基礎ゼミ第 17 章 自然界の光 (2) 散乱による現象 2016 年 4 月 21 日 西村 彬
目次 1.光の散乱特性 散乱とは 散乱の分類 レーリー散乱 チンダル現象 ラマン散乱 補足:偏光とは何か 2.自然界における光の散乱効果の分類 分類の例 多重拡散 ビーナスバンド 黒体放射 彩雲
1.光の散乱特性 自然界には様々な色が存在する。夕焼け、虹 etc これらの色はどこから来ているか? → 多くの色は太陽からの光の散乱現象によってもたらされている。 この章では光の散乱現象について扱う。 → では、光の散乱とは何か?
光の散乱 何らかの物質に光が当たり、あちこちに散らされること。 → 物質とは?光の進行方向に存在する微粒子など。 例:太陽光の場合 → 太陽からまっすぐ進んできた光が、地球の大気中のちりや大気の 揺らぎなどで乱され、それによって様々な方向に進んでいく。
太陽光 自然界に光を与える主な要因。 可視領域( 400~700nm )に渡って連続なスペクトルを持っている。 → 故に、光の波長の長さと光を散乱する物質の大きさの関係によっ て、散乱の様子が変わってくる。
反射、散乱の様子の違い 光の波が物体に反射または散乱されるときの様子は、その物体の大きさと、 光の波長の長さとの関係によって3つのパターンに分けられる。 3つのパターンとは、 1.物体が波長の長さに比べて大きいとき 2.物体が波長の長さと同じくらいの大きさであるとき 3.物体が波長の長さに比べて小さいとき
1及び2のパターンの比較 物体>波長 物体の大きさが ~mm 以上である。 ほぼ幾何光学的に反射、散乱する。 散乱による波長依存性はなく、物体固有 の色と吸収を反映する。 この場合に起きる現象の例として、太陽が 水面で反射した時に生じるグリッターとい う光の帯 物体≒波長 散乱の波長依存性などはほとんどない。 可視全域をほぼ一様に散乱させる。 すなわち、散乱光はその物体固有の色と 係なく白く見える。 例としては水蒸気、雲など 物体の大きさは ~μm これをミー拡散という。
補足:幾何光学的とは何を指すか ここでは、光の波動性を考慮せず、光を一本の「光線」とした上で反 射や屈折の法則を用いてその経路を論じているということ。
グリッター 太陽が水面で反射した際、水面に立つさざ波の斜面が鏡となることに より見える光の帯。「太陽の道」などとも呼ばれる。 いくつもの太陽の像が見る人の目に届くことによって帯状に見える。
1、2と3のパターンとの比較 物体≧波長 波長依存性なし 幾何光学的散乱をする。 物体<波長 強い波長依存性を持つ 単位面先当たりの散乱強度( scattering intensity )をもつ。 この場合の散乱を特に、レイリー散乱と呼 ぶ 物体の大きさは ~100nm 以下
レーリー散乱 19 世紀の物理学者レーリーの名から。光の波長よりも小さい粒子によ る散乱のことを指す。 空の青色、夕日の赤い光などはこれによるもの。 強い波長依存性を持ち、散乱強度の値を持つ。
散乱強度 下に散乱強度の式を示す。 n: 粒子数、 d: 粒子径、 m: 反射係数、 λ: 波長 意味:散乱される確率は、波長の 4 倍に反比例する。 波長が短いほど大きな値をとる。 例として、紫光は赤光の 10 倍は強く散乱される。この性質により、 空が青く見えることなどの説明がつく。
チンダル現象 ミー散乱による散乱の際に見られる現象。入射した光の道筋が斜めや 横から光って見える現象のことを指す。 薄明光線(いわゆる「天使の梯子」)はこれの一種。コロイド溶液な どで観察されることも有名。
ラマン散乱 自然界において、入射波と反射波が同じ波長であるような散乱(=弾 性散乱)がよく見られる。 一方で、散乱波の波長が変化する散乱も存在する。代表的なものとし て、このラマン散乱が挙げられる。 インドの物理学者ラマンは、分子によって散乱された光の中に入射光 と異なった波長のものがあることを知り、その光の振動数が分子の固 有振動数と同じになっていることを発見した。
余談:偏光とは? 光の性質を決める電磁ベクトルがある特定の方向にしか振動しないような光。 通常人間の目では見ることはできず、検出には偏光子という素子を用いる。 だが人間の目の網膜には複屈折、二色性を示す部分があり、それにより偏光 がわずかに見えることがある。 二色性 : 二つの成分のうち一つを吸収する。偏光子の元となる 3 つの物理現象 に分類される。 ハイディンガーのブラシ : 偏光している可視光を見たときに見える帯のよう な模様のこと。
2.自然界における光の散乱効果の分類 光学現象は太陽光を光源として、種々の効果が重なり合って発生して いる。 1.散乱光のみが見えるもの ex. 青空、雲、タバコの紫煙など 2.散乱光と背景が重なって起こるもの ex. ビーナスバンドなど 3.散乱光と光源が重なって起こるもの ex. 夕日の赤い太陽など
多重散乱 今までの話では散乱が一回起きた場合についてのものであった。 → 実際は散乱は何度も行われる。このように複数回の散乱が続けて 起こる現象を多重散乱という。 Q. どのような場所で起きているか? A. 雲など → 雲は無数の水滴の微粒子の集合体であり、入射したすべての光が 周囲に散乱光として出射する。その結果、雲が白く見える。
ビーナスバンド 赤い帯状の光が背景の山などに映る現象のことを指す。 ビーナスベルト、ローズベルトとも。 夕日、朝日の時に起こりやすい。レーリー散乱によって赤い光だけが 残った太陽光が赤い帯の正体。
黒体放射 黒体が放出する熱放射(エネルギーが電磁波として放出されること ) 。 その値は黒体の温度から決定されることが多い。 黒体とは? → すべての波長の電磁波を吸収できる物体のこと。 太陽光とは太陽の黒体放射により放出される電磁波のことを指す。 下に太陽放射のエネルギーの波長と強さの様子を示す。
彩雲 自然現象の一。晴れた日に高い雲の縁付近に現れる、場所によって色 が変化する雲。 雲の縁では氷や水の粒子の集まりが大きさを変えながら分布すること があり、そこからの散乱光が見る場所によって様々な色を示す。
参考文献等 分かりやすい高校物理の部屋 (プリ ズムの画像) 分かりやすい高校物理の部屋 TABIZINE ( 彩雲の写真 ) 啓林館 第一節 地球の熱収支 1/3-bu/3-2-1.htm 1/3-bu/3-2-1.htm ダ・ヴィンチニュース (ビーナス ベルトの写真)
英 wikipedia “sun glitter” 光学総合サイト いまさらきけない光学計算 理科年表オフィシャルサイト らくらく科学実験(チンダル現象の写真) ナノフォトン株式会社 ラマン分光法の原理と特徴 FN 高校物理 偏光とは何か
「光の物理 光はなぜ屈折、反射、散乱するのか」 2002 年 / 小林浩一 / 東京大学出版会 「空の色と光の図鑑」 1995 年 / 斉藤文一ほか / 草思社 「光への正体」 2000/ 岡村康行 / 森北出版 「光工学が一番わかる」 2011/ 前田譲治 / 技術評論社 「光散乱法の基礎と応用」 2014/ 柴山充弘 / 講談社 「光と物質」 1986/ 桜井邦朋 / 東京教学社