国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保 トランジット惑星研究の 過去・現在・未来 国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保
目次 1章:最初のトランジット発見まで 2章:これまでのトランジット研究の紹介 3章:これからのトランジット惑星研究
1章 トランジット研究の古い歴史 トランジットの検出可能性 最初の系外惑星の発見 最初のトランジットの発見 1章ではどういった流れで最初のトランジット惑星の発見までたどりついたかを知ってもらう
最初にトランジット法を提案したのは誰か? トランジット研究の古い歴史 最初にトランジット法を提案したのは誰か? Struve (1952) …発音はシュトルーベ 今で言うホットジュピターを仮定 そのような惑星の視線速度と食による探査の提案 トランジットサーベイと視線速度法のフォローアップの両方を提案した先駆的な論文
同じくらいのところに惑星があってもおかしくないだろう 周期が1日くらいの連星系があるのだから、 同じくらいのところに惑星があってもおかしくないだろう 食もきっとあるだろう その場合、分光観測に比べて暗いターゲットまで観測できるのが測光の有利な点だろう
最初に「系外惑星のトランジット」と言ったのは? トランジット研究の古い歴史 最初に「系外惑星のトランジット」と言ったのは? Struve (1952) Rosenblatt (1971) 赤と青の2色のフィルターでトランジットを取ると、周縁減光(limb-darkening)のせいで減光曲線が少し異なるだろう それを使って系外惑星を検出できないか?
トランジット法による地球型惑星の探査を提案したのは? トランジット研究の古い歴史 トランジット法による地球型惑星の探査を提案したのは? Struve (1952) Rosenblatt (1971) Borucki et al. (1985) 系外惑星トランジットの検出可能性の検討 Kepler mission に向けたサイエンスの第一歩 しかし多くの課題が立ちはだかっていた
トランジット検出に必要なこと 技術的な課題 十分な検出可能性 たくさんの星を同時に撮るための広視野カメラ 高精度の検出器 サイエンスとして成り立つのかどうか??
検出可能性のみつもり トランジットをする確率: トランジットの減光率: トランジットの継続時間: 主星の半径: 惑星の半径: 地球の方向 惑星の軌道長半径: 惑星の公転周期: トランジットをする確率: トランジットの減光率: トランジットの継続時間:
太陽系のような惑星系を考えると検出は厳しい 太陽系を外から見た場合 トランジットをする確率 木星 : ~0.1%, 地球 : ~0.5% トランジットの減光率 木星 : ~1%, 地球 : ~0.008% トランジットの継続時間/周期 木星 : ~30時間/12年, 地球 : ~13時間/1年 太陽系のような惑星系を考えると検出は厳しい
周期 ~4.2日の木星型惑星「ホットジュピター」の発見 最初の系外惑星の発見 Queloz (左) Mayor (右) 系外惑星発見10周年の研究会にて 51 Peg. の視線速度変化 周期 ~4.2日の木星型惑星「ホットジュピター」の発見
「ホットジュピター」がたくさん存在するなら ホットジュピターの場合 トランジットをする確率 ~10% トランジットの減光率 ~1% トランジットの継続時間/周期 ~3時間/3日 「ホットジュピター」がたくさん存在するなら トランジット検出は十分期待できるはず
全系外惑星の発見数 ほとんどが ホットジュピター だいたい10個ホットジュピターがあれば…
D. Charbonneau ホームページより 最初のトランジット惑星の発見 D. Charbonneau ホームページより Charbonneau et al. (2000) 口径99mmの望遠鏡による観測 視線速度法で見つかったHD209458bの トランジット予想時刻を測光観測
1章のまとめ トランジットによる系外惑星探しは古くから考えられていた 観測精度と検出可能性の課題から実現は難しかった Mayor & Queloz (1995)によるホットジュピターの発見はトランジット観測のモチベーションを一気に高めた 視線速度法で発見されたホットジュピターの追観測から最初のトランジット惑星HD209458bが発見された
2章 トランジット惑星にまつわる研究テーマ トランジット惑星の観測 測光観測の研究テーマ 分光観測の研究テーマ トランジット観測ネットワークに適したテーマ 2章では、実際に行われているトランジット惑星研究を紹介し、なぜトランジット惑星が重要なのかを、その波及効果の大きさから感じてもらう
トランジット惑星の研究テーマ トランジット惑星の発見を目指す研究 惑星のより詳細な性質を調べる研究 視線速度法の追試 (= 最初の発見と同じ) トランジットサーベイ 惑星のより詳細な性質を調べる研究 測光観測による研究 分光観測による研究
トランジットサーベイの概要 たくさんの星の光度をずっとモニターする 候補を発見後、視線速度測定で追試する 広視野、高サンプリングレート 1シーズンずっと同じ視野を自動観測 小口径(6~30cm)の望遠鏡が中心 候補を発見後、視線速度測定で追試する 実は9割以上が食連星や恒星の活動による誤検出 追試が簡単な明るい(V<12)ターゲットが好まれる
現在のTrESチームが使っている望遠鏡の画像サンプル サーベイデータの様子 現在のTrESチームが使っている望遠鏡の画像サンプル 口径:99mm 視野:5.7°× 5.7° 24000の星
ここ数年は新惑星の3割がトランジットサーベイによる発見! トランジットサーベイの活躍 ここ数年は新惑星の3割がトランジットサーベイによる発見!
トランジット惑星の研究テーマ 測光観測 分光観測 惑星パラメータの決定 Transit Timing Variation secondary eclipse (惑星の温度がわかる) 分光観測 Transmission Spectroscopy ロシター効果の測定
測光観測の研究テーマ 惑星パラメータの決定 Transit Timing Variation この2つはトランジット観測ネットワークに ぴったりの研究テーマ
トランジットからわかること 典型的なトランジット光度曲線と関連するパラメータ 主星の半径、軌道傾斜角、トランジット中心時刻 半径比 周縁減光パラメータ 惑星の半径
パラメータの求め方 数値計算による理論曲線 理論的な解析公式 理論曲線を使って光度曲線をフィットする Mandel & Agol (2002) Ohta, Taruya, & Suto (2006) Gimenez (2006)
小口径でも繰り返し観測、複数の望遠鏡で観測することで 求まる惑星の情報 惑星の半径 惑星の軌道傾斜角 惑星の質量 惑星の密度 トランジット中心時刻 小口径でも繰り返し観測、複数の望遠鏡で観測することで かなりの観測精度が達成できる
巨大惑星の多様性のナゾ 巨大コア 膨らみすぎ Charbonneau et al. (2006)
Transit Timing Variation (TTV) トランジット惑星系だけで可能な、さらなる惑星探し 原理 惑星が1つだけならトランジットの間隔は一定のはず もし系に他の惑星があると、その影響でトランジットの間隔がずれる そのずれの大きさが観測精度より大きい場合があれば、惑星を探すことができる ? ? ?
TTVの観測可能性 具体例 TTVが大きくなるのは Agol et al. (2005) による理論的考察 そのずれの周期は~150日(50トランジット) TTVが大きくなるのは もうひとつの惑星が共鳴軌道にいる時 もうひとつの惑星の軌道離心率が大きい時
最新の観測結果 Diaz et al. (2008) による初めてのTTV検出の報告 OGLE-TR-111bのトランジット時刻のプロット 回 1 -1 -2 266 366 446 トランジット 時刻のずれ [分] TTVがない場合 OGLE-TR-111bのトランジット時刻のプロット 4:1の共鳴軌道に地球型惑星??
TTVの観測戦略 共鳴軌道にいるなら地球型惑星を地上望遠鏡で十分に発見可能 TTVの検出を特に狙える惑星系 暗いターゲットの場合には中口径望遠鏡を用いたり、小口径望遠鏡でも数があれば信頼性は高まる TTVの検出を特に狙える惑星系 視線速度から別の惑星の存在が示唆される系
分光観測の研究テーマ Transmission Spectroscopy ロシター効果の測定
Transmission Spectroscopyとは 主星 惑星および 外層大気 主星元素の 吸収線 主星の光 惑星元素による 追加吸収 太陽系外惑星の大気成分を検出する方法
ロシター効果とは 近づく側を隠す → 遠ざかって見える 遠ざかる側を隠す → 近づいて見える 惑星 恒星
ロシター効果の形 Gaudi & Winn (2007)
ロシター効果からわかること 天球面上で主星の自転軸に対する 惑星の公転軸のなす角度(λ)がわかる 恒星の自転軸 惑星の公転軸 惑星 惑星の公転面 惑星 恒星 惑星の公転軸 恒星の自転軸 天球面上で主星の自転軸に対する 惑星の公転軸のなす角度(λ)がわかる
どちらの観測テーマも 正確なトランジット時刻が重要!
同時観測をすることで解析の信頼性があがる そこで分光・測光同時観測 上段 大島さんによる測光データ 約4mmag の測光精度 下段 HIDESの視線速度データ 10~20 m s-1 の精度 同時観測をすることで解析の信頼性があがる
3章 これからのトランジットサーベイ計画 その後の追観測計画 CoRoT, Kepler, TESS 地球型惑星の時代へ HARPS-NEF, JWST, TMT, SPICA, … 生命居住可能性のある惑星の確認を目指して
宇宙トランジットサーベイ計画 COROT Kepler TESS 打ち上げ(予定) 2006年12月 2009年2月 2012年 観測視野 ターゲット 2.82 deg2(銀河中心) 7 < mV < 15 ~1.2 * 105 個 102 deg2(オリオン腕) 9 < mV < 15 ~1.3 * 105 個 3 * 104 deg2 (全天) 7 < mV < 12 ~ 106 個 検出目標 近傍の明るい星 super-Earth 数個 mV ~ 12 のG型星 Earth-like planet ~50個 mV ~10 の M型星 - 観測期間 2.5 年 4 年 コスト ~260億円 ~600億円
CoRoT 2006年12月27日打ち上げ 初めての宇宙からのトランジットサーベイ フランスを中心としたヨーロッパのチーム 30cmの望遠鏡 地球の数倍の大きさの惑星まで検出可能 (ESAより)
Kepler 2009年2月打ち上げ予定 NASAを中心とした欧米の共同研究チーム 1mの望遠鏡 地球以下(水星)の大きさの惑星まで検出可能 ~50個の地球サイズの惑星が発見できるという見積り (NASAより)
その先の研究テーマ 恒星のまわりで液体の水が存在する位置 恒星の質量と年齢によって変わる
William Herschel Telescope トランジット惑星の確認 HARPS-NEF スペイン・カナリア諸島 4.2m 望遠鏡 ~ 数 cm/s の視線速度精度 欧米の共同研究 Keplerで発見された惑星の質量を決定する William Herschel Telescope
James Webb Space Telescope 惑星の大気分子の探索 James Webb Space Telescope SPICA 特に水、二酸化炭素、メタンなどの分子を トランジット惑星に探す
地球型惑星を対象とした研究は これから数年後からが本番 これからもトランジット惑星の 研究は面白い!
トランジット光度曲線の解析方法
1.アパーチャー測光 星像のFWHMの2~3倍のアパーチャーで積分 時系列に並べる 露光開始時刻+露光時間/2をHJDにする
2.参照星 ー ターゲットを計算 参照星が複数の場合はアンサンブル平均 アンサンブル平均=精度で重みをつけた平均 単純な平均では×
3.pixel位置の補正 フラットフィールドの不完全さを補正 トランジット外のデータのみ使う
4.airmassの補正 airmassが2以下の時はほぼ不要 こちらもトランジット外のデータのみ使う
5.ベースラインを取る ほとんどの系統誤差はこれで取り除ける トランジットの前後を観測することが必要!
6.フラックス強度に直す I = 2.5-Δm で計算する 誤差は参照星とターゲットのものを足したもの