今再び平和と公共を問う 小林正弥(千葉大学)

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今再び平和と公共を問う 小林正弥(千葉大学) 神社と政治 今再び平和と公共を問う 小林正弥(千葉大学)

はじめに

神道の多様性 「日本会議」本ブーム:批判的。公正 な説明。インタビュー。 神職:薗田稔(京都大学名誉教授)、 小野貴嗣(東京都神社庁長)、千勝良 朗 神道研究者:鎌田東二、藤本頼生(國 學院大学) 神社本庁関係者/それ以外の見方 

4つの問い 宗教性:スピリチュアル・ブーム? 神社消滅:地方消滅の結果。 改憲署名:「巫女さんのくせになん だ」 国際化:外国人に恩恵はあるか?

神社が改憲運動をしてよいのか? 政教分離とは?:特定の宗教団体と国 家との分離。相互非干渉、自律的。だ から背反しない。 宗教の公共的発言という意義。 ただし、世俗的ナショナリズムと宗教 的ナショナリズムとの相違。 宗教的論理につき公共的な説明責任が ある。

神社と神道

神道のエッセンス そもそも神道は宗教か? 習俗的神道と宗教的神道 自然と生成論 清明心

「神の道」の歴史 歴史的な生成 6段階:原始(アニミズム、シャーマ ニズム)、古代(祭祀、国家)、中世 (神秘性、権力と権威の分離)、近世 (半官半民)、「近代」、戦後(民) 古代国家神道を復興しようとした 「近代」国家神道:国教化の挫折と、宗 教ではなく公的祭祀。

伝統からの考察 公共哲学:公/公共/私、民の私的な公共 神社本庁:「民の公共」のフロントラン ナー? コミュニタリアニズム:伝統の解釈による 内在的批判、解釈の多様性 南方熊楠、葦津珍彦、改憲署名批判

コミュニティの生成発展 最上層(世界):折口信夫の人類教=国 際的・地球的神道 上層(国家):葦津らの公神道=国家 的神道 基層(地域、家族):柳田國男の民俗 神道=家族的・地域的神道

先祖崇拝 祖霊信仰、民間信仰 超世代的コミュニティ 公共哲学? 共同性と公共性、公共的貢献 家庭祭祀

コミュニティの神道 アメリカの市民宗教(ベラー) 公共宗教 神社消滅の危機に対する宗教性の復権 コミュニティの公共宗教:精神的拠点 人生の万相談所、鎮守の森 神社創生における公共性・福祉

神社と政治

神社本庁の難題 結集体としての多様性の尊重 敬神生活の綱領:善い生き方、小野祖 教、正統的解釈 幻の標準解釈 神社本庁憲章における尊皇 多様性と共通の宗教性、宗教性と国家 的公共性

祭政一致の国家論 神道政治連盟 祭り主としての天皇、統治大権と祭祀大権、 現人神、明治憲法 神聖を保つ心、通常は委任だが、天皇主権。 正統的解釈、国体論 「生長の家」との分岐

靖国問題と大嘗祭 靖国神社における2路線:筑波宮司と松平 宮司、A級戦犯合祀、葦津の反対 国家護持論→靖国神社自体による「民の公 共」路線の選択、公式参拝論への転換。 国民護持論(新宗連など)。 国事行為(公)論と宮中祭祀内廷論、神聖 な私的公共の理論

国家神道と国民神道 戦前の国家神道の無気力化、官僚主義 化による失敗 国家と区別される国民の神道 伊勢神宮、皇室の私的な公共的祭祀 愛国心と愛民心 日本の市民宗教という可能性

神道的な政治とは? 生態智という潜在教義(鎌田東二) 環境:自然尊重と原発問題 平和:安保法と武力行使 経済:TPPと稲作 安倍談話と象徴天皇の祈り:解釈の多 様性 エコロジー的平和主義

本来の「まつりごと」とは? まつりごとは、祭政一致か奉仕事か? 権力政治ではない。祭政分化。 天皇も市民も奉仕。政治家も。 公共的市民憲章。公共的市民宗教。 神道的な民主政治。 日本民族の一般意思(葦津)。ルソー の概念。神道的共和主義の可能性。

グローバル化と国際的神道 折口の人類教=地球的神道 神仏習合→神神習合が原点だから復興して 新神仏習合へ(鎌田)、秩父神社など。 地球的習合と地球的祭祀、地球的市民宗教 へ。世界的国譲り(鎌田)。 17条憲法と公共的市民宗教・市民憲章。

まとめ:コミュニティ宗教 の多層的展開

問いに対する答え 二つの道:広い公共性と狭い宗教性 公共宗教としての公共神道。 憲法政治と通常政治:部分的改憲と全 面的改憲。「民の共祭」たる公共的祭 祀。 国粋的解釈と習合的解釈。

宗教性・公共性・国際性の統合 宗教性と国家志向とのジレンマ→宗教 性と公共性とを統合する可能性 戦前と戦後との統合:生成的改革。 同心円モデルと逆円錐モデル:4層のコ ミュニティ神道 祭政関係と政策の地図における多様性。 神道的な活私開公と熟議。

総括:国家神道から民間へ 戦後憲法と国家神道との緊張関係から、 民間になった神社の公共志向が生まれ てきた。 それは「民の公共」のフロントラン ナーとも見ることができる。当事者ら も意識していない可能性が生じた。 けれどもいまは「公」志向を強めて、 改憲運動をしている。ここには民主主 義や政教分離、平和との緊張関係があ る。

国民の神道による平和 それに対して「民の公共」に基づく 「国民の神道」の可能性を提起したら どうか。 天皇陛下のメッセージはその中核にな る。「国民の象徴」としての象徴天皇 の祈りと公共的行為の相互補完性。 それによって平和憲法を再確立する可 能性が開ける。

日本と世界の市民宗教 民主主義、国民主権や政教分離を前提 として神道が公共性を発揮するにより、 近代的な「日本の市民宗教」となる可 能性。 家族や地域、そして世界における神道 の可能性を追求することも重要である。 そのためには神仏習合の発展が大事。 地球的な市民宗教の形成に寄与する可 能性。