弱電離気体プラズマの解析(LX) 大気圧コロナ放電によるベンゼン分解 -マスバランスから見た酸素混合の影響-

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弱電離気体プラズマの解析(LX) 大気圧コロナ放電によるベンゼン分解 -マスバランスから見た酸素混合の影響- 平成17年度電気・情報関係学会北海道支部連合大会 平成17年10月23日(日) 北海道大学大学院情報科学研究科   弱電離気体プラズマの解析(LX) 大気圧コロナ放電によるベンゼン分解 -マスバランスから見た酸素混合の影響- Studies on weakly ionized gas plasmas (LX) Decomposition of benzene using corona discharge at atmospheric pressure - effects of oxygen additive examined by mass balance - 松澤 俊春 佐藤 孝紀 伊藤 秀範 田頭 博昭(室蘭工業大学) 下妻 光夫(北海道大学) T.Matsuzawa, K.Satoh, H.Itoh and H.Tagashira (Muroran Institute of Technology) M.Shimozuma (Hokkaido University) MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

背景 我々を取り巻く大気中から,低濃度ながら多様な有害化学物質が検出され,これらの 長期的な暴露による生体への影響が懸念されている  有害化学物質の排出量 (                                  ) 経済産業省:平成15年度PRTRデータの集計結果,平成17年3月18日公表  1.トルエン  2.キシレン  3.エチルベンゼン    4.塩化メチレン  5.直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩   6.ポリ=アルキルエーテル  7.p-ジクロロベンゼン  8.ベンゼン  9.ホルムアルデヒド  10.鉛及びその化合物  環境への排出量の上位10物質  ・ 発癌性および催奇形性を有し,白血病との因果関係がある ・ 低濃度であっても長期的な摂取により健康への影響を生じる恐れがある  ・ 環境省により,環境基準値は3mg/m3(0.86ppb)と設定されている  ・ 主な発生源は,化学工場や移動体(自動車)の排ガスである ・ 燃焼法や吸着法,触媒法を用いて処理されている ベンゼン(C6H6)

背景と目的 放電プラズマを用いた処理法 実験の目的 バリア放電 排ガス処理に用いられる放電プラズマ(大気圧下) パルスコロナ放電 放電プラズマを用いた処理法  ・ 既存の処理法(燃焼法,吸着法)では処理が困難な数ppm程度の濃度に対しても適用可能[1] ・ 安定で付加反応を受けにくい物質(ベンゼン環を有する物質)の処理に有効 ・ 大流量のガス処理には不向き 低濃度でも影響が大きい物質(環境ホルモン)の処理に有効 排ガス処理法の適応範囲 排ガス処理に用いられる放電プラズマ(大気圧下)  バリア放電 パルスコロナ放電 DCコロナ放電 10 1 2 3 4 5 6 Concentration[ppm] -1 -2 Gas flow [Nm /h] Thermal plasma Discharge plasma (Non-Thermal plasma) Absorption Catalytic oxidation Combustion ・放電体積が大きく,大量のガス流に適合性がある[2] ・放電が不安定で火花放電へ移行しやすい 針電極を密集させることでストリーマコロナ放電を安定に発生・維持が可能 [1] J S Chang : 応用物理,69巻,3号,pp.268-277 (2000) [2]吉岡 芳夫 :電学論A ,Vol.122-A pp.676-682(2002) 実験の目的  化学工場や自動車等の排ガスに含まれるベンゼン(C6H6)の大気圧コロナ放電による分解特性を明らかにする 窒素-酸素混合ガス(バックグラウンドガス)にベンゼンを混合した模擬汚 染排ガス を使用し,バックグラウンドガスの酸素混合比を変化させたときの分解生成物を詳 細に調査するとともに,ベンゼン分解をC,H,O原子のマスバランスから検討する

実験装置 針電極形状 針電極数:13本 放電チェンバー (ステンレス製) マクセレック(株)製 LS40-10R1 平板電極(ステンレス製) 内径 :f197mm 高さ :300mm 針電極形状 針電極数:13本 針電極 :ステンレス製 直径f4mm 台座 :真鍮製 直径f50mm 針密度 :0.66本/cm2 マクセレック(株)製 LS40-10R1 Vmax±40kV, Imax±10mA 平板電極(ステンレス製) 直径 :f80mm 厚さ :10mm 接地 VACUUBRAND DVR2 測定範囲 :1~1100hPa 測定精度 :<1hPa 許容圧力 :0.2MPa 測定周期時間 :1sec Infrared Analysis, Inc. ,10-PA 光路長:10m 日本MKS(株)製 622A12TCE フルスケールレンジ :1.33×104Pa 分解能 :1×10-5F.S. 精度 :0.25% 島津製作所製 FTIR-8900 干渉計 :30°入射マイケルソン 干渉計 光学系 :シングルビーム方式 波数範囲 :7800cm-1~350cm-1 波数精度 :±0.125 S/N :20000:1 データサンプリング :He-Neレーザー エア・ウォーター(株)製 日本酸素(株)製 Benzene濃度:766ppm 純度:99.5% 純度:99.999% MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

実験条件 電極構成 :針(13本)対平板電極 電極間隔 :3.0cm 印加電圧 :+23.0kV(DC) ガス混合比と分圧 窒素-酸素混合比 電極構成 :針(13本)対平板電極 電極間隔 :3.0cm 印加電圧 :+23.0kV(DC)   ガス混合比と分圧  窒素-酸素混合比 封入ガス圧 窒素分圧 酸素分圧 初期ベンゼン濃度 全圧 N2:O2 [hPa] [ppm] 99.8:0.2 1011 2 300 (280~320) 1013 98.0:2.0 993 20 95.0:5.0 962 50 80:20 810 203 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

吸光度スペクトル ~ C6H6 ~ ④ ① ③ ② C6H6の赤外活性な振動 absorbance[a.u.] N2:O2 = 98:2.0 3600 3400 3200 3000 2800 2600 2400 2200 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 wave number [cm-1] 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 absorbance[a.u.] without discharge with discharge Ring deform CH bend CH str ④ ① ③ ② NIST* C6H6の赤外活性な振動  ① CH str 3068cm-1 ② CH bend  673cm-1 ③ CH bend 1038cm-1 ④ Ring deform 1486cm-1 他の吸収ピークとの重複が無い CH str(3068cm-1)の吸収ピークから C6H6濃度を算出する MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY *NIST Chemistry webbook(http://webbook.nist.gov/chemistry/form-ser.html)

分解生成物と放電生成物の特定 absorbance [a.u.] wave number [cm-1] N2:O2 = 98:2.0 C6H6(CH str 3068cm-1) CO(2040~2230cm-1) N2O (2170~2260cm-1) HCOOH (CO str 1105cm-1) O3 (anti str 1042cm-1) CO2(anti str 2349cm-1) 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 absorbance [a.u.] 3600 3400 3200 3000 2800 2600 2400 2200 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 wave number [cm-1] without discharge with discharge H2O (bend 1595cm-1) C2H2 (CH bend 730cm-1) HCN (bend 712cm-1) 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 Absorbance [a.u.] 750 740 730 720 710 700 690 680 670 660 650 wave number [cm -1 ] CO 2 ・ コロナ放電中のベンゼン分解生成物は, HCN,C2H2,HCOOH,COおよびCO2である ・ バックグラウンドガスからの生成物は,O3およびN2Oである  ・ 分解生成物として,H2Oも可能性がある

濃度の算出 Lambert-Beerの法則 透過率 %T 吸光度 A 吸光度は試料濃度と比例関係 k=吸光係数 I0=入射光強度 I=透過光強度 c=試料濃度[g/l] d=試料の厚さ(ガスセルの光路長) 吸光度は試料濃度と比例関係  標準ガスあるいはガス検知管を用いて検量線を作成   C6H6および生成物の濃度を算出  1.0 1.0 1.0 working curve of C6H6 working curve of CO2 working curve of O3 0.8 0.8 0.8 0.6 0.6 0.6 absorbance [a.u.] absorbance [a.u.] absorbance [a.u.] 0.4 0.4 0.4 0.2 0.2 0.2 0.0 0.0 0.0 200 400 600 800 1000 100 200 300 400 100 200 300 400 500 concentration [ppm] concentration [ppm] concentration [ppm]

C原子のマスバランス C原子数の見積り C6H6および分解生成物中のC原子数を見積り,それぞれのC原子数を積上げグラフで表現 N2 :O2 = 99.8 :0.2 N2 :O2 = 98.0 :2.0 N2 :O2 = 80 :20 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 amount of C atoms [ppm] 160 140 120 100 80 60 40 20 input energy [kJ] C 6 H CO 2 Deposition HCN HCOOH 57% (120kJ) 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 amount of C atoms [ppm] 160 140 120 100 80 60 40 20 input energy [kJ] CO 2 C 6 H Deposition HCN HCOOH 35% (120kJ) 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 amount of C atoms [ppm] 160 140 120 100 80 60 40 20 input energy [kJ] C 6 H CO 2 HCOOH Deposition HCN 24% (120kJ) C原子数の見積り  C6H6 1分子に含まれるC原子 = 6個 C6H6濃度[ppm] ×6      = C6H6中のC原子数 [ppm] C2H2濃度[ppm] ×2 HCN濃度[ppm] HCOOH濃度[ppm] CO濃度[ppm] CO2濃度[ppm] ×1 = 各分解生成物中のC原子数[ppm] by-products

C原子のマスバランス (C6H6, C2H2, HCN, HCOOH, CO, CO2) C6H6および分解生成物中のC原子数を見積り,それぞれのC原子数を積上げグラフで表現  N2 :O2 = 99.8 :0.2 N2 :O2 = 98.0 :2.0 N2 :O2 = 80 :20 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 amount of C atoms [ppm] 160 140 120 100 80 60 40 20 input energy [kJ] C 6 H CO 2 Deposition HCN HCOOH 57% (120kJ) 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 amount of C atoms [ppm] 160 140 120 100 80 60 40 20 input energy [kJ] CO 2 C 6 H Deposition HCN HCOOH 35% (120kJ) 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 amount of C atoms [ppm] 160 140 120 100 80 60 40 20 input energy [kJ] C 6 H CO 2 HCOOH Deposition HCN 24% (120kJ) ・ C6H6の完全分解に要するエネルギー(C6H6中のC原子数が0ppmとなるエネルギー) が酸素混合比の増加とともに増加する   低酸素濃度時にCOを経て 高酸素濃度時にCOおよびHCOOHを経て  ・ C6H6は, CO2に転化される  C2H2,HCNおよび低酸素濃度におけるHCOOHの生成は極めて微量である   C2H2,HCN,HCOOHおよびCOが中間生成物で,CO2が最終分解生成物である  ・ C6H6の分解とともに気相中のC原子の総量が減少し,約20kJから飽和する     減少分のC原子は,電極や放電チェンバーの内壁等に堆積した ・ 酸素混合比が低いときに,堆積するC原子の割合が増加する 

H原子のマスバランス (C6H6, C2H2, HCN, HCOOH) N2 :O2 = 99.8 :0.2 N2 :O2 = 98.0 :2.0 N2 :O2 = 80 :20 ・ 本研究では,H原子を含む最終分解生成物は確認できなかった   H原子は,H2O(1)やH2(2)などとして,気相中に存在している可能性がある。 また,H原子はC原子と同様に電極や放電チェンバー等へ堆積している可 能性がある 他の研究における窒素酸素混合ガス中でのベンゼン分解生成物 後藤ら(1) (バリア放電) : CO,CO2およびH2O 澤田ら(2) (グロー放電) : C2H2,CO,CO2およびH2 MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY (1)後藤他 :電学論A ,Vol.123-A, No.9, pp.900-906(2003) (2)澤田他:電気関係学会北海道支部連合大会講演論文集,52, p.66 (2003)

O原子のマスバランス (HCOOH, CO, CO2, O3) N2 :O2 = 99.8 :0.2 N2 :O2 = 98.0 :2.0 N2 :O2 = 80 :20 ・ 酸素濃度が十分であれば,300ppmのC6H6から2200~2600ppmのO原子 を含む分子が生成される ・ O3の生成は,酸素混合比の増加にしたがって顕著に増加する ・ N2:O2=99.8:0.2におけるO3濃度(O原子数)は,0ppmである   酸素濃度が十分でなければ,O原子によるO3生成よりもC6H6のフラグメント および分解生成物の酸化が選択的に行われる MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY

まとめ ベンゼン分解特性 大気圧下で発生させたストリーマコロナ放電を用いて,窒素-酸素混合 大気圧下で発生させたストリーマコロナ放電を用いて,窒素-酸素混合  ガス中の微量なベンゼンを分解するとともに,生成物を詳細に調査し,  ベンゼンの分解をC,H,O原子のマスバランスから検討した ベンゼン分解特性 ・ ベンゼン分解生成物は,C2H2,HCN,HCOOH,COおよびCO2である ・ ベンゼンは,主に,低酸素濃度時にはCOを経てCO2に転化され,高酸素濃度 時にはCOおよびHCOOHを経てCO2に転化される ・ バックグラウンドガスの酸素濃度の増加により  ・ バックグラウンドガスの酸素濃度が不十分なとき,O原子によるO3の生成 よりもC6H6のフラグメントおよび分解生成物の酸化が選択的に行われる  ベンゼンの完全分解に要するエネルギーが増加する   分解生成物がガス分子になり易い MURORAN INSTITUTE OF TECHNOLOGY