽子、ミューオンなど) の物質中でのエネルギー損失 ・Bethe-Blochの式 (速度表示) (MeV/ ) (g/cm ) 2 この式は荷電粒子の質量によらない式である :距離(cm) MeV (g/cm ) 2 ( ) MeV (g/cm ) 2 1価の荷電粒子の 物質中でのエネルギー損失 :電子の静止質量(MeV) 1.2 10 荷電粒子 炭素 1.0 10 銅 :荷電粒子の価数 ・まずBethe-Blochの式と飛程(stopping range)です。陽子やミューオンなど、電子を除く重荷電粒子が物質に侵入して失うエネルギーは、Bethe-Blochの式であらわすことができます。 ・Bethe-Blochの式はこのように書くことができます。この式は、荷電粒子が物質中を1g進む際に失うエネルギーを表しています。この式は荷電粒子の質量には依存しません。 ・Xは荷電粒子の進む距離を表わします。Dは定数で約0.3071という値をとります。スモールmc^2は電子の静止質量、スモールzは荷電粒子の価数、ベータは荷電粒子の速度を光速で割ったもの、ρは物質の密度、ラージZは物質の原子番号、ラージAは物質の質量数、そしてIは物質の平均イオン化ポテンシャルを表しています。 ・「2ぶんのデルタ」は密度効果と呼ばれる補正項です。 ・1価の荷電粒子について、この式の右辺をグラフに描くと、このようになります。 ・横軸は1マイナスβ、すなわち荷電粒子の速度です。荷電粒子の速度が光速に近づくにつれ、1マイナスβは0に近づきます。 ・縦軸は荷電粒子が物質中で失うエネルギー、単位はMeV/g/平方cmです。 ・青いグラフ、赤いグラフ、緑のグラフはそれぞれ1価の荷電粒子が炭素、銅、鉛中を進むときに失うエネルギーを示しています。 ・この三本のグラフがほぼ一致していることから、荷電粒子が単位質量あたりに失うエネルギーは、物質の種類にはあまり依存しないことがわかります。 ・そして物質中でのエネルギー損失は、1マイナスβが小さくなる、すなわち荷電粒子の速度が大きくなるにつれ、急激に減少します。そしてある地点で極小となり、その後ゆるやかに上昇していきます。 0.8 10 鉛 :速度/光速 0.6 10 標的原子 0.4 10 :密度(g/cm ) 3 0.2 10 :原子番号/質量数(mol/g) 10 :平均イオン化  ポテンシャル(eV) 10 -3 10 -6 10 -9 10 -12 10 -15

( ) ( ) ・Bethe-Blochの式 (運動エネルギー表示) MeV (g/cm ) 2 ( ) 運動エネルギーの関数として書いたBethe-Blochの式は荷電粒子の質量に依存する :荷電粒子の 運動エネルギー (MeV) 静止質量(MeV) MeV (g/cm ) 2 ( ) 陽子及びミューオンの 物質中でのエネルギー損失 5 炭素中の陽子 炭素中のミューオン 鉛中の陽子 鉛中のミューオン 4 ・次に、Bethe-Blochの式を運動エネルギーの式として書きかえることができます。荷電粒子の運動エネルギーをEキネティック、荷電粒子の静止質量をラージMc^2と書くと、運動エネルギーEキネティックはこのように書くことができます。 ・このEキネティックを用いて先ほどのBethe-Blochの式を書きかえると、このようになります。この式は荷電粒子の質量に依存します。質量の異なる1価の荷電粒子である陽子、およびミューオンについて、この式の右辺をグラフに描くと、このようになります。 ・横軸は荷電粒子の運動エネルギー、単位はMeV。縦軸は荷電粒子が物質中で失うエネルギー、単位はMeV/g/平方cmです。 ・青い線は炭素中で陽子が失うエネルギー、緑の線は炭素中でミューオンが失うエネルギー、赤い線は鉛中で陽子が失うエネルギー、紫の線は鉛中でミューオンが失うエネルギーを示しています。 ・青と緑のグラフ、および赤と紫のグラフのエネルギー損失の極小値はそれぞれ同じ大きさになっています。すなわち、エネルギー損失の極小値は荷電粒子の質量にはよらず、物質によることがわかります。 ・また質量の小さいミューオンは、陽子よりも小さいエネルギー領域でエネルギー損失が極小となります。 3 ただし、 2 1 (MeV) 2000 4000 6000 8000 10000

・飛程 (stopping range) (g/cm ) (g/cm ) 入射 停止 荷電粒子 入射後の運動 エネルギー: 物質 入射前の運動 飛程 (stopping range)をBethe-Blochの式から計算した (g/cm ) 2 (g/cm ) 2 1000 鉛中のミューオン 800 鉛中の陽子 600 炭素中のミューオン ・次にBethe-Blochの式を用いて飛程(stopping range)を計算します。飛程とは、物質に侵入した荷電粒子が停止するまでに進む距離のことです。 ・物質に入射する直前の荷電粒子の運動エネルギーをEキネティックゼロ、物質中を進んでいる荷電粒子の運動エネルギーをEキネティックとすると、飛程Rはこのような式であらわすことができます。単位はg/平方cmです。 ・この飛程の式をグラフに描くとこのようになります。横軸は物質に入射する前の運動エネルギーEキネティック、単位はMeV。縦軸は飛程R、単位はg/平方cmです。 ・このグラフより、運動エネルギーが大きくなるにつれ、飛程は運動エネルギーと比例の関係に近づくことがわかります。 ・ミューオンのような軽い荷電粒子ほど飛程は大きくなることがわかります。 ・炭素よりも鉛のような原子番号の大きな物質中の方が、荷電粒子の質量の飛程は大きくなります。ただし鉛の密度は炭素の約5倍の大きさをもつため、長さの飛程は炭素の方が大きくなります。 400 炭素中の陽子 200 200 400 600 800 1000 (MeV)

2. ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の 飛程と粒子識別 2. ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の   飛程と粒子識別 Bethe-Blochの式と自分で計算した飛程を、ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程に適用して検討した。 ・ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程と粒子識別 ・私はBethe-Blochの式から計算した飛程を、ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程に適用して検討しました。 ・ニュートリノは素粒子の一種で、電荷、色電荷を持たず、弱電荷のみをもちます。そのため、核子と弱い相互作用をします。弱い相互作用にはボーズ粒子Zを交換する中性流の反応と、ボーズ粒子Wを交換する荷電流の反応があります。 ・ニュートリノと核子の反応のうち、終状態に陽子が出てくる反応には次のようなものがあります。 ①この反応は、ニュートリノと陽子がZを交換して散乱する、弾性散乱です。 ②この反応では、ニュートリノと陽子がZを交換して、ニュートリノはそのまま散乱されます。陽子はデルタプラス状態に励起され、すぐに崩壊してπゼロ中間子と陽子が出てきます。 ③この反応では、ニュートリノと中性子がWを交換し、ニュートリノはミューオンとなって出ていきます。中性子は陽子となって出ていきます。 ④この反応では、ニュートリノと陽子がWを交換し、ニュートリノはミューオンとなって出ていきます。陽子はデルタプラスプラス状態に励起され、すぐに崩壊してπプラス中間子と陽子がでてきます。

2. ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の 飛程と粒子識別 2. ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の   飛程と粒子識別 Bethe-Blochの式と自分で計算した飛程を、ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程に適用して検討した。 ニュートリノ-陽子弾性散乱の識別: (フェルミ国立研究所におけるSciBooNE実験、 約0.7GeVのニュートリノビームを標的に照射) ・反応後の荷電粒子の軌跡が一本 ・粒子識別   …検出器中での全エネルギー損失と     飛程(軌跡の長さ)の関係から識別 ・フェルミ国立研究所におけるニュートリノ-核子散乱実験(SciBooNE実験)では、約0.7GeVのニュートリノビームを標的に照射しました。 ・私はこの実験の反応のうち、ニュートリノと陽子の弾性散乱について検討しました。 ・このニュートリノと陽子の弾性散乱は次の2つの条件によって識別されます。 ①まず反応後に検出された荷電粒子の軌跡が一本だけであること。 ②そしてその軌跡が陽子のものであることです。 ・軌跡が何の粒子によるものかを識別するために、検出器中での全エネルギー損失と飛程(すなわち軌跡の長さ)の関係を調べます。 ・先ほど述べたように荷電粒子によって物質中で失うエネルギーと飛程の関係は異なるため、この関係を調べることによって粒子を識別することができます。

このシンチレータの層を交互に 128枚重ねたものを検出器として用いている。 ・SciBooNE実験の検出器 (アクティブ・ターゲット) 1.3cm 2.5cm 水平型 鉛直型 300cm 300cm (112本) ・荷電粒子を検出するために、SciBooNE実験では次のようなシンチレータの層をアクティブターゲットとして用いています。アクティブターゲットとは、標的と検出器が一体となった検出器のことです。 ・大きさが1.3cm×2.5cm×300cmの角柱状のプラスチックシンチレータをこのように112本並べ、1枚の層とします。シンチレータを縦に並べた鉛直型の層と、横に並べた水平型の層の2種類を用いています。この鉛直型と水平型の層を交互に128枚重ねたものを検出器(アクティブターゲット)として用いました。 シンチレータバー (角柱状のプラスチ  ックシンチレータ) 300cm (112本) 300cm このシンチレータの層を交互に 128枚重ねたものを検出器として用いている。

・三次元軌跡の再構成 以下に energy deposit の検出を模式的に示す 1.3cm 6層以上貫通 赤いセルはenergy depositが検出されたシンチレータバーを表す 鉛直方向の シンチレータバー (上から見た検出器) 上から見た軌跡と 横から見た軌跡の 時間差が50ns以内 鉛直型と水平型の検出器で、軌跡が同時刻に検出される。 水平方向の シンチレータバー (横から見た検出器) ・荷電粒子は三次元軌跡として検出されます。三次元軌跡は次のように再構成されます。 ①まずこの模式図のように、鉛直型および水平型の両検出器において、荷電粒子が6層以上連続して検出される。 ②鉛直型と水平型の検出器で軌跡が同時に検出される。 ③鉛直型と水平型の検出器で検出された軌跡の両端の位置の差が6.6cm、すなわち5層以内である。 ・このような条件を満たす軌跡が三次元軌跡として再構成されます。 ・再構成された三次元軌跡の長さを飛程、三次元軌跡を構成するシンチレータ内で落としたエネルギーの和を全エネルギー損失として決定します。 再構成された三次元軌跡の長さを飛程、三次元軌跡を構成するシンチレータ内で落としたエネルギーの和を全エネルギー損失として決定する。 6.6cm以内 (5層以内) 6.6cm以内 (5層以内)

飛程 とenergy deposit の相関から粒子を明確に識別できる。 ・飛程Rと全エネルギー損失(energy deposit)Eの相関から、粒子を明確に識別することができます。 ・この図の点は実際に検出された荷電粒子の飛程と全エネルギー損失の関係を示しています。横軸は飛程、単位はcmで、縦軸は全エネルギー損失、単位はMeVです。 ・検出された荷電粒子は特に2か所に集中しています。このうち、飛程に対するエネルギー損失の大きい荷電粒子が陽子、エネルギー損失の小さい荷電粒子がミューオンやπ中間子であると考えられます。 ・この図に、Bethe-Blochの式から計算した陽子のエネルギー損失のグラフを加えます。

Bethe-Blochの式から計算したenergy depositと飛程の関係 飛程  の関係である。 Bethe-Blochの式から計算したenergy depositと飛程の関係 ・青い線は、Bethe-Blochの式から計算した、陽子のエネルギー損失と飛程の関係を表すグラフです。 ・実験で得られた陽子のエネルギー損失は、Bethe-Blochの式から正確に計算されたエネルギー損失よりも小さくなっています。よって、SciBooNE実験のエネルギー較正には調整の余地があることがわかりました。 ・この検出されたエネルギーEは、宇宙線ミューオンのデータとBethe-Blochの式から計算されています。しかし陽子のenergy depositは宇宙線ミューオンに比べて大きいため、非線形性がある可能性があります。図のエネルギー損失のズレはこのことによる可能性があります。 ・SciBooNE実験では陽子の運動エネルギーは、飛程とBethe-Blochの式から正確に決定できる。 ・SciBooNE実験のエネルギー  の較正には調整の余地がある。   は宇宙線ミューオンのデータとBethe-Blochの式から計算されている。陽子によるenergy depositは大きいので非線形性がある可能性がある。

両対数のグラフになおすとほぼ直線になる (g/cm ) ~ (MeV) 2 ・先ほどのグラフのx軸、y軸の対数をとるとこのようなグラフになります。このグラフでは、粒子の分布がほぼ直線になっていることがわかります。 ・実験的に検出されたこの陽子の分布を直線とみなすと、飛程Rと全エネルギー損失Eの関係は近似的にこのように表すことができます。aは約0.0047、αは約1.7です。 ・この近似的に求めた飛程と全エネルギー損失の関係式を、実験的に求めた陽子のグラフと比較します。

(curve)- (data) ただし MeV counts 近似的に求めた式 (MeV) (MeV) (curve)- (data) R ・この図の赤い線は、近似的に求めた飛程と全エネルギー損失の関係式のグラフです。 ・赤い線に沿って分布している点は、実験的に検出された陽子の分布です。 ・近似的に求めたグラフは陽子の分布とほぼ一致していることがわかります。 ・次に、エネルギー損失Eが60MeV以上の実験的に検出された多数の陽子の、近似のグラフとのエネルギーの差、および飛程の差を調べました。 ・近似的に求めたグラフから陽子のエネルギーを引いた値は、この図のようになりました。横軸はエネルギー差、単位はMeV、縦軸は陽子の数です。エネルギー差はほとんど0を中心に分布していることがわかります。 ・近似的に求めたグラフから陽子の飛程を引いた値は、この図のようになりました。横軸は飛程の差、単位はcm、縦軸は陽子の数です。この図でも、飛程の差はほとんど0を中心に分布していることがわかります。 ・このことから、近似的に求めた式が実験的に検出された陽子の分布とほぼ一致していることが確かめられます。 (cm) (cm)

まとめ ・重荷電粒子 (陽子、ミューオンなど) の物質中でのエネルギー損失はBethe-Blochの式で表わされる。 ・Bethe-Blochの式から飛程 (stopping range) を自分で計算した。 ・ニュートリノ-陽子散乱実験 (SciBooNE実験) にenergy depositと飛程を適用して検討した。 ・ニュートリノ-陽子弾性散乱では飛程とenergy depositの相関により陽子の粒子識別が明確にできることがわかった。 ・SciBooNE実験では陽子のエネルギーは飛程とBethe-Blochの式から正確に決定できるが、SciBooNE実験のエネルギー較正は調整の余地があることがわかった。 ・まとめです。 ・重荷電粒子 (陽子、ミューオンなど) の物質中でのエネルギー損失はBethe-Blochの式で表わされる。 ・Bethe-Blochの式から飛程 (stopping range) を自分で計算した。 ・ニュートリノ-陽子散乱実験 (SciBooNE実験) にenergy depositと飛程を適用して検討した。 ・ニュートリノ-陽子弾性散乱では飛程とenergy depositの相関により陽子の粒子識別が明確にできることがわかった。 ・SciBooNE実験では陽子のエネルギーは飛程とBethe-Blochの式から正確に決定できるが、SciBooNE実験のエネルギー較正は調整の余地があることがわかった。 ・以上で発表を終わります。

飛程R (g/cm ) 2 2 表面積1cm R (g)

2. ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の 飛程と粒子識別 Bethe-Blochの式と自分で計算した飛程を、ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程に適用して検討した。 中性流の反応 荷電流の反応 ニュートリノ-陽子弾性散乱の識別: (フェルミ国立研究所におけるSciBooNE実験、 約0.7GeVのニュートリノビームを標的に照射) ・反応後の荷電粒子の軌跡が一本 ・粒子識別   …検出器中での全エネルギー損失と     飛程(軌跡の長さ)の関係から識別 弾性散乱 ・私はフェルミ国立研究所で行われたニュートリノ-核子散乱実験(SciBooNE実験)において、このニュートリノと陽子の弾性散乱として識別された反応について検討しました。 ・このニュートリノと陽子の弾性散乱は次の2つの条件によって識別されます。 ①まず反応後に検出された荷電粒子の軌跡が一本だけであること。 ②そしてその軌跡が陽子のものであること。です。 ・軌跡が何の粒子によるものかを識別するために、検出器中での全エネルギー損失と飛程(すなわち軌跡の長さ)の関係を調べます。 ・先ほど述べたように荷電粒子によって物質中で失うエネルギーと飛程の関係は異なるため、このような方法によって粒子を識別することができます。 3.3.21:15 中間子生成 中間子生成

イベント数 cm 平均のエネル ギー損失 (MeV/cm)

中性流の反応 荷電流の反応 gr_3.33 弾性散乱 中間子生成 中間子生成

3. 宇宙線ミューオンのenergy deposit測定

Bethe-Blochの式と自分で計算した飛程を、 (a) ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程 (b) 宇宙線ミューオンのenergy deposit に適用して検討した。 ここまでに示したBethe-Blochの式と、計算した飛程を、「ニュートリノ-陽子散乱実験における反跳陽子の飛程」に適用して検討しました。

( ) ( ) ・Bethe-Blochの式( 運動エネルギー-飛程表示 ) MeV MeV cm 補正項 (g/cm ) 1価の荷電粒子の ( ) cm 補正項 MeV (g/cm ) 2 ( ) 1価の荷電粒子の 物質中でのエネルギー損失 30 炭素中の陽子 炭素中のミューオン 鉛中の陽子 鉛中のミューオン 25 :荷電粒子の 運動エネルギー (MeV) 20 15 :荷電粒子の 質量エネルギー (MeV) 10 5 (MeV) 2000 4000 6000 8000 10000

・Bethe-Blochの式( 速度-飛程表示 ) (MeV/cm) 補正項 12 1価の荷電粒子の 物質中でのエネルギー損失 10 炭素 鉛 銅 8 6 4 2 10 -3 10 -6 10 -9 10 -12 10 -15