新しい創傷治療 -「消毒とガーゼ」の撲滅を目指して-

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新しい創傷治療 -「消毒とガーゼ」の撲滅を目指して- 石岡第一病院 傷の治療センター  夏井 睦

翌日の状態

これらはエビデンスのない 19世紀の医学知識! 消毒しないと傷が化膿する。 傷は乾かして治す ガーゼは治療材料である これらはエビデンスのない 19世紀の医学知識!

皮膚欠損創の治り方 表皮 表皮細胞の移動,分裂 深い皮膚欠損創 肉芽 真皮 毛孔 浅い皮膚欠損創

皮膚欠損創の治り方 毛孔,汗管(=皮膚付属器官)が残っていればそこから皮膚が再生。 皮膚付属器が残っていなければ,肉芽が創面を覆い,その後,肉芽面に周囲から皮膚が遊走・増殖して再生。 肉芽自体も収縮し,創が小さくなる。

皮膚再生は細胞培養と同じ 培地⇒傷表面 培養液⇒滲出液 培養には 培養液が必要 培養液がないと 細胞は死滅する 5日後

傷が治るためには, 培養液が必要 創面は乾かしてはいけない。 創面はジュクジュクしていないと治らない。

縫合創の治癒過程(一次治癒の場合) 出血部位から流出した血小板が活性化され凝集し,止血 白血球(好中球)が組織内に浸潤 縫 合 数時間 24~48時間 3日目以降 出血部位から流出した血小板が活性化され凝集し,止血 白血球(好中球)が組織内に浸潤 マクロファージが組織内に浸潤 線維芽細胞がコラーゲンなどを産生 表皮細胞が創面を覆う 毛細血管が増殖

血小板が好中球,マクロファージを呼び寄せている? 創傷治癒がスムーズに進むためには 血小板 好中球 マクロファージ ・・・ 血小板が好中球,マクロファージを呼び寄せている? 細胞成長因子(サイトカインの一種)

線維芽細胞 血管新生 好中球 単 球 血小板 マクロファージ 内皮細胞 平滑筋細胞 表皮細胞 PDGF TGF-β bFGF EGF

細胞成長因子を 創面に分泌して傷を治そうとする 傷はなぜジュクジュクするのか? 傷ができる  細胞成長因子を 創面に分泌して傷を治そうとする 傷口がジュクジュクしているのは 傷を治そうと体が頑張っているから

閉鎖すれば細胞培養が進み, 創はすぐに治る 湿潤療法の意味          創面を閉鎖 湿潤環境 閉鎖すれば細胞培養が進み, 創はすぐに治る 創面 細胞成長因子

創面を覆うものは何がいいか 創面を覆う目的は乾燥を防ぎ,滲出液がこぼれ落ちるのを防ぐこと。 それができれば,医療材料である必要はない。 人体で有害でなければ,食品包装用ラップ・ゴミ袋・油紙でも医療材料と同等の治療効果を持つ。

アルギン酸塩で被覆 受傷5日目 受傷時 14

フィルム材で覆っていない フィルム材で覆っている 15

演者自身による人体実験 左前腕に荷造り用テープを「張っては剥がす」操作を40回繰り返し,皮膚表面を破壊。 2つに分けて一つを乾燥させ,もう一つをフィルム材で密封。

皮膚表装破壊後 健常な皮膚(60倍)

乾燥 2日後 湿潤 2日後 乾燥 4日後 乾燥 7日後 湿潤 7日後 実験開始時の状態

ガーゼとは何か? 1870年頃,細菌は乾燥状態では増殖しないことがわかる。 それなら,傷表面を乾かせば細菌が増えず,感染しなくなるのでは? ・・・・ と考えた19世紀の医者がいた

ガーゼ,ソフラチュールは 治療材料でなく破壊材料! ガーゼは「創面を乾燥させる」 創面を乾燥させ, 創上皮化を ストップさせる 乾くと創面に固着し,処置時に疼痛を与え,出血させる ガーゼ,ソフラチュールは 治療材料でなく破壊材料!

ガーゼを張る医者は 19世紀のサディスト医者! ガーゼは傷に食い込む! 自分のガーゼを剥がすと痛い 他人のガーゼは 剥がしても痛くない 患者(他人)の痛みは痛くない! ガーゼを張る医者は 19世紀のサディスト医者!

創傷被覆材の種類 -外傷治療に有用なもの-

(デュオアクティブ®,カラヤヘッシブ® など ) ハイドロコロイド ドレッシング (デュオアクティブ®,カラヤヘッシブ® など ) 創面からの浸出液 でやわらかい親水 性コロイドゲルを形 成。 防水性に優れてい る。 皮膚色が透けるの で目立たない。

(カルトスタット® ,ソーブサン® ,アルゴダーム®など) アルギン酸塩 ドレッシング (カルトスタット® ,ソーブサン® ,アルゴダーム®など) コンブから抽出されたアルギン酸塩を不織布にしたもの。 浸出液を吸収してゲル化。 表面はフィルムドレッシングで密封する。 強力な止血作用

ポリウレタンフォーム ドレッシング 創面に固着せず,浸出液を吸収するが,創は乾かさない。 融解しない。 吸水力が強い。 ポリウレタンフォーム ドレッシング (ハイドロサイト® ) 創面に固着せず,浸出液を吸収するが,創は乾かさない。 融解しない。 吸水力が強い。 厚みと弾力があり,創部へのクッション効果がある。

創傷被覆材の使い分け 初診時 出血している創 アルギン酸塩 滲出液が多い創 平坦な部分 ポリウレタンフォーム 凹凸のある部位(顔面,指尖部など) 露出部 薄いハイドロコロイド

創傷被覆材の短所 連続2週間しか使えない。 皮膚欠損創・褥瘡のいずれかの病名がないと保険請求できない。 10×10cmで1,000~1,500円と高価。 5枚以上使用すると査定されることが多い(県によって異なる)。

創傷被覆材に必要な機能 創面に固着しないこと 創面を乾かさないこと ある程度,吸水力があること

創傷被覆材の代用品 プラスモイスト 穴あきポリ袋+紙オムツ ガーゼに透明フィルムを貼付 食品包装用ラップ 白色ワセリンの頻回塗布

プラスモイスト®(瑞光メディカル)

プラスモイスト 手術用/熱傷用被覆・保護材 材料費は保険請求できない 特 徴: 創面に固着しない 創面を乾燥させない 吸収能力がある。 特 徴: 創面に固着しない 創面を乾燥させない 吸収能力がある。 薄くて柔軟(厚さ1ミリ)

プラスモイストが有効な症例 擦過創,皮膚欠損創,熱傷 褥創 挫滅を伴う縫合創 膿痂疹(とびひ) 乳児湿疹,湿疹 帯状疱疹の水疱 PEG入口部,気管切開部 創外固定器ピン刺入部

プラスモイストのラインナップ プラスモイストP プラスモイストV プラスモイストW 調剤薬局・院内薬局向け。未滅菌包装 20×25センチ,3枚入りで\3,200 12.5×12.5センチ,3枚入りで\1,000 プラスモイストV 病院向け。未滅菌包装 20×25センチ,10枚入りで\10,000 プラスモイストW 病院向け。滅菌包装

問い合わせ先 瑞光メディカル(株) 大阪府摂津市鳥飼上4-3-50 電話:072-653-8877 FAX:072-653-8876 メール:plus_moist@zuiko.co.jp

褥創などは 〔穴あきポリ袋+紙オムツ〕で治療 紙オムツ(平オムツ)を三等分したもの 台所三角コーナー用穴あきポリ袋 紙オムツをポリ袋に入れ,口を閉じる。

この面を創に直接当てる オムツの 背面疎水性シート 穴あきポリ袋 オムツの吸水層 創に固着しない 背面シートがあり創面が乾燥しない 周囲の皮膚が過湿潤になりにくい 黄色期褥創でも使える 36

穴あきポリ袋+紙オムツ 慢性創 (褥創,慢性下腿潰瘍,糖尿病潰瘍など) 面積の大きな皮膚欠損創(術後創離開など) 在宅での褥創治療 高齢者施設での外傷治療

ガーゼに透明フィルムを貼付 傷よりやや大きなフィルムをガーゼに貼付 フィルム側を直接傷に当てる。 創は乾燥せず,滲出液はガーゼが吸収 ガーゼ

食品包装用ラップ 面積の広い擦過創,熱傷,日焼けに最適。貼付直後から痛みが軽くなる。 滲出液が多い場合は,ラップの上にガーゼをあてて包帯を巻く。 ラップに白色ワセリンを塗布すると,鎮痛効果がより強くなる。 柔らかくて薄いラップほど痛くない。

白色ワセリン頻回塗布 乾燥するのを防ぐのが目的なので,創の状態を見ながら塗布回数を調節する。 口唇挫創では口内炎用軟膏,眼瞼挫創では眼軟膏(いずれも,軟膏基剤は白色ワセリン)の塗布でも良い。 ワセリン基剤の軟膏(ゲンタシン軟膏など)でも同等の治療効果があり,少量でも処方しやすい。

白色ワセリンとは? 原油を精製して得られる鎖状飽和炭化水素(CnH2n+2)で,n=20がワセリン。 分子式:C20H42 ,分子量284 反応性に乏しく,安定している。抗原性を有しない。 融点は38~50℃で,純度が高いほど融点は低い。

黄色ワセリンと白色ワセリン 不純物が多いものが黄色ワセリン,少ないものが白色ワセリン,さらに純度が高いものがプロペト(眼軟膏の基剤) 「鉱物油は皮膚によくない」というのは不純物の多い時代の話。 高純度のものは人体に無害で,眼軟膏,口内炎軟膏の基剤に使われる。

傷に塗ってもよい塗り薬は? クリーム:界面活性剤を含み,傷にも皮膚にも使わない方がよい。 油性基剤:創面や皮膚に塗布しても無害。 クリームは不透明。 油性基剤(ワセリン)は半透明。

創感染とは何か

この褥瘡は化膿している? 化膿している Infection 化膿していない Colonization

創感染の診断 炎症の四徴候(発赤,疼痛,局所熱感,腫脹)があれば感染している。 四つのうち,他覚的には発赤の有無,自覚的には疼痛の有無が重要。 治療が効果的であれば,疼痛が最初に消退する(⇒もっとも鋭敏な指標が疼痛)。 細菌が検出されても発赤がなければ感染創ではない。

なぜ細菌が創面にいるのか 皮膚 皮膚常在菌 細菌のコロニー 傷ができる

皮膚常在菌と黄ブ菌 皮膚常在菌 黄色ブドウ球菌 栄養源 皮 脂 皮脂以外 至適pH 5.0~5.5 6.8前後 その他 嫌気性菌 好気性菌

皮 脂 皮脂腺 Propionibacterium属 パルミチン酸,ステアリン酸などを産生           (pH=5.0~5.5) 他の皮膚常在菌  ・栄養源として利用  ・増殖促進因子 黄色ブドウ球菌  ・利用できない  ・増殖阻止因子

創面=滲出液で中性,好気性環境 皮膚常在菌は増殖できない 黄色ブドウ球菌に最適の条件 黄色ブドウ球菌の単独コロニーを形成 抗生剤投与でMRSAのコロニーに変化

創面(肉芽)にMRSA単独コロニーができる 病原菌などが 傷に入り込めない MRSAは 危険なの?

MRSAは分裂が遅い 2個に分裂するのに要する時間 黄色ブドウ球菌 : 40分 MRSA :120分 多剤耐性MRSA :210分

MRSAは 増殖する余力が残ってない 耐性能力獲得にエネルギーを消費 時間 黄色ブ菌 多剤耐性MRSA 1 4時間後 64 2 8時間後 1 4時間後 64 2 8時間後 4,096 4 12時間後 262,144 8 16時間後 16,777,216 16 耐性能力獲得にエネルギーを消費 MRSAは 増殖する余力が残ってない

細菌の視点で傷を見ると・・・ 無菌の創面は存在しない 創面は無菌にできない 細菌はわずかな水分と養分があれば,ガラス表面でも繁殖できる 創面は水分と栄養が豊富にあり,温度も体温程度と温かい 無菌の創面は存在しない 創面は無菌にできない

地球は細菌に満ちている 南極地下300メートルの氷中で増殖する細菌がいる。 人間の致死量の2000倍の放射線でも死なない細菌がいる。 硫酸,鉄,銅,アルミニウム,パラチオン,有機水銀,除草剤,青酸ソーダ,DDT,有機農薬を分解する細菌もいる。 どんな環境にも適応して生存できる。

≠ (=Infection) (=Colonization) ★ Infection →患者に有害な状態 創が 感染している (=Infection) 創面に細菌は いても炎症なし (=Colonization) ≠ ★ Infection →患者に有害な状態 ★ Colonization →患者に無害な状態

Infectionは治療対象 Colonizationは治療対象でない     ⇒培養しない,放置する Infection Colonization

Colonizationは放置 細菌がいるから傷が治らない・・・でない。 創面の細菌は人間に害を及ぼしていない。 消毒しても無菌にならない。菌種が変わるだけ。

創面のMRSAを消すには 傷を治せばいい 傷が治る 正常皮膚が覆う pHが5.5になる MRSAは生存できない。 皮膚常在菌のみ生息できる。

MRSAのみ消そうとすると! 抗生剤投与,創消毒 MRSA 緑膿菌 Candida セラチア その他の菌

創面での菌交代 創面の状態(滲出液の性状,pH,肉芽の状態など)に適した細菌のみが生存できる 創面の状態を消毒などで変化させれば,その状態に適応した細菌に変化する。 細菌の種類は創の状態に応じて最適のものが選ばれる。

創面や肉芽のMRSA 傷が治らないからMRSAがいる。 傷を治せないからMRSAが消せない。 MRSAがいるから傷が治らない

傷に細菌がいれば化膿するのか? 細菌が創面にいるのに 感染していない! 裂肛患者(創表面は大腸菌・緑膿菌だらけ!)に敗血症は発生しているか? 口腔内熱傷で化膿した患者はいるか? 細菌が創面にいるのに 感染していない!

創感染はなぜ起きる? 細菌単独で創感染は起こせるか →10万個/組織1gの細菌数が必要 →現実にはほとんどない 細菌単独で創感染は起こせるか   →10万個/組織1gの細菌数が必要      →現実にはほとんどない 創内に感染源があると・・・   →200個/1gの細菌で感染する      →現実の感染はほとんどこれ

良 い 子 グ レ た 起 炎 菌 感 染 源* 創 感 染 + = 悪い連中と付き合う + = 起 炎 菌 感 染 源* 創 感 染 + = *血腫,溜まったリンパ液,壊死組織,縫合糸,異物 良 い 子 悪い連中と付き合う グ レ た + =

創感染を防ぐには・・・? デブリードマン& ドレナージ 消毒しても感染源は除去されない 創面から感染源を除去すれば感染しない。 細菌はいても構わない。 デブリードマン& ドレナージ 消毒しても感染源は除去されない   →消毒に感染予防効果はない

血腫があると感染する理由 細菌増殖のために 体内では最適の環境! 循環から孤立した体液(血腫,リンパ液,細胞内液)は栄養に富んでいる。 抗生剤は届かない。 細胞性免疫の守備範囲外 細菌増殖のために 体内では最適の環境!

血腫があれば, 傷がなくても感染が起こる

傷を消毒しても 滅菌物で覆っても 防げない感染がある 細菌はどこから入ったのか? 下腿に傷がないのに血腫に感染した 感染起炎菌は傷から入ったのでない 傷を消毒しても 滅菌物で覆っても 防げない感染がある 侵入経路は 血行性では?

血行性にも細菌が侵入するなら 裂創,挫創,熱傷,術後創をいくら消毒しても,無菌操作しても,滅菌物で覆っても防げない創感染がある。 術後創感染の予防とは無菌操作でもなければ,術中の細菌侵入阻止でもない。 術後創感染予防とは細菌の培地(血腫など)を作らないこと。 消毒と無菌操作による感染予防には限界がある。

細菌の蛋白質と 人体の蛋白質を 区別しているわけでない 消毒薬とは何か? 消毒薬は 蛋白質を破壊 して殺菌する 細菌の蛋白質と 人体の蛋白質を 区別しているわけでない 人体細胞と細菌 どちらが強い?

人体細胞と細菌の構造の違い 細胞質 核 細胞膜 細胞壁 莢膜 人体細胞 細 菌

消毒で人体細胞は死に 細菌は生き残る (例:Burkholderia cepacia ) 傷を消毒すればするほど, 傷は化膿する。

絆創膏で皮膚破壊⇒消毒 絆創膏を30回張って剥がす 正常皮膚:60倍

5日間イソジン消毒 コントロール:正常皮膚

消毒薬は無害でも安全でもない クロルヘキシジン(ヒビテン® ,ヘキザック®)でアナフィラキシーショックから呼吸停止が起きている。 家庭消毒用クロルヘキシジン(マキロン® )の誤飲で死亡事故が起きている。死亡率が高い。 ポビドンヨード(イソジン®)は接触性皮膚炎を起こす率が高い。

消毒薬は毒薬 治療薬ではなく,単なる毒薬 感染予防効果なし。 感染を押さえる作用なし。 傷を深くする効果はある。 痛みを与える効果はある。 細菌は殺せなくても人間は殺せる。 治療薬ではなく,単なる毒薬

人間と常在菌は共生体 人間は皮膚常在菌に最適の環境とエネルギー源(皮脂)を提供する。 皮膚常在菌は病原菌の侵入を防ぐ。 皮膚常在菌は人間の皮膚に最高度に適応し,皮膚でなければ生きられない。 皮膚常在菌が消えると皮膚から病原菌が侵入する。

真核生物と細菌の共生 あらゆる動物,植物は細菌(原核生物)と共生している。共生細菌のない生物は存在しない。 動物の皮膚常在菌,消化管常在菌など。 地中には数百メートルの範囲に及ぶ細菌のネットワークがあり,種類の異なった植物同士がネットワークを通じて栄養や情報をやり取りしている。

レジオネラとアメーバ レジオネラ症の予防は・・・ 自然界のレジオネラはアメーバの細胞内共生微生物。 ある条件下でレジオネラは自由生活型となり,白血球侵入能を獲得。 アメーバの棲む水系の温度が下がると,アメーバは生存のために細胞内レジオネラを消化して栄養にする。 レジオネラ症の予防は・・・

皮膚と細菌 皮膚とは 多種類の常在菌が共存する生態系 生態系が保たれていれば病原菌は侵入できない 皮膚(手)にいるのはバイキンではない。

外来菌 (病原を持つものもある) 皮膚常在菌 (日和見感染以外病原性なし) 毛孔 82

水で洗浄(物理的除菌) 外来菌 表皮ブドウ球菌

常在菌は元に戻り,外来菌のみ除去できる

消毒(化学的除菌) 外来菌 表皮ブドウ球菌

消毒薬で皮膚が障害される 外来菌(病原菌)が進入 できるようになる 皮膚が正常でないため,皮膚常在菌叢が生息できない

手の消毒は院内感染を助長する 職員の手がMRSAだらけに! 手を頻回に消毒液で洗う 皮膚が荒れて皮膚炎を起こし,滲出液が出てくる 皮膚のpHが中性に近づく 黄色ブドウ球菌(MRSA)しか生息できない 職員の手がMRSAだらけに!

院内感染対策の本質は? 無菌操作をすること,滅菌物を使うこと,消毒することではない。 患者間の共有物(医師・看護師の手,回診車,白衣など)を汚染しないことが重要。 医師・看護師は処置後に手をよく洗うか,処置前に手袋をする。手洗いし過ぎると手が荒れてS.aureusのみ繁殖する。

弱酸性ビオレは安全でない 乾燥肌,アトピー性皮膚炎? 弱酸性でも 界面活性剤は 皮脂を洗い流す 皮膚常在菌が 生存できなくなる 皮膚が乾燥する 細菌感染が起こる 乾燥肌,アトピー性皮膚炎?

皮膚の過度の消毒・洗浄は 自分の皮膚の病原菌を増やし, 患者の感染を増やす 過ぎたるは猶及ばざるが如し

消毒,是か非か 器具や機械は消毒薬やオートクレーブ,熱湯で滅菌する。 人体(皮膚や創面)は洗浄して細菌を洗い流す。 人体に熱湯や消毒薬は使わない。

欧米では,糖尿病のインスリン注射は 衣服の上から刺すのが常識! その消毒は不要だ! 腹膜透析(CAPD)チューブ刺入部の消毒 脳室ドレーン,胸腔ドレーン,腹腔ドレーン刺入部の消毒 CVカテーテル刺入部の消毒 創外固定器のピン刺入部の消毒 欧米では,糖尿病のインスリン注射は 衣服の上から刺すのが常識!

常在菌:  ・pH5.5  ・皮脂が栄養 カテーテル・ ドレーンなど pH7.4 皮脂はない 皮膚常在菌は増殖できない

執刀部位は執刀前に十分に 洗浄すれば通過菌を除去でき, 術後創感染予防になる 執刀前の皮膚消毒は? 皮膚常在菌は皮脂がなく中性の環境(=腹腔,胸腔,骨髄など)では増殖できない 通過菌にはこの環境で増殖できるものがいる 執刀部位は執刀前に十分に 洗浄すれば通過菌を除去でき, 術後創感染予防になる

皮膚常在菌に 守られているのも 健常人と同じ 易感染性の場合は? 皮膚の構造は 易感染性患者も健常人も同じ 皮膚常在菌に 守られているのも 健常人と同じ 易感染性だからこそ常在菌叢を乱してはいけない。 皮膚や創部の消毒は自殺行為では?

術後創感染を防ぐには 真皮直下からの出血を電気メスでしつこく止血しない。 血腫,死腔を作らないよう,適切なド レナージと圧迫。 皮膚縫合前に創内を消毒しない。 イソジンゲルを塗布しない。 術後の消毒をしない。 96

縫合前に創内を消毒しない! 深部感染・骨髄炎が発生 筋膜縫合後に創内 (脂肪組織)を消毒 脂肪組織が 損傷される 創が離開する 創面に細菌が 定着する 消毒などにより 傷が深くなる 深部感染・骨髄炎が発生

『ゴッドハンド輝 第24巻』 (山本航暉著,週刊少年マガジン連載中)