稲垣貴彦 *・*** 、田中恒彦 ** 、丸川里美 *** 、栗原愛 *** 、眞田陸 **** 、 藤井勇佑 *** 、中村英樹 **** 、栗山健一 *** 、山田尚登 *** * 滋賀県立精神医療センター ** 新潟大学教育学部 *** 滋賀医科大学精神医学講座 **** 長浜赤十字病院精神科.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
統合失調症患者さんのための メタボ脱出大作戦 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.5 監修 : 順天堂大学大学院(文科省事 業) 河盛 隆造 スポートロジーセンター センター長 こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
Advertisements

患者さんとご家族のための 双極性障害ABC すまいるナビゲーター 双極性障害ブックレットシリーズ No.1 監修 : 理化学研究所脳科学総合研究センター 精神疾患動態研究チーム チームリーダー 加藤 忠史 こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
あなたに合った 薬と出会うために すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.4 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 こころの健康情報局 すまいるナビゲーター
第 50 回日本理学療法学術大会 「 都道府県理学療法士等の活動報告 」 ( 公社 ) 神奈川県理学療法士会 ライフサポート部 10 年の活動報告.
神奈川県理学療法士会における 自宅会員及び休会会員に対する就業に関する アンケート調査 公益社団法人 神奈川県理学療法士会 会員ライフサポート部 ○ 西山昌秀,寺尾詩子、清川恵子、大槻かおる、萩原 文子 大島奈緒美、杉山さおり,久保木あずみ.
カウンセリングナースによる 新しい治療システム -ストレスケア病棟での治療体験と カウンセリングナースの導入- 福岡県大牟田市 不知火病院 院長 徳永雄一郎.
第4回病院祭 「ゆず春まつり」 家族・地域公開講座
発達障害と統合失調の類似性 原因を求めれば発達障害が増える
統合失調症ABC 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
統合失調症について家族の方々に知っておいて欲しいことをまとめました 。
統合失調症ABC 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
演題:○○○○の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・薬物動態の比較
非正規雇用が心理的ストレス反応に及ぼす影響: 全国規模のコホート研究
討議してみよう 島根県薬剤師会 学生実習対策委員会.
すまいるナビゲーター うつ病 ブックレットシリーズ No.1
当院における糖尿病患者の 自己効力に関する調査
平成26年度 診療報酬改定への要望 (精神科専門領域) 【資料】
統合失調症の認知機能リハビリテーション専用オリジナルソフトによる 介入研究
磁気治療機器が、線維筋痛症患者の痛みを抑制 できるかどうかを検討する。 同時に機器の安全性を検討する。
糖尿病こころのケア研究会 第1回セミナー 日時:2013年3月28日(木) 18:40~21:00 会場:ラフレさいたま
パーソナリティの他者への投影は どの程度生じるか
患者さんとご家族のための 双極性障害ABC
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」 の説明
「三重県におけるがん生殖医療と高度生殖医療センターの役割」 「分子標的薬の副作用マネジメントについて」
2006年度からのリハビリ日数制限と発症後60日以内の入院制限の影響
学校薬剤師仕事(中教審/学校保健安全法)
治療法は主に手術、薬物療法、放射線治療があります。
2型糖尿病患者におけるナテグリニドと メトホルミン併用療法の有効性と安全性の検討
家族の介護負担とメンタルサポート (part II)
平成27年度 障害者虐待防止権利擁護研修 施設コース
当院における透析間体重管理指導方法についての検討
女子大学生におけるHIV感染症のイメージと偏見の構造
介護予防サービス・支援計画表 記入のポイント.
関西リハビリ病院におけるCI療法 方法 治療期間 訓練内容 非麻痺側上肢をミトンで固定 麻痺側上肢のみで集中的な運動を実施
スギ花粉とダニの重複抗原例の 舌下免疫療法について-副作用の検討- はじめに 対象と方法 シダトレン®、 ミティキュア®重複投与例
第2回 福祉の現在・現在 厚生労働省(2018) 障害者白書 厚生労働省(2016) これからの精神保健福祉のあり方に          関する検討会資料.
統合失調症ABC お薬について 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.2
Diabetes & Incretin Seminar in 福井
「“人生の最終段階における医療” の決定プロセスに関するガイドライン」
健診におけるLDLコレステロールと HDLコレステロールの測定意義について~高感度CRP値との関係からの再考察~
血液透析患者の足病変がQOLに与える影響の調査 ~SF-36v2を使用して~
滋賀医科大学医学部附属 病院精神科思春期外来に おける不登校に対する 治療成績の開示と、 そこから得られる知見
稲垣貴彦 滋賀県立精神医療センター・滋賀医科大学 日本認知・行動療法学会 第42回大会 at アスティ徳島
血液透析患者における運動と身体測定値、QOLの関係性
がん患者の家族看護 急性期にあるがん患者家族の看護を考える 先端侵襲緩和ケア看護学 森本 紗磨美
予後因子(入院時年齢・FIM・発症後日数)の階層化による回復期リハの成果測定法の提唱
高齢慢性血液透析患者の 主観的幸福感について
肺の構造. 肺の構造 肺の間質とは? IPF(特発性肺線維症)とは? IPF患者さんの肺の画像(胸部X線)
院内の回復期リハ病棟間の成果比較  -予後因子(入院時年齢・FIM・発症後日数)の階層化による測定法を用いて-
*講演会終了後、情報交換会を予定しております。
第11回 内部統制.
脳卒中急性期装具療法の検討 葛西循環器脳神経外科病院 リハビリテーション室1) 同脳神経外科2) 早川義肢製作所3)
我が国の自殺死亡の推移 率を実数で見ると: 出典:警察庁「自殺の概要」
【研究題目】 視線不安からの脱却に 影響を与える要因について
あなたに合った 薬と出会うために 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.4
「自閉スペクトラム症」の治験*に 参加くださる方を募集しています。 治験*とは 治験に参加いただける方
双極性(感情)障害の薬物療法.
Niti-S大腸ステント多施設共同前向き安全性観察研究の進行状況について
合成抗菌薬 (サルファ剤、ピリドンカルボン酸系)
疫学概論 カプラン・マイヤー法 Lesson 8. その他の生存分析 §A. カプラン・マイヤー法 S.Harano,MD,PhD,MPH.
発表項目 1. 医学教育と薬物療法 2. Guide to Good PrescribingとP-drug 3. P-drugの選択
運動部活動がソーシャルスキル獲得に及ぼす影響について
事前指示書作成における当院血液透析患者の現状意思調査
緩和ケアチームの立ち上げ (精神科医として)
HIV感染症患者のケアの中で 精神科疾患や薬物依存症以外の
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
在宅 役割・準備・訪問   在宅における薬剤師の役割
日本プライマリ・ケア連合学会 利益相反(COI)開示 筆頭演者名: ○○ ○○ 共同演者名: △△ △△、 □□ □□
広島県病院薬剤師会 精神科病院業務検討委員会 学術講演会
日本医科大学千葉北総病院 地域がん診療連携拠点病院講演会
Presentation transcript:

稲垣貴彦 *・*** 、田中恒彦 ** 、丸川里美 *** 、栗原愛 *** 、眞田陸 **** 、 藤井勇佑 *** 、中村英樹 **** 、栗山健一 *** 、山田尚登 *** * 滋賀県立精神医療センター ** 新潟大学教育学部 *** 滋賀医科大学精神医学講座 **** 長浜赤十字病院精神科 第 112 回日本精神神経学会学術総会 at 幕張メッセ

  演者は以下の団体から資金提供を受けている。  滋賀県(寄附講座所属・本研究期間中)  大塚製薬(奨学寄附・本研究終了後)  本研究と直接関係は無いが、 演者は以下の団体からの資金提供を受けている。  塩野義製薬(受託研究)  JA 共済(研究助成)  滋賀医学国際協力会(研究助成) 利益相反

  急性期を離脱した統合失調症の患者に対しては、通常 我々は維持療法を行う。抗精神病薬の継続は再発予防に 有効である( Leucht, 2012 )  しかし、維持療法の目的は再発予防だけではなく、個人 の人生における目標の達成であったり、社会参加など、 多岐にわたる。  他の薬剤からアリピプラゾール( ARP )への変薬により、 患者や家族には ARP が前薬より効果的に感じられ、実際 に QOL を向上させることが知られている( Wolf, 2007 、 Taylor, 2008 )。  一方で、 PANSS の総合得点では ARP は他の薬剤と差を認 めず( Leucht 、 2013 )何が QOL を改善させ、満足度を高 めているのかについては知見に乏しい。 はじめに

  他の抗精神病薬から ARP に変薬したときの症状変化 をより詳細に追跡することで、患者自身の満足度の 改善に寄与する因子が何であるのかを明らかにする。 目的

  前向きケースシリーズスタディ  対象:就学就労をしていない成年統合失調症患者 ただし、 3 ヶ月以内に変薬があった者を除く  期間: ~  本研究は滋賀医科大学及び長浜赤十字病院の 倫理委員会の承認を得ている。 方法

 30W26W10W6W2W0W ARP12mg の加薬 ARP18mg への増量 ARP30mg への増量 前薬の 漸減開始 前薬の 終了 最終評価 方法 2 鎮静が強い場合は 前薬の減量を行う 鎮静が強い場合は ARP12mg まで減量を検討する 0 W と2 W 、 30W に、 QLS, PANSS, SWNS, SDSS, DIEPSS を評価する

  20 名から同意取得を行い、 13 名がプロトコールを完遂した。  ドロップアウト 7 名のプロファイル  2 人が初回アセスメントの前に同意撤回  薬物変更による症状悪化を懸念  1 人が処方変更のプロトコルに従わずに自己変薬  鎮静が強いことを理由に 2 週を待たず前薬を自己中断  1 人が陽性症状悪化のために途中終了⇒前薬へ復帰し速やかに回復  3 人がアカシジアのために途中終了 ⇒前薬へ復帰で速やかに回復  完遂 13 名のプロファイル  性別:男性 8 名、女性 5 名  年齢:中央値 28.0 歳( )  前薬のプロファイル  多剤 4 例、リスペリドン 4 例、オランザピン 3 例、 クエチアピン 1 例、クロルプロマジン 1 例 結果

 増悪群 ( 精神症状及び副作用 ) と完遂群の比較 Mann-Whitney U 検定 : U=7.0 p<o.o5 ES=-0.52 N=4 中央値 % CI N=13 中央値 % CI 6-24 Mann-Whitney U 検定 : U=7.5 p<o.o5 ES=-0.51 N=4 中央値 % CI 9-20 N=13 中央値 % CI 0-17 QLS- 対人関係と社会的ネットワーク尺度 QLS- 仕事・学校・家事などの役割遂行尺度 他の尺度・抗精神病薬処方量には有意な差を認めなかった。 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている

 完遂群の抗精神病薬投与量の変化 中央値 500 ( 95 % CI ) 中央値 525 ( 95 % CI ) N=13 Wilcoxon 検定 : T=13.5, NS

 QLS- 対人関係と社会的ネットワーク尺度の変化 N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =7.9, p=0.02 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている * Dunn 検定 *:p<0.05 開始時と 30W 後の比較: Wilcoxon 検定 ES=0.70

 QLS- 精神内界の基礎尺度の変化 N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =16.0, p= 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている ** Dunn 検定 **:p<0.01 開始時と 30W 後の比較: Wilcoxon 検定 ES=0.83

 QLS- 他の尺度の変化 N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =4.6, NS 仕事・学校・家事などの役割遂行 一般的所持品と活動 N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =0.41, NS 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている

 PANSS- 陽性症状尺度の変化 N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =3.5, NS 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている

 PANSS- 陰性症状尺度の変化 N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =20.5, p< 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている ** **: Dunn 検定 p<0.01 開始時と 30W 後の比較: Wilcoxon 検定 ES=0.88

 PANSS- 総合精神病理尺度の変化 N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =16.8, p= 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている * ** Dunn 検定 **:p<0.01 *:p<0.05 開始時と 30W 後の比較: Wilcoxon 検定 ES=0.81

 SWNS 、 SDSS 、 DIEPSS の変化 N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =3.9, NS SWNS SDSS N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =1.7, NS 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている DIEPSS N=13 Friedman 検定 : χ 2 r =4.8, NS

 変数の変化量の相関 統計解析には Stat Flex Ver. 6.0 を用いている いずれの変数間にも有意な相関を認めなかった Rs=0.21 Rs=-0.26 Rs=-0.51 Rs=0.05Rs=-0.41 Rs=0.52

  ARP への変薬は以下の要素を介して 治療満足度の向上に貢献していると推測された。  ①対人関係の改善  ②陰性症状  ③抑うつ・不安等の精神病症状以外の精神症状  回復期の治療においては再発防止のみならず、これらの要素を 改善あるいは低下させない工夫が必要である。  ARP への変薬は有効な手段の一つであるが。。。。  急性期を乗り越えた患者にとって変薬による症状悪化の不安は、 当初予想していたよりも大きかった。  4 年を超える募集期間内に、研究参加の同意は 20 名からしか得 られず、うち 2 名は変薬への不安を理由に同意撤回している。  実際 4 名は副作用を含む症状悪化を理由に中断した。 (前薬の復元で速やかに改善はしたものの)  特に元来対人関係が比較的保たれ、コミュニティの中での役割 を遂行できている例では変薬は不適切である。 考察

  社会機能改善や精神病症状以外の精神症状に対して 有効な非薬物的治療(家族心理教育、 SST や CBT な ど)の併用を積極的に検討するべきであろう。  鎮静効果の少ない ARP などの薬物の使用を、まず急 性期から検討することも重要ではないかと考える。  対人関係が保たれていない例については、維持期に おいて ARP への変薬を積極的に検討するべきかも知 れない。  その場合はリスクとベネフィットについて、患者や家 族と綿密に意思疎通( Shared Decision Making )を図 るべきであろう。 回復期患者の更なる改善にむけて

 ご静聴ありがとうございました