ジャーナルクラブ 「周術期におけるヘパリンブリッジ」 聖マリアンナ医科大学 救急医学教室 津久田純平.

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ジャーナルクラブ 「周術期におけるヘパリンブリッジ」 聖マリアンナ医科大学 救急医学教室 津久田純平

NEJM 2015 Jun 22 PMID: BRIDGE study

背景 心房細動を有する患者の待機的手術 ワルファリン中止中に塞栓予防に抗凝固療法をブリッジすべきかはよくわかっていない。 日本のガイドライン 〜抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン 2009 年〜 クラスⅠ なし クラスⅡ a’ (有効・有益であるといった意見が多い) 大手術の 3-5 日前からワルファリン中止+ヘパリンブリッジ ヘパリン投与 −10,000 〜 25,000 単位 / 日 APTT 1.5 〜 2.5 倍 − 術前 4-6 時間前に中止もしくは直前にプロタミン使用し APTT の正常範囲を確認 − 可及的速やかに再開し、止血が得られればワルファリン再開し、 INR が至適になればヘパリンを中止 AHA/ACC guideline 〜 Circulation 2014; 130: 〜 人工弁患者でのヘパリンブリッジ以外の記載なし (grade 記載なし ) ACCP guideline 〜 Chest 2012; 141: 〜 血栓の High risk ではヘパリンブリッジが望ましい (grade 2C)

論文の PICO 研究デザイ ン RCT P atients 心房細動を有する患者 待機的手術 or 侵襲的処置 I ntervention 周術期のプラセボ投与 ( 非ブリッジ群 ) C omparison 周術期の低分子ヘパリン投与 ※ ( ブリッジ群 ) O utcome 30 日以内の − 塞栓症 ( 脳梗塞 全身塞栓症 TIA) − 出血合併 ※低分子ヘパリン投与 ダルテパリン: 100 単位 /kg sc q 12 術前 -3 日〜 -1 日 術後 0 日〜 5-10 日 ワルファリン中止と再開:術前 -5 日から中止し術後 1 日以内に再開 詳細は後述 ダルテパリン ® 薬価 780 円 /5,000 単位 ( 後発品 ) 先発品 1,201 円 /5,000 単位 日本での保険適応: DIC 、透析回路の凝固予防

患者選定 Inclusion criteria -18 歳以上 - 慢性 or 発作性心房細動 -3 カ月以上ワルファリンを内服 (INR 2- 3) - 待機的手術 or 侵襲的な処置が予定 -CHADS 2 スコアが 1 点以上 Exclusion criteria - 機械弁 -12 週以内の脳梗塞・全身性塞栓症・ TIA の既往 -6 週以内の大出血 - クレアチニンクリアランス 30ml/min 未満 - 血小板 10 万 /mm3 未満 −HIT 患者 − 妊婦 - 心臓手術、頭蓋内手術、脊椎手術 −2 個以上の手術予定 − 同意困難 − 他の研究に分類されている

study design ランダム割付 Study Day その日の夕方 or 翌日 量は術前同量 24 時間 low risk 時間 high risk INR が②以上の至適

Outcome Primary efficacy outcome 動脈塞栓症 虚血性 or 出血性梗塞 TIA 全身性塞栓症 ※ 1 secondary efficacy outcome 急性心筋梗塞 DVT 肺塞栓症 死亡 Primary safety outcomemajor bleeding ※ 2 secondary safety outcomeminor bleeding ※ 3 ※1 全身性塞栓症:上下肢・腸管虚血 手術や画像で同定 他の原因が否定 ※ 2 major bleeding ;症候性や顕性出血、致死的 解剖学的に重要な臓器(頭蓋内、後腹膜、眼内など)

侵襲の分類 内視鏡検査(生検問わず) 心臓カテーテル検査 歯科手術 皮膚手術 眼科手術 1時間以内に終わる手技 消化管手術 胸部外科 整形手術 AAA 手術などの血管手術 泌尿器手術 ペースメーカー埋め込み術 ポリープ切除術 腎生検 Minor Major

統計解析 片側検定≦ ( 既存薬より優れているという優劣性は成立しなくても良い ) Non inferiority margin は 1% 研究開始前のサンプルサイズは α0.05 、検 出力 0.8(1-β) とし、ゆとりを持って各群 1,813 名 中間解析を重ね、両群合わせて 1,882 名

割付け患者 2009/7−2014/12 アメリカ / カナダ 108 施設

6 割程度

There were no significant differences between the groups (P<0.05).

Minor Major

周術期 抗凝固療法 ワルファリン治療 アスピリン治療

続き 低分子ヘパリン or プラセボ

☆:非劣性の p 値 † :優越性の p 値 95% 信頼区間: -0.6 から 0.8 < 1.0 RR % 信頼区間: 0.20 から 0.78

Discussion

既存治療であるヘパリンブリッジと比較 し非ブリッジでも血栓リスクを増悪させ ないことがわかった。 安全面、認容性、簡便性、コストを考慮 しても周術期の血栓リスクが小さいと考 えられる場合はヘパリンブリッジは必須 ではないと考えられる。

Circulation 2012; 126: 目的目的 ビタミン K 拮抗薬使用患者の周術期ヘパリンブリッジの有効性 方法方法 Medline , EMBASE , Cochrane 2001 年 1 月~ 2010 年 7 月に出された英論文 対象対象 34 件(コホート 33 件+ RCT1 件: 12,278 例) 結果結果 血栓塞栓イベント OR : % CI : 出血イベント (major bleeding) OR : % CI : ⇒本研究と同様の結果だった

血栓イベント 出血イベン ト

ORBIT-AF 目的目的 心房細動患者における抗凝固療法の中止とその間のブリッジ療法の是非 方法方法 Prospective observational study 対象対象 7372 例で抗凝固療薬を使用 2 年間で 2803 例の中断 24% でブリッジ療法 (n=665) 結果結果 心血管イベントは有意差なし 出血合併は増える

ORBIT-AF BRIDGE trial Meta-analysis 周術期の塞栓リスクが過剰評価 ブリッジすることで塞栓のリスクは軽減されない

本研究の Limitation 標本作成において機械弁患者を除外したよう に本来ブリッジすべき症例を除外しており代 表標本として不十分である。 CHADS 2 score が 5 点以上が全体の約 3% 程度 と血栓の高リスク群が占める割合が少ない。 頸動脈剥離術、大きながんの手術、心臓手術、 脳手術が含まれていない。 過去の研究から当初検討されていた血栓合併 の率が低く( 1% と見積もるも実際は 0.4% )、 サンプルサイズにも影響があったかもしれな い。

本研究の Limitation 新規の経口抗凝固薬(ダビガトランな ど)についても同様のことが言えるかま では不透明 本研究での出血合併は約 3.2% であったが、 これはこれまでの報告での出血合併より も低く、プロトコールをより正せばさら に出血合併が減らせるかもしれない。

従来薬は確立された治療か? 日米のガイドラインおよび本研究でも述 べられているが、血栓の高リスク群にお いては従来薬(ヘパリンブリッジ)も有 効であると考えられる。 ただし、日本では本研究で使用されてい た低分子ヘパリンでのヘパリンブリッジ はあまり一般的ではない。

従来薬のプラセボに対する効果は? 先に挙げたメタアナリシスで検討 プラセボ群の方が血栓イベントが少ない という結果であった。 ARR = 非ブリッジ群ーブリッジ群 RR = ブリッジ群 / 非ブリッジ群 ブリッジ群 (n=1691) 非ブリッジ群 (n=3493) 血栓イベント (%) 19(1.1)32(0.9)

非ブリッジ群がブリッジ群より いいと言うためには? non inferiority margin を決める手続きが重要!

non inferiority のマージンの設定は妥当か? f 値の検討はなされているか? 過去の研究で見積もられた血栓イベントの起 こる割合からイベント発症率を 1% と考え、 そのプラセボとのオッズ比からマージンを算 定した ( 本研究で血栓イベントを考慮する際 に使用された論文がいずれもオッズ比を用い ている ) 。 既存治療の効果を保つための fraction の記載は ないが、恐らく 0.5 を使用していると思われ る。つまり効果の半分が担保できれば治療効 果が劣らないと証明できたこととする。

ARD 、 OR 双方で検討されているか? 本研究での non inferiority は ARD のみでの証 明であり、 OR での記載は無かった。理想 的には ARD 、 OR ともに非劣性が示された方 が信頼性は高いと言える。

当施設での現状と提言 全てのワルファリン使用患者でヘパリンブリッジ を行っている。 ACCP ガイドラインにある血栓の高リスク群 ( CHADS 点、人工弁など)であればヘパリン ブリッジが有効であるが、低から中リスク群はリ スク・ベネフィットを十分踏まえてヘパリンブ リッジを検討すべきだと考えられた。 ただ日本でのガイドラインでは risk strafitication な く全ての心房細動患者でヘパリンブリッジが推奨 (Ⅱ a )されており、術式やオペレーターと相談し ながら全症例でヘパリンブリッジの是非について 検討すべきである。