TRG-OESによる放電プラズマ診断 Plasma diagnostics by trace rare gas optical emission spectroscopy (TRG-OES) 石原 秀彦* ,勝又 綾子,佐藤 孝紀,伊藤秀範 (室蘭工業大学) はじめに 実験装置および実験条件 Electrode:平行平板配置 背景 ・上部電極(ステンレス製) 放電プラズマ中の電子の平均エネルギー,ガス温度および粒子密度を測定することは,放電の性質を把握し制御する上で重要である 直径 :Φ60mm 厚さ :10mm ・下部電極(真鍮製) 直径 :Φ60mm 厚さ :30mm プラズマ診断法 Discharge chamber:円柱型放電チェンバー(ステンレス製) プローブ法,粒子計測法,発光分光法,マイクロ波法,レーザ分光法 内径 :Φ155mm 高さ :300mm 発光分光法 DC Power Supply KEPCO社製 BOP 1000M 最大出力:±1000V,±40mA 対象元素の原子スペクトル線を検出することで定性分析,またスペクトル線の強度を測定することで定量分析を行うことができる プラズマに擾乱を与えない Ionization Gauge 大亜真空社製 IT-L20P 目的 発光分光法を用いて放電気体中の電子の平均エネルギーを推定する electrode gap [mm] 14 discharge current [mA] -2.5 Capacitance Diaphragm Analyzer 放電条件 最近の報告 放電気体に添加した数種類の微量の希ガスからの発光を利用して電子の平均エネルギーを推定する方法としてTRG-OES (trace rare gas optical emission spectroscopy)が報告されている Millipore社製 COLD Series Malyshev et al.[1][4] Photonic Multi-Channel Analyzer 浜松ホトニクス製 PMA-11 測定範囲:200~950nm,分解能:2nm未満 partial pressure [mTorr] total pressure [mTorr] H2 Ar Kr Xe 500 5 515 封入ガス 測定気体に微量の希ガス(Ar,KrおよびXe)を封入し,直流グロー放電を発生させ,放電中の電子の平均エネルギーをTRG-OESにより推定した Enclosed Gas:H2,Ar,Kr,Xe 純度 H2,Ar:99.999%, Kr,Xe:99.995% 推定原理 TRG-OES (trace rare gas optical emission spectroscopy) 計算値(Icalc)の算出 測定気体に微量の希ガスを数種類封入し,放電を発生させ,放電中の希ガスからの発光強度の観測値(Iobs)と計算値(Icalc)の比を利用して電子の平均エネルギーを推定する方法である ① 電子のエネルギーをマクスウェル分布で仮定し,その平均エネルギーを1~5eVの間で設定する ② ①の電子のエネルギー分布および励起衝突断面積を用いて速度係数kg,xおよびkm,xを求める 観測値(Iobs):観測するスペクトルの発光強度 計算値(Icalc):仮定した電子エネルギー分布を利用して算出される発光強度 :励起閾値 ・・・ (1) 電子エネルギー分布 (平均値1~5eV) 観測する発光スペクトル :励起衝突断面積 Ar,KrおよびXeから観測されるスペクトル[4] ・・・ (2) :電子のエネルギー分布 Paschen 2px state wave length [nm] Ar Kr Xe 1 750.4 768.5 788.7 2 826.5 826.3 764.2 3 840.8 785.5 834.7 4 852.1 794.8 806.0 850.9 820.6 5 751.5 758.7 828.0 6 763.5 800.6 760.2 819.0 823.2 7 810.3 866.8 769.5 829.8 840.9 8 842.5 801.5 810.4 877.7 881.9 9 811.5 811.3 904.5 10 965.7 892.9 980.0 ③ ②で求めた速度係数kg,xおよびkm,xを用い,発光強度の計算値(Icalc)を算出する ・・・ (3) 基底状態からPaschen 2pxへの励起衝突断面積σg,x[2] :観測する発光スペクトル :分光器の感度 :発光効率 :分岐率 :プラズマ中の電子密度 :希ガスの密度 電子衝突によるArのエネルギー準位[1] 発光効率:全圧10Torr未満の低気圧下ではQx=1としてよい[1] 観測する発光スペクトルは,Paschen 2px (x=1~10) から,1sy(y=2~5)のどれか1つへ遷移するときの発光である 複数の希ガスを用いることにより閾値が広範囲に分布した発光線のセットが得られる 分岐率:Pachen 2pxから1syのどの準位に遷移するかの確率 [1] 設定した電子の平均エネルギーに対する計算値(Icalc)を算出することができる 準安定状態からPaschen 2pxへの励起衝突断面積σm,x[3] An emission intensity (Ar, Kr and Xe) in H2 plasma 計算結果および考察 H2中のグロー放電に添加した希ガス(ArおよびXe)からの4種類の発光スペクトルの観測値(Iobs)と,1~5eVの電子の平均エネルギーに対して算出した計算値(Icalc) の比を求め,電子の平均エネルギーをzero-slope法を用いて推定した zero-slope 法について α(λx,s),bx,sの値[4] 励起閾値に対してlog 10(Iobs/Icalc)をプロットする 設定した電子の平均エネルギーに対する近似直線を引く 傾きが0に近い,すなわち観測値(Iobs)と計算値(Icalc)との誤差のばらつきが最も小さいものをその放電中での電子の平均エネルギーとする Cl2中の誘導結合プラズマ[1] α(λx,s) bx,s 0.25 0.62 0.24 1.0 0.23 0.97 0.39 観測した発光スペクトル 設定した各種の密度[cm-3] 分解能2nmのPMAにおいて使用可能なスペクトル 文献[4] で使用されているスペクトル ng ne nm 1.77×1012 1.00×1011 ng×4.4×10-5 希ガスの分圧より算出 文献[1]の結果を参照 Ar 750.4,Xe 823.2,828.0,834.7nmを選択 電子の平均エネルギーは3.63eVと推定された (Cl2:2mTorr,各希ガス:0.02mTorr) 発光強度の計算値(Icalc) 発光強度の観測値(Iobs) H2中の直流グロー放電にzero-slope法を適用した結果 波長[nm] 各平均エネルギーに対する計算値(Icalc)[cm-3・s-1・nm] 1eV 2eV 3eV 4eV 5eV 823.2 1.44 3.99×102 2.17×103 5.83×103 9.05×103 828.0 2.19×10-1 8.70×101 7.86×102 2.57×103 5.35×103 834.7 1.20×10-1 4.77×101 3.70×102 1.04×103 1.89×103 750.4 6.75×10-1 2.56×102 1.96×103 9.47×103 電子の平均エネルギーの推定 波長[nm] 観測値(Iobs)[cm-3・s-1・nm] 823.2 1.14 828.0 0.557 834.7 0.214 750.4 0.244 電子の平均エネルギーは,傾きが-0.0411と最も0に近い近似直線から1eVと推定された 問題点 Iobs/Icalcの算出値 Malyshevら[1]の報告では観測したスペクトルは23種類であり正確な近似直線が引かれているのに対して,本実験では分解能の問題から4種類の発光スペクトルしか使用できなかったので正確な近似直線が引かれていない可能性がある 波長[nm] 閾値[eV] Iobs / Icalc 1eV 2eV 3eV 4eV 5eV 823.2 9.82 7.94×10-1 2.86×10-3 5.23×10-4 2.12×10-4 1.26×10-4 828.0 9.94 5.21×10 1.31×10-2 1.45×10-3 4.43×10-3 2.13×10-4 834.7 11.06 9.53×10 2.39×10-2 3.08×10-3 1.10×10-3 6.04×10-4 750.4 13.48 1.69×10 4.45×10-3 5.83×10-4 1.17×10-4 各閾値における観測値(Iobs)に対する計算値(Icalc)の比を求める (H2:500mTorr,各希ガス:5mTorr) まとめと今後の課題 今後の課題 H2中に数種類の微量の希ガスを封入し,直流グロー放電を発生させ,電子の平均エネルギーをTRG-OESにより推定した 使用できる発光スペクトルを増加させるために,発光推定器の分解能を高くする,あるいは新たな推定器を導入する ガス圧およびガスの種類を変えて,同様の実験を行うことで様々な条件下における電子の平均エネルギーを算出する マクスウェル分布で仮定した各平均エネルギーに対する発光強度の計算値(Icalc)をそれぞれ算出した 観測値(Iobs)および算出した計算値(Icalc)との比を用い,電子の平均エネルギーをzero-slope法により推定した 使用できる発光スペクトルが少なかったため,現段階では正確な近似直線が引かれていない可能性がある 参考文献 [1] M. V. Malyshev and V. M. Donnelly : Phys. Rev. E, 60 , 6016 (1999) [2] J. E .Chilton, J. B. Boffard, R. S. Schappe and Chun. C. Lin : Phys Rev. A , 57, 267 (1997) [3] K. Bartschat and V. Zeman : Phys. Rev. A Soc, 59, 2552 (1999) [4] M. V .Malyshev and V. M. Donnelly : J. Vac. Sci. Technol. A, 15, 550 (1997)