酸素測定の臨床 諏訪邦夫 帝京大学 2004 年 9 月札幌第 9 回酸素ダイナミックス研究 会.

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酸素測定の臨床 諏訪邦夫 帝京大学 2004 年 9 月札幌第 9 回酸素ダイナミックス研究 会

本日のアウトライン Po 2 電極が解決したこと:麻酔中の肺は異 常 – 麻酔と酸素投与の歴史 麻酔で酸素を測定(モニター ) する意味 – 医療過誤:高岡その他の事件 – 最終的解決はパルスオキシメーターで 脊椎麻酔で死ぬな:麻酔と手術の危険の裏側 飛行機の中の酸素レベル 現代医療の大きな問題:「脳の健常性」モニ ター

「麻酔と酸素」の歴史 19 世紀半ば:吸入麻酔発見 20 世紀初頭には吸入麻酔普及 20 世紀前半:「麻酔には酸素が必 要」の認識が確立。理由は不明。 1950 年代:酸素電極発明 1960 年代:麻酔で肺の酸素化能低 下の発見、確立

上腹部手術の Fio2 と Pao2 (1965 年の論文から )

覚醒時と麻酔時のガス交換能

Pao 2 低下の主メカニズム

麻酔事故と酸素の問題 事故の主因はハイポキシアだった 麻酔事故の原因としてのハイポキシア – いろいろなパターンがある 1980 年代までは、管理法自体に問題 現在でも未解決な面は残るが – 現在では「体制」が主因

事故減少の過程:モニター 1960 年代:肺酸素化能低下の事実判明 その後、メカニズムも判明 パルスオキシメーターで真の「モニ ター」に – 勉強不要、連続、実時間、無侵襲 ハイポキシアによる心停止の事故率 –1960 年には 2000 件に 1 件 –2000 年には 10 万件に 1 件(外国のデータ ) – 付随的 → 麻酔科医の医療過誤保険料低下

脊椎麻酔で死なないために 脊麻後遅発性呼吸循環停止 概念:脊椎麻酔 30 分以上経過後に、呼 吸停止と心停止が発生 注意していない時点で発生するので、 発見が遅れ蘇生困難 「脊椎麻酔 1 件 8 千円」という健保価格 の設定が主因 睡眠時無呼吸と関係?

脊椎麻酔で死なないために 脊麻後遅発性呼吸循環停止 問題点:誰も明確に認識していない – 脊椎麻酔施行直後の危険はよく知られるが – こちらは教科書に記述なし – 裁判例には多い – 「特異体質」として片付けられる? 頻度は低い。日本で年間に多分 10 例未満 – 脊椎麻酔の数は年間百万件 注目されるようになったのは 1990 年代以降

知られざる長距離飛行の危 険?

実験 : 飛行機内で息こらえ ( 2000 年 ) 偶然パルスオキシメータ所持 定常換気時の Spo2 は少し低い (98vs95%) 息こらえで Spo2 激減 例 :FRC から息こらえで 平地なら 30 秒で 90% 弱 低圧では 30 秒で 80% 未満 初期値の差は 3% で 最終値の差は 10%

息こらえ : 平地と高地 :FRC 時間 Spo2 の差 0 秒 2.4% % % % とギャップが大きくなった.

高地の息こらえで Spo2 が下る理由 ? 3 つの因子の和 1) 初期値が低い 2) 肺内酸素量は少く酸素消費量は同じ 3) 酸素解離曲線の急峻部に入る

社会的問題 として解決必要 飛行機搭乗は安全ではない – 特に老人と睡眠時 – 気道閉塞 : 睡眠時無呼吸 睡眠薬とお酒は ? 中高年の登山にも同一の問題

対 策 パルスオキシメーターをもって乗る ? 酸素を使う ? 眠らない ? 現時点ではとにかくデータがない 高地トレッキングの事故の一因にも

最後に:現代医療の大きな問 題 「脳の健常性」をモニターしていない – 手術が終わったら目覚めない – 手術はうまく行ったが麻痺が残った – 交通事故で命は助かったが意識が出ない – 「こんな辛い眼に遭うなら死んだほうが」 脳の評価を実時間で連続的にしたい。 – 脳波は使用不能:麻酔薬の作用が強い

酸素モニターの将来と期待 麻酔、心臓手術、意識のない患者、重 症患者で「脳の健常性」を常時確認した い 近赤外線モニターに希望 が・・・・・・・ EEG の場合 – 発見 (1930) 、麻酔に導入( 1950 )、実用化 ( 1990 )まで 60 年を要した。 現時点で何がネックか不明、他の技 術?

今度は本当の「最後」 「医学」でなくて「医療」に役立たせる には 「企業化」が不可欠 パルスオキシメーターの場合 脳波の場合 スワン・ガンスカテーテルの場合 飛行機の ADE( 除細動器 ) も?

終わりです