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軽度外傷性脳損傷の問題点 ~ 弁護士の立場から ~
軽度外傷性脳損傷の問題点 ~ 弁護士の立場から ~ 弁護士法人穂高
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軽度外傷性脳損傷の臨床像 各種発作 欠伸発作 脱力発作 精神運動発作 焦点性発作 てんかんetc.
脳神経麻痺 味覚・嗅覚障害、視野狭窄、眼球運動異常、咀嚼障害、開口障害 難聴、耳鳴り、平衡感覚障害、嚥下障害 運動・知覚麻痺 片麻痺、単麻痺、四肢麻痺 小脳症状 小脳運動失調、筋緊張低下 自律神経障害 発汗異常、洞性頻脈 神経因性膀胱等 頻尿、残尿感、切迫排尿、尿失禁、便失禁 求心路遮断痛 永続する四肢の疼痛 高次脳機能障害 認知機能障害(注意・記憶・遂行機能等の障害) 人格情動障害(易怒性、感情易変、アパシー)
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現状~見捨てられる軽度外傷性脳損傷者 自賠責保険は、脳損傷の診断基準として国際基準に比べて異常に突出した高いハードルの診断基準を設定し、裁判所も自賠責保険の判断を追認する傾向が顕著(司法の独立はほとんど機能していない)。 日本の医療従事者の大半は2004年WHOの軽度外傷性脳損傷の診断基準を知らない。そのため、脳損傷であるのにそうではないとノイローゼ扱いして、診療の対象外に置いている。 その結果、軽度外傷性脳損傷による後遺障害に苦しんでいる被害者は、適正な賠償はおろか、被害回復が全くできず、途方に暮れ、泣き寝入りを強いられている。このような現状について、加害者、保険会社、医療従事者、行政、司法関係者、だれも責任を取ろうとしない
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脳外傷のガイドライン(国際基準の枠組み)
(1) 1993年 ACRM(アメリカ・リハビリテーション医学協会) (2) 2002年 EFNS(神経学学会ヨーロッパ連盟 (3) 2003年 CDC(アメリカ疾病対策センター) (4) 2004年 WHO(世界保険機関) (5) 2008年 CDC(アメリカ疾病対策センター) ※ 意識障害の要件について ・ACRMとCDC(2003年)は、事故後の意識障害の存在を絶対の要件としていない。 ・意識障害を要件とするのは、EFNSとWHO、CDC(2008年)であるが、いずれもGCS で満点の15点(すなわち意識の変容)でも足りるとしている。 ※ 共通の診断基準 意識障害や脳損傷の画像所見があることを脳外傷の要件としておらず、 ①事故態様が脳に加速・減速運動が働く程度に達するものであって、 ②事故直後に意識障害がなくとも、意識の変容又は外傷後健忘 があったときは脳外傷を認める点で共通している。
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自賠責保険の認定基準(1) ① 初診時に頭部外傷の診断があること ② 頭部外傷後に以下のレベルの意識障害があったこと a
半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態(JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上 b 軽度意識障害(JCSが1~2桁、GCSが13点~14点)が少なくとも1週間以上 ③ 経過の診断書または後遺障害診断書に、高次脳機能害、脳挫傷、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷の記載があること。 ④ 経過の診断書または後遺障害診断書に、高次脳機能障害を示唆する具体的な症例が記載されていること、またウェクスラー成人知能検査など各種神経心理学的検査が施行されていること。 ⑤ 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも、3カ月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認されること。
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自賠責保険の認定基準(2) 但し、 前記①~⑤のうち、いずれか一つのファクターでも該当する症例であれば脳外傷による高次脳機能障害が問題となる事案として審査会の専門部会で審査・認定する。 しかしながらこれは建前 意識障害や画像所見のない脳外傷による後遺障害を認めた例はない。 平成19年2月2日の自賠責保険検討委員会の報告書は、 「現在の画像診断技術で異常が発見できない場合には、外傷による脳損傷は存在しないと断定するものではない。」と指摘しつつも、「CT、MRI等の検査において外傷の存在を裏付ける異常所見がなくかつ、相当程度の意識障害の存在も確認できない事例について、脳外傷による高次脳機能障害の存在を確認する信頼性のある手法があると結論するには至らなかった。従って、当面、従前のような画像検査の所見や意識障害の状態に着目して外傷による高次脳機能障害の有無を判定する手法を継続すべきこととなる。」と明言。
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JCS(3-3-9度方式) Grade Ⅰ 刺激しないでも覚醒している 1
一見、意識清明のようであるが、今ひとつどこかぼんやりしていて、意識清明とは言えない。 2 見当識障害(時・場所・人)がある。 3 名前・生年月日が言えない・ Grade Ⅱ 刺激で覚醒する 10 普通の呼びかけて容易に開眼する。 20 大声または体をゆさぶることで開眼する。 30 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する。 Grade Ⅲ 刺激しても覚醒しない 100 痛み刺激を払いのけるような動作をする。 200 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる。 300 痛み刺激に反応しない。 意識レベルを3つのグレード・3つの段階に分類され、カルテには100-I、20-RIなどと記載。 (R)Restlessness(不穏状態) (I)Icotinence(失禁) (A)Akinetic mutism(無動性無言)、Apallic Statre(失外套症候群)
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GCS 反応 評点 開眼(E) Eye Opening 最良言語反応(V) Best Verbel Response
自発的に開眼する(spontaneous) 4 呼びかけにより開眼(to speech) 3 痛み刺激により開眼する(to pain) 2 全く開眼しない(nil) 1 最良言語反応(V) Best Verbel Response 見当識あり(orientated) 5 混乱した会話(confused conversation) 混乱した言葉(inappropriate words) 理解不明の音声(incomprehensible sounds) 全くなし(nil) 最良運動反応(M) Best Motor Respponse 命令に従う(obeys) 6 疼痛部へ(localises) 逃避する(withdraws) 異常屈曲(abnormal flexion) 伸展する(extends) 3つの項目のスコアの合計で評価する
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意識障害の要件について 近畿大学医学部脳神経外科・種子田護教授 意識障害のないびまん性軸索損傷はないと一般に言われているが、多くの症例を経験する とそうでもなさそうだということが脳外傷の臨床の現場で指摘されている。 日本大学医学部脳神経外科・講師・前田剛医師 GCS14点、15点のごく軽症で、なおかつ外傷後健忘が48時間以 上認められた症例では、100%社会復帰出来ているのは45例中わずかに27例に止まっていた。残りの18例(4割)の中には、脳外傷による高次脳機能障 害の後遺障害が含まれているのではないか意識障害の重症度と高次脳機能障害の相関はもちろんだが、軽症の場合にも存在する。そのため、見過ごされている 患者が存在すると考えられる。 東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座・橋本圭司医師 意識障害がなかった軽度脳外傷者の自賠責保険の認定は失調やバランスの問題による運動障害や様々な高次脳機能障害による社会認知、就労不能といった問題に対応しきれていない可能性がある。
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裁判所に軽度外傷性脳損傷による後遺障害を認定させるには? (1)自賠責保険及び労災保険の脳外傷による後遺障害の認定基準の 改正(軽度外傷性脳損傷による後遺障害を正面から認めること)。 (2)医療従事者や国民に軽度外傷性脳損傷の病態を周知させること。 自賠責保険が脳外傷による後遺障害を否定した場合でも、経過の診療録( カルテ)に 、事故後に脳外傷 を疑う神経症状が顕現し、それが治癒せずに 後遺していることが記載されていれば、裁判所が軽度外傷性脳損傷による 後遺障害を肯定する余地は出てくる。 しかしながら、そのような診療録は皆無に近い。 理由 そもそも日本の医師は軽度外傷性脳損傷の病態を知らない。脳CTやMR Iで異常がなければ、ベッドサイドでの脳神経学的検査をすることなしに、脳 外傷ではないと断定し、診療の対象外とする。 →カルテに事故後の脳外傷を疑う症状や検査所見が記載されていないと、 軽度外傷性脳損傷に理解のある裁判官でも、事故との因果関係を認める ことが出来なくなる。
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軽度外傷性脳損傷の症状がカルテに記載されていない理由(1)
軽度外傷性脳損傷の症状がカルテに記載されていない理由(1) 医師側 ①軽度外傷性脳損傷の国際基準ないしガイドラインを知らない。 ②CTやMRIで検出しずらいことを知らない。 ③遅発性の障害であることを知らない(軽度外傷性脳損傷は、外傷直 後の症状が最も重く、それ以降は暫時軽減していく、との外傷の一般 論が当てはまらない)。 ※ ダグラス・J・メイソン「軽度外傷性脳損傷の症状は、受傷後すぐに顕現 するわけではなく数日ないし数カ月前後で表面化する。 ※ 2007年・WHO「頭部外傷の表面的な兆候が何も認められなくともTBI(外 傷性脳損傷)である場合があり得る」 ※ クイーンーズランド脳損傷協会「頭をけがしたあと、さまざまな検査(画像 検査や神経学的検査など)を受けても、明らかにならないことがよくある」 → 受傷後、数カ月経て、味覚・嗅覚障害を訴えたり、失禁、物忘れを 訴えても、外傷とは無関係、心因性と判断し患者を相手にしない。
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医師の無理解について 東京女子医科大学脳神経外科教授・川俣貴一医師 日本のMRIの普及率は世界一であることから画像偏重になっていることは否めない。画像で異常がないと気のせいだと言う医師が結構いる。 鞭打ち症と診断された中に軽度外傷性脳損傷が多く含まれている可能性がある。 軽度外傷性脳損傷の診療について、日本は遅れている。 防衛医科大学・名誉教授・島克司医師 私たち脳外科医の多くは,急性期の診療終了後の軽症患者に積極的にかかわることは避けてきた経緯がある。 福井大学医学部・小林康孝教授他4名 今日においても、MTBI(軽度外傷性脳損傷)は国内ではまだ十分に認知されておらず、その報告も稀。 石橋徹医師 本邦の医師は、専門科目を問わず、こぞって軽度外傷性脳損傷の患者をノイローゼ扱いしている。
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軽度外傷性脳損傷の症状がカルテに記載されていない理由(2)
軽度外傷性脳損傷の症状がカルテに記載されていない理由(2) 患者側 ①受傷時、頭を打っていないから脳に損傷はないと自己判断している。 ②頭を打っていても、画像で異常が見つからなかったことから、医師の説 明とあいまって、事故とは無関係、脳に損傷はない、そのうち治ると思い 込んでいる。 ※ 2008年・CDC 「多くの軽度TBIを受傷した患者は、医療機関を訪れない」 → 事故後、数カ月を経て、発汗異常や知覚鈍麻、視野障害の症状が 顕現しても、事故とは無関係、脳の損傷とは無関係、と決めうちして かかっている。事故との関係のある症状は頭痛、項部痛、めまい、嘔 吐、上下肢のシビレの症状のみと思い込み、医師に愁訴しない。
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労災の認定の概要 厚生労働省は、 2003年・WHOが作成したMTBIの操作的定義は
TBIに起因する高次脳機能障害の取扱いを共通化するためには有用であるとし、平成25年6月から、 高次脳機能障害者画像検査所見陰性例のうち軽度外傷性脳損傷(MTBI)と考えられる症例については全て、本省(障害認定審査会)において判断するとの運用をしている。 しかしながら、その後、本省で判断された案件のうち、脳外傷が肯定された例は一例もない。すべて否定されている。 その根本的理由は、カルテに事故後に脳外傷を疑う症状が顕現していたことを示唆する記載が全くされていない点にある。 これでは事故と脳外傷との因果関係を肯定することは困難である。 このように、カルテに事故後に脳外傷を疑う症状が記載されていることは、外傷との因果関係を証明するうえで極めて重要。
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最後に 被害者保障の最後の砦である司法が行政の認定に追随し、MTBI患者の救済機関として機能していない以上、行政が認定基準を改正するしかない。 行政が認定基準を新設し改正した、ただそれだけの理由で司法はこれまでの 判断を改め、救済に乗り出すという、ていたらく。 そのような司法の行政追随の例は、CRPS(当初は心因性とされほとんど 賠償の対象とされなかった)新基準の定立後の司法の認定の変化からも明らか(節操がない)。 MTBIによる後遺障害患者が適切な保障を受けるには、基準改正プロジェクトについて行政から委託された専門家によるメンバースタッフの人選に対しても注意深くチェックすることが必要。スタッフの専任を行政に任せていたのでは、適切な保障は実現不能である。 以上の実情を踏まえ、MTBIによる後遺障害患者が適切な保障が受けられる よう、ご尽力いただきたくご要望いたします。
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ご静聴ありがとうございました。 弁護士法人穂高
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