ヒトの遺伝的多様性と その疾患感受性への影響 平成20年10月23日 第 62 回日本臨床眼科学会・専門別研究会 第 9 回眼科 DNA チップ研究会 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 山田 亮
GWAS ゲノムワイドアソシエーションス タディ アルツハイマー病、心循環器疾患、高血圧、 肥満、ALS、変性性神経疾患、うっ血 性心不全、脳血管障害、気管支喘息、心 肥大、多動症、動脈硬化、躁うつ病、骨 粗しょう症、白内障、2型糖尿病、うつ 病、統合失調症、睡眠時無呼吸症候群、 乾癬、脂肪肝、加齢黄斑変性、ホルモン 補充療法関連副作用、糖尿病性神経症、 SLE、冠動脈バイパス手術、心弁置換 術、関節リウマ チ・・・・・・・・・・・
Genotyping technologies and further developments 100,000 marker-panel 250,000 marker-panel 500,000 marker-panel 1,000,000 marker-panel 2,000,000 markers … ヒトゲノム30億塩基対のうちの 1/1000 箇所 Typing
個人のゲノム ゲノム再シークエン ス 1000 Genomes プロジェクト
Sub-microscopic variants Structural variants Microscopic variants ヒトゲノムサイ ズ 置換型多型 SNP 挿入欠失型 リピート型 向きの多型 ( 逆位 ) 位置の多型 ( 転座 ) CNV( コピーナンバー多 型 ) ♂♀ 多型のいろいろ
「関連遺伝子」の強さ p値 オッズ比・相対危険度 Genotypic attributable risk Genotype-Specific Recurrence Risks
「本当のリスク」に照らして Genotypic attributable risk – あるリスクアレルがあったときに、そのアレルがな かったら、疾患有病者のどれくらいの割合が今より 減るだろうか、という値。 Genotype-Specific Recurrence Risks – 同胞に発病者がいるとする。罹患同胞も、本人も一 切リスクアレルに関する情報がないとしたときには、 本人 ( 罹患同胞を持つ ) のリスクは 「同胞再発危険度」 によって与えられる。今、あるリスクローカスにつ いて、本人のジェノタイプがわかったとすると、そ のわかった分だけ、発病リスクの補正ができる。そ れを数値化したもの。
眼科疾患の最近の成果 The American Journal of Human Genetics, Volume 83, Issue 1, , 26 June 2008Volume 83, Issue 1 AMD(MIM )
眼科領域における GWAS 成果の連発の背景 ~偶然か必然か~
GWAS での成果はどんなときに出る か? 疾患の遺伝性が強い – トータルの遺伝性が強い – 個々の遺伝子の遺伝性が強い 形質が(遺伝的に)純粋
眼科領域における GWAS 成果の連発の背景 ~偶然か必然か~ 眼科疾患の「遺伝性」の特徴は? 眼科疾患(症候群)の病理プロセス上の 特徴は?
疾患の遺伝性強さの評定・・・ Heritability 「遺伝因と環境因との分散の比率」 疫学調査は、ひとまず 疫学者に任せておいて
厳密ではないけれど、より多くの患者を対 象にしているのは臨床の現場 現場実感としての遺伝性の強さ
風邪の家族歴 – 曝露微生物因 MI の家族歴 – 生活習慣環境因 RA の家族歴 – 遺伝因 奇病の家族歴 – いわゆる「環境因」 飲み水、土壌、未知生物・・・
家族歴 遺伝子解析の基礎 – 疾患には遺伝性がある – 疾患が血縁関係者に好発する 好発するとは・・・ – 「普通に」発症している状態より、多く発症 していること 普通とは・・・
「普通に発症」 有病率と同じ程度に発症 –×× 病患者 10 00人を診療している – そのうちの1割、 10 0人の患者の「家族歴」 が陽性であった – 非常にまれな疾患 → 「好発」 – 非常にありふれた疾患 → 「普通に発症」
有病率
遺伝性の「実感」に影響する因 子 遺伝性の強さ 有病率
家族歴の聴取 「ご家族に ○○ 病の方はいらっしゃいます か?」という質問 – 「家族歴陽性」 「 ○○ 病の診断を受けた家族がいる」 「 ○○ 病の診断を受けた家族が、少なくとも1人い る」
家族歴の聴取 「ご家族に ○○ 病の方はいらっしゃいます か?」という質問 – 「家族歴陽性」 「 ○○ 病の診断を受けた家族がいる」 「 ○○ 病の診断を受けた家族が、少なくとも1人い る」 – 「ご家族」の人数は? →N N人が誰一人として、発病しなかった場合以外は、 「少なくとも一人はいる」 –1-( 発病しない率 ) N =1-(1- 発病率 ) N
1 割の患者で家族歴陽性 有病率
両親 両親 + 同胞両親 + 同胞 + 祖父母 + おじお ば 両親 + 同胞 + 祖父母
遺伝性の「実感」に影響する因 子 遺伝性の強さ 有病率 「思い出せる」家族の人数
「家族に集積する」環境因子 「遺伝」するのは、遺伝因子だけではな い – 精神科領域疾患の例 養育・教育環境影響力の父母差 など 「家族歴」から感じる遺伝性を、実際の 遺伝性より大きく感じさせる要因 – もし、あるなら、割引いて、「遺伝因子」の 強さを感じておく必要がある
遺伝性の「実感」に影響する因 子 遺伝性の強さ 有病率 「思い出せる」家族の人数 家系内に伝わる「環境因子」の弱さ
GWAS での成果はどんなときに出る か? 疾患の遺伝性が強い – トータルの遺伝性が強い – 個々の遺伝子の遺伝性が強い 形質が(遺伝的に)純粋
Genome Epi-Genome 発生・分化 Transcriptome Proteome Metabolome Intermediate Phenome Disease Phenome 多段階の多様性
疾患の純粋性? 腹痛の遺伝子探索研究??? 『鑑別診断』 – 異なるものは、異なるものとして・・・ 腹痛 をきたす疾患 食道・胃・腸疾患 * 虫垂炎 * 小腸・大腸の閉塞 * ヘルニア嵌頓 * 消化性潰瘍 * 胃・腸管の穿孔・破裂 * 憩室炎とくにメッケル憩室炎 * 炎症性腸疾患 * マロリーワイス症候群 * 特発性食道破裂( Boerhaave 症候群) * 胃炎・腸炎 * 急性胃炎 * 結腸垂捻転 * 上腸間膜動脈症候群 * 上腸間膜動脈塞栓症 肝臓・脾臓・胆道系疾患 * 急性胆嚢炎 * 急性胆道炎 * 肝膿瘍 * 肝腫瘍の破裂 * 脾破裂 * 脾梗塞 * 急性肝炎 膵臓疾患 * 急性膵炎 腎・尿路系疾患 * 腎結石・尿管結石 * 急性腎盂腎炎 * 腎梗塞 * 急性膀胱炎 産科・婦人科疾患 * 子宮外妊娠(異所性妊娠) * 卵巣茎捻転 * 卵巣嚢胞の破裂 ( 卵巣出血 ) * 急性卵管炎 * 子宮内膜症 * 月経困難症(月経痛・生理痛) * Fitz-Hugh-Curtis 症候群 血管系疾患 * 虚血性心疾患(胃痛として訴えることがある) * 大動脈瘤破裂 * 虚血性腸炎 * 腸間膜動脈への塞栓 腹膜疾患 * 腹腔内膿瘍 * (一次性の)腹膜炎 * 結核性腹膜炎 後腹膜腔の異常 * 後腹膜腔出血 その他 * 詐病・仮病 眼科領域の遺伝因子解析対象疾 患は、『よく分類』されている ということか?
眼科疾患X眼科疾患Y眼科疾患Z P性XQ性XR性XP性XQ性XR性X P性YQ性YR性YP性YQ性YR性Y P性ZQ性ZR性ZP性ZQ性ZR性Z
Genome Epi-Genome 発生・分化 Transcriptome Proteome Metabolome Intermediate Phenome Disease Phenome きれいな疾患分類?
眼科疾患X眼科疾患Y眼科疾患Z P性XQ性XR性XP性XQ性XR性X P性YQ性YR性YP性YQ性YR性Y P性ZQ性ZR性ZP性ZQ性ZR性Z 血管障害 新生血管 糖尿病 外的ストレス 修復機転 機能性細胞の変性・減少 眼科領域の遺伝因子解析対象疾 患は、病理プロセス上も『よく 分類』されているということ か? 中間形質
Genome Epi-Genome 発生・分化 Transcriptome Proteome Metabolome Intermediate Phenome Disease Phenome 中間形質と疾患形 質の関係が単純? きれいな疾患分類?
眼は「発生分化の進んだ臓器・組織」 epigenetics 発現遺伝子数が限定される?
Genome Epi-Genome 発生・分化 Transcriptome Proteome Metabolome Intermediate Phenome Disease Phenome 高度な分化? 中間形質と疾患形 質の関係が単純? きれいな疾患分類? 関与遺伝子数が限定?
Risk Management Mutations –Advantage and Disadvantage Meet environmental variations –Distribute mutations throughout the genome by recombinations so that, High Risk High Return ↓ Low Risk Low Return Gold CashStock 1929
High Risk High Return
Same Total Risk, but Recombination(-)Recombination(+) High Risk High Return Low Risk Low Return
遺伝子数が少ないと、 正規分布ががたぼこ 同程度のリスクマネジメントをするにし ても、分散先が少ないと、『がたぼこ』 する 『がたぼこ』すると、その段差が関連検 定で検出しやすくなる??
Genome Epi-Genome 発生・分化 Transcriptome Proteome Metabolome Intermediate Phenome Disease Phenome 高度な分化? 中間形質と疾患形 質の関係が単純? きれいな疾患分類? 関与遺伝子数が限定?
Many Players for a biological function. Major players and contributors.
Very Major Player without heterogeneity Other players’ function could be heterogenic with some compensation
ハブ ネットワーク Nature Genetics 38, (2006) Systematic mapping of genetic interactions in Caenorhabditis elegans identifies common modifiers of diverse signaling pathways by Ben Lehner et al.
Genome Epi-Genome 発生・分化 Transcriptome Proteome Metabolome Intermediate Phenome Disease Phenome 高度な分化? 中間形質と疾患形 質の関係が単純? きれいな疾患分類? 関与遺伝子数が限定? 遺伝子相互作用ネット ワークが比較的単純?
ポストゲノム時代の疾患遺伝子解 析 ~現状と課題~ 民族差 多型 –SNP と CNP( コピーナンバー多型 ) 遺伝子 – コーディング遺伝子と非コーディング遺伝子 解析規模の拡大 – 統計解析手法
東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析セン ター 理化学研究所遺伝子多型研究センター 関節リウマチ関連遺伝子研究チーム 京都大学大学院 医学研究科附属ゲノム医学セン ター Yusuke Nakamura Koichi Matsuda (Colon Ca) Hitoshi Zembutsu (Drug metabolizers) … Fumihiko Matsuda Nagahisa Yoshimura (ARMD, Myopia) Koichiro Ohmura (Rheumatoid arthritis) … Kazuhiko Yamamoto (RA, SLE) Akari Suzuki Yuta Kochi …