終末期医療に関するガイドライ ン ① 患者の意思・事前意思が確認できる場合 はそれを尊重し …… ⇒事前指示 ② (確認できない場合)患者の意思が家族 等の話より推定できる場合は、その推定 意思を尊重し …… ⇒代行判断 ③ (推定できない場合)患者にとっての最 善の利益になる医療を選択する …… ⇒最善の利益判断.

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Presentation transcript:

終末期医療に関するガイドライ ン ① 患者の意思・事前意思が確認できる場合 はそれを尊重し …… ⇒事前指示 ② (確認できない場合)患者の意思が家族 等の話より推定できる場合は、その推定 意思を尊重し …… ⇒代行判断 ③ (推定できない場合)患者にとっての最 善の利益になる医療を選択する …… ⇒最善の利益判断

誰が代理判断者となるか? 「関係性の中での自己決定」 (⇔欧米;個の自己決定) * 誰が代理判断者となるのか * 家族は代理判断者として適切か * 家族の意思だけで足りるのか * 成年後見人の医療に関する同意権

家族による代理判断は適切か? 家族の話し(意思決定)は 「患者本人の意思を推定しているの か?」 「家族自身の願望ではないのか?」 * 家族等による同意⇒本人の同意権の代行に すぎず、第三者に同意権を付与しているも ので はない。 * 家族関係はどうか?利益相反はないのか?

誰が代理判断者になるのか? 家族による患者意思の推定が許される場合 (東海大学事件判決:平成 7 年) ① 家族が、患者の性格・価値観・人生観等について 十 分に知り、その意思を的確に推定しうる立場に ある ② 家族が、患者の病状・治療内容・予後等について、 十分な情報と正確な認識をもっていること ③ 家族の意思表示が、患者の立場に立ったうえで、 真摯な考慮に基づいたものであること ④ 医師が、患者又は家族をよく認識し理解する立場 に あること

参考資料:日本の判例: 川崎協同病院事件控訴審 2007 年 ☆家族は患者の自己決定の代行⇒不可 ☆家族は患者の意思推定⇒フィクション? 家族の意思を重視することは必要だが、家族 の 経済的・精神的不可の回避という思惑が入る 危 険がある。 自己決定権という権利行使により治療中止を 適 法とするのであれば、このような事情の介入 は、 患者による自己決定ではなく、家族による自 己 決定となるので否定せざるを得ない。

Q4 ; 法的視点 QA 法律や判例に違反 していなかったの か? 胃ろうをしなかっ た私たちは訴えら れることはないの かしら? 家族は「自然のまま で・・・」という意思を 貫いた

朝日新聞 2006 年 3 月 26 日

アメリカにおける終末期医療 臨床現場におけるコンセンサスは一朝一夕 にできあがったものではない 過剰医療への疑問・自己決定権の侵害・イ ンフォームドコンセント訴訟など ↓ 延命治療差し控え・中止の判例の積み重ね ↓ 実際の医療現場のコンセンサスを形作る

法的判断(判 例) 倫理的視点 患者 医療現場 臨床におけるコンセンサス 医療現場=倫理的視点=法的視点

海外における判例 カレン・クィンラン裁判(米 1976 ) 遷延性植物状態であったカレンの人工呼吸 器取り外しを、父親が、彼女の以前の意 向に沿って求めた事件 <ニュージャージー州最高裁>本人のプラ イバシー権には治療を拒否する権利も含 まれ、死にゆく過程を引き延ばすだけの 延命治療を拒否できる。 今後、第三者の視点を取り入れた倫理委員 会と家族・医療者の合意があれば、裁判 所に判断を仰ぐ必要はない。

海外(米)における判例( 1982 ) クラレンス・ハーバート裁判 術後心肺停止に陥り回復の見込みがないとされた ハーバート氏の人工呼吸器および経静脈栄養の 停止を妻と 8 人の子供が求めた <判例>判断能力のある患者は延命治療に拒否を 示すことができる。また判断能力のない患者の 場合は家族が意思決定の代理人として決定して もよい。代理人は本人の口頭事前指示の要望を くみとり、患者の最善の利益に沿った判断を下 すべき、治癒不可能な病気においては、余命お よび患者の QOL について考えなければならない。

海外(米)の判例( 1990 ) ナンシー・クルーザン裁判 PVS のクルーザンに胃ろうが造設されたが「植物状態で生 き続けたくない」という本人の願望をかなえるため、 両親が経管栄養の中止を要請した(連邦裁判所) 多数意見 5 :本人が延命拒否したという明確で厳格な証拠 が必要(ミズーリ州は口頭事前指示不可) 少数意見 4 :望まない治療からの自由は憲法の基本的人権 で あり、判断能力がある患者だけでなく、判断能力が ない患者にも適用され、人工輸液や栄養の拒否もこの 範囲に含まれる ⇒アドバンス・ディレクティブの重要性の認識 『医療に関する任意代理人制度 DPA に関する法律』 『 Patient Self Determination Act 患者自己決定法』

参考資料;日本の判例 東海大学事件 1995 年 主論ではなく、傍論( Obiter dictum )として 治療行為の中止・差控えの 3 要件 ① 患者が治療不可能な病気に冒され、回復 の見込みがなく、死が避けられない末期 状態にある ② 治療行為の中止を求める患者の意思表示 が存在し、それは治療行為の中止を行う 時点で存在すること

日本の判例;東海大学事件 1995 年 ③ 治療行為の中止の対象となる措置;薬物 投与、化学療法、人工透析、人工呼吸器、 輸血、栄養水分の補給など * 死期の切迫の程度、当該処置の中止による死期へ の影響の程度などを考慮し、適切に無益性を判 断 し、自然の死を迎えさせるという目的に沿うよ うに。 *② の意思表示は家族による患者の意思の推定が 許される(医学的情報、患者の価値観人生観の 理 解認識、患者の立場にたった真摯な考慮)

日本の判例; 川崎協同病院事件 2005 年 治療中止の要件 ① 回復の見込みがなく死期が迫っている (治療や検査を尽くし、他の医師の意見を 聞く) ② 十分な情報提供・説明。患者は任意かつ 真意に基づく意思を表明する。 本人が意思の表明できない場合:できるだけ真意の探求。リビ ングウィル・親しい人による意思の推定 真意が確認できない場合:疑わしきは生命の利益に。医師は 患者の生命保護を優先させ適切な医学的処置を実施。医師が あるべき死の迎え方を助言できるが、患者に代わって判断する べきではない。

☆家族は患者の自己決定の代行⇒不可 ☆家族は患者の意思推定⇒フィクション? 家族の意思を重視することは必要だが、家族の 経済的・精神的負担の回避という思惑が入る危 険がある。 自己決定権という権利行使により治療中止を適 法とするのであれば、このような事情の介入は、 患者による自己決定ではなく、家族による自己 決定となるので否定せざるを得ない 。 日本の判例; 川崎協同病院事件控訴審 2007 年