「フランスの有権者はなぜEUに背を向けるのか ーー欧州懐疑主義台頭の原因ーー

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「フランスの有権者はなぜEUに背を向けるのか ーー欧州懐疑主義台頭の原因ーー 吉田 徹 yoshidat@juris.hokudai.ac.jp 北海道大学法学研究科/フランス国立社会科学高等研究院/シノドス・ラボ/北海道自治研究所

2017年フランス大統領選の構図 【表1】フランス大統領選挙結果(第1回投票、第2回投票、太字は欧州懐疑主義者) ■マクロンの勝利?   第1回投票(4月23日) 第2回投票(5月7日) 有権者数 47 582 183 100% 47 568 693 棄権 10 578 455 22.23% 12 101 366 25.44% 投票者数 37 003 728 77.77% 35 467 327 74.56% 白票 659 997 1.78% 3 021 433 8.52% 無効票 289 337 0.77% 1 064 225 3.00% 投票率 36 054 394 97.45% 31 381 603 88.48% 候補者 票数 相対得票数(%) マクロン(EM) 8 656 346 24.01 20 743 128 66.10 ルペン(FN) 7 678 491 21.30 10 638 475 33.90 フィヨン(LR) 7 212 995 20.01 メランション(FI) 7 059 951 19.58 アモン(社) 2 291 288 6.36 デュポンテニヤン(DF) 1 695 000 4.70 ラサール(R) 435 301 1.21 プトゥ(NPA) 394 505 1.09 アスリノ(UPR) 332 547 0.92 アルトー(LO) 232 384 0.64 シュミナド(SP) 65 586 0.18 ■マクロンの勝利? ■「グローバル・リベラリズムvs.ナショナル・ポピュリズム」? ⇒ 候補者12名中9名が「欧州懐疑主義者」、  得票率60% 【出典】フランス内務省

本報告の目的 「反EUは1日にしてならず」 「過去への関心の喪失、時系列と出来事(『事件の歴史』)の 無視、政治史の過度の回避」(Judt 1979:79) ⇒(国民戦線を含む)欧州懐疑主義が台頭した史的起源の特定と その伝播のメカニズムを解明すること

ルペンの得票構造 ■「グローバル化の敗者」 ■「グローバル化と低成長時代のFNのキャッチオール化」(Gauchet 2017) 【表2】有権者の属性(第1回投票、得票率5%以上の候補者5名のみ、%)   メランション アモン マクロン フィヨン ルペン 得票率 19.6 6.4 24 20 21.3 男性 19 5 26 22 21 女性 8 18-24歳 27 12 10 25-34歳 25 7 11 35-49歳 23 50-64歳 18 65歳以上 3 41 上級職位 (管理職) 32 9 39 16 6 中間管理職 30 下位職位 (従業員) (労働者) (無職) 36 17 29 43 1500E未満 28 14 2500E未満 15 3500E未満 3500E以上 4 2012年投票候補者 オランド バイルー サルコジ 83 46 1 59 81 ■「グローバル化の敗者」 ■「グローバル化と低成長時代のFNのキャッチオール化」(Gauchet 2017) ・・・FNの戦略を可能にしたEUの<政治化> (出典:BVA調査)

EUの「政治化(politicization)」 ポスト機能主義における統合過程の「ネガティブ・フィードバッ ク」(Schimmelfennig 2017) ⇒EU争点の容易な「政治化」(『特定の政治システム内部における紛 争の射程の拡大』)(Grande&Hutter 2017) 政治化の「質」:①争点の顕在化、②アクター数の増加、③アク ターの極化 2. 政治化の「領域」:①国家主権、②ナショナル・アイデンティティ、 ③トランスナショナルな財政・所得移転

国民投票を機とした欧州懐疑主義の伝播

①政治リベラル+経済保護主義 ②政治権威主義+経済リベラル 「政治化」の史的起点 1.マーストリヒト条約 国民投票(1992年) 既存保革二大政党からの分党・分派(MDC、RPF/MPF) 2.欧州憲法条約国民投票(2005年) 社会党の内部抗争 ⇒「ノン」投票者層の重複(農民、従業員、労働者層) ⇒有権者層の「三分割化」の定着 ①政治リベラル+経済保護主義 ②政治権威主義+経済リベラル ③政治権威主義+経済保護主義 cf.政治リベラル(多文化主義)+経済リベラル(市場通貨統合)軸のEU

中道諸政党の争点管理と極化するEU争点 支持者の党派によるEUとの距離(『EU離脱で大きな安心を感じる』とした有権者の党派別割合、2017年) ※LO:労働者の戦い、NPA:新反資本主義党、PCF:共産党、PG:左派党、Nouvelle Donne:新しい結果、PS:社会党、PRG:急進左派党、EELV:緑ヨーロッパ、Autre Ecologies:その他の緑の党、MODEM:民主運動、UDI:独立民主連合、LR:共和派、DLF:立ち上がれフランス、FN:国民戦線、Autre Parti:その他政党、Aucun Parti:無党派 【出典】Enquête électorale française ENEF 2017, CEVIPOF, vague 4

結語 2017年大統領選と欧州懐疑主義空間の拡大は、過去30年以上に渡る政治プロ セスの「頂点」 欧州懐疑主義の基点となったのは2度に渡る国民投票で開いた政治的機械構造 「三分割化」された有権者市場において極化を最も戦略的に進めることがで きたのが国民戦線(FN) 「応答の要求」<=>「代表の要求」(Mair 2013)のせめぎ合い 「政党は社会によって条件付けられると同時に、社会も政党によって条件つ けられる」(Sartori 1969) =そうした意味で欧州懐疑主義もまたpolitics as usualの範疇となっている。