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回転系における潮流海底境界層の 乱流に関する数値的研究
日本地球惑星科学連合 大会 回転系における潮流海底境界層の 乱流に関する数値的研究 ○坂本圭、秋友和典 (京都大学大学院・理学研究科 地球惑星科学専攻)
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1 はじめに(1) 世界海洋の底層の多くを占める「南極底層水」 (Schmitz 1995)
南極陸棚上の重い海水が、沈降していく際に 周囲の海水との混合を通して変質し形成される (Fahrbach et al. 2001) 海面冷却 混合 混合 南極陸棚 南極底層水 陸棚斜面 外洋
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1 はじめに(2) この混合過程において、潮流によって形成される海底境界層(潮流海底境界層)のシアー不安定が重要 (Foster et al. 1987) 南極陸棚上でのM2潮 (半日周潮) 他の海域の潮流海底境界層はせいぜい厚さ数十mなのに対し、 コリオリ・パラメータfがM2潮の振動数σに一致する臨界緯度(74.5度)が近いため、数百mの厚い境界層が形成される (Furevik and Foldvik 1996) →不安定による混合は海底からはるか上方にまで及ぶ 海面 ◇:観測 さらに、潮流構造の解析から、乱流粘性係数は300~1000cm2/sと見積もり (Nost 1994) 海底 (水深580m) (Pereira et al. 2002)
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1 はじめに(3) 境界層に関する先行研究 潮流の振動と地球の回転の効果が同程度となる臨界緯度付近の場合も含めて、両者が存在する下での、境界層の不安定力学については既に調べられている ○Aelbrecht et al. (1999): 水槽実験 ○Sakamoto and Akitomo (2006):数値実験 振動と回転の効果の比を示す「時間ロスビー数」Rot = σ/fに応じて、 非回転系での振動流による境界層(ストークス層)の不安定や 回転系での定常流による境界層(エクマン層)の不安定が現れる 一方、不安定の発達に伴って引き起こされる乱流の特性とその混合効果については明らかでない そこで本研究では、まず密度一様の下での、回転系における潮流海底境界層の乱流に関する数値実験を行う
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1 はじめに(4) 本研究の内容 これまでの研究から、乱流エクマン層では、次のouter scaleでスケーリングを行うことで乱流が相似性を持つ (Coleman 1999) 時間:1/|f| 速さ:摩擦速度u* =(海底応力/密度)1/2 長さ:u*/|f| これを参考に 時間:T=1/|f+σ| (回転と振動を考慮) 速さ:摩擦速度u* 長さ:δ=u*/|f+σ| という新たなouter scaleを導入すると、潮流海底境界層における乱流の特性と混合効果が相似性を持つという結果が得られた 本報告: 2節:数値モデル 3節:乱流特性の相似性 4節:混合効果 5節:まとめと課題
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2 数値モデル:領域、支配方程式系 モデル領域 Lx×Ly×Hの矩形海領域 支配方程式系
回転系、密度一様、非圧縮、非静水圧、リジッド・リッド条件 変数を基本潮流場( 、後述)と擾乱場( )に分ける ナヴィエ・ストークス方程式 Vtide,vを発声 渦粘性係数 ν =1cm2/s (等方) 、標準密度 ρ0 =1.027g/cm3 南半球を想定し f < 0 変数のチルダは有次元量であることを示す
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2 境界条件、初期条件、差分 境界条件 海面:リジッド・リッド、非粘着 海底:粘着条件 水平:周期条件
初期場:微小擾乱 積分期間:12潮流周期 (いくつかのケースでは低分解能モデルで長期積分した後、本実験) 実験領域とグリッド間隔: 基本潮流場 の鉛直スケールHtide=(2ν/ |f+σ|)1/2で無次元化した値で Lx=Ly=64, H=256 ⊿x=⊿y=0.125 ⊿z= (160グリッド) Htideと潮流振幅を用いて方程式を無次元化し実験を行うが、実験結果にはouter scale (T=1/|f+σ|,u*,δ=u*/|f+σ|)でスケーリングした無次元量(チルダなし)を示す。 e.g. 線形のグリッドは言わない
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ケースEk,Stを除いて、ケースA~Fの全てで、コリオリ力(f<0)により反時計回り
2 実験ケース、基本潮流場 時間ロスビー数Rotに対する乱流の依存性に注目 潮流振幅は全て一定(8.53cm/s) M2潮に対する緯度 67° 53° ° Ek A B C D E F St エクマン層 ストークス層 乱流特性の解明に主眼を置くため、現実より低いレイノルズ数 潮流ベクトル (utide, vtide) ケースEk A D St 実験ケースと与える基本潮流場は春季大会と同じ 潮流振幅は一定とし、時間ロスビー数に… 潮流構造に大きな違いはない x方向に、潮汐に伴う圧力勾配が働くとした場合の解析解を与える y方向 x方向 ケースEk,Stを除いて、ケースA~Fの全てで、コリオリ力(f<0)により反時計回り
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3 結果 渦運動エネルギーEKEの時間発展 統計的に定常 解析に用いる ケース: Ek, A, B, C D, E, F, St(破線)
(領域平均) 統計的に定常 解析に用いる ケース: Ek, A, B, C D, E, F, St(破線) 以降、実験を継続すると流れは乱流状態へと遷移した。 見て分かるように実験開始から2潮流周期が経過すると、EKEは一定値に落ち着く。それ以降を、 次に10潮流周期後の乱流場を各ケースについて示す。 Time (tidal cycle)
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3 乱流場, outer scale Case A D 実験終了時 wの鉛直断面分布 Outer scale
Ek A B C D E F St 摩擦速度 時間スケール 長さスケール 摩擦速度u*は大きく変化しない(潮流振幅の3.5~5.4%) 長さスケールδは、fとσの絶対値が近づくRot~1で大きい(~450m)
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3 有次元における乱流特性 (m) ケース:Ek, A, B, C, D, E, F, St(破線) 平均流 (水平・時間平均)
全応力(cm2/s2) (レイノルズ応力+モデル粘性) (m) 直交方向 潮流方向 潮流方向 直交方向 Outer scaleを用いることで、乱流特性には良い相似性が現れた (Rot>1では直交方向の符号を反転させて表示) 有次元では、各ケースの鉛直分布は大きく異なる
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3 乱流特性の相似性 (outer scale)
ケース:Ek, A, B, C, D, E, F, St(破線) 平均流 全応力 z 直交方向 潮流方向 潮流方向 直交方向 Outer scaleを用いることで、乱流特性には良い相似性が現れた (Rot>1では直交方向の符号を反転させて表示) 平均流、応力: ストークス層(St、破線)を除いて、 outer scaleで無次元化すれば鉛直分布はエクマン層の結果にほぼ重なる →潮流海底境界層の乱流特性は、エクマン層と同じ“相似性”を持つ
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3 相似性の理由 Q.なぜ、エクマン層と同じ相似性が、新たなouter scale(fのかわりにf+σ)の導入によって現れる?
一般に、潮流ベクトル(utide, vtide)は2つの回転成分に分解できる (Makinson et al. 2006) 南半球(f<0)では潮流ベクトルは反時計回り → 反時計回り成分が卓越 よって潮流は、一定の流速を保ち、反時計回りに向きを時々刻々変える流れと近似できる。 この流れに従って回転する新たな座標系を考えると 潮流は定常流とみなせ、その座標系のコリオリ・パラメータはf+σとなる。 よって、南半球における潮流海底境界層の乱流は、f+σで回転する座標系において定常流が形成する境界層、つまりエクマン層と相似となる。 反時計回り + 時計回り ※北半球では、時計回り成分が卓越するため、fのかわりにf-σが適切である。
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St(破線)以外のケースで κapもほぼ相似形
4 混合効果:トレーサーによる見積もり 鉛直に線形な初期値を持つトレーサーの時間発展を計算する →「見かけの鉛直拡散係数」κapを評価する Ek, A, B, C, D, E, F, St(破線) z C:トレーサー濃度 St(破線)以外のケースで κapもほぼ相似形 →緯度(f)、潮流周期(σ)、潮流振幅(u*)から乱流拡散係数を決定できる 最後に、乱流による混合効果を評価するため、トレーサーの時間発展を計算し、それから次式を用いて見かけの鉛直拡散係数を見積もる。その鉛直分布がこちら。 まず、混合が起こる範囲が各ケースで異なる。 κap (outer scale)
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4 乱流混合:有次元 Ek, A(Rot=0.5), B(0.8), C(0.95), D(1.05), E(1.2), F(2.0), St(破線) 振幅8.53cm/sのM2潮について 有次元でκapを示す Rotが1に近いほど、長さスケールδの増大に伴い、広い範囲で強い混合が起こる (m) 緯度29°(ケースF): 最大60cm2/s、 最大の半分となる高さ40m 緯度53°(E): 最大170cm2/s、高さ160m 緯度67°(D): 最大600cm2/s、高さ350m 渦の空間スケールも、乱流の及ぶ範囲と同様の傾向がある。 (cm2/s) ケースDは、極海域における潮流観測からの乱流混合の見積もり(厚さ:~300m, 強さ:300~1000cm2/s)をよく説明する結果
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5 まとめと課題 回転系(コリオリ・パラメータf)における潮流海底境界層(振動数σ)の乱流に関して、 時間:T=1/|f+σ| 速さ:摩擦速度u* 長さ:δ=u*/|f+σ| という「outer scale」でスケーリングすることで、ストークス層を除いて、平均流や応力といった乱流特性が相似性を持つことが分かった 北半球では、時間:T=1/|f-σ| 長さ:δ=u*/|f-σ| 混合効果についても、outer scaleによって相似性が現れた ○緯度(f)、潮流周期(σ)、潮流振幅(u*)の値から乱流拡散係数を決定できる ○現実の海洋へ適用すると、fとσが近づく臨界緯度で顕著な乱流混合 今後の課題: 現実的な高レイノルズ数実験(数十万から数百万) 安定成層の影響 さらなる課題としては次のようなことが挙げられる。
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4 乱流混合:安定成層 Ek, A, B, C, D, E, F, St(破線)
高緯度海域:弱いながらも安定成層 →初期場に浮力振動数N=1.0×10-3s-1の密度成層を与えた追加実験 見かけの鉛直拡散係数κapを評価 ※ κapは時間変化する (m) 緯度67°(ケースD): 最大110cm2/s、高さ35m 緯度53°(E): 最大85cm2/s、高さ28m 緯度29°(F): 最大53cm2/s、高さ18m 現実的な安定成層の下でも、 Rotが1に近いほど広い範囲(~2倍)で強い(~2倍)混合 以降、実験を継続すると流れは乱流状態へと遷移した。 見て分かるように実験開始から2潮流周期が経過すると、EKEは一定値に落ち着く。それ以降を、 次に10潮流周期後の乱流場を各ケースについて示す。 (cm2/s) 実験開始から12~24潮流周期の期間
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粘性係数を一定とした場合の潮流海底境界層の解析解
振動数ωの潮流楕円 V(z,t)を反時計回り成分(振幅R+、初期位相φ+)と時計回り成分 (R-、φ-)に分解する。 それぞれの回転成分に対する境界層の厚さHtide+,Htide- ν,fは鉛直渦粘性係数、コリオリ・パラメータを示す。 Htide+ Htide- f > 0 → 潮流楕円は時計回り → R-が支配的 f < 0 → 潮流楕円は反時計回り → R+が支配的 Prandle (1982)
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議論:Rot~1における慣性波 l:波長 群速度の見積もり 粘性の時間スケール 波の到達距離 境界層では波長δの擾乱が発生
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3 慣性波 ケースC 渦運動エネルギー水平平均の、t-zダイアグラム 海面 EKE z 海底 t
慣性波群速度での、エネルギーの上方への輸送と反射 ・Rot~1では波長δの慣性波が盛んに上方へと伝播 ・他のケース(St以外)では、慣性波の波長は大きくエネルギーは小さい →上層のqとlに差 z ケースCでの 海底 t
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4 乱流混合:l×q 乱流理論: 乱流拡散の強さ ∝ l×q Ek, A, B, C, D, St(点線)
波の影響によって、相似性があるとは言い難い z しかし、砕波が起こらず波の影響が無視できれば、引き起こされる乱流混合も相似性を持つはず →トレーサーによる混合効果の見積もり 一方で、最初に述べたようにHtideの増大はシアーを弱くするように働くので、EKEの供給を低下させる要因にもなりうる。 実際、平均流シアーからのEKE供給を評価してみる。 エクマン層実験を除いても、ケースB,Cでは ただしEKE自体を評価してみると、ケース間にそれほどの差はない l×q
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