地域連携を基本ユニットとする 獣医学総合教育機構構想 企画書 国公立獣医科大学協議会 2008 計画第三次案
事業申請の背景 日本の獣医学教育の現状: ①国家試験の科目を十分教育できる教員が配置されていない 獣医師国家試験では18科目が科せられる。ほとんどの科目は講義と実習で構成されているが、 30名前後の教員では、これらに対応した十分な教育は困難である。 ②大学間の教育内容に偏りが生じている 獣医学分野は大きく、臨床(小動物と大動物)、公衆衛生行政、ライフサイエンスの3分野をカバーしている。 30名前後の教員では、これら全ての分野に対応した十分な斉一教育を提供 できず、偏りが生じている。 ③欧米との間に大きな格差がある 欧米における獣医学教育は、1学部あたり100名を超えるスタッフで行われている。それに比べ、我国の教育は、50名前後の規模の大学が3校、30名前後の大学が7校と、極めて貧弱な体制である。欧米の間で、獣医師資格の共通化が模索されているが、現状では我国は参加できない。 平成16年7月: 梶井功元東京農工大学学長を座長とする「国公立大学における獣医学教育に関する協議会より答申が出され、関係大学学部長は自主的・自律的に獣医学教育環境の改善をはかることで合意した。そのなかで、教員組織の充実とともに大学間の教育連携の必要性が指摘された。 しかし、大学が法人化し、人件費削減が進む中で、十分な改善の成果は得られていない。
本教育連携事業の目標と効果 ① 基幹科目の教育の充実 獣医師国家試験18科目(解剖学、生理学、生理化学、薬理学、毒性学、放射線学、衛生学、公衆衛生学、実験動物学、微生物学、伝染病学、寄生虫(病)学、病理学、内科学、臨床繁殖学、外科学、魚病学)の十分な教育を全国の大学が等しく行えるようにする。 ② 特色ある専門教育の集約となおいっそうの充実 全国の獣医学教育機関では、それぞれの地域において特色ある教育体系を築き実施してきた。これらを有機的に集め、全大学で共有することにより、なおいっそうの教育効果をもたらす地域教育システムを構築する。 ③ ビジュアル獣医学教育システムの構築 IT技術の進歩により、高精度の映像を高速で配信し、これをもとに双方向で議論できる技術が開発されている。臨床教育にとって、例えば希有な手術症例の現場を学生にリアルタイムで見せることも可能になっている。映像をふんだんに取り入れた、ビジュアル教育システムを構築する。 ④ 私学との連携 スタッフ不足が背景となり、各大学の動物病院診療は立ち遅れている。私学を含めた地域連携により共同診療を可能とするとともに、学部における臨床教育の充実をはかる。 ① 世界的にも立ち遅れている我国の獣医学教育のレベルアップをはかる ② 特色ある地方大学の獣医学教育プログラムを育成する ③ 教育連携の経験を生かし、新しい理想的な獣医学教育形態の将来計画を策定する ④ 共同で行うプログラム開発の過程で、Faculty Developmentがはかられる(最も効率的なFDプログラム)
本教育連携事業を進めるに当たって 参加大学がめざす獣医学教育の将来展望 文部科学省に設置された「国立大学における獣医学教育に関する協議会」の答申において、「大 学を超えた獣医学科の統合におけるスケールメリットの確保は、獣医学教育の改善の有効かつ 重要な手段であるが、これには各大学、大学間での自主的な話し合いと地域社会の理解と合意 形成が不可欠である」と述べられてる。本事業を始めるにあたり、参加大学(国公立大学法人)は、 理想的な獣医学教育を実現することを目指して本事業を企画した。 第1期(連携教育事業の立ち上げ) 現在、各国公立大学法人は自助努力による教員の確保につとめているが、定員削減などの流 れの中で、十分な手当ができていないのが現状である。今後もこの努力を続けるが、十分な教員 確保ができない部分については、大学間の教育連携を行うことによってこれを補完する。 第2期(大学間連携の協議) 各大学の自助努力が十分に果たされない場合、地域などの特性*を踏まえた総合的な大学教 育連携の完成度を高める方策を考える。また、教育連携を協議する過程で統合の合意形成を醸 成する。 第3期(大学間連携から学部設置へ) スケールメリットを生かせる一定規模の獣医学部を設置するために、共同学部設置等に向けた 大学間の協議を開始するとともに本連携事業を恒久的なシステムとして運用できる体制を作る。 *:伴侶動物分野、産業分野、実験動物分野、野生動物分野、人獣共通感染症分野、食の安全分野、ライフサ イエンス分野等
連携事業の組織 (地域ブロック、メインテーマ、コーディネート機関) 北海道ブロック 動物病院連携 1 連携教育 センター #1 北海道大学 人獣共通感染症 リサーチセンターを活用 連携教育 センター #2 東京大学 食の安全センターを活用 先端的産業動物臨床 人獣共通感染症 北海道大学 帯広畜産大学 北海道大学 酪農学園大学 関東ブロック 動物病院連携 2 食の安全 ライフサイエンス 東京大学 東京農工大学 岩手大学 岐阜大学 岩手大学 北里大学 関西ブロック 環境 野生動物 先端的小動物臨床 山口大学 鳥取大学 大阪府立大学 サーバー管理 東京農工大学 協力機関 動物衛生研究所 各地域畜産試験場 上野動物園 国立環境研究所 国立感染症研究所 九州ブロック 動物病院連携 3 産業動物獣医学 公衆衛生(行政) 宮崎大学 鹿児島大学 東京大学 東京農工大学 麻布大学、日本大学 日本獣医生命科学大学 動物病院連携 4
7分野の特別教育プログラム 1) 先端的小動物臨床 (腫瘍、アレルギー、加齢性疾患など) 2) 先端的産業動物臨床 (生産病、蹄病など) 3) 人獣共通感染症 (細菌、ウイルス、原虫病など) 4) 食の安全 (畜産物品質管理、 食中毒、医薬品残留など) 5) 環境と野生動物 6) ライフサイエンス 7) 公衆衛生(行政) 近年の社会情勢の変化から、 様々な分野において獣医学教 育の充実が要請されている。し かし、このような拡大しつつあ る獣医学の領域に、教育面で は全く対応できていない。 本講義プログラムは、社会から の期待が大きい、「7分野」の 教育をサポートすることを目的 とする。
18分野の斉一教育プログラム 解剖学 生理学 生理化学 薬理学 毒性学 放射線学 衛生学 公衆衛生学 実験動物学 微生物学 伝染病学 寄生虫学 寄生虫病学 病理学 臨床繁殖学 魚病学 外科学 内科学 (倫理) 各大学で行われて いる、獣医学基幹科 目(国家試験科目) の標準的講義プロ グラムである。 獣医学の標準化と 「斉一教育部分」を サポートすることを 目的とする。
教育プログラムの利用法 1.7分野プログラムの利用法 本プログラムは、「社会からのニーズが極めて大きいにもかかわらず、現在の獣医学教育体性では、十分に手当てされていない領域」を対象としている。本プログラムを、授業科目として通年の講義に組み入れても良いし、また1~数コマの講義や実習を、現在行っている授業に部分的に取り入れても良い。現在行っている講義をさらに優れたものにすることに利用しても良いし、このシステムを利用して空いた時間を、様々なな制約で十分に行えていない研究活動等に利用しても良い。 2.斉一教育プログラムの利用法 本プログラムは、獣医師国家試験(18科目)を対象とし、各科目におけるもっとも標準的(基本的)な講義を eラーニングで提供しようとするものである。これら科目に対応できる教員を確保している大学では補助的に利用することが考えられる(例えば予習や復習、不得手な分野の補講)。一方、専任の教員を確保していない大学にあっては、以下の7分野プログラムと組み合わせることにより、すべての教育を本連携事業で行うことも可能となるように設計する。
連携事業を進めるにあたっての手法 e ラーニング(自習システム)(IT活用-SINET) 1 学生移動型授業(おもに実習) 2 3 講師派遣型授業 4
1) 先端的小動物臨床 担当:山口大、鳥取大、大阪府大 (腫瘍、アレルギー、加齢性疾患など) 現時点で計画している具体案: 1.小動物臨床におけるアレルギー性疾患の基礎と臨床 2.小動物臨床における先端的画像診断技術 3.小動物の腫瘍性疾患に対する診断と治療 4.小動物臨床における脳神経・感覚器疾患
2) 先端的産業動物臨床 担当:北大、帯畜大、宮崎大、鹿児島大 (生産病、蹄病など) 現時点で計画している具体案: 1.産業動物臨床:総論と各論 2.獣医遺伝病学 3.生産獣医療学 4.護蹄管理学 5.乳生産管理学 6.内部および外部寄生虫と疾患 7.馬疾病学 8.大動物の解剖学 9.大動物の解剖学実習
3) 人獣共通感染症 担当:北大、帯畜大 (細菌、ウイルス、原虫病など) 現時点で計画している具体案: 1.人獣共通感染症(1) 2.人獣共通感染症(2) 3.熱帯感染症学
4) 食の安全 担当:東大、岩手大、農工大、岐阜大 現時点で計画している具体案: 1.食の安全とGAP 2.食肉の衛生管理と検査手法 (畜産物品質管理、食中毒、医薬品残留など) 現時点で計画している具体案: 1.食の安全とGAP 2.食肉の衛生管理と検査手法 3.食品の衛生管理 4.食品による健康危害と危害要因 5.毒科学 6.GUTバイオロジー1:GUTの生理学 7.GUTバイオロジー2:GUTと食品科学
5) 環境と野生動物 担当:山口大、鳥取大、大阪府大 現時点で計画している具体案: 1.野生動物医学入門 2.地球環境と野生動物 3.野生動物医学の役割と実務
6) ライフサイエンス 担当:東大、岩手大、農工大、岐阜大 現時点で計画している具体案: 1. 獣医病理学各論 2. 生殖・再生生物学 1. 獣医病理学各論 2. 生殖・再生生物学 3. 高等動物の比較生物学 4. 獣医系の研究者養成基礎講座 5. 神経解剖科学 6. 老化の比較生物学 7. 脂質メディエーター 8. 人と動物の関係学 9. 獣医統計実習 10.疾患動物モデル学
7) 公衆衛生(行政) 担当:宮崎大、鹿児島大 現時点で計画が完了している具体案: 1.公衆衛生(行政)総論と各論 2.獣医療の国際的および国内的活動 (1) 人獣共通感染症 3.獣医療の国際的および国内的活動 (2) 家畜伝染病の制御 4.獣医療の国際的および国内的活動 (3) 食品安全の確保 5.獣医療の国際的および国内的活動 (4) 化学物質の安全性確保
協力機関によるサマープログラム 夏期休暇を利用して、小人数のグループ学習、 実習プログラムを行う 動物衛生研究所 上野動物園 国立環境研究所 動物衛生研究所 上野動物園 国立環境研究所 国立感染症研究所 各地域の畜産試験場 各地域の農業共済組合 各地域の家畜保健衛生所 各地域の食肉検査事務所
動物病院の連携プログラム(私学との連携) 地域連携の一環として、比較的近接する 大学間での臨床教育連携プログラム 北海道大学・酪農学園大学(北海道地区) 岩手大学・北里大学(東北地区) 東京大学・東京農工大学・麻布大学・ 日本大学・日本獣医生命科学大学 (関東地区) 宮崎大学・鹿児島大学(九州地区)
国際連携プログラム 海外の大学と連携:英語による教育プログラム (すでに海外協定を結んでいる大学との共同事業) 海外の大学と連携:英語による教育プログラム (すでに海外協定を結んでいる大学との共同事業) マッセイ大学(ニュージーランド) ワシントン州立大学(米) オハイオ州立大学(米) カセタート大学(タイ) ザンビア大学(アフリカ) ソウル大学(韓国) すでに実績あるプログラム カセタート大学における象の実習 (東京大学との交換プログラム)
独立行政法人メディア教育開発センターの協力 教材作成とコンテンツの管理 : 独立行政法人メディア教育開発センターの協力 (放送大学へ機能移管の予定) 1.eラーニング 2.遠隔授業・ビデオ授業 3.標本・資料のデータベース化
本教育連携事業のイメージ 7分野教育 プログラム 現在各大学で実施されている教育 サマー プログラム 斉一教育 プログラム 動物病院連携 動物病院連携 プログラム サポート 現在各大学で実施されている教育 1.社会的要請の高い分野の教育の充実 2.地域に根ざした特徴ある獣医学教育の確立 3.獣医学基幹教育科目の標準化 4.国際レベルの獣医学教育の達成 など
要求設備の例( IT 関連機材 ) 遠隔授業のための基本セット (カメラ、集音マイク、 コントローラー、液晶テレビ) プロジェクター1 (DLP) PC 分配機 LifeSize Room プロジェクター1 (DLP) LifeSize Room MCU 4205 IP VCR 2210 LifeSize Room プロジェクター2 (DLP) L A N L A N L A N カメラ カメラ L A N L A N カメラ 映像でデモをする教室の設備 (例えば手術室) ネットワーク管理拠点 (東京農工大学) 主に講義を聞く側の教室の設備 主に講義をする教室の設備 分配機 L A N PC PC PC PC PC PC 遠隔授業のための基本セット (カメラ、集音マイク、 コントローラー、液晶テレビ) 学生がネットワークにアクセスするコンピュータールーム (eラーニング、ビデオ講義などを聞く)