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日本の医療制度: 漸進的調整を続けるべきか?
日本の医療制度: 漸進的調整を続けるべきか? 池上 直己 慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室
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日本の強みと弱み: 強み 低い医療費:GDPの7.6% (2000, OECD) 他の主要OECD諸国と比べると低い水準
2. 国民皆保険で基本的に平等な制度 3. 優れた健康指標 乳児死亡率:1000人あたり4人 入院待機患者なく、ほとんど全ての病院を自由に受診できる 3時間待たされることもあるがその日のうちに診てもらえる
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日本の強みと弱み: 弱み 質の評価 医師や看護師の人員配置、1病床あたりの床面積等
保険でチェックされるのでよく順守 各保険者と医療機関がもっているデータベースはごく限られている 治療結果にもとづいて質や効率性を評価できず、上記の他は収支率のみ 負担増への支持が足りない理由 保険料の負担と医療サービスの給付の関係が不明確
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日本の強みと弱み: 弱み 中央の統制が地方のイニシアティブを抑制 国は、費用の抑制するために、診療報酬を介して給付内容を細かく管理
地方の裁量を認めない 地方にパイロットプロジェクトを導入することは困難 保険者に直接、補助金 補助する際の評価対象は、給付内容ではなく、財政状況 都道府県は医療費を調達する責任がない 財政的責任は県立病院への補助金に限られる
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政策の岐路 弱みの原因?⇒ 当面の政策目標を達成するために漸進的な調整を重ねたこと 漸進的な改革だけで足りるか?
抜本的な改革を試みるべきか? 1. 保険制度の構造改革 2. 出来高払いから包括支払いへ 3. 混合診療容認の是非 現状の把握から解説
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1. 細分化された保険制度 サラリーマンとその扶養家族は被用者保険、それ以外は市町村が運営する国保に強制的に加入
現在、5,000以上の保険者がある 扶養者は世帯主が保険料負担 国民皆保険と平等な給付は抜本改革によってではなく、保険者によって異なる所得や健康状態の格差に対処するために、漸進的な調整を重ねることによって達成
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5,000の保険者の層別化 第1層:健康で裕福な加入者の割合が比較的高い 第2層:中間の層のための1つの保険者
公務員の共済組合:78 大企業従事者の組合健保:1600 第2層:中間の層のための1つの保険者 中小企業従事者のための政府管掌健康保険:1 第3層:病気や貧しい加入者の割合が比較的高い保険者 自営業者や年金生活者のための市町村が運営する国民健康保険:3200
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所得格差に対応するための調整 第1層:助成なし 第2層:給付額の14%助成 第3層:平均で50%、最大で80%助成
低所得者の割合が高い保険者に対し国の一般財源から助成 第1層:助成なし 第2層:給付額の14%助成 第3層:平均で50%、最大で80%助成 助成を増やすことで第3層の給付を改善 1961年:国民皆保険の達成は助成で実現 1973年:国保及び被扶養者の患者負担50%→ 30% 70歳以上の患者負担の無料化 1975年:高額療養費の導入による患者負担免除
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日本の医療におけるお金の流れ 使用者 被用者 自営業者等 保険料 税 政府 ◆大企業従事者、公務員等 ・組合管掌保険(1794組合)
保険料 税 政府 ◆大企業従事者、公務員等 ・組合管掌保険(1794組合) ・共催組合(82組合) ・船員保険 ◆中小企業従事者 ・政府管掌保険 ◆自営業者、年金生活者 ・国民健康保険(3253市町村) ・国民健康保険組合(3249組合) 平成11年3月
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高齢者割合の格差に対応するための調整 被用者は退職すると第3層の国保に加入
⇒ 全高齢者の4分の3が国保に加入 国保に対する所得補正のための国の助成では不充分 1983年に老人保健拠出金制度を創設し、全保険者が平等に負担するように改める 例:ある保険者において、70歳以上の加入者は2%で医療費支出は3億円⇒全国的にみると70歳以上が14%を占めるので、保険者は21億円を拠出しなければならない 高齢化につれて拠出金は増え、いまや保険料の40%に達する
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不況に対応するための調整 健康保険本人の患者負担増: 0%→10%(83)→20%(97)→30%(03) 高齢者の患者負担増
50%→0(73)→300円(83)→10%(02) (高所得者は20%) 政管健保の保険料率は2003年4月以降、総所得額の7.4%から8.2%へ 2002年には診療報酬-2.7%の改定
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保険制度の構造改革は可能か? 現行制度のもとでの保険者の合理的選択 年齢・所得によるリスク調整が必要
健保組合:加入者が比較的高齢で貧困であれば、解散し第2層の政管健保に移る→ 政府の助成金増加 国保:合併すれば一方の保険料が上がるので、市町村が合併しない限り合併しない 年齢・所得によるリスク調整が必要 合併するためには公平な土俵が必要
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都道府県を単位とする保険者の統合 ほとんどすべてのサービスは県単位で提供 保険料の負担と、医療サービスの給付が関連 地方の自治を認める
受診行動によって異なる患者負担を設定 実績と質の評価に応じた医療費の支払い 住民の参加による優先分野の設定
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2. 診療報酬が果たす要の役割 全保険者、全医療機関に適用 保険者から医療機関へのお金の流れを決める唯一のバルブとして機能
価格だけではなく、給付する際の条件も設定(量も規定) 例:通院精神療法は退院後4週間までは週2回請求できるが、それ以降は1回だけに制限 保険者から医療機関へのお金の流れを決める唯一のバルブとして機能 医療機関が規定されている内容や条件下で提供した場合に、その部分を保険外で別途請求することを禁止(混合診療禁止) 個々の医療行為や医薬材料の点数(価格)・請求条件を調整することで国としてお金の流れを細かく管理
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日本の医療におけるお金の流れ 使用者 被用者 自営業者等 保険料 一部負担 税 政 府 診 療 報 酬 体 系 全医療機関 共済組合
政 府 共済組合 組合健保 政管健保 国保 診 療 報 酬 体 系 全医療機関
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診療報酬の改定 第1段階:政治交渉によって総枠の改定率を決める 第2段階:診療報酬や薬価を、総枠の改定率の範囲内で個別に改定
日本医師会と財務省の間で、国会議員を仲介役として 医療機関や医師の経済状況を調査 第2段階:診療報酬や薬価を、総枠の改定率の範囲内で個別に改定 もし回数(量)が増えていれば点数を下げる 頭部MRI:2002年の改定前は16,600円、改定後は11,400円 政策目標である在宅医療を達成するために高めに設定 点数による誘導効果を評価するのは困難→回数の増減の要因複雑 薬価:市場価格を反映して下げる
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医療費抑制に成功 医療費は比較的抑制されてきた 診療報酬の改定率と医療費の関係 1980年代:費用増加率はGDP増加率と同率
強い相関関係:0.78 点数及び請求条件に対する規制は効果的 2002年:診療報酬点数表の-2.7%改定 → 医療費-0.7%に
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日本におけるGDP、国民医療費、診療報酬改定率の年次推移 (1980~2002年)
% National medical expenditures Gross domestic product Fee-schedule prices 国民医療費支出 GDP 診療報酬改定率 国民医療費支出に、2000年に介護保険に移管したサービスを含めて算定
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費用の増加要因を分解(1980~2002年) 国民医療費の増加を次の要因に分解 診療報酬の改定:毎年0.46%
消費者物価指数の1.46%より1%少ない 人口増加率:0.8%から0.1%へ低下 高齢化:1.0%から1.7%へ増加 ⇒ 人口増加と高齢化の累積効果は毎年1.8%で一定 「その他」:2.8%→受診率と技術革新 GDPの4.0%より低い (cf. 米国のメディケア増加率はGDPより1%高い)
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診療報酬の改革は可能か? 2003年、大学病院等にDPCによる包括評価を導入 変則的な包括化
1入院当りでなく、入院1日当り 病院によって各々異なる係数を乗じる 大学病院等でも存在する平均入院日数に2倍の格差の対応 1入院当りにすると、在院日数の最も長い病院の収入は半減 データの不足と患者情報の低い信頼性 ICDコーディングを使用している全病院はわずか18% ⇒DPCの急速な拡大は困難
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混合診療容認の是非 診療報酬によって給付できるサービスや医薬品材料、および提供する際の条件が定められている→医薬品として認めれていても規定外の使用は禁止等 もし提供した場合は、患者は給付外の部分だけではなく、全額を支払わなければならない しかし、混合診療を認めると、公的保険の枠外のサービスがしだいに拡大し、民間保険が不可欠に 民間保険加入者と非加入者の間の不公平 有効性に疑問のある治療が拡大 よりよい解決策は、新しい医薬品材料や使用条件を診療報酬により迅速に組み入れること
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将来は? 経済成長再び望めるか? 漸進的改定を続けることができるか? だが抜本的構造改革をすれば破綻の危険性
改革の圧力が減少? しかし年金の保険料率に上限が導入:社会保障費抑制の次なるターゲットは医療? 漸進的改定を続けることができるか? だが抜本的構造改革をすれば破綻の危険性 ⇒ 明確な目標を設定した5ヵ年の行動計画 年ごとの調整を認める 透明性のある改革が国民の支持につながる
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