電気伝導の不思議 元素周期表と物質の多様性 「自由電子」って、ほんとに自 由? 電気の流れやすさ、流れにくさ 電子は波だ 電子はフェルミ粒子 金属と絶縁体の違いの根源 超伝導の性質 阪大基礎工 三宅和正
高等学校 物理Ⅱ (啓林館)
金属のモデル: 自由電子の存在 伝導電子 イオ ン 素朴な疑問: 自由電子って本当に自由? 19世紀末にタイムスリップしてみよう(現在の高校物理の世界)
高等学校 物理Ⅰ(啓林館) P . 23
水素原子 陽子 電子 0.1 nm= m 水素原子の周りの電場の強さ = 13.6V / m ≒ 10 9 V/m cf. 日常的な電場の強さ : 100V/1m =10 2 V/m こんな強い電場の影響を受けていて、電子は金属の中を 自由に動けるのだろうか? これは19世紀末の物理学者にとってパラドクス!? 電場=電界
高等学校 物理Ⅰ(啓林館) P . 25 高等学校 物理Ⅰ(啓林館) P . 24
R V I 電気抵抗率 電気伝導率 オームの法則 電気抵抗 試料の形状によらない物 質 固有の性質を反映 単位 ( ・ m) 断面積
室温 (20 C=293 K) での電気抵抗率 アルミニウム (Al) 2.8 ×10 - 8 ・ m 水銀 (Hg) 0.91×10 - 6 錫 (Sn) 1.1 ×10 - 7 銅 (Cu) 1.7 ×10 - 8 鉄 (Fe) 1.0 ×10 - 7 金属(導体) 絶縁体(不導体) ナイロン ~10 13 ・ m 天然ゴム ~10 15 水晶 >10 15
いろいろな金属の電気抵抗率の温度依存性 デバイ温度 Debye T:絶対温度 T≒ 273+ t(℃)
不純物がない完全結晶では
電気伝導率 電場(電界)の定 義 オームの法則 電流密度 = 単位面積を単位時間に 通過する電荷 一般化された オームの法則
緩和時間、または 平均自由時間 電気伝導率の古典力学による導出 S 電子数密度(電子数/単位体 積) 一つの電子に対するニュートンの運動方程式 終 端 速 度 定常な状態での電流密度
平均自由行程 : エネルギー等分配則から電子の平均速度 v を評価 室温 (T~300 K) では これは長すぎる! m = 9.1×10 - 31 kg e = 1.6×10 - 19 C n = 8.5×10 28 m -3 (R: 気体定数、 N A : アボガドロ数 ) ( a : 格子間隔 )
高等学校 物理Ⅰ(啓林館) P . 23
パラドクスを解く鍵は何か? 電子は金属の中で波のように振舞う 電子の運動法則が波動的なものである ー 量子力学に従うー でも、電子は一定の質量と電荷をもっている m = 9.1×10 - 31 kg e = 1.6×10 - 19 C のにどうして?
波の特徴:干渉現象 d1d1 d2d2 |d 1 -d 2 |= 整数 波長 D ( D/ の関数 |d 1 -d 2 |= 整数 +1/2)
電子の速度 アルミの薄膜 電子ビームを観測するフィルム ド・ブロイの関係 h : プランク定数 6.63×10 ー 34 J
波長 運度量 (n: 正の整数 ) L: 結晶のサイズ 電子波の量子化
自由電子の運動エネルギー 1次元 3次元 n x 、 n y 、 n z は正の整数で量子数と呼ばれる
電子のブラッグ反射 格子間隔 (m: 整数 ) ( 結晶のサイズ ) ブラッグ条件 : B =2a B = ブラッグ波長 )
ブラッグ波長 B に対応する量子数 n B n B = 長さ L の結晶に含まれるイオンの数 ≠ B の波長をもつ電子は結晶中を自由に動けるが、 = B の電子は動けない。 しかし、ある物質では電子は自由に動け、別のクラスの 物質では動けないということは可能か?
電子はフェルミ粒子 フェルミ粒子って何? フェルミ粒子: スピン当り一つの波の状態しかとることが出来ない 二つのスピン状態: 時計まわり または 反時計まわり ミクロな磁石 パウリの排他原理
自由電子のエネルギー準位 フェルミ エネルギー フェルミ 波長 結晶のサイズ 1次元モデル 格子間隔
イオン当り電子1ヶが供給される場合: フェルミエネルギー E F 付近の電子は自由に伝播でき 金属的伝導を示す (イオン当り奇数個の電 子) (イオン当り偶数個の電 子) イオン当り電子2ヶが供給される場合: フェルミエネルギー E F をもつ電子は自由に伝播できず 絶縁体となる
金属的伝導 p F :フェルミ運動量 p F =h/ F
ブラッグ反射によるエネルギーギャップの形成
Na MgC (diamond)Si 1価イオン2価イオン4価イオン 禁制帯 空のバンド 占有状態 金属 絶縁体半導体 より洗練された取り扱い ⇒ バンド理論、第一原理計算 物質設計 CMD 空のバンド
以上のまとめ 量子力学的見方をすれば、固体の中で電子が「自由に」 伝播できることが理解される。 物質が金属になるか絶縁体になるかは、ブラッグ反射と パウリ原理に帰着できる。 量子力学は巨視的な世界においても重要な役割を 演じている つぎに、超伝導の話に移ります
水銀(Hg)の電気抵抗 超伝導の発見
黒い部分が超伝導体 白い部分は磁石 YBa 2 Cu 3 O 7
永久電流の観測
臨界磁場の温度依存性(相図)
Nb 3 Sn,YBCO
超伝導の磁束量子化を利用した脳活動の観察
超伝導の発現機構 4 He vs 3 He ヘリウム4,3の相図 1930 年代 1972 年 3 He:フェルミ粒子 4 He:ボース粒子 4 He と 3 He は同位体 原子としての性質は同じ ボース粒子: 一つの波の状態が いくつの粒子で占 拠 されてもよい エネルギー
フェルミ粒子が偶数個集まるとボース粒子となる 4 He =陽子2ヶ+中性子2ヶ+電子2ヶ: ボース粒子 3 He =陽子2ヶ+中性子1ヶ+電子2ヶ: フェルミ粒子 電子のペア(フェルミ粒子2個) =クーパーペア はボース粒子的に振舞う ⇔ BCS理論の基本 ペアを作る相互作用は? 電子とイオン間の引力 (1979年以前) BCS理論: Bardeen、Cooper、 Schrieffer (1957)