絶縁体を電気が流れる磁石に ―情報記憶容量の大幅向上に新たな道― 北海道大学 電子科学研究所 教授 太田裕道 POINT

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絶縁体を電気が流れる磁石に ―情報記憶容量の大幅向上に新たな道― 北海道大学 電子科学研究所 教授 太田裕道 POINT 解禁時間: テレビ・ラジオ・インターネット    平成 28年 3月 30日(水)午前 2時         新聞            平成 28年 3月 30日(水)朝刊 絶縁体を電気が流れる磁石に ―情報記憶容量の大幅向上に新たな道― 北海道大学 電子科学研究所 教授 太田裕道 ・情報“0”“1”に加え、情報“A”“B”を同時に記憶する装置を開発 ・USBメモリなどの情報記憶装置の記憶容量が原理的に2倍に向上 ・室温・空気中で、安全に使用可能 POINT

現在のフラッシュメモリの情報記憶方法 半導体が、電気を通す(情報“1”)か、通さないか(情報“0”)で、情報を記憶する 電気を通す状態 Small current Large current 電気を通す状態 電気を通さない状態 情報“0” 情報“1” 1ビット ※1バイト=8ビット 代表例:NANDフラッシュ(東芝) 情報“0” 情報“1” 閾値電圧:小 閾値電圧:大 電子がある 電子がない - - - - - 半導体シリコン 半導体シリコン

記憶容量を大幅に向上させるアイデア 電気が流れる「1」、流れない「0」に加え、磁石にくっつく「A」、くっつかない「B」を利用 金属: 絶縁体にならない 半導体: 磁石にならない 問題 まずは、材料が必要

コバルト酸ストロンチウム(SrCoO3ーδ) 酸素の内包率 83% 酸素の内包率 100% SrCoO2.5 SrCoO3 ストロンチウム 酸素 コバルト 酸素の出し入れで 切替えられる 酸素が抜けている 電気が流れない=“0” 磁石にくっつかない=“B” 電気が良く流れる=“1” 磁石にくっつく=“A”

室温で安全に使用できる方法を開発しなければならない 酸素を出し入れする二つの方法 1. 高温で加熱する 2. アルカリ水溶液中で電流を流す H. Jeen, …H. Ohta, …, H. N. Lee, Nature Materials 2013.8 O. T. Tambunanら, J. Kor. Phys. Soc. 2014.6 SrCoO2.5 200~300℃、酸素中 酸素が取り込まれる SrCoO3 200~300℃、真空中 酸素が抜け出る SrCoO2.5 ⇔ SrCoO3 ・高温の加熱が必要 ・酸素雰囲気の制御が必要 ・アルカリ水溶液を使用 ・水素ガスが発生する 室温で使えない 危険 空気中で使えない 危険 室温で安全に使用できる方法を開発しなければならない

漏れないアルカリ水溶液を使用 タンタル酸ナトリウム薄膜 ナノ㍍の空隙の中に空気中の水分が自動的に取り込まれ、漏れないアルカリ水溶液に 電気伝導度(mS/cm) pH タンタル酸ナトリウム薄膜に 含まれるアルカリ溶液 2.5 不明 箱根温泉※ 5.9 9.0 ※http://www.hakoneyuryo.jp/ より

作製した情報記憶装置 + I V 書き込み g 読み出し(電気の流れやすさ) -

結果:情報記憶特性 室温、空気中で、安全に、情報「0」「1」「A」「B」の記憶に成功! 切替に必要な電圧は3ボルト(フラッシュの7分の1) 電気が流れる「1」、流れない「0」 磁石にくっつく「A」、くっつかない「B」 -3ボルト、3秒 +3ボルト、3秒 +3ボルト、3秒 -3ボルト、3秒        室温、空気中で、安全に、情報「0」「1」「A」「B」の記憶に成功!        切替に必要な電圧は3ボルト(フラッシュの7分の1)

成功のポイント:ニッケル水素電池の構造にヒント +3 V -3 V

本研究成果のまとめ(フラッシュとの比較) 本研究のメモリ 電気流れる“1” 電気流れない“0” 磁石にくっつく“A” 磁石にくっつかない“B” -3 V +3 V 2~3 秒 フラッシュメモリ 電気流れる“1” 電気流れない“0” 電子 -20 V +20 V ~10 ミリ秒 繰返し105回 記憶できる情報   切替に必要な電圧   切替え時間   繰返し可能な回数 本研究のメモリ    0, 1, A, B        ±3ボルト     × 2~3秒      △ 未計測 フラッシュメモリ  基本的に0, 1        ±20ボルト    ~10ミリ秒     10万回

将来の期待される用途 USBメモリやスマホ用の大容量記憶装置 実用化に向けた課題 1. 高速切替え 2. 磁石の読みとり 高解像度写真や動画を大量に保存できるようになります。残りの容量を気にせずスマホを使えるようになるかもしれません。 実用化に向けた課題 1. 高速切替え 切替に要する時間を現在の2~3秒よりも短時間にする必要があります。材料の調製方法で高速動作させられるかどうか検討しています。 2. 磁石の読みとり 現在、電気の流れやすさは電気的に読みとることが可能ですが、磁石になったかどうかをどう読みとるかが大きな課題です。