食品媒介感染症事件の疫学 ―行政の立場から― 岡山市保健福祉局保健部生活衛生課 甲斐 充
最近のニュース 「O157食中毒統計データを不適正処理」裁判で明らかに 喫食調査で「無回答」を「食べた」として統計処理 疫学者のコメント 推定の元となる数字が変ると推論が成立しない。
例:急性胃腸炎患者発生情報 特定日の宴会参加後に発症 参加者の共通食は宴会料理のみ 主症状は腹痛、下痢、発熱 発症者は全員生カキを喫食 発症のピークは36hr 患者検便1名中1名からSRSV検出
施設調査結果 利用者のうち団体は当該グループのみで他の施設利用者の調査不能 従業員検便、食材、ふき取りからは病原微生物、SRSV検出せず
よくある思考パターン 1グループのみである 他に発症の情報がない 施設の検査で何も検出されてない SRSVが検出されたのは1名のみ ウイルス性疾患では飛沫感染の可能性が否定できない 故に原因施設とは断定しがたい
今まで使われていた手法 他に方法はないの? サートウェルの方法による暴露点の推定 症候学的観察(臨床症状) マスターテーブルの作成 χ2検定 特異事例の観察 他に方法はないの?
食中毒事件発生時の基本的対応 探 知 ・疫学調査 ・試験検査 食品衛生法第4条違反の確認 同法第22条に基づく処分
病原微生物に汚染され、若しくはその疑いのあるものは・・・・・・ 食品衛生法第4条の規定 病原微生物に汚染され、若しくはその疑いのあるものは・・・・・・ 「汚染されていることが証明されるか、または相当程度の蓋然性の認められる場合をいう」 注:食品衛生法逐条解説 「相当程度の蓋然性」とは何?
蓋然性:必然性の対語 物事の起こる可能性の割合 相当程度の蓋然性 蓋然性:必然性の対語 物事の起こる可能性の割合 確定証拠が得られない場合の共通認識
貝割れ大根事件がもたらしたもの 遠山の金さんのお白州 相当程度の蓋然性に根拠を置く処分の否定
疫学とは 原因 結果 この過程で「共通の認識」が得られる原理があるはず この原理を「共通の約束ごと」として 明記したのが疫学
疫学とは 例えば :健康 :発症 食べた人達 食べなかった人達 食べた人達は食べなかった人達に比べ8倍発症しやすい
集合体になると数が多いということで共通認識を得られる 他に確定することがなければ実証となりうる 実証 = 相当程度の蓋然性 食べて 発症 個 人 因果関係? 食べた人達 食べなかった人達 集 団 集合体になると数が多いということで共通認識を得られる 他に確定することがなければ実証となりうる 実証 = 相当程度の蓋然性
・本当に有症なの? ・本当に食べたの? ・データは全体像をあらわしてるの? 正しい結果を得るために ・本当に有症なの? ・本当に食べたの? ・データは全体像をあらわしてるの?
症状調査よくある事例 「軟便」 「頭痛」 「微熱(体温不明)」 「吐き気」 一つでもあれば有症者でカウント 「軟便」 「頭痛」 「微熱(体温不明)」 「吐き気」 一つでもあれば有症者でカウント 有症者とするかどうか悩むことがあると思う たまたまその日に体調が悪かったかも知れない 暴露を受けたことによる症状?
喫食調査よくある事例 統一調査票使用 メニューのチェックは出来てるの? 空欄の意味するものは何? 本当に食べたの?
食べた割合=食べた/母数 食べた割合=母数-食べない/母数 統計処理 母数=食べた+食べない+不明 食べた割合=食べた/母数 食べた割合=母数-食べない/母数 これって本当? 全体像をあらわしてるの?
岡山市主催の疫学研修 平成9年度から実施 因果関係を明らかにする手法 データ収集方法 解析方法・解析結果の解釈
疫学研修導入に至る経緯 病院給食によるO157集団感染事件 第1報:入院患者と看護学生からO157 2グループに共通するものは病 院給食
・O157の伝播形式 経口感染 食品、水 少量菌感染成立 共通行為、接触感染 調査にあたって考慮すべきこと ・O157の伝播形式 経口感染 食品、水 少量菌感染成立 共通行為、接触感染
食監的思考 共通因子は病院給食⇒食中毒 飲料水を含む食品の調査開始 水が原因であれば他からも患者発生 患者同時多発の原因となる共通行為なんて聞いたことがない 二次感染が原因で患者同時多発は起こらない
入院患者と看護学生の共通メニュー による喫食調査 ・入院患者は全員同じ食事? 有症者の捉え方 ・腹痛で入院した者も事件の患者? 調査の実際 入院患者と看護学生の共通メニュー による喫食調査 ・入院患者は全員同じ食事? 有症者の捉え方 ・腹痛で入院した者も事件の患者?
マスターテーブル(2×2表) 有症 無症 食べた A B 食べない C D カイ2乗検定対象:AD>BC
食中毒事件の解析例 食品名 有 症 無 症 χ2値 食べた 食べない A 129 9 104 19 5.41 B 116 17 92 28 4.8 解析対象:何らかの症状を訴えた者
食中毒事件の解析(有症者絞込み) 有 症 無 症 A B 56 2 104 19 4.43 50 7 92 28 2.98 食品名 有 症 無 症 χ2値 食べた 食べない A 56 2 104 19 4.43 B 50 7 92 28 2.98 解析対象:嘔吐又は下痢又は発熱と腹痛を訴えた者
解析結果の比較 食品名 χ2値 処 理 前 処 理 後 A 5.4 4.4 B 4.8 2.9
食中毒事件解析例 19日朝食 有 症 無 症 χ2値 食べた 食べない 納豆オクラ 60 8 4 52 77.65 コロッケ 47 21 19日朝食 有 症 無 症 χ2値 食べた 食べない 納豆オクラ 60 8 4 52 77.65 コロッケ 47 21 29 27 3.89 レタス 45 23 28 3.32 トマト 46 22 26 30 5.68 ご飯 65 3 34 43.85 味噌汁 66 2 35 23.16 パン 5 62 - 牛乳 16 17 39
ケーキセット物語 19日朝食 有 症 無 症 χ2値 食べた 食べない 納豆オクラ 60 8 4 52 77.65 コロッケ 47 21 19日朝食 有 症 無 症 χ2値 食べた 食べない 納豆オクラ 60 8 4 52 77.65 コロッケ 47 21 29 27 3.89 レタス 45 23 28 3.32 トマト 46 22 26 30 5.68 ご飯 65 3 34 43.85 味噌汁 66 2 35 23.16 パン 5 62 - 牛乳 16 17 39