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バーテックス・ダイナミクス・モデルを用いた上皮組織の創傷治癒における細胞集団運動のシミュレーション

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Presentation on theme: "バーテックス・ダイナミクス・モデルを用いた上皮組織の創傷治癒における細胞集団運動のシミュレーション"— Presentation transcript:

1 バーテックス・ダイナミクス・モデルを用いた上皮組織の創傷治癒における細胞集団運動のシミュレーション
北海道大学理学部数学科4年 簑毛 崇章 指導教員 秋山 正和(電子科学研究所) 3.V.D.M.のシミュレーション 1.研究動機 MDCK細胞について 4.数値計算結果  創傷とは, 身体表面, 粘膜面, 臓器表面が外的刺激によって断裂し, 開放部をもつものをいう. 上皮組織の創傷の治癒メカニズムは未知な部分が多く、また医学的に重要である. 創傷治癒の研究は, 実験上扱いやすい等の理由からイヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株であるMDCK細胞(Madin-Darby canine kidney cell)がよく用いられる.  右の図はそのMDCK細胞を用いた創傷治癒時の画像である. 右側の創傷の部位を左側の細胞集団が埋めるように動く. 特徴的な動きとして次の点が挙げられる. 細胞が右に創傷があることを感知し集団運動する. 細胞集団のフロント部分から左側に疎密波が伝わっている. 少し後退してから前進する細胞もいる. 移動後振動している. 細胞のような小さく粘性が支配的な系においてこのような現象が見られることに私は不思議に思った.  実験事実として, MDCK細胞は実験を始める段階で, 容器内を完全に埋めるまで培養され, さらにそこから時間をかけて細胞接着が強固になるまで固めてあり, 非常に密な状態にされている. つまり“過飽和”な状態であり, 細胞の大きさは, 普段より凝縮され小さくなっていることが実験からわかっている.  そのため, 創傷を作った場合, 自然な大きさになろうとする, つまり膨張しようとすることがわかっている. 以上より, 次の仮定を立ててシミュレーションを行う. 仮定: を の平均より大きくとれる. としてシミュレーションを行ったのが以下の図である. 初期の状態 左図は右図一番上のオレンジ線上に乗っている細胞が時間に対してどのように運動するかを表したグラフである. 1から4までの特徴がよくわかる. 4 細胞の膨張速度に応じて, 膨張している細胞を赤, 縮小している細胞を青, その中間を緑として色付けを行った. シミュレーションの結果からMDCK細胞で見られる“波”のような現象は再現できなかった. 2 1 3 図:MDCK細胞 2.Vertex Dynamics Model 4.慣性項付V.D.M.  細胞集団の動きは質点系の相互作用によってモデリングされることが一般的である.  Vertex Dynamics Model*(以下V.D.M.と略記する)では、細胞を多角形で近似して、その頂点の運動を勾配系(gradient system)を用いた常微分方程式で記述する細胞モデルである.  V.D.M.は, 細胞の体積, 表面積(二次元では面積, 周長)も考慮したモデルである. 我々はV.D.M.が正確な細胞集団運動を実現すると考え, このモデルを用いることにした. 面積  以上のようにV.D.M.は基本的に“拡散”のような広がり方をするモデルであり, MDCK細胞のような“波”のような性質は我々が様々なパラメータでシミュレーションを行った範囲では現れなかった.  そこで, 細胞のような小さい系では考えにくいことだが, 慣性項を入れてシミュレーションをすることを我々は考えた. 以下がその式である.  また, MDCK細胞の実験から, 細胞同士の接着部と逆方向に細胞極性が発現, その方向に力が働く, ということも考えられるので, 右辺に力の項も導入した. 周長 *本多久夫「多細胞体形態形成のための細胞モデル」 質量 記号は上図のように定める 速度に比例する抵抗係数 V.D.M.は頂点に関する常微分方程式であるが基本原理は次の通りである. 体積はその細胞の部位の標準的な大きさになるように動く(小さすぎたり、大きすぎたりしない) 上の条件を満たしつつ表面積(二次元の場合、周長)はなるべく小さくなるように動く これを満たすため勾配系を用いた以下の式を得る. ポテンシャルは以下の通りである. 系にかかる力 5.シミュレーション結果 長さエネルギーにかかる係数 各定数を次のように設定してシミュレーションを行ったものを以下に図示する. 面積エネルギーにかかる係数 粘性抵抗  創傷治癒の初期段階でMDCK細胞のフロント部は細胞が密になってることが観察されるためシミュレーションでもフロント部の細胞を密集させて, シミュレーションを行った.  粗密波が左に伝わっていくことが図からわかる. 勾配系の以下の計算からポテンシャルは時間に対して単調減少する. すなわち, 上記の基本原理をみたしている. 密な領域 汎関数微分は以下のように計算される. 細胞数 1818 頂点数 3794 ソルバーとして5次精度埋め込み型ルンゲ・クッタ公式を使用. 左図は, 上図の16個の赤い点の動きを表すグラフ. MDCK細胞の集団運動の特徴である少し後退して進むという特徴, 移動中振動している特徴もシミュレーションで再現することができた.  他の同様なパラメータでも同じようなことが確認された. となり, を得る の汎関数微分も同様に計算でき, 以下の式を得る. 6.まとめ ただし は,  MDCK細胞の不思議な集団運動を理解するためにV.D.M.を用いてシミュレーションしたが, 粗密波や振動等の特徴は我々がシミュレーションした範囲においては再現できなかった. 慣性項付V.D.M.では, 実験で見られた特徴的な動きを再現できた.  しかし, 細胞のような小さく, 粘性が支配的な系ではそもそも慣性はほとんど働かない. だが慣性力が働いているように細胞集団は振る舞う. そこに細胞の不思議さを強く感じる.  今後, この“慣性力にあたるような力”が何なのか研究していきたいと思っている.その候補として, V.D.M.で定数であった などが時間によって変化する場合が考えられる. また, 時間遅れによって粗密波が発生する可能性もある. 今後, それらのシミュレーションを行い, “波”が再現できるのか確認したい. 得られた結果と実際の細胞の運動を照らし合わせつつ, さらに数値計算から実際の細胞運動を予測する, というところまで研究したいと考えている. 頂点に隣接する頂点番号の集合とする. 細胞の初期状態はFreeFem++による三角形分割の重心から得られる多角形とした.


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