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8 実証実験の報告 8.2 豊橋市実証実験の報告 1.はじめに 工学院大学 (1)実証実験の背景と目的

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1 8 実証実験の報告 8.2 豊橋市実証実験の報告 1.はじめに 工学院大学 (1)実証実験の背景と目的
危機管理対応情報共有技術による減災対策 8 実証実験の報告 8.2 豊橋市実証実験の報告 工学院大学 1.はじめに (1)実証実験の背景と目的  豊橋市は様々な地震被害想定を実施しており,例えば東海・東南海連動地震連動地震が発生した場合は死者が150~360名,負傷者3500~7500名,全壊家屋12000棟,半壊家屋が23000棟,出火件数は50~150件等と甚大な被害が発生すると推定されている.さらに豊橋市では例年9月1日に地震災害を対象とした職員災害対策活動訓練を実施しているが,職員のみによる情報の収集量の限界や、災害対策本部への情報の一極集中、情報の集約・伝達・確認、および自治体と住民との情報共有などに関して、既存の方法に対して様々な問題点が指摘されている.本実証実験では自治体と地域住民とが協働し、減災情報共有データベースを利活用することによって、これら諸問題を解決を目的とする. (2)参加機関と実証実験の概要  実証実験は2006年11月12日(日)に豊橋市にて市職員と地域住民、および表8.2-1に示す機関が参加して行われた。本実験に先立ち、2005年8月7日に地域住民参加によるWebGISを用いた地域点検マップの作成訓練(飽海町,東田町西脇二区),2006年7月17日に地域住民参加によるWebGISを用いた地域点検 マップの作成,延焼・避難・交通シミュレーション技術の連携による地域課題の検討(山田町,山田石塚町),さらに2005年11月20日には地域住民(飽海町,東田町西脇二区,山田町,山田石塚町)による被害情報の収集および豊橋市との情報共有に関する予備実験を実施した.  2006年の実証実験では,図8.2-1に示すように豊橋市と地域住民との協働による地震被害情報・避難者に関する情報収集・伝達,市災害対策本部における情報の統合と判断を円滑に行うための各種シミュレーションツールと表示システム,避難所における住民への表示システム,通信の輻輳時でも確実に情報を伝達が行える通信手段である長距離無線LAN等の利活用技術を統合し,地震災害対応活動を支援するツールとしての実用性を検証を行う. 図8.2-1 2006年豊橋市実証実験の概念図 表8.2-1 実証実験参画研究機関と実施内容と使用した検証ツール 研究機関名 実施内容,検証ツール 工学院大学 実証実験企画・運営 実証実験シナリオ構築 情報収集システムの稼動 Web GISによる被害情報入力・表示システムの稼動 実証実験の検証 消防庁 長距離無線LANの構築 IP電話・Webカメラによる情報伝達環境の構築 被害情報入力・表示システムの稼動 統合型情報提示システム(災害対応支援)の稼動 防災科学技術研究所 実証実験用スキーマ構築 東京大学関澤研究室 ・火災延焼シミュレーション 安全安心マイプラン ・避難シミュレーション 産業技術総合研究所 減災情報共有プラットフォームデータベース 交通シミュレーション 豊橋技術科学大学 実証実験運営 防災ワークショップ

2 2.実証実験の実施 長距離無線LAN網 中継地 (1)実施内容と検証項目
 図8.2-1に実証実験の実施場所と主要な実施内容を示す。 2006年11月12日(日)9時に東海・東南海連動型地震が発生したという想定のもと,八町校区(飽海町,東田町西脇二区)と栄校区(山田町,山田石塚町)の住民が被害情報収集訓練と初期消火・要援護者避難などの訓練を行う。同時に市職員は避難場所である八町校区市民館と栄小学校対区間で校区活動拠点を開設し、住民作成の被災マップと、I被害情報収集端末を利用した被害情報とを集約し、長距離無線LAN網を用いて災害対策本部(栄小学校体育館)に電送する。災害対策本部では減災情報共有データベースにより情報を集約し、同時に延焼・避難・交通の各シミュレーションを実施し、諸結果を用いて避難所の住民に指示を出す。実験の主な検証項目は、「市行政機関と地域住民との協働による情報収集・伝達」、「災害対策本部支援」、および「地域住民への情報提示」であり、開発したツールの有効性と課題を確認した。 図5.1-3 あいうえおかきくけこ 中継地 長距離無線LAN網 図8.2-2 2006年豊橋市実証実験の実施場所および主な実施内容

3 (2)各種開発ツールと実施内容  (a) 被害情報収集システム、被害情報入力・表示システム(工学院大学)  図8.2-3に示すように町中に被害情報看板を設置し、 ①地域住民と自治体との協働による被害情報収集システム、および②ICTを活用した現地情報収集システムと中遠距離被害情報収集システム(双眼鏡・レーザー計測装置を活用)を用いた情報収集実験を行った。①では自治会単位で被害内容と位置に関する被災マップを作成して頂き、30分程度で精度の高い被害情報収集が可能なことを確認した。②では紙地図使用など従来法に比べ、速やかな情報収集・共有が可能となることを確認した。一方、図8.2-4に示すように校区避難所ではWeb GISを用いた被害情報入力表示システムを用い、減災情報共有データベースと連動して被害状況や避難所の情報入力・共有・表示を行い、有効性を確認した。  (a) 長距離無線LAN網、防災拠点用情報システム、災害対策本部対応支援システム(消防庁)  図8.2-5に示すように実証実験では避難所を防災拠点とし、PC情報端末(被害情報入力表示端末),Webカメラ,IP電話、Faxから構成される情報システムを活用した。同時に移動式の長距離無線LANを用い、防災拠点と災害対策本部と減災情報共有データベースを介した連絡網を構築した。一方、図8.2-6に示すように本部では統合型の災害対策本部対応支援システムを用い、各避難所の開設状況の確認,簡易型地震被害想定システムによる,豊橋市周辺も含めた全体被害のイメージの把握,応急対応項目と具体的行動方針を提示する行動マニュアルシステムおよび応急対応需要量システムによる対応指針の検討,IP電話による本部と避難所との状況報告・確認などが行われ、有効性を確認した。 図8.2-3 住民参加による被害情報収集(左)、現地(中)・中遠距離(右)被害情報収集システム 図8.2-4 被害情報入力・表示システム 図8.2-5 長距離無線LAN(左)と防災拠点情報システム(右) 図8.2-6 災害対策本部の実験状況(左)と統合型情報提示システムによる被害結果の表示(右)

4  (d) 延焼シミュレーションシステム(東京大学関澤研)、避難シミュレーションシステム(安全・安心マイプラン)、 交通シミュレーションシステム(産業技術総合研究所)
 本部に設置した減災情報共有データベースを介して得られる出火情報(位置と出火時刻など)に基づき延焼シミュレーションをリアルタイムに行い,延焼結果や道路危険度判定情報などをデータベースに送り、情報共有を行った。この結果を用い、災害要援護者の避難施設への搬送支援,および避難所から広域避難場所までの住民の避難誘導支援を目的とした避難シミュレーションを行い、図8.2-7に示すように本部及び避難所の住民との情報共有を行った。一方、集約した道路被害を用い、渋滞予測情報などを災害対策本部や緊急車両ドライバに提供することを目的とした交通シミュレーションを実施した。図8.2-7にシステムの動作画面を示すが,渋滞が起こり,通過速度が遅くなっている道路ほど赤に近い色で表示される. 図8.2-7 延焼・避難シミュレーション(左)と交通シミュレーション(右)の結果表示 3.実験の検証とまとめ  実験の後,協力頂いた豊橋市防災対策課職員にアンケートとヒアリングによる検証を行った.  (a)「市行政機関と地域住民との協働による情報収集・伝達」では,①地域住民との協働による情報収集・伝達,②被害情報の把握・入力,③避難者情報の把握・入力,④配備状況・避難所開設・避難所状況の報告,⑤情報伝達について検証を行い,地域住民との協働による被害情報および避難者情報の収集・伝達の仕組み,被害情報・避難者情報等の収集伝達における各種情報端末・長距離無線LANシステム利用が有効であることが確認された.一方,WebGIS情報端末の情報入力機能の強化といった幾つかの課題も明らかになった.  (b) 「災害対策本部支援」では,①災害イメージと応急対応内容の把握,②災害専用電話班による受付情報の処理,関係班への伝達,措置経過報告の把握,③避難所及びその周辺の状況確認,指示等の伝達,④避難所からの被害情報等の集約,整理,⑤避難指示等の意思決定,⑥災害対策本部用,報道用資料の作成について検証を行い,災害対策本部対応支援システムおよびシミュレーション技術の適用により,発災直後の災害イメージの早期把握,応急対応行動指針の大局的検討,市全域や避難所周辺の被災状況等の迅速な把握,住民の安全確保のための意思決定の支援等,災害対策本部の効果的支援が行えることが確認された.しかし,平常時から災害時にかけてのシステム・機器類の連続利用,多数の避難所数に対応できる避難所開設通知システムへの改良,シミュレーション結果の精度の改良等が今後の課題となった.  (c)「地域住民への情報提示」では,①避難所周辺や市全域の被害状況・避難状況の把握,地域住民への状況説明,②火災の延焼予測,③広域避難,要援護者の搬送,④道路の交通渋滞予測,⑤災害対策本部からの情報の入手,確認について検証を行い,情報端末による,市全域や避難所周辺の被災状況,避難所周辺の延焼予測結果,避難経路等の提示方法の妥当性が確認されたが,情報端末の操作性や表示速度の改良等が今後の課題となった.  以上のように,本実証実験を通して,減災情報共有データベース利活用技術の実用化に向けた様々な課題が確認されたものの,実際の災害対応業務にあたる現場職員から,自治体の地震災害対応における減災情報共有データベースの有用性については好意的な評価を得ることができた.今後は,本実証実験で明らかになった課題の解決に向け,減災情報共有データベースの利活用技術のさらなるブラッシュアップを図っていく予定である.


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