初心者による初心者の ための「線形混合モデル」 土屋政雄 2011/08/20 第 2 回 心理・医学系研究者のためのデー タ解析環境 R による統計学の研究会 ※著作権に関わりそうな画像類は削除.

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初心者による初心者の ための「線形混合モデル」 土屋政雄 2011/08/20 第 2 回 心理・医学系研究者のためのデー タ解析環境 R による統計学の研究会 ※著作権に関わりそうな画像類は削除

本日の内容 線形混合モデルって何? – 名前がいろいろ どういう時に使うの? – 横断と縦断 どれ位有名なの? – 推奨してる論文や使われ具合 今までの方法はだめなの? – ANOVA や重回帰との違い

本日の内容 線形混合モデルを使うとどんないいこと があるの? 中はどんな風になってるの? – かんたんにすうしき 絵で描いてよ! – グラフで図示 R でやってみてよ! – データセット変換& library(HSAUR) 論文に,書きたいです

線形混合モデルって何? Linear Mixed Model ざっくり説明すると,線形モデル ( ANOVA や重回帰)の進化版 より細やかに – 式が増えたよ! より柔軟に – 必要な仮定が減ったよ! ( イメージ ) 本の表紙画像 Multilevel analysis for applied research It's just regression! Robert Bickel

線形混合モデルって何? Mixed models – 固定効果( fixed effects )とランダム効果 * ( random effects )の混ざったモデルのこと。 – 回帰係数(切片や共変量効果)が上位のユ ニットでランダムにばらつくものとばらつか ないものにわかれる – 一般的なマルチレベルモデルに対する特別な ケースだと考えられるが,同じ意味で使われ ることも多い Diez Roux, 2002: Glossary for multilevel analysis. JECH;56: * 「変量効果」とも訳され る 今までの分析はこれだけ

線形混合モデルって何? 一般線形モデル ( General linear model:GLM ) 一般化線形モデル ( Generalized linear model:GLLM ) ・ロジス ティック回帰 ・ポアソン回 帰 ・順序回帰 等 ・ t 検定 ・分散分析 ・重回帰分析 ・共分散分析 等 ここに ランダム効果 が混ぜ込まれ た 図.伝統的な統計手法との関係 ここにランダム効果 が混ざったら,一般 化線形混合モデルに なる

線形混合モデルって何? 名前がいろいろ – マルチレベル分析( multilevel analysis ) – マルチレベルモデル・多水準モデル – 階層(線形)モデル( hierarchical [linear] models ) →HLM – ランダム(効果 / 係数 / 回帰)モデル ( random [effects/coefficient/regression] models ) – 共分散要因モデル( covariance components models ) – 分散要因モデル( variance components models ) Diez Roux, (2002) ; 小野寺 編訳 2006 『基礎から学ぶマルチレベル モデル』

線形混合モデルって何? 名前がいろいろ – 経験的ベイズモデル( Empirical Bayes models ) – 成長曲線モデル( growth curve models ) – 混合効果モデル( mixed-effect model ) 間違えやすいもの,似ているもの (土屋の印 象) – 反復測定 ANOVA の between と within の混合 – 潜在成長曲線モデル →SEM – 一般化推定方程式( GEE ) Gueorguieva & Krystal (2004)

どういう時に使うの? 下位レベルの集団が上位レベルの集団に 入れ子構造になっている時 – 横断でも縦断でも ・・・・・・ クラス A ・・・・・・ クラス B ・・・・・・ ・・・・・・ クラス C 学校 A (例) ・学校 ・職場 ・医者と患 者 ・・・・・・

「線形混合モデル」と言った時には,特 に 縦断デザインで使われることが多いかも → 今日のテーマ (例) ・コホート研 究 ・介入研究 どういう時に使うの? ・・・・・・ ・・・・・・ 学校とか病院とか ・・・・・・ t1t1 t2t2 tntn ・・・・・・ t1t1 t2t2 tntn ・・・・・・ t1t1 t2t2 tntn 時点ごとの測定 値

どれ位有名なの? 色んな領域の journal で解説 & 紹介論文など が出ている – 発達研究・子ども ( Boyle & Willms, 2001 ) – 看護 ( Shin, 2009 ) – 社会・パーソナリティ心理 (Nezlek, 2008; West, 2011) – 家族・カップル心理 ( Atkins, 2005 ) – 精神生理 ( Kristjansson et al., 2007 )

今までの方法はだめなの? 『無作為化試験の分析で ANOVA はたやすく誤って 適用される:批判と代替統計アプローチの議論』 Vickers. ( 2005 ) Psychosom Med. 『 ANOVA の地位をゆずれ:反復測定データ分析の 進歩と Archive of General Psychiatry の論文への反 映』 Gueorguieva & Krystal (2004). Arch Gen Psychiatry. 『消えますよ・・・ほら消えた。:臨床試験 での縦断フォローアップデータの解析に おける,従来の回帰 vs ランダム効果 回帰モデルの比較』 Nich & Carroll, (1997) J Consult Clin Psychol ANOVA is old!

今までの方法はだめなの? ANOVA の典型的な問題代替統計アプローチ F 値と p 値の報告だけ群ごとに平均と標準偏差を報告; 平均値の差と 95% 信頼区間の報告 3 つ以上の群の試験の時,「全 ての群は同等であるか?」の 仮説のみへの言及 効果や興味のある群比較の後,係 数または平均値差と 95% 信頼区間 と p 値の報告 ベースラインで取られた指標 による,試験への「群」効果, 「時間」効果,「群 × 時間の交 互作用」の報告 ベースラインの得点を共変量とし た ANCOVA を行い,群間の違いの みを報告する ベースラインと治療中 or 後の何 回かで取られた指標による, 試験への「群 × 時間の交互作 用」の意味は不明確 ベースラインの得点を共変量とし た ANCOVA を行い,従属変数の要 約(例:フォローアップ指標の平 均)を使う。または縦断混合効果 モデルを使う Vickers. ( 2005 ) Psychosom Med.

今までの方法はだめなの? Gueorguieva & Krystal (2004) エンドポイン ト分析 rANOVArMANOVAMixed –Effects Analysis 全対象者の完全 データが必要 YN*N* YN 欠損のある対象者 を取り除く影響 サンプルバイ アス 非適用 欠損値代入の影響 推定バイアス 非適用 異なった時点での 測定 YNNY 時間効果の記述 単純柔軟 個人の傾向の推定 NNNY 相関パターンの制 約のある推定 非適用 YNN 時間依存共変量 NYNY 実行の簡単さ とても簡単簡単 難しい 計算の複雑さ 低低中高 * 欠損値のある者はデータセットから削除され る

今までの方法はだめなの? (特に rANOVA との比較) 欠損への対処のため,欠損値のある者を解 析から除外するか,値を代入する必要があ る – 前回の観測値を代入( last observation carried forward: LOCF ) → 推定バイアスのリスク 全ての対象者が同じ時点でデータを得る必 要がある Gueorguieva & Krystal (2004)

今までの方法はだめなの? (特に rANOVA との比較) 球面性の仮定( sphericity or circularity )が必 要 – 全ての測定値が同じばらつきで,同一個人内で 全ての 2 つの連続した測定時点間で同じ相関で あること – 測定時点間の時間が長いと相関が弱くなるので, この仮定が満たされることは少ない タイプ I エラーの増大 → 効果の過大評価 – だめなら, Greenhouse-Geisser などで自由度の 修 保守的なので効果の検出が難しくなる Gueorguieva & Krystal (2004)

線形混合モデルを使うとどんな いいことがあるの? 各対象者の利用可能なデータをすべて使え る ランダムな欠測には影響されない 時間の効果を柔軟にモデル化できる 現実的で倹約的な分散・共分散パターンが 使える (複合シンメトリー,自己回帰など) いくつかの異なったパターンのモデルを比 較することができる – 適切な分散のパターンを選ぶとより正確な治 療効果や SE の推定につながる Gueorguieva & Krystal (2004)

線形混合モデルを使うとどんな いいことがあるの? 正確さが up すると必要なサンプルサイズが 減るので,検定力 up につながる 時間依存共変量の扱いが簡単 査読でつっこまれない! ( Hamer & Simpson, 2009 ) – "Mixed models are preferable... when the number of subjects is sufficiently large and the proportion of missing data is small enough" Gueorguieva & Krystal (2004)

中はどんな風になってるの? Blackwell et al., (2006) 基本のすうしき ※本や論文の著者により使われる記号が違うので,混乱しないよう に! Y ij : 時点 i ,個人 j のアウトカム指標 A ij :時点 i ,個人 j のレベル 1 説明変数 β 0j :個人 j における個人特有の切片 β 1j :個人 j における個人特有の傾き R ij :個人 j における個人特有の誤差項

中はどんな風になってるの? Blackwell et al., (2006) γ 00 : 全ての個人間の平均切片 γ 10 : 全ての個人間の平均傾き U 0j :レベル 2 誤差,つまり個人 j における γ 00 から説明 できない逸脱 U 1j :レベル 2 誤差,つまり個人 j における γ 10 から説明 できない逸脱 ランダム傾 き ランダム切 片 追加

絵で描いてよ! 通常の回帰ランダム切片のみ モデル

絵で描いてよ! ランダム傾きのみ モデル ランダム切片&傾き モデル

R でやってみてよ! 使用データセット – パッケージ “HSAUR” のデータセット “BtheB” – コンピューターによる認知行動療法プログラム の臨床試験データ ( Proudfoot et al., 2003 ) – 患者 100 名, 変数 8 個のデータフレーム ◆ R プログラム data(“BtheB”, package=“HSAUR”) # データを開く head(BtheB) # 最初の 6 名分のデータ表示

drug length treatment bdi.pre bdi.2m bdi.4m bdi.6m bdi.8m 1 No >6m TAU NA NA 2 Yes >6m BtheB Yes <6m TAU NA NA NA 4 No >6m BtheB Yes >6m BtheB NA NA NA 6 Yes <6m BtheB 【 R 出力】 【変数】 drug: 抗うつ薬を使用したかどうか( No or Yes ) length: 現在の抑うつエピソードの長さ ( 6m , 6 カ月以上) treatment :治療群( TAU ,通常治療; BtheB , Beat the Blues ) bdi.pre ~ bdi.8m :(ベック抑うつ尺度の治療前から 8 カ月 フォローアップまでの値)

BtheB$subject <- factor(rownames(BtheB)) # id 番号付与 nobs <- nrow(BtheB) # オブザベーション数を nobs に格納 BtheB_long <- reshape(BtheB, idvar = "subject", varying = c("bdi.2m", "bdi.4m", "bdi.6m", "bdi.8m"), direction = "long") ◆ id 番号( subject )の付与と解析準備 ◆データセットを ”wide” から ”long” へ BtheB_long$time <- rep(c(2, 4, 6, 8), rep(nobs, 4)) ◆時間変数を作成 subset(BtheB_long, subject %in% c("1", "2", "3")) ◆ id が 1~3 の者のデータのみ表示

drug length treatment bdi.pre subject time bdi 1.2m No >6m TAU m Yes >6m BtheB m Yes <6m TAU m No >6m TAU m Yes >6m BtheB m Yes <6m TAU NA 1.6m No >6m TAU NA 2.6m Yes >6m BtheB m Yes <6m TAU NA 1.8m No >6m TAU NA 2.8m Yes >6m BtheB m Yes <6m TAU NA 同じ id の者が 4 回出現しており, time がそれぞれ 2 ヵ月から 8 カ月まで変わり, bdi がそれぞれに対 応した値になっている

library(“lme4”) # 線形混合モデルを行うためのパッケージ呼び出し # ランダム切片モデル BtheB_lmer1 <- lmer(bdi ~ bdi.pre + time + treatment + drug +length + (1 | subject), data = BtheB_long, method = "ML", na.action = na.omit) # ランダム傾きモデル BtheB_lmer2 <- lmer(bdi ~ bdi.pre + time + treatment + drug + length + (time | subject), data = BtheB_long, method = "ML", na.action = na.omit) ◆線形混合モデルの適用 赤字部分がランダム効果を表す。 1 は切片,|の後 に 入れ子の上位ユニットを表す変数がくる。ここでは 個人

anova(BtheB_lmer1, BtheB_lmer2) ◆モデルの比較 summary(BtheB_lmer1) ◆線形混合モデルの結果出力 Models: BtheB_lmer1: bdi ~ bdi.pre + time + treatment + drug + length + (1 | subject) BtheB_lmer2: bdi ~ bdi.pre + time + treatment + drug + length + (time | subject) Df AIC BIC logLik Chisq Chi Df Pr(>Chisq) BtheB_lmer BtheB_lmer 有意でないので time のランダム傾きを含 める意味はなさそう

Linear mixed model fit by maximum likelihood Formula: bdi ~ bdi.pre + time + treatment + drug + length + (1 | subject) Data: BtheB_long AIC BIC logLik deviance REMLdev Random effects: Groups Name Variance Std.Dev. subject (Intercept) Residual Number of obs: 280, groups: subject, 97 Fixed effects: Estimate Std. Error t value (Intercept) bdi.pre time treatmentBtheB drugYes length>6m

参考: Stata xtmixed bdir bdipre time treatmentr drugr lengthr || subject:, mle

他にも必要な知識 級内相関( intraclass correlation: ICC ) 推定法 – 最尤法( maximum liklihood : ML) – 制限付き最尤法 (restricted ML: REML) 共分散パターン – unstructured ,自己回帰,複合シンメトリー など 中心化 – 例:個々の独立変数-平均値 → 平均を 0 に

論文に,書きたいです 記述例:無作為割付比較試験の効果推定 – ANOVA タイプ いい例が見つからず・・・ – 回帰タイプ 例: Sumathipala et al., 2008 Cognitive-behavioural therapy v. structured care for medically unexplained symptoms: randomised controlled trial. Br J Psychiatry. 193(1):51-9.

Sumathipala et al., 2008 – Statistical analysis ・・・ analysed the scores from the four fixed time points (3 months, 6 months, 9 months and 12 months after randomisation) using a mixed effects model. We included as fixed effects group allocation, baseline score, time, and the interaction of group and time. Time was coded as months after the 3-month time point, giving values of 0, 3, 6 and 9, so that in the presence of the interaction the effect of group represents the difference at 3 months. We included the patient as a random effect. We also fitted models with a random effect of time, with various covariance patterns, with treating doctor as an effect, and pattern mixture models to allow for the different drop-out patterns. We report here the simpler models as they fit as well as any of the more complex ones. We also examined model residuals. A mixed effects model was used as this enables effective use of all the information even from participants who had some missing scores. We used r for the analysis, 35 with the nlme package for fitting the mixed effects models. 36 中心化

Sumathipala et al., 2008 Table 3 Fig 2

文献 Atkins DC. Using multilevel models to analyze couple and family treatment data: basic and advanced issues. J Fam Psychol Mar;19(1): Blackwell E, de Leon CF, Miller GE. Applying mixed regression models to the analysis of repeated-measures data in psychosomatic medicine. Psychosom Med. 2006;68(6): Boyle MH, Willms JD. Multilevel modelling of hierarchical data in developmental studies. J Child Psychol Psychiatry. 2001;42(1): Diez Roux AV. A glossary for multilevel analysis. J Epidemiol Community Health. 2002;56(8): Gueorguieva R, Krystal JH. Move over ANOVA: progress in analyzing repeated-measures data and its reflection in papers published in the Archives of General Psychiatry. Arch Gen Psychiatry. 2004;61(3):310-7

Hamer RM, Simpson PM. Last observation carried forward versus mixed models in the analysis of psychiatric clinical trials. Am J Psychiatry Jun;166(6): Kristjansson SD, Kircher JC, Webb AK. Multilevel models for repeated measures research designs in psychophysiology: an introduction to growth curve modeling. Psychophysiology. 2007;44(5): 小野寺孝義 編訳 岩田昇・菱村豊・長谷川孝治・村山航 訳 2006 基礎から学ぶマルチレベルモデル 入り組んだ 文脈から新たな理論を創出するための統計手法 ナカニシ ヤ出版 ( Kreft IGG, De Leeuw J : Introducing multilevel modeling Sage London, 1998 ) Nezlek, J. B. (2008). An Introduction to Multilevel Modeling for Social and Personality Psychology. Social and Personality Psychology Compass, 2(2),

Nich C, Carroll K. Now you see it, now you don't: a comparison of traditional versus random-effects regression models in the analysis of longitudinal follow-up data from a clinical trial. J Consult Clin Psychol. 1997;65(2): Shin JH. Application of repeated-measures analysis of variance and hierarchical linear model in nursing research. Nurs Res. 2009;58(3): Vickers AJ. Analysis of variance is easily misapplied in the analysis of randomized trials: a critique and discussion of alternative statistical approaches. Psychosom Med. 2005;67(4): West SG, Ryu E, Kwok OM, Cham H. Multilevel modeling: current and future applications in personality research. J Pers. 2011;79(1):2-50.