磁気流体降着円盤から噴出する磁気タワージェットの数値実験 加藤 成晃 (京大基研/千葉大D3) このようなタイトルで発表いたします。京大基研・千葉大D3の加藤です。 共同研究者は、こちらにリストアップしてあります。 林 満 (国立天文台) 松元 亮治(千葉大) 嶺重 慎(京大基研) 柴田 一成(京大花山天文台)
初期磁場構造に依存しない磁気流体ジェット 閉じた磁場によって噴出するジェットの模式図 磁気タワージェットの生成と時間進化を報告する 本研究の成果の概要 初期磁場構造に依存しない磁気流体ジェット 閉じた磁場によって噴出するジェットの模式図 この図は、「中性子星と円盤」や「ブラックホール周辺の降着円盤」を結ぶ閉じた磁場によって噴出するジェットの模式図です。 本研究において、大局磁場がなくても 降着円盤によって生成・増幅された磁場によって噴出するジェットをシミュレーションで示すことに成功しました。 これを磁気タワージェットと名付けています。 本講演では、この磁気タワージェットの生成と時間進化について、ご報告いたします。 磁気タワージェットの生成と時間進化を報告する
アウトライン バックグランド 本研究の目的 本研究の成果 磁気タワージェットのまとめ 議論 降着円盤から噴出する従来の磁気流体ジェットモデル 従来の磁気流体ジェットモデルの問題点について 本研究の目的 本研究の成果 磁気タワージェットの噴出 磁気タワージェットのコリメーション 磁気タワージェットのモデル依存性 磁気タワージェットのまとめ 議論 本講演の流れは、このようになっています。 初めに、従来の磁気流体ジェットモデルを紹介し、その問題点についてまとめます。 次に、本研究の目的を紹介した後、我々の研究とその成果について紹介します。 そして、磁気タワージェットについてまとめた後、 ローレンツ因子の非常に大きいジェット現象において、 磁気タワージェットが果たす役割について議論したいと思います。
縦磁場に貫かれた円盤から噴出するMHDジェット 従来の磁気流体ジェットモデル 磁気遠心力加速モデル Blandford & Payne (1982) Pudritz & Norman (1986) Lovelace et al. (1987) 縦磁場に貫かれた円盤から噴出するMHDジェット 磁気圧加速モデル Uchida & Shibata (1985) Shibata & Uchida (1986) Contopoulos (1995) Kudoh & Shibata (1995) この図は、縦磁場に貫かれた円盤から噴出する磁気流体ジェットの模式図です。 従来の磁気流体ジェットモデルには2つあります。 1つ目は、強い縦磁場が降着円盤の回転によって振り回された結果、磁気遠心力によってジェットが加速されるモデル。 2つ目に、縦磁場が円盤の回転によって捻られた結果、回転角方向の磁場(トロイダル磁場)が作られ、 その磁気圧によってジェットが加速されるモデル。 前者は、ブランドフォード&ペインが提唱し、後者は内田&柴田が提唱しました。 どちらも降着円盤と磁場によって噴出する磁気流体ジェットの有力なモデルです。 降着円盤と磁場によって噴出する 磁気流体ジェット
双極子磁場や局所磁場でジェットが噴出するのか? 従来の磁気流体ジェットモデルの問題点 大局的な縦磁場の形成プロセスの疑問 降着円盤が形成されると同時に大局的な磁場を形成する? 大局磁場が形成した後に、ジェットが噴出する? トロイダル磁場の影響 差動回転する円盤に弱い磁場があれば、磁気回転不安定性(Balbus & Hawley 1991)によるダイナモ効果でトロイダル磁場が生成されている 円盤内部のトロイダル磁場はジェットに 寄与しないのか? ところが、この2つのモデルには重大な問題があります。 どちらも大局的な縦磁場の起源が未解決であるという点です。 縦磁場の形成プロセスを考えたとき、 円盤が形成されると同時にに大局的な縦磁場を形成するのか? そのような縦磁場が形成した後に、ジェットが噴出するのか? などなど、疑問点が残ります。 さらに、縦磁場が円盤を貫いているのなら、降着円盤の差動回転によってトロイダル磁場が生成されているはずで、 このトロイダル磁場はジェットに寄与しないのだろうか?という謎も解明されていません。 そこで我々は、大局的な縦磁場がどのように生成されるのか? もしかしたら、ジェットによって大局磁場ができるのではないか? たとえば、双極子磁場や局所磁場でもジェットが噴出するのか? という疑問点を明らかにしようと思います。 大局的な縦磁場がどのように生成されるのか? ジェットによって円盤磁場が大局磁場になる? 双極子磁場や局所磁場でジェットが噴出するのか?
によってジェットが噴出することを検証する 本研究の目的 降着円盤における磁場の増幅機構(ダイナモ) 磁気回転不安定性(MRI): Bf, Bz Br 差動回転によるBfの増幅:Br Bf 磁気浮力:Br, Bf Bz そこで本研究の目的は、降着円盤で生成された磁場によって噴出する磁気流体ジェットを示すことです。 この図は、円盤内部における磁場の増幅機構の模式図です。 この式は、磁場の各成分の時間発展を簡略化したものです。 タウは、それぞれタイムスケールを表しています。 磁場が非常に弱い場合には、破線で囲まれた部分が重要となります。 磁気回転不安定によって、磁場を媒介として角運動量を輸送します。 その結果として、回転角磁場と縦磁場は動径方向に引き伸ばされて、動径磁場ができます。 この動径磁場は、差動回転によって、回転角方向に引き伸ばされて、回転角磁場ができます。 この回転角磁場は、さらに磁気回転不安定性によって動径磁場を作るので、 その結果、回転角磁場は指数関数的に増幅されます。 回転角磁場が増幅されると、そのうち磁気浮力が重要になり、回転角磁場が縦方向に 浮上して縦磁場を作ります。 このようなプロセスを経て、円盤で生成された磁場によってジェットが噴出することを検証するのが、 本研究の目的です。 降着円盤で生成された局所的に強い磁場 によってジェットが噴出することを検証する
初期条件 双極子磁場 局所磁場 初期トーラスと磁場構造 力学平衡状態の回転トーラス トーラスの外側に、等温・高温・低密度のコロナ 初期磁場は、回転角方向のベクトルポテンシャルAφで与える: 双極子磁場 Aφ ∝ r -3 Aφ∝ρ>ρcri 一般相対論的な効果を pseudo-Newtonian ポテンシャルで取り入れる: 粘性加熱・輻射冷却を無視する 双極子磁場 局所磁場 数値シミュレーションの初期条件は、右の図にある3次元イメージのようになっています。 上が中性子星が双極子磁場を持っている場合。下がブラックホール周辺の降着円盤内部に磁場が閉じ込められている場合です。 初めに、中性子星やブラックホール周辺に力学平衡状態の回転トーラスを置きます。 このとき、密度はトーラスの中心で規格化します。 このトーラスの外側に、等温・高温・低密度のコロナを仮定します。 初期磁場は、回転角方向のベクトルポテンシャルで与えます。 中性子星の場合は、双極子磁場。 ブラックホールの場合は、ベクトルポテンシャルが密度に比例するとしたポロイダル磁場を置きます。 密度に下限値を与えることで、磁場がトーラス内部に閉じ込められているとします。 “一般相対論の効果”最終安定軌道の効果を取り入れるため、pseudo-Newtonianポテンシャルを用います。 最後に、本研究では粘性加熱・輻射冷却を無視します。 このように、二つの異なる初期磁場構造から、ジェットが噴出するのかしないのか? どのようなジェットが噴出するのかを調べます。。 2つの異なる磁場構造を初期条件とする
磁力線#1(r=20rs)#2(r=8rs) 密度等値面 中性子星磁気圏における 磁気タワーの生成 磁力線#1(r=20rs)#2(r=8rs) 密度等値面 ヘリカル状の磁場構造 磁気タワー 外圧 中性子星の双極子磁場から磁気タワーが形成される様子です。 赤線と白線は、初期トーラスの外縁と内縁から積分した磁力線をそれぞれ表しています。 このようにヘリカル状の磁場構造が円盤の回転軸に沿って、伝搬している様子がわかります。 この伝搬速度は、光速の20%程度です。 実は、磁気タワーという概念は、96年にリンデンベルによって、すでに提唱されていました。 本研究によって、初めて磁気タワーの生成過程をシミュレートすることに成功しました。 40 rs Lynden-Bell 1996
ブラックホール降着円盤における 磁気タワーの形成 密度等値面 赤道面 磁力線 #1 #2 流線 速さ 0.0 0.3c ブラックホール周辺の降着円盤から磁気タワーが形成する様子です。 青い薄透明な雲のようなものは、円盤の密度等値面を表しています。赤と白の実線は磁力線です。 1.差動回転によって磁気ループが捻られて、トロイダル磁場が生成される様子がわかります。 2.Maxwell stressが大きくなると質量降着が起こり、ブラックホール近傍において 3.増幅されたトロイダル磁場が次第に円盤表面から浮上し、磁気タワーとなって膨張し 4.磁気タワージェットとなりました もう一度。今度は、密度を不透明にしてみます。 1.この円盤内部では回転角磁場が増幅しているところを想像してください。 2.すると、円盤表面から磁力線が浮上してきました。 3.それが膨張して、磁気タワーとなり、 4.磁気タワージェットとなります 右図は、ある時刻のスナップショットです。この線は流線を表しています。 ジェットは、磁気タワー内部で加速され、0.3c程度で噴出していることがわかりました。 先ほどの図とこちらの図を見て、このようなジェットを磁気タワージェットと名付けた理由がよく分かると思います。 磁気タワーの外縁部は、トロイダル磁場が卓越しており、 磁気タワーの内縁部は、ポロイダル磁場が卓越しています。 磁気タワーで加速された ジェットの速さ ~ 0.3 c 160 rs
磁気タワージェットのコリメーション 磁気タワー内部における力の分布 ジェットの半径 ~30 rs(モデル依存) 磁気圧勾配力とコロナのガス圧勾配力が磁気タワーとコロナの境界で釣合っている 磁気張力は1%程度弱い 磁気タワージェットは、周辺にあるコロナの圧力でコリメートしている この磁気タワーを輪切りにして、力の分布を調べてみました。 実線は膨張力。破線がコリメーション力をあらわしています。 青、赤、緑は、ガス圧勾配力、磁気圧勾配力、磁気テンション力をあらわしています。 磁気タワーとコロナの境界で、磁気圧勾配力とガス圧勾配力が釣合っていることがわかりました。 つまり、コロナの圧力によって磁気タワーがコリメートしていることがわかりました。
コロナと磁場の圧力依存性: 有 無 有 ジェットの有無 ジェットの速度 有 はコロナ圧に依存 Bf 分布 モデルA(コロナ圧大・磁気圧大) トランジエントなジェット モデルB(コロナ圧大・磁気圧小) フィラメント状の強いBf ジェット無 モデルC(コロナ圧小・磁気圧大) 0.5c程度の持続的なジェット モデルD(コロナ圧小・磁気圧小) 0.1c程度で持続的なジェット 有 コロナ圧大 無 有 コロナ圧小 さらに、初期のコロナと磁場の圧力依存性を調べてみたところ、 この図は、トロイダル磁場強度の断面図(動径方向、縦方向)を表しています。 初期のコロナの圧力が強い場合、磁場が強ければジェットが噴出するが、磁場が弱ければジェットが噴出しないこと。 (それが、モデルAとBです。) ところが、初期のコロナの圧力が弱い場合、磁場の強弱に関わらず、ジェットが噴出することがわかった。 (それが、モデルCとDです。) つまり、ジェットの有無はコロナの圧力に依存していることがわかりました。 ジェットの有無 ジェットの速度 はコロナ圧に依存 有
初期磁場構造に依存しない磁気流体ジェットモデル コロナの物理状態と生成機構を解明しなくてはならない 数値実験結果のまとめ 初期磁場構造に依存しない磁気流体ジェットモデル 円盤内部で増幅されたBfがジェットを作る 円盤内部の磁気圧が円盤コロナの圧力より大きい場合にジェットが噴出する 磁気タワージェットはコロナの圧力によって支えられている 磁気タワージェットによって大局的な縦磁場構造が作られる 本研究の結果をまとめると、 円盤内部で増幅されたBfがジェットを作る。 円盤内部の磁気圧が円盤コロナの圧力より大きい場合にジェットが噴出する。 磁気タワージェットはコロナの圧力によって支えられている。 磁気タワージェットによって大局的な縦磁場構造が作られる。 本研究によって、コロナの物理状態と生成機構を新たに解明しなくてはならないことがわかりました。 今後の研究課題とします。 コロナの物理状態と生成機構を解明しなくてはならない
磁場のエネルギー密度の時間変化 コロナ BH近傍 円盤 ジェット噴出直前/噴出/噴出後 円盤内部では、ジェットの噴出に伴いトロイダル磁場(破線)がポロイダル磁場(実線)に変換されている ポロイダル磁場(実線)が円盤からコロナへ注入されている コロナ BH近傍 ブラックホール近傍を貫く大局的なポロイダル磁場を生成するプロセスになっている そこで、磁場のエネルギー密度の時間進化について議論したいと思います。 この図は、 横軸は半径で、縦軸は初期に与えた磁場のエネルギー密度で規格化しています。 下図と上図は、それぞれ円盤内部とコロナにおける磁場のエネルギー密度の空間分布で、色は時間進化を表しています。 青、緑、赤の順番で時間進化します。 *判りにくいので、ほかの研究会では省いていたのですが、非常に重要な図です* 円盤内部では、増幅されたトロイダル磁場がポロイダル磁場へ変換されています。 そのポロイダル磁場は、円盤からコロナへ注入されています。 つまり、磁気タワージェットはブラックホール近傍を貫く大局的なポロイダル磁場を生成するプロセスになっています。 したがって、一般相対論的な磁気流体現象を考慮した場合、磁気タワージェットの芯においてローレンツ因子の大きいジェットが噴出する可能性があることを示唆しています。 円盤 一般相対論的な磁気流体現象によるG が大きいジェット!?
円盤内縁の局所的に強い磁場=磁気タワージェット 局所的に強い磁場=フレア、円盤風、コロナ? 磁気タワージェットの概念図 最後に、最初の模式図にもどって、本研究のまとめると、 大局磁場構造に依存しない円盤内部磁場による磁気流体ジェットモデル 「磁気タワージェットモデル」 をご紹介しました。 円盤内縁の局所的に強い磁場=磁気タワージェット 局所的に強い磁場=フレア、円盤風、コロナ?