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13章:中層大気中の大気潮汐 大気潮汐のはなしを最後にしておこう。 大気中での加熱(基本的には、太陽による1日加熱)によって、大気がどのように応答するかの問題ということになる、さらにそれの非線形的な振る舞いを議論する。 13−1:対流圏中の潮汐をすこし 対流圏における潮汐の様子を眺めてみよう。ECWWF dataの解析から得られたものである。Hsu and Hoskins, 1989, Q. J. R. Met. Soc., 115, 夏 矢の長さが1日潮汐の地表圧力振動の大きさを、矢の向きが最大振幅のlocalな時間を示し、北向きが00時、東向きは06時、南向きが12時を示す。赤道の振幅は大きく、矢の向きは東向きで、圧力最大はほぼ6時になっている。夏半球側が振幅は大きい。西に進み、1日で一周する成分がみえる。地(海)表面の影響により、1日潮汐は局所性が高い。 冬
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対流圏1日潮汐変動の鉛直ー経度(緯度)の構造
赤道での高度場の様子、経度高度断面図 高度場振幅と位相の緯度高度断面図 等値線は2m間隔 H L -90° 90° 経度 DJF 86/87年、00GMTと06GMTの状況で、等値線は5m、shadeは負の偏差、 位相の等値線は30°ごと
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13−2:古典的潮汐理論 太陽放射の大気加熱による潮汐の問題を、最も簡単にしたものが古典的な潮汐理論であろうから、線形の方程式はこれまでたびたび引用してきたものと同じ 太陽放射加熱Jとして、時間と東西方向は のような形を仮定しよう。 太陽と同期する(migrating)1日潮汐はs=1, σ=1/2、半日潮汐はs=2, σ=1に対応 1章や5章と同じように、変数分離の方法を用いて、水平方向の式と鉛直方向の式に分離し(東西波数s、振動数は与える)、南北方向の方程式(Laplace’s tidal equation)として、 が得られる。 潮汐の東西波数、振動数は与えるとして、そのもとで、固有値 hn と対応した固有関数を求めることになる。赤道β面で、南北モードnが与えられていたように、個々の固有関数(Hough functions)の区別は指標nで構造の違いが与えられる。
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5章の図で、s=1が与えられていて、例えば1日周期の西に伝播する潮汐を決めたい時、1日に交差するものが個々のモードと解釈される。
太陽の動きと同期していない東向きの波もある 西向きの波 東向きの波 1日 1日 ⊗はmigrating1日潮汐の第1モードを示す h < 0 1日
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1日大気潮汐の第1モードは、 に対応した構造をもち、上の図から想像されるように、赤道域に集中した構造をしている。
1日潮汐モードの南北構造と固有値 図は、西に伝播する1日潮汐モードの圧力偏差の赤道対称南北構造、等価深さの大きさにより、南北の広がりが異なっている。具体的な計算は、Lindzen, 1966, MWRを参照 第1モード 鉛直波長として、おおよそ28km 負の等価深さ 1日大気潮汐の第1モードは、 に対応した構造をもち、上の図から想像されるように、赤道域に集中した構造をしている。
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モードの違いに相応して、鉛直方向の構造は下記の式で与えられる。
鉛直方向の構造を決める式: モードの違いに相応して、鉛直方向の構造は下記の式で与えられる。 連続の式 熱力学の式 ー> ここでJnは大気加熱のnモード成分を表す、オゾンや水蒸気による大気加熱を評価することになる。 整理すると、鉛直方向の構造方程式 加熱がない場合、N2 一定の時はこれまでたびたび議論したように鉛直に伝播する か、それともexponential 的かの方程式になっている。ちなみに、1日潮汐の第1モードの鉛直波長は約28kmに対応する。 平らな下部の境界条件は 内部加熱 J が与えられて、南北にはHough modeに展開、鉛直構造は上式により解かれる、Lindzen, 1967, QJRMS参照 最終的にはこれらの重ね合わせであり、各モードの鉛直伝搬性が異なり、構造は複雑である。
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古典論の1つの解: 仮定される加熱Jの鉛直および緯度分布
オゾン 赤道 オゾン 水蒸気 仮定される加熱Jの鉛直および緯度分布 45 赤道 計算結果(点線)と観測(実線)の1日潮汐、8°Sでの北風の振幅(左)、位相(右), Reed et al., MWR, 1967 春秋分における1日潮汐の温度振幅(位相)の緯度依存性、Lindzen, 1967, QJRMSから
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13−3:Migrating diurnal Tideの観測結果
衛星データからの中層大気中の1日大気潮汐について 4Nでの温度鉛直分布、52Wのlocal noonを基準にしてある。破線は衛星データのs=1 成分のみ、実線はnon-migrating成分も含めたもの、xはForbes2Dモデル(1982)の結果、○はロケット観測から評価、 Lieberman, JAS,1991 S=1西向き1日潮汐波の温度の緯度高度図、1979, 3/4 から5/4の期間、1hPaの高度で2K程度である、1991 Lieberman, JAS
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下部熱圏高度のmigratingな1日潮汐
衛星データの解析から導出された、1日潮汐南北風の緯度高度断面図、Hays et al., 1994, JASから T 平均東西風や散逸過程の入った、線形モデルによるmigrating1日潮汐の高度分布、Forbes, 1982, JGR より精緻化された(tidal forcingなど)モデルによる4月の1日潮汐の南北風振幅分布、Hagen et al., 1995, GRL 下図はForbes and Gilletteモデルの計算結果から
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補足:赤道対称モードの一番簡単な西に伝播する重力波モードの高度、東西風、南北風南北構造
極からの座標 ε=100 1日の大気潮汐の第1モードは、 に対応した構造
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金星大気中に存在するであろう、1日(117地球日)潮汐温度シグナルの観測結果
Schofield and Taylor, 1983, QJRMS 金星大気中に存在するであろう、1日(117地球日)潮汐温度シグナルの観測結果 温度の経度高度分布:波数s=1とs=2成分が混在している構造となっている、軸が鉛直方向に傾いている70-90kmの高度で鉛直方向に伝播している。 高度 z(km) 赤道から30Nまでの平均 sub-solar morning anti-solar evening 東西方向(x) 潮汐波動が金星大気の平均東西風生成に重要な役割を果たしているという話は後にのべる 11
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火星大気の1日潮汐 Wilson and Hamilton, JAS, 1996 火星大気の大循環モデルで潮汐を表現をしてみる 太陽同期のs=1, 1日潮汐の温度振幅(線)と位相(色)、Banfield et al., 2000, JGR 0.1hPa 6.1hPa 北半球冬の、s=1 西に進む1日潮汐の温度振幅 東西平均温度場 モデルの東西平均温度場
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13−4:大気潮汐波による平均東西風生成について
大気潮汐波も、これまでの議論から推測されるように、平均東西風を生成することが可能である。 大気加熱によって、潮汐波が生成されている状況を示している。図では、東方向の波が生成される。これまでの議論から、東に伝播する波は西風運動量をになって鉛直方向に伝播し、波動が消散されるところで、西風運動量を生成する。今、加熱のみとして、力は加われていないので、波の消散されるところで、西風運動量を生成すると、加熱されるところで、逆向きの東風運動量を生成することで、正味の運動量=0となる。Fels and Lindzen, Geophys. Fluid Dynamics, 1974 波による加速 平均東西風 加熱領域 ここでは、波が鉛直に伝播しながら散逸している領域での、波の伝播方向の東西風生成の話し(1:下部熱圏における赤道域の東風)と、波が生成されている領域での伝播とは反対方向の東西風生成の話し(2:金星大気における成層圏での高速東西風)をしておこう。 東 大気加熱の動きは、上図に対応して東向きとする
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1:地球大気下部熱圏における大気潮汐波による平均東西風生成
大気中の1日潮汐波の非線形効果を計算した結果。赤道域は東風になっている。観測の東風と対応しているよう。一方中緯度では西風が生成されている。 平均東西風の緯度ー高度断面図において、下部熱圏に注意してほしい。赤道域で東風が吹いている。 Miyahara, 1978, J. M. S. J.
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Miyahara、JMSJ, 1978 によって解かれた問題
潮汐を表す線形の方程式として 潮汐南北風の振幅と位相の高度分布、緯度35度の場所 の高度 z=0で1日潮汐の第1モードのみを強制している(z=0は現実大気では94kmに対応していて、下部熱圏の潮汐が散逸する場所で解かれている) 上付きは1日潮を、下付きは第1モードを意味する 南北風の振幅の緯度構造
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潮汐の散逸によって生成される平均流の式が時間積分される
潮汐( ’印)による平均流へのforcingは以下のよう 潮汐は南北方向に構造をもっており、それに対応して、Fuは赤道域における東風加速、および中緯度での西風加速 計算結果としての平均風
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2:金星大気の東西平均温度および東西風 ー>
左図は東西に金星一周平均した温度分布。右図の東西風の評価には旋衡風(cyclostrophic wind)バランス+静力学平衡を用いている。赤道域で、約70kmの高度に100m/sを超える東西風が吹いている。また、中緯度付近には140m/sの高速風が見える。これは41.5kmの高度で観測の風を仮定して、求めてある。 (Newman et al., 1984, JAS)。 ー> 温度 東西風 17
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金星大気の成層圏における高速の平均東西流に、潮汐波の生成に伴う運動量輸送が重要な役割を果たしているよう。
CCSR/NIES/FRCGC AGCMで得られた高速風の実験結果である(Ikeda et al.,2006)。金星大気の成層圏では高速の風が再現されている。 温度観測から推測された平均東西風 観測されている東西風 赤道 45ºN 東西風 0 この結果では下層大気では東西風は再現されていない ー>重力波による加速が示唆されている
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13−5:non-migrating(太陽の動きと同期しない)潮汐のいくつか
s=1の東向き1日潮汐波の緯度高度図、1979, 3/4 から5/4の期間、 Lieberman, 1991, JAS、non-migratingの eastward(太陽の動きとは逆向き)波 東向きs= -1のHough modeによる解析、南北指数 3, 4がもっとも卓越していたようである
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非同期の1日振動:SABER観測(高波数の例)
Garcia et al., 2005, JAS fがー、東向き 〜120km 〜87km 緯度 〜70km 時間 波数2の1日振動の時間変動 1日振動の東方向に伝播する、波数2(左)と波数3(右)の振幅と位相の緯度高度図、2002, Jun Jul.をもとに解析、s=3は大きな温度振幅をもつ
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1日振動の東方向に伝播する、波数5(左)と波数6(右)の温度振幅と位相の緯度高度図、2002, Jun. 15-14 Jul.をもとに解析
補足:非同期の1日振動、波数5と6 Garcia et al., 2005, JAS 〜120km 0.01mb 1日振動の東方向に伝播する、波数5(左)と波数6(右)の温度振幅と位相の緯度高度図、2002, Jun Jul.をもとに解析
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対流活動で励起されるnon-migrating潮汐
Hagen and Forbes, JGR 2002 平均東西風を与えた緯度高度の2次元線形モデルで、基本場は時間変化しないとして、東西波数、振動数を固定して解いてある。熱強制として観測された対流圏におけるlatent heat releaseをあたえる。衛星データから降水を評価し、 のように成分に分ける 計算の為に与えられるHeatingの鉛直構造 13 wave numbersでcompositeしたもの、s=6 のW6 から E6までの範囲
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線形計算結果 Hagan and Forbes, 2002, JGR
対流活動によるforcingの成分と基本場の中の波の鉛直伝播性、および散逸に依存して、上層での波の構造が決まるであろう 4月の1日振動の対流活動に対するモデルの温度応答(上図)をしめす。W1が西に進むs=1のmigrating潮汐の応答であり、E3はs=3の東向き潮汐の応答を示す。下図は南北風応答を示す。E2(E3)温度は観測と同程度(より大きい)の振幅のよう
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補足:中層大気における s=0 non-migrating1日潮汐の解析例
1日潮汐のs=0成分緯度高度図、1979, 10/25 から12/25の期間、 Lieberman, 1999, JAS
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熱圏高度での潮汐の線形計算(続) E3モードの115km高度での、温度振幅の季節変化->線形モデルの為か、振幅が大きいよう
115km高度の4月における1日振動の南北風と温度の水平構造、波数3の温度構造が見えている。黒が12UTでgrayが06UT時 116km高度での衛星観測結果、Akmaev et al., 2008 GRL から
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観測結果の文として、(Banfield et al., 2000, JGR)
13−6:潮汐波のcoupling Ls=270北半球冬の東向きの1日潮汐の温度振幅(モデルの結果)ー>東に伝播していて、Kelvin波が第1モード、似ている所もある Wilson and Hamilton, 1996, JAS 1:火星大気の1日東向き潮汐波 観測結果の文として、(Banfield et al., 2000, JGR) clearな空間構造が見えにくいので図には示さないが、東向き1日潮汐の振幅が2K程度はある 西向き 東向き 西向き波数1の1日潮汐と波数2の山岳で、東向き波数1の1日潮汐がつくられるschematic図、Forbes et al., JGR, 2002から、詳細な説明はZurek, JAS, 1976を参照
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補足:東に伝播する s=1重力波モードの南北構造
U V 極 Kelvin波 赤道 Longuet-Higgins, 1968, Phil. Trans. Roy. Soc., A262, 1日東進潮汐波の東西風と南北風の振幅緯度高度図、Wilson and Hamilton, 1996, JAS
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Palo et al., GRL 2007 2:東に伝わる準2日波
s=2で東向き2日波:7章で議論したs=3の西向き2日波(Rossby-gravity波)とは異なる波の生成について 温度 西向き Jan22-29 西向きs=3の波(Rossby-gravity波)とs=1の西向き1日潮汐波のcouplingで、s=2で東向きの2日波が生成と考えられているよう ー>解析的に詳しくみている 上は80kmでの、s=3, 2日波とs=2, 2日波の時間緯度断面図、下は40Sでの時間高度断面図 波の対応を緯度分布として見ていて、相互作用をしているかの確認の1つになるのだろう
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