電気伝導の不思議 元素周期表と物質の多様性 「自由電子」って、ほんとに自 由? 電気の流れやすさ、流れにくさ 電子は波だ 電子はフェルミ粒子 金属と絶縁体の違いの根源 超伝導の性質 阪大基礎工 三宅和正.

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電子物性第1 第6回 ー原子の結合と結晶ー 電子物性第1スライド6-1 目次 2 はじめに 3 原子の結合と分子 4 イオン結合
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半導体 N型半導体 P型半導体.
前回の内容 結晶工学特論 第5回目 Braggの式とLaue関数 実格子と逆格子 回折(結晶による波の散乱) Ewald球
基礎無機化学 期末試験の説明と重要点リスト
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原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
物理学セミナー 2004 May20 林田 清 ・ 常深 博.
担当: 松田 祐司 教授, 寺嶋 孝仁 教授, 笠原 裕一 准教授, 笠原 成 助教
課題研究 Q11 凝縮系の理論  教授  川上則雄 講師 R. Peters 准教授 池田隆介  助教 手塚真樹  准教授 柳瀬陽一.
黒体輻射とプランクの輻射式 1. プランクの輻射式  2. エネルギー量子 プランクの定数(作用量子)h 3. 光量子 4. 固体の比熱.
アインシュタインの光電効果と ド・ブロイの物質波
前期量子論 1.電子の理解 電子の電荷、比電荷の測定 2.原子模型 長岡モデルとラザフォードの実験 3.ボーアの理論 量子化条件と対応原理
HERMES実験における偏極水素気体標的の制御
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量子凝縮物性 課題研究 Q3 量子力学的多体効果により実現される新しい凝縮状態 非従来型超伝導、量子スピン液体、etc.
担当: 松田祐司 教授, 笠原裕一 准教授, 笠原成 助教
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電磁気学C Electromagnetics C 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
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量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
光電効果と光量子仮説  泊口万里子.
分子軌道理論(Molecular Orbital theory, MO理論)
物性物理学で対象となる 強相関フェルミ粒子系とボーズ粒子系
2次元系における超伝導と電荷密度波の共存 Ⅰ.Introduction Ⅱ.モデルと計算方法 Ⅲ.結果 Ⅳ.まとめと今後の課題 栗原研究室
半導体の歴史的経緯 1833年 ファラデー AgSの負の抵抗温度係数の発見
電子物性第1 第11回 ー金属の電気的性質ー 電子物性第1スライド11-1 目次 2 はじめに 3 導電率(電子バス) 4 欠陥の多い結晶
担当: 松田 祐司 教授, 寺嶋 孝仁 教授, 笠原 裕一 准教授, 笠原 成 助教
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 8/11講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 5/29講義分 電磁場の運動量 山田 博仁.
第6回講義 前回の復習 ☆三次元井戸型ポテンシャル c a b 直交座標→極座標 運動エネルギーの演算子.
キャリヤ密度の温度依存性 低温領域のキャリヤ密度                   ドナーからの電子供給→ドナーのイオン化電圧がわかる                              アクセプタへの電子供給→アクセプタのイオン化電圧がわかる             常温付近                            ドナー(アクセプタ)密度で飽和→ドナー(アクセプタ)密度がわかる.
13族-遷移金属間化合物の熱電材料としての応用
これらの原稿は、原子物理学の講義を受講している
静電場、静磁場におけるMaxwellの式
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
2・1・2水素のスペクトル線 ボーアの振動数条件の導入 ライマン系列、バルマー系列、パッシェン系列.
課題研究 P4 原子核とハドロンの物理 (理論)延與 佳子 原子核理論研究室 5号館514号室(x3857)
原子核物理学 第6講 原子核の殻構造.
固体中の多体電子系に現れる量子凝縮現象と対称性 「複数の対称性の破れを伴う超伝導」
電子物性第1 第10回 ー格子振動と熱ー 電子物性第1スライド10-1 目次 2 はじめに 3 格子の変位 4 原子間の復元力 5 振動の波
[2] 超対称性理論(SuperSymmetry, SUSY) [4] ヒッグス粒子の階層性(微調整・不自然さ)問題
[2] 超対称性理論(SuperSymmetry, SUSY) [4] ヒッグス粒子の階層性(微調整・不自然さ)問題
FUT 原 道寛 学籍番号__ 氏名_______
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電気伝導の不思議 元素周期表と物質の多様性 「自由電子」って、ほんとに自 由? 電気の流れやすさ、流れにくさ 電子は波だ 電子はフェルミ粒子 金属と絶縁体の違いの根源 超伝導の性質 阪大基礎工 三宅和正

高等学校 物理Ⅱ (啓林館)

金属のモデル: 自由電子の存在 伝導電子 イオ ン 素朴な疑問: 自由電子って本当に自由? 19世紀末にタイムスリップしてみよう(現在の高校物理の世界)

高等学校 物理Ⅰ(啓林館) P . 23

水素原子 陽子 電子 0.1 nm= m 水素原子の周りの電場の強さ = 13.6V / m ≒ 10 9 V/m cf. 日常的な電場の強さ : 100V/1m =10 2 V/m こんな強い電場の影響を受けていて、電子は金属の中を 自由に動けるのだろうか? これは19世紀末の物理学者にとってパラドクス!? 電場=電界

高等学校 物理Ⅰ(啓林館) P . 25 高等学校 物理Ⅰ(啓林館) P . 24

R V I 電気抵抗率 電気伝導率 オームの法則 電気抵抗 試料の形状によらない物 質 固有の性質を反映 単位 (  ・ m) 断面積

室温 (20 C=293 K) での電気抵抗率 アルミニウム (Al) 2.8 ×10 - 8  ・ m 水銀 (Hg) 0.91×10 - 6 錫 (Sn) 1.1 ×10 - 7 銅 (Cu) 1.7 ×10 - 8 鉄 (Fe) 1.0 ×10 - 7 金属(導体) 絶縁体(不導体) ナイロン ~10 13  ・ m 天然ゴム ~10 15 水晶 >10 15

いろいろな金属の電気抵抗率の温度依存性  デバイ温度 Debye T:絶対温度 T≒ 273+ t(℃)

不純物がない完全結晶では

電気伝導率 電場(電界)の定 義 オームの法則 電流密度 = 単位面積を単位時間に 通過する電荷 一般化された オームの法則

 緩和時間、または 平均自由時間 電気伝導率の古典力学による導出 S 電子数密度(電子数/単位体 積) 一つの電子に対するニュートンの運動方程式 終 端 速 度 定常な状態での電流密度

平均自由行程 : エネルギー等分配則から電子の平均速度 v を評価 室温 (T~300 K) では これは長すぎる! m = 9.1×10 - 31 kg e = 1.6×10 - 19 C n = 8.5×10 28 m -3 (R: 気体定数、 N A : アボガドロ数 ) ( a : 格子間隔 )

高等学校 物理Ⅰ(啓林館) P . 23

パラドクスを解く鍵は何か? 電子は金属の中で波のように振舞う 電子の運動法則が波動的なものである ー 量子力学に従うー でも、電子は一定の質量と電荷をもっている m = 9.1×10 - 31 kg e = 1.6×10 - 19 C のにどうして?

波の特徴:干渉現象 d1d1 d2d2 |d 1 -d 2 |= 整数  波長 D ( D/  の関数  |d 1 -d 2 |=  整数 +1/2)

電子の速度 アルミの薄膜 電子ビームを観測するフィルム ド・ブロイの関係 h : プランク定数 6.63×10 ー 34 J

波長 運度量 (n: 正の整数 ) L: 結晶のサイズ 電子波の量子化

自由電子の運動エネルギー 1次元 3次元 n x 、 n y 、 n z は正の整数で量子数と呼ばれる

電子のブラッグ反射 格子間隔 (m: 整数 ) ( 結晶のサイズ ) ブラッグ条件 : B =2a  B = ブラッグ波長 )

ブラッグ波長 B に対応する量子数 n B n B = 長さ L の結晶に含まれるイオンの数 ≠ B の波長をもつ電子は結晶中を自由に動けるが、 = B の電子は動けない。 しかし、ある物質では電子は自由に動け、別のクラスの 物質では動けないということは可能か?

電子はフェルミ粒子 フェルミ粒子って何? フェルミ粒子: スピン当り一つの波の状態しかとることが出来ない 二つのスピン状態: 時計まわり または 反時計まわり ミクロな磁石 パウリの排他原理

自由電子のエネルギー準位 フェルミ エネルギー フェルミ 波長 結晶のサイズ 1次元モデル 格子間隔

イオン当り電子1ヶが供給される場合: フェルミエネルギー E F 付近の電子は自由に伝播でき 金属的伝導を示す (イオン当り奇数個の電 子) (イオン当り偶数個の電 子) イオン当り電子2ヶが供給される場合: フェルミエネルギー E F をもつ電子は自由に伝播できず 絶縁体となる

金属的伝導 p F :フェルミ運動量 p F =h/ F

ブラッグ反射によるエネルギーギャップの形成

Na MgC (diamond)Si 1価イオン2価イオン4価イオン 禁制帯 空のバンド 占有状態 金属 絶縁体半導体 より洗練された取り扱い ⇒ バンド理論、第一原理計算 物質設計 CMD 空のバンド

以上のまとめ 量子力学的見方をすれば、固体の中で電子が「自由に」 伝播できることが理解される。 物質が金属になるか絶縁体になるかは、ブラッグ反射と パウリ原理に帰着できる。 量子力学は巨視的な世界においても重要な役割を 演じている つぎに、超伝導の話に移ります

水銀(Hg)の電気抵抗 超伝導の発見

黒い部分が超伝導体 白い部分は磁石 YBa 2 Cu 3 O 7

永久電流の観測

臨界磁場の温度依存性(相図)

Nb 3 Sn,YBCO

超伝導の磁束量子化を利用した脳活動の観察

超伝導の発現機構 4 He vs 3 He ヘリウム4,3の相図 1930 年代 1972 年 3 He:フェルミ粒子 4 He:ボース粒子 4 He と 3 He は同位体 原子としての性質は同じ ボース粒子: 一つの波の状態が いくつの粒子で占 拠 されてもよい エネルギー

フェルミ粒子が偶数個集まるとボース粒子となる 4 He =陽子2ヶ+中性子2ヶ+電子2ヶ: ボース粒子 3 He =陽子2ヶ+中性子1ヶ+電子2ヶ: フェルミ粒子 電子のペア(フェルミ粒子2個) =クーパーペア はボース粒子的に振舞う ⇔ BCS理論の基本 ペアを作る相互作用は? 電子とイオン間の引力 (1979年以前) BCS理論: Bardeen、Cooper、 Schrieffer (1957)