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実時間物理シミュレーション技術 東京工業大学精密工学研究所 長谷川晶一
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内容 物理シミュレーションの意義 シミュレータの仕組みと選定 制御 デモ なぜ,今物理シミュレーションなのか?
物理シミュレーションでできること シミュレータの仕組みと選定 接触力計算法,高速化法 制御 シミュレータ内の物体の動かし方 デモ 我々が開発している物理シミュレータ付きVR開発環境Springheadと力覚インタフェースSPIDARのデモ
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なぜ物理シミュレーションが必要か? 入力に対する反応の多様さ →ゲーム世界の多様さ・楽しさ 入力の進化 アナログパッド,画像,力覚
入力に対する反応の多様さ →ゲーム世界の多様さ・楽しさ 入力の進化 アナログパッド,画像,力覚 ユーザの選択肢が増加 たくさんの反応を用意しなければならない 従来の延長 たくさんの手間と時間 フレーム問題 シミュレーション 自動的に多様でリアルな反応
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物理シミュレーションが役立つ例 動きの生成 例:歩行 当たり判定 ダメージ計算 効果音
動きの生成 例:歩行 シミュレーションなし: 足の動きと体の動きを別々に計算 シミュレーションあり: 足を動かすと自然と体が動く 当たり判定 なし: 当たり判定専用計算 あり: ポリゴンモデルの接触位置が毎ステップ求まる ダメージ計算 なし: 当たったもの,当たり方毎に値を用意 あり: 加わった力の大きさからダメージを計算 効果音 なし: イベントごとに音を用意 あり: 加わった力,材質から自動的に音を発生
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物理シミュレーションの役割 ゲーム世界内の物体が,現実世界と同様に自律的に動くようになる.
現実の物体と同様に,計測や制御をすることができる. 従来のゲームでも物理は使われていた? 従来は,特別に,物理法則を作りこんでいた. 物理シミュレータでは,物体は,すべて物理法則にしたがって動作する.
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物理シミュレータの選定 いくつもの物理シミュレータ いくつかの方式と特徴 物理シミュレータの中身を知る必要がある.
Havok, MathEngine, Tokamak (商用) Open Dynamics Engine, Springhead (オープンソース) いくつかの方式と特徴 スピードと精度のトレードオフ 何の精度を重視するか 物理シミュレータの中身を知る必要がある.
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物理シミュレーションとは … 物理法則(現実世界)は微分方程式で記述できる シミュレーションは微分方程式の数値解の計算 m たとえば
質点の運動 剛体の運動 流体の運動 運動方程式: m f 差分方程式にすると: x 順番に求めて行く: … x(0) x(Dt) x(2Dt)
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剛体運動のシミュレーション 剛体の運動の話だけにします. 剛体 硬いもの,変形しないもの 剛体だと考えてよいものが多い 剛体でないもの
積み木,ボール,ロボット,人体・・・ 剛体でないもの スポンジ,粘土,水・・・
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剛体の運動 運動方程式 ならば,速度一定・角運動量一定 m: 質量 I: 慣性テンソル f: 外力 r: 外力の作用点の位置 v: 速度
ω:角速度 (すべて絶対座標系) 運動方程式 ならば,速度一定・角運動量一定
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剛体に働く力 kx mg fn ft 重力→ f=mg… 定数 バネ→ f=kx… 位置に比例 拘束力 拘束力の計算が難しい
力の大きさは不明 剛体同士の位置・速度関係が決まっている 蝶番:2物体の相対位置が一定 抗力:2物体が互いに侵入しない 静止摩擦力:物体が滑らない 拘束力の計算が難しい kx mg fn ft
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拘束力の求め方 例:球関節の拘束. 2物体が 点pAと点pBで繋がっている B 拘束の式: pA = pB
この式を満たすように,関節に働く力を求める 解析法:運動方程式に拘束の式を含めて解く David Baraff 89-93など Havok,Tokamak, Open Dynamics Engine ペナルティ法:拘束違反に応じた力を加える 昔からいろいろな用途に使われてきた Springhead 接触判定時に拘束違反の量(侵入量)を調べる必要がある B pB pA A
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解析法1(関節) f A pA B pB 拘束: 運動方程式: からfを求められる
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解析法2(抗力) fn 拘束: B 運動方程式: A 抗力は,反発だけ: pB pA
利点: 物体同士が侵入しない. 欠点: 遅い,跳ね返り係数を考慮していない.
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解析法3(摩擦力) クーロンの摩擦モデル 拘束: 運動方程式: B 抗力は,反発力: 摩擦力の条件: A
場合分けを無くすため としてしまっている
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ペナルティ法(抗力) . 侵入量 r,相対速度 r 拘束を解かない. 拘束を侵した分だけ罰(ペナルティ)として力を加える.
繰り返すうちに拘束が満たされる...はず. 力が直接決まるので,計算量はo(n) 接触部にバネとダンパを入れたと考えられる 侵入量 r,相対速度 r . バネ ダンパ 利点: 高速,跳ね返り係数を考慮できる. 欠点: 物体同士が多少侵入してしまう.
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ペナルティ法(摩擦力) 静止摩擦:ずれに比例した力を加える 接触の履歴を利用 クーロンの摩擦モデルをそのまま利用できる 静止摩擦 動摩擦
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ペナルティ法(面接触) 面で接触する場合 正確な接触力の計算 力は接触部分全体から発生 抗力・摩擦力の分布モデルを考える
静止摩擦←→動摩擦は一度に切り替わるとする 発生する力を接触部全体について積分 意外と簡単な式になる 解析法に比べ,とくに摩擦力が正確になる
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計算量と高速化 ここまでで,物理の話は終わりです. ここからは,リアルタイム動作に必要な, 計算量と高速化について話します. 関節を持つ剛体
剛体同士の接触 のシミュレーションができるようになりました. ここからは,リアルタイム動作に必要な, 計算量と高速化について話します.
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行列を解くので,行列の次数nに対して,計算量はo(n3)
解析法の計算量と接触数 接触している 関節で繋がれる 多物体が 場合多くの拘束が働く. f1n f2n 行列Aの次元=抗力 fi の数 行列を解くので,行列の次数nに対して,計算量はo(n3) 立方体の面接触1つ:4次元 10個つむと:40次元
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解析法の高速化 巨大な行列Aを作らず, 2物体単位で計算する 繰り返し計算する 繰り返し回数が少ないと精度が落ちる 巨大行列Aを解いた場合
2体単位で,繰り返し 解く場合 Open Dynamics Engineのドキュメントより
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ペナルティ法は高速 60 ペナルティ法(Springhead) 50 解析法(Open Dynamics Engine) 40 30
計算時間[ms] 20 10 5 10 15 ブロック数
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構造を利用した,解析法の高速化 Articulated Body 構造に特徴 多数の剛体を関節でつないだもの 動物や人間の体,ロボットなど
繋がっていない剛体の組が多い 剛体が輪になっていない→木構造 輪になっている例 全部繋がっている例
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解析法で求めると... D C B A 3 2 1 並べてみると 0だらけ,すかすか行列,sparse行列
1の拘束の式: Bの・・・・・・・・・・・・・・・・ 並べてみると 0だらけ,すかすか行列,sparse行列 普通に解くより早い方法があるのでは?
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解析法の高速化 Featherstoneの方法 とても速いが, 巨大行列を作らない 葉から根に向かって1つずつ拘束力を求める
構造を変えるのに多少時間がかかる 輪があると計算できない →抗力計算には向かない
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Featherstoneの方法 リンクiとより葉側のリンク全体の運動方程式が, のように,書ける.
Mi: リンクiとより葉側のリンクの 質量・慣性による項 Zi: 外力,重力,コリオリ力による項 Mi,Ziは加速度 によらない 葉のMiは既知なので, 葉から根に向かってMiを 計算する. 根ではfiは0なので,運動方程式から加速度 を求める. 根から葉に向かって, を求める 葉のリンク リンクi 葉のリンク 根側のリンク リンクi とより葉側のリンク 根のリンク
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Featherstoneの方法 D C B A 先ほどのsparse行列で考えると, 3 2 1 1. 葉から根に向かってMiを計算
2.加速度 を求める.
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Featherstoneの方法 3.根から葉に向かって, を求める
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解析法の高速化 ループを含めた高速化方法 山根克 98 「構造可変なリンク系の動力学計算法とヒューマンフィギュアの運動計算」 Open HRP (Humanoid Robotics Platform)に 使われているようです (なぜかOpen HRPは非常に重い)
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Springhead 我々が開発している物理シミュレータ 開発の動機 力覚インタフェースに使いたい
超高速更新(>300Hz),安定性重視 シミュレータでロボット対戦(ロボコン)をやりたい 2台以上 フィールドに障害物 押し合い → 摩擦が重要 従来のものは 更新が遅すぎる 摩擦のシミュレーションがいい加減すぎる
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Springheadの選択 接触力計算はペナルティ法 ロボットなど関節を持つ物はFeatherstone法
高速性,安定性 接触領域に分布モデルを考える→摩擦の精度 多少剛体同士が侵入するが,あきらめる. ロボットなど関節を持つ物はFeatherstone法 構造が変化しないので非常に高速. ループのある機構は少ない. ペナルティ法とは簡単に組み合わせられる. シミュレーション法・高速化法の特性を考慮して, シミュレータを選んでください.
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ゲームの作成 シミュレータの限界 限界を見極めてモデリングする必要がある 安定性の限界 計算速度の限界 極端に重いものと軽いもの
衝突時に速度が大きくなりすぎる 質量と慣性モーメントの比率がおかしいもの 回転速度が極端に大きくなることがある 極端に大きさが異なるもの 衝突判定の精度が問題となる 時間刻み 衝突を見落としたり,バネダンパが不安定になる 計算速度の限界 物体数,ポリゴン数,時間刻み デモしながら
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ゲームの作成 物理以外に必要なもの 例: 物理シミュレーションを活かして作ると効果的 ゲームのルール,ダメージの計算,...
接触力や関節に働く力の計測が効果的 人物,動物,車などの動き 自然の動きではなく,意図を持った動き → コントロール=制御が必要
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物体の制御 シミュレータ内の物体は,速度・慣性を持つ. 自動的に運動する 強制的に位置を指定すると・・・・ やわらかく,物体を動かすには?
不自然な動き,非常に大きな力が発生 シミュレーションの意味がない やわらかく,物体を動かすには? 物理を無視せず,実世界と同じく力を加えて動かす. =制御をする
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PD制御 f m xg x0 目標位置に質点を持っていくには? 誤差に応じた力を加えてやる 例えば f=k(xg – x)では?
振動し続ける 減衰し,振動が止まる f m x0 xg 初期位置 目標位置 誤差に比例:バネ Proportional制御 微分に比例:ダンパ Differential制御
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PD制御の性質と調節 k b バネ係数kとダンパ係数bでPD制御の性質が決まる バネ・ダンパと考えられるので, m バネ係数 k
大きいほど早く目標に近づこうとする 小さいほど柔らかい =力が加わったときに動きやすい ダンパ係数b 負だと振動がどんどん大きくなる 0だと振動が止まらない 大きいほど振動しにくい 大きいほど撃力が伝わる kが大きいほど早く動く. b>0ならば,収束する(振動が収まる). 連続系ではこうなるが,シミュレータは離散系 そううまくはいかない. m 目標位置 k b
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シミュレータ上でのPD制御 シミュレータ上でのPD制御 時間が離散 m x v 位置 速度 目標位置
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シミュレータ上でのPD制御 安定性の確認 行列A An →0 ならば,このPD制御は安定になる
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シミュレータ上でのPD制御 安定性の確認(つづき) |Aの固有値| < 1 ならば, An →0 なので,Aの固有値を調べる
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シミュレータ上でのPD制御 安定な k,b の範囲, 早く静止する k,b b k 2 b=k 実際に良く使うのはこの辺
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PD制御の実験 b=k いろいろな k, b での挙動をご覧ください b 2 k 2
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ペナルティ法とPD制御 . ペナルティ法もバネ・ダンパモデル バネ・ダンパ係数は? 侵入量 r,相対速度 r
では多物体が接触したときに安定しない. Springheadでは, を使用 侵入量 r,相対速度 r . バネ ダンパ
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衝突 実世界の物体は 互いに侵入しない. 跳ね返る. 再現するためには 衝突検知 剛体間に働く力の決定
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衝突検知 衝突の検出 衝突しているかどうかすべての剛体について調べる. 剛体の形状は,多面体で表現されている.
衝突検知を簡単にするため,凸形状に分割しておく
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凸形状 凸形状の便利な性質 凸形状 非凸形状 凸形状 距離が極小となる点が1点 最近傍点が簡単に求まる GJK algorithm
E. G. Gilbert, D. W. Johnson and S. S. Keerthi A Fast Procedure for Computing the Distance between Complex Objects in Three-Dimensional Space (1988) 凸形状 非凸形状
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凸形状(GJK) 凸形状A上の点から,凸形状B上の点へのベクトルを 原点を始点に並べると ベクトルの終点の集合も凸形状になる
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凸形状(GJK2) 1 2 3 4 V0 : 凸形状内の任意の点 Wi :OViとOWiの内積が最小の点
Vi :三角形Wi-2 Wi-1 Wi内の点で原点に 一番近い点 2 3 4
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凸形状2 凸形状の便利な性質2 凸形状の交差部分も凸形状 交差部分の形状が簡単に求まる
D. E. Muller and F.P.Preparata: “Finding the intersection of two convex” (1978) Half space representation
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