1 再犯防止対策としての 就労支援の重要性 大津ロータリークラブ例会卓話 琵琶湖ホテル 法務省 大津保護観察所 所長 染田 惠
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現在の日本の犯罪・非行状況と課 題 1 刑法犯の認知件数全体は,ピークの平成 14年以降一貫して減少し,昨年はほぼ半 減した。 2 しかし,成人,少年ともに,刑法犯検挙 人員に占める再犯者・再非行少年の比率は ,平成9年以降一貫して増加している。 3 さらに,65歳以上の高齢犯罪者は,そ の間も一貫して増加し,ついに,活発な2 0代を検挙人員で上回った。 4 量的には減少しても,処遇困難な再犯者 ・再非行少年,高齢犯罪者が増えて,質的 な問題が顕在化している。 3
4 一般刑法犯 検挙人員中の 再犯者人員・再犯者率の推移 平成9年以降再犯者率 は一貫して増加
5 少年の一般刑法犯 検挙人員 再非行少年率の推移 平成9年以降再非行少年率は 一貫して増加
6 なぜ再犯を防止することが重要か 「再犯に関する総合的研究」 ( 過去約 60 年間 ( ) の電算犯歴の分析 ) 3割弱の再犯者が全体の6割近い犯罪を犯している
一般刑法犯 検挙人員の推移(年齢層別 ) 7 65歳以上の高齢者と20代の若者の 検挙人員が逆転。50代を超えて,ト ップとなるのも時間の問題。
高齢者の入所受刑者人員の推移 高齢者率は過去20年一貫して増 加
9 刑事司法手続の流れと保護観察の位置づ け (データは平成 24(2012) 年) 仮退院 3,400 人 仮釈放 15,000 人 保護観察付執行猶予者 3,400 人 保護観察処分決定 23,000 人 新規受刑者 25,000 人 不起訴 86万人 起訴 44万人 新入院者 3,500 人 不開始・不処 分 9 万人 送致 12万人 入所人員 13,000 人
法務省保護局 地方更生保護委 員会 保護観察所 ・全国8か所 ・仮釈放等に係る調査や決定 ・委員63名,保護観察官等約200名を配置 ・全国50か所(各都府県1か所・北海道は4か所) ・保護観察,生活環境の調整,医療観察等の第一線の実施 機関 ・保護観察官約980名,社会復帰調整官約160名 法務大臣 保護司 ( 定員52,500人) 更生保護施設 (104施設) 協力雇用主 (約1万1千事業者) 更生保護女性会 (約18万人) BBS 会 (約5,000人) 更生保護行政全般の企画,立案等 更生保護 ( 犯罪者・非行少年の社会内処遇 ) の担い手 諸外国と比較して多数の民間篤志家 に支えられた官民協働体制が特徴 更生保護ネットワーク ホームページ
11 保護観察の実施方法 (1) 保護観察官 保健・医療・福祉・教育機関など 指 導 監 督 更生保護関係団体 補 導 援 護 保護観察対象者 保護司 官民協働態勢 遵守事項の遵守 保護観察対象者は,一般遵 守事項のほか,遵守すべき特 別の事項が定められたときは ,これを遵守しなければなら ない. (更生保護法第 51 条 1項) ① 保護観察処分少年 ② 少年院仮退院者 ③ 仮釈放者 ④ 保護観察付執行猶予処分者 専門的処遇プログラムなど 刑事司法機関との多機関連携体制
12 保護観察の実施方法 (2) 補導援護 保護観察対象者の更生や社会への再統合促進に必 要な,住居,就労,教育,保健・医療等に関する 各種の支援を,法務省と関係機関・団体等との多 機関連携の下で行うこと。 多機関連携の下での処遇の例 ①法務省と厚生労働省との連携による刑務所出所 者等総合的就労支援対策 ②矯正施設収容者に対する釈放後の生活支援等の ために実施される生活環境の調整のうち,一定の 要件を満たす者に対する特別の生活環境調整制度
13 犯罪者の多機関連携処遇のイメージ 処遇開始刑事司法機関に よる処遇終了 アフターケア期 間 強制措置可能期間 処遇提供機 関・団体・個 人 刑事司法機関を含む国等 の機関及び民間 刑事司法機関以外の国等 の機関及び民間 継続的処遇 (through care) 支援的処遇継続 法定期間満了 再犯危険性評価 初回評価中間評価終了時評価初回評価中間評価
再犯防止のために,なぜ就労支援が必要 か 1 就労の有無は,世界各国における多数の 実証研究によって証明された,動的再犯危 険因子 ( 犯罪者処遇によって変えることがで きる再犯危険因子 ) の一つである。 2 日本の実証データにおいても,有職者と 無職者では,再犯率に顕著な差異がある。 3 他方,犯罪・非行の前歴のある者が,そ の前歴を開示して,就職することは,社会 的な偏見等もあって容易ではない。 4 そのため,前歴承知で雇用する更生保護 協力雇用主の存在は貴重である。 14
7.5% 29.8 % 有職者無職者 保護観察対象者の再犯率-有職者と無職者の比較 平成20年~24年の5年間に,無職で保護観察を終了 した者と有職で保護観察を終了した者との再犯率の比較 無職者は 有職者の 約4倍
刑務所再入所者に占める無職者の割合 刑務所再入所者 の約7割が 再犯時無職 * 再入所者とは,刑務所に2回以上服役した者。 ( 平成 21 年版犯罪白書 )
厚生労働省 ○ 職業安定所職員による講話等 ○ ハローワーク・ガイドブックの配布等 ○ 職場体験講習 ○ トライアル雇用奨励金 (4万円 × 3ヶ月 を 事業主 に支給 ) ○ セミナー・事業所見学会 ○ 職業安定所に相談窓口を設置 刑務所出所者等総合的就労支援対策 (平成18年度~) 法 務 省法 務 省 ○ 職業訓練の充実 ○ 就労支援指導等の充実 ○ 協力雇用主の拡大 ○ 身元保証の実施 ( 平成 24 年度政府予算として 3,500 万 円を計上・本人が支払う保証料の補助) 連携 保護観察所 矯正施設 ○ 刑務所出所者等の就労支援を総合的・一元的に実施 ○ 法務省と厚生労働省(刑務所・保護観察所・ハローワーク)との連携 を強化 在所中の 支援 出所後等の 支援 平成18年 からの 6年間 で 約12,600人 の 就労を確保 就労確保のための仕組の構築( 1)
民間による就労支援(1) 協力雇用主 犯罪や非行をした人の前歴 に こだわらずに積極的に雇用し, その立ち直りに協力する民間 の 事業者 協力雇用主 全国の協力雇用主の数 11,044 ( 2013 年 4 月 1 日現在) 就労確保のための仕組の構築(2 )
現在 11, 044
滋賀県の保護観察事件数 現在 ※3協力雇用主会地域 → 大津保護区,草津保護区 ,彦根保護区
滋賀県内協力雇用主雇用実績 22 協力雇用主数 166 ( 末 ) 協力雇用主の下に帰住して住み込み就労 することにより,住居と就労双方を同時 に確保できる場合もある。
民間による就労支援(2) 就労支援事業者機構 ○ 全国規模の経済団体・企業・更生保護法人等により平成 21 年にNPO法人とし て設立 ★ 会員数 517 (トヨタ自動車など) ○ 刑務所出所者等の雇用拡大の支援や広報の充実を図る 全国就労支援事業者機構 ○ 地域経済関係者が中心となり,平成 22 年度中に全都道府県(北海道は4か所) に NPO法人として設立 ○ 協力雇用主の開拓,雇用企業に対する給与補助等の奨励金の支給等を実施 ○ 刑務所出所者等の雇用の拡大を支援 民間団体と法務省・保護観察所が連携して支援 都道府県就労支援事業者機構 就労確保のための仕組の構築(3 )
内閣府全国調査 (2013) 抜粋 「過去に犯罪や非行をした人たちを 積極的に雇用すべきか」 24 全国から無作為抽出した 20 歳以上の市民 1,855 人 (3,000 名 に対する有効回収率 61.8 % ) に, の間に,調 査員が個別面接調査 ( 再犯防止対策に関する特別世論調 査 )
身近なところからできる就労支 援 1 滋賀県就労支援事業者機構の会員登 録をして,寄付金や賛助会費等によっ て,協力雇用主の育成支援を行う ( 税務 上,「経費」として処理可能 ) 2 自ら協力雇用主登録をして,犯罪・ 非行前歴のある者を雇用する ( 法務省・ 厚生労働省との連携による刑務所出所 者等総合的就労支援対策による雇用主 への各種の支援あり。 ) 25
共生社会の実現に向けて (1) 1 日本においては,服役期間は平均で3年以 下であり,半数以上が満期前に仮釈放される ことを踏まえると,犯罪をした者は,一般市 民の想像よりもはるかに早く社会に戻ってく る。 2 少子高齢化の結果,2010年から総人口 は減少に転じ,生産人口も2013年に8, 0 00万人を割り込んだ現在,年間3万人の刑 務所釈放者は貴重な労働力。 3 犯罪者が再犯して刑務所に入所すると1年 のコストは約300万円,他方社会復帰して ,例えば年50万円納税した場合,国全体の コスト比較で大きな差異。 26
共生社会の実現に向けて (2) 4 このような再犯防止によるコスト節 約は,少子高齢社会における他のニー ズのために支出することができ,国全 体での資源の最適配分が可能となる。 5 犯罪をした者であっても,居場所 ( 住 居 ) と出番 ( 就労 ) の確保を支援すること により,彼らとの共生社会を実現する ことは,市民の協力によって実現可能 。 27
28 ご清聴ありがとうございました。 協力雇用主育成のため,皆様の温かな ご支援を心からお待ちしております。 Dr. Kei Someda Director Otsu Probation Office Ministry of Justice