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“ソーシャル・アビューズ” と 出自を知る権利 の相関に関する理論的考察
“ソーシャル・アビューズ” と 出自を知る権利 の相関に関する理論的考察 中部学院大学人間福祉学部 宮嶋 淳 博士(ソーシャルワーク)
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研究の目的 AIDの実施時並びに実施後における DI者の願い と AIDを選択したカップルの願い との 両立をめざす 両者の願いの両立とは、
両立をめざす 両者の願いの両立とは、 「新しい家族」の福祉 (=QOL &Human well-being )の成立
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着眼点並びに仮説 ソーシャルワーク(=SW)の立場から SWとは、人権と社会正義を追求する社会的活動
ARTが、当事者の「私益」ではなく「ニーズ」に効応し、社会全体の益を追求するとき、 ARTで形成された「新しい家族」群の福祉が、成立するのではないか。
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「私益」 と 「公益」 私益=個人的な利益 公益=みんなの利益、地域や社会全体の益 ARTを「みんなの利益」のために活用するという発想
「私益」 と 「公益」 私益=個人的な利益 公益=みんなの利益、地域や社会全体の益 ARTを「みんなの利益」のために活用するという発想 「みんなの利益」=「安く」「楽に」「気軽に」「安心して」「恥ずかしくなく」ARTを使える 公益性のある活動=不特定多数に対する非営利の活動 公益へのアプローチ 政策的 : 人間本位の社会政策 実践的 : ボランティアやNPO・NGO、社会的企業による社会サービス
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「公益」の効用 公益は、社会全体を平安へと向かわせる 公益の追求は、共通の善(common good)の形成につながる
共通の善の前では、人々は自由であり平等であり、寛容でいられる 寛容は、開かれた社会の基礎である 寛容な空間の中では、開かれた自己が、自力で重要なことを決める 現在のARTは、 「私益」を追求する排他的で特権的な「閉じられた医療」と言えるのではないか。 現在の状況は、共通善の成り立つみんなの寛容さを助長し、自己決定が促進される社会(=「新しい家族」)を創造しない 参考 : 小松隆二(2008)「公益の思想」『公益学を学ぶ人のために』世界思想社
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閉じられた医療が、Social abuseを生む
特定の個人の益を追求し、営利な活動として提供されるARTは、「私益」へのアプローチである。 「閉じられた医療」における「私益」の増進は、「公益」の増進と相関しない。 「閉じられた医療」は、排他的・特権的であるため、 排除・不寛容、自己決定の否定、社会の不安を助長 「排他性・特権性」を廃せずして、合意形成は困難
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Social abuse とは何か ある者が他者の社会的行為を権限なく制限する行為であり,侮蔑的で差別的な意味合いが含まれている.
(社会からの隔離、社会性の排除) 他者をコントロールする行為であり,差別や偏見に依拠しており,犠牲者を卑下することを助長し,メディアをもコントロールする. (自己決定の否定、社会の不安) その結果,虐待者の行為を強化する役割を果たし,システムが犠牲者を非難し,安全性の確保を図ろうとせず,無視する結果を招く.(不寛容) 犠牲者は法律に訴えるか,自分自身をごまかすかしかない状況に置かれる. (対 峙)
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Social abuse の構造
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ARTの社会化あるいは「公益化」 ニュージーランドの例
Human Assisted Reproductive Technology Act 2004 Part 1(Preliminary provisions) 序文 3 Purposes 目的 4 Principles 原則 5 Interpretations 説明 6 Procedures or treatments may be declared to be established procedures 提供・治療の手続き 7 Act binds the Crown 法的拘束
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HARTA2004 の Purposes (a) to secure the benefits of assisted reproductive procedures, established procedures, and human reproductive research for individuals and for society in general by taking appropriate measures for the protection and promotion of the health, safety, dignity, and rights of all individuals, but particularly those of women and children, in the use of these procedures and research (生殖医療の研究とその手続きを明らかにする) (b) to prohibit unacceptable assisted reproductive procedures and unacceptable human reproductive research (生殖医療の研究のうち、禁止事項は何かを明らかにする) (c) to prohibit certain commercial transactions relating to human reproduction (人間の再生に関する商業行為の禁止) (d) to provide a robust and flexible framework for regulating and guiding the performance of assisted reproductive procedures and the conduct of human reproductive research (生殖医療の研究のガイドラインとフレームワーク) (e) to prohibit the performance of assisted reproductive procedures (other than established procedures) or the conduct of human reproductive research without the continuing approval of the ethics committee (生殖医療の研究における承認手続きと倫理委員会の権限) (f) to establish a comprehensive information-keeping regime to ensure that people born from donated embryos or donated cells can find out about their genetic origins (出自に関する提供配偶子や提供した人々に関する情報)
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HARTA2004 の Principles (a) the health and well-being of children born as a result of the performance of an assisted reproductive procedure or an established procedure should be an important consideration in all decisions about that procedure (生殖医療で生まれてくる子どもの健康と幸福に関する決定) (b) the human health, safety, and dignity of present and future generations should be preserved and promoted (現在と未来の人間の健康と安全、尊厳の保持) (c) while all persons are affected by assisted reproductive procedures and established procedures, women, more than men, are directly and significantly affected by their application, and the health and well-being of women must be protected in the use of these procedures (すべての人が生殖医療の影響を受ける。特に女性の健康と幸福の保護) (d) no assisted reproductive procedure should be performed on an individual and no human reproductive research should be conducted on an individual unless the individual has made an informed choice and given informed consent (生殖医療の研究は、個人的利益のためになされてはならない) (e) donor offspring should be made aware of their genetic origins and be able to access information about those origins (提供情報に、アクセスできなければならない) (f) the needs, values, and beliefs of Māori should be considered and treated with respect (マオリのニーズや価値観、信念は考慮され、尊重される) (g) the different ethical, spiritual, and cultural perspectives in society should be considered and treated with respect (社会の異なる倫理、精神性並びに文化の尊重)
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Ken Daniels からのメッセージ クリニックに来る人々には、サイコエデュケーションが必要である。
医療者や患者、コミュニティーの人々にも、生殖医療に関する教育を行う。 治療前に十分な情報を提供し、同意を得るためには、すべての疑問に答える、オープンな情報提供が必要である。 DI者の両親が、ドクターに「どうして話してはいけないのか」と疑問を投げかけた。 医療者のうち、最も尊重すべきはドクターであり、私とともに調査研究を行ったドクターがその姿勢を変え、それが法律に反映された。 マオリの文化では、自分のルーツを知ることがとても大切。マオリの人々にとって、人生をかえりみるとき、個人よりもコミュニティーの中での自分の人生を見ることを大切にする。DIを秘密にすることを、マオリの人々は理解できない。 マオリの文化では、自分への接近は「個々人」ではなく「コミュニティー」アプローチである。 コミュニティー・アプローチであるので、自分の「所属」は非常に大切である。 もしマオリのカップルがDIを希望するならば、カップルとその家族にカウンセリングすることになる。 パケハの文化として個人の権利の尊重も必要で、関わりを持つ家族の権利も、コミュニティーの権利も、尊重されなければならない。 2つの文化を尊重することが当たり前の社会であることを背景に、政府ではなく医療者の側が、提供者に対して情報を開示するように要求している。
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マオリのアイデンティティ 1980年代以降、 血ではなく、文化的側面を重視したエスニシティ(民族性)が重視される 2006年の人口調査では、
血ではなく、文化的側面を重視したエスニシティ(民族性)が重視される 2006年の人口調査では、 言語、信念、習慣など共有する文化 共通の祖先や歴史 類似の地理的起源や部族、一族の出自 が調査された。 「ファカパパ (マオリの血をもっており、祖先と系統的な関わりを持つ)」 へのアイデンティティ マオリの伝統的価値観 ファナウンガタンガ(人々の広いつながり) ウツ(互恵主義) マナ(権威) マナキタンガ(気づかい)
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マオリの人権 ワイタンギ条約 1840年 ワイタンギ審判所 1975年 ニュージーランドの司法組織における独立性を保持
ワイタンギ条約 1840年 ワイタンギ審判所 1975年 ニュージーランドの司法組織における独立性を保持 国によるワイタンギ条約の原則に合致しない立法、政策、マオリの訴えにより審理 1985年の改正で、ワイタンギ条約締結時に遡って、マオリの訴えを受理 ワイタンギ条約の原理の尊重、あるいはマオリの尊重は、あらゆる法に明記 ソーシャルワーカーの教育プログラムにおいても、マオリの文化が伝承される
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結 論
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患者とその家族の個人的な欲求に対応し、「閉ざされた医療」を提供してきたことにより、「私益」の増進を図り、排他性と特権を保持してきた。
しかし、その状況では公共的な合意は得られず、当事者の「社会的ネグレクト」が継続し、歴史的なリスクを抱えることになる。 したがって、ARTを「開かれた医療」に転換し、社会化することで、関係者のニーズに即して「公益」を目指し、保険適用など排他性と特権を廃した制度の制定に向けた働きかけを強力に進める必要があるのではないか。
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