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会社法1 第10回.

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1 会社法1 第10回

2 本日のお題 募集株式発行・自己株式処分の意義 募集株式発行等の手続き 有利発行規制(株価算定含む)

3 株式発行総論

4 「新株の発行」のバリエーション 分類 条文 内容 備考 募集株式の発行 会199以下 引受人との合意に基づき出資を受け株式を発行
新株予約権行使 による発行 会280以下 新株予約権行使の効果として発行 予約権行使は形成権であり、自動的に発行 株式無償割当て 会185以下 株主に持株比率に応じて無償で株式を発行 形式的には株式発行だが実質は株式分割 株式取得対価 としての発行 会168~173 取得条項付種類株式、取得請求権付種類株式、全部取得条項付種類株式を取得する際に対価として発行 107条の「特別な定め」による取得の場合には自社の株式を対価とすることは想定されていない 組織再編対価 会748以下 組織再編の相手方当事会社株主に対して発行 例:吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社株主に対して交付

5 用語の整理 新株の発行(新株発行) 募集株式 募集株式の発行 募集株式の発行等 会社の成立後における株式の発行(会834②参照)
199条以下の手続によって発行される株式および処分される自己株式(会199Ⅰ柱書き参照) 募集株式の発行 新株発行のうち、新たな資金調達のために、会社法199条以下の手続きによって行われるもの ※この場合には自己株式の処分を含まない 募集株式の発行等 募集株式の発行と自己株式の処分 ⇒ よって、会210は「募集株式発行等の差止め」であり、会828Ⅰ②は「新株発行無効の訴え」(会834②参照) ※ただし、講学上は、「募集株式発行」の意味で「新株発行」ということもよくある

6 募集株式発行・自己株式処分手続き

7 募集株式発行等の態様 ※公募増資においては有利発行は通常行われない(時価で売れるからこそ公募)
の発行 募集株式 第三者割当 公募増資 時価発行 (有利発行) 第三者割当増資 有利発行 株主割当 の処分 自己株式 ※公募増資においては有利発行は通常行われない(時価で売れるからこそ公募) ※株主割当の場合にも時価発行と有利発行があり得るが、株主の利害という面では両者は変わらない(有利発行規制を観念する必要性がない)

8 手続のフロー 募集株式発行の決定 募集事項通知 申込み 割当て 引 受 け 払込・給付 発行・処分 登記 総数引受契約 募集事項の通知・公告
払込期日・ 払込期間初日の前日まで 199~201 203Ⅰ 208 209 915Ⅰ 募集株式発行の決定 募集事項通知 申込み 割当て 引 受 け 払込・給付 発行・処分 登記 2w以内 203Ⅱ 204 205* 総数引受契約 ①譲渡制限株式の総数引受契約には総会決議(取設は取締役会決議)が必要(205Ⅱ) 206 払込期日・払込期間初日の前2w 205* ・・・改正で一部変更 募集事項の通知・公告 (既存株主向け) 201ⅢⅣ(公開会社の取締役会決定による第三者割当発行の場合)

9 発行等の決定機関 状況 非公開会社 公開会社 株主割当 第三者割当 通常 有利発行 原則 株主総会 (202Ⅲ④) (199Ⅱ) 取締役会
(202Ⅲ③) (201Ⅰ) 総会決議による 募集事項決定 の委任 不可 委任可 (200Ⅰ) N/A 定款による 権限委譲 取締役(会) (202Ⅲ①②) 株主総会への権限委譲は許される 既存株主への 通知・公告 不要 必要 (201ⅢⅣ) 支配権移動時 の特則 なし 一定の要件 で総会決議 (会206の2) 譲渡制限種類株式発行には当該種類株主総会決議が必要(定款に決議不要の定めを置く場合等を除く。会199Ⅳ、322ⅡⅢ)

10 有利発行

11 有利発行による既存株式の希釈 〈例〉 甲社は純資産総額100万円、発行済株式総数100株。今回、1株1000円で100株を発行
〈例〉 甲社は純資産総額100万円、発行済株式総数100株。今回、1株1000円で100株を発行 発行前の1株の価値 100万円÷100株=1万円 発行後の1株の価値 (100万円+10万円)÷(100株+100株)=5500円 ⇒既存株主は1株につき4500円の損失を被っている(希釈化損害) ※新株主は4500円/株の利得を得ている

12 有利発行の判定基準 基本 原則の比較基準は発行直前の時価
ただし、買い占め等による一時的な騰貴が生じて客観的企業価値を反映しない場合には、他の算定方法を用いる(大阪地判H2.5.2)。高騰が長期間続く場合には算定基礎に反映(東京地決H1.7.25) ※企業提携目的での第三者割当発行が公表されて株価が高騰した場合も、同様に考える(シナジーの公平な分配)〔次ページ以降参照〕

13 統合のシナジーと株式の「時価」 *H20司法試験 甲乙の提携で発生するシナジー 800 提携発表後 の株価 400 1株の価値(株価)
300 乙の出資で増加する 甲社の企業価値 1200 甲社の企業価値 1200 4株

14 時価は400だと考える 甲乙の提携で発生するシナジー 800 提携発表後 の株価 400 1株の価値(株価) 300 乙の出資で増加する
甲社の企業価値 1200 甲社の企業価値 1200 4株 3株

15 時価は300だと考える 甲乙の提携で発生するシナジー 800 提携発表後 の株価 400 1株の価値(株価) 300 乙の出資で増加する
甲社の企業価値 1200 甲社の企業価値 1200 4株 4株

16 日本証券業協会の自主ルール 払込金額は、株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9 を乗じた額以上の価額であること。ただし、直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9 を乗じた額以上の価額とすることができる。 ⇒10%までのディスカウントが許される根拠

17 非公開会社における有利発行の判定 時価の算定
非上場会社(とくに非公開会社)においては株式の価格算定は困難。株式価値算定方式にはいくつかの手法があるが(純資産価格方式、配当還元方式、DFC方式等々)、どれを用いるべきかを一義的に決めることはできない。 コストアプローチ 純資産方式 [純資産÷発行済株式総数]  インカムアプローチ 収益還元方式 [収益の現在割引価値の合計÷発行済株式総数] ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法 [FCFの現在割引き価値の合計÷発行済株式総数] 配当還元方式 [配当の現在割引価値の合計÷発行済株式総数] 儲からない会社で高く出がち 順調な会社で高く出がち

18 株価(企業価値)算定方法 アプローチ 方式 特徴 メリット デメリット コスト 簿価純資産方式 過去に注目 簡易 乖離 時価純資産方式 客観的 収益無視 インカム 収益還元方式 将来収益に注目 企業価値の算定 理論的には企業価値に近似 恣意的 不確実 赤字企業不適 DCF方式 配当還元方式 株主価値の算定 「株価」算定 配当に左右 企業価値と乖離 マーケット 類似企業比準方式 他社の株価参照 類似業種比準方式 一貫性 相続場面専門

19 算定方法の競合と取締役の裁量 [アートネイチャー事件](東京高判H25.1.30、最判H27.2.19)
〔事案〕会社が配当還元法*により1500円で新株発行/自己株式処分。株主は1株3万2554円を時価として主張。 *純資産額はマイナスで事業計画もなし。150円/年の配当復活を見込み資本コスト(10%)で割り算 〔原審〕「株式価値の判断に当たっては,新株発行時における旧株式の客観的な交換価値を基準とすべき」。「非上場会社においては新株発行当時の会社の資産や収益の状況等の諸般の事情を考慮して事案に相応しい方法によって判断するのが相当」。「(意見書)が平成14年度の実績値を基礎として算出したDCF法による評価・・・,その他・・・諸事情を総合考慮すると,本件新株発行における公正な価額は少なくとも1株当たり7000円を下回らない」  ⇒裁判所が自身で株式価値を算定 ※自己株式処分は有利処分にはあたらないと判示

20 〔判旨〕非上場会社の株価の算定については,評価手法について明確な判断基準が確立されていないので、「取締役会が,新株発行当時,客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額を決定していたにもかかわらず,裁判所が,事後的に,他の評価手法を用いたり,異なる予測値等を採用したりするなどして,改めて株価の算定を行った上,その算定結果と現実の発行価額とを比較して『特ニ有利ナル発行価額』に当たるか否かを判断するのは,取締役らの予測可能性を害することともなり,相当ではない・・・。したがって,非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し,客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には,その発行価額は,特別の事情のない限り,『特ニ有利ナル発行価額』には当たらない」。 ※非公開会社の場合、算定された時価ではなく、買い手の言い値が「時価」との見解あり

21 違法な有利発行の処理

22 規制違反の有利発行の効力 有利発行規制の本質 有利発行規制違反の新株発行の効果
有利発行規制は既存株主の利益保護のために手続きを厳格にするもの ⇒有利発行そのものは(株主の納得があれば)許容されている 有利発行規制違反の新株発行の効果 単なる意思決定手続違反にすぎず、瑕疵としては重大ではない かつ、瑕疵の内容は既存株主の持株価値という経済的利益の侵害であり、損害賠償による解決が可能 ⇒ (少なくとも公開会社では)取引の安全に優先する形で新株発行の効力を覆すほどの悪性・重大性はない

23 差額支払責任(会212Ⅰ①) 趣旨 要件 効果 既存株主の衡平的な権利の保護(希釈損害の回復) 資本充実責任の一環(現在では説得的ではない)
第三者割当ての募集株式の発行・自己株式処分 引受人が著しく不公正な払込価額で引受け 取締役(・執行役)と引受人との通謀 効果 引受人は公正な価額との差額を会社に支払い

24 希釈化損害の追及 希釈損害の性質 有利発行における時価と発行価額の差は会社の損害だと考える(間接損害説)
⇒株主は代表訴訟によって会社に対する賠償を求める(429も使えるかどうかは説が分かれる) 有利発行による希釈化損害は、会社が既存株主から新株主に富を移転しただけで会社には損害はないと考える(直接損害説) ⇒株主は会429Ⅰで自己に賠償するように求める ※支配権争奪場面では間接損害説、それ以外は直接損害説を用いるべきとの見解、どちらも成立するとのもある

25 間接損害説の論拠 本来は時価で資金調達可能だったのに有利発行を行ったため得べかりし利益を喪失した 自己株式の有利処分との均衡がとれない
通謀新株引受人の差額支払責任(会212)は損害賠償責任と考えられているから、時価と発行価額の差は会社の損害である (理論的にはともかく)違法行為の抑止という点からすると間接損害説の方がすぐれる 残余財産についてのみ請求権のある劣後債を措定してみれば、会社に損害がないとはいえない

26 直接損害説の論拠 検討 会社からは何らの財産の流出もないし、何らの債務の負担もない
会社は必要な資金調達は行ったのであり、交付した株式の数が過剰だったに過ぎない 仮に会社に対する損害賠償がなされると、有利発行を受けた新株主はさらに利得することになる 合併比率の不公正の場面(現物出資による募集株式発行に類似)では会社の損害は否定(大阪地判H ) 会社法212条は立法論としては削除すべき 検討 判例は分かれる(間接:東京地判H 、直接:大阪高判H )


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