名古屋大学 天体物理学研究室(Ae研) 古川 尚子

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名古屋大学 天体物理学研究室(Ae研) 古川 尚子 超新星残骸ワークショップ 2009年3月13日(金) Westerlund2のジェットとアーク 名古屋大学 天体物理学研究室(Ae研) 古川 尚子 Joanne Dawson, 大浜 晶生, 河村 晶子, 山本 宏昭, 大西 利和, 福井 康雄 (名大), Felix Aharonian, Werner Hoffman, Emma de Ona Wilhelmi (MPIK), Gavin Rowell (Adelaide), Thomas M. Dame (Harvard-Smithsonian CfA), 長滝 重博 (京大基研) and NANTEN グループ

本発表の概要 若い大規模星団(Westerlund 2, Wd2)領域で、アーク状、直線状 (名称:アーク、ジェット) の分子雲を発見 Wd2方向にはTeV/GeVガンマ線源が発見されている 星団のメンバーによる超新星爆発でこれらの分子雲が形成された可能性を提案 超新星爆発のモデルとして、磁場駆動型のジェット状爆発を伴った超新星爆発モデルを採用

RCW 49 WR20b WR20a Wd 2 HII領域 Westerlund 2 (Aharonian et al. 2007) HESS J1023-575 l, b = 284.25, -0.33 WR20b WR20a Westerlund 2 星の総質量: 4500 Msun (Rauw et al. 2007) 年齢:2-3 Myr (Piatti et al. 1998) O型星:12 (Rauw et al. 2007) Wolf-Rayet 星(WRs):2 (Rauw et al. 2007) 距離:5.4 kpc (Furukawa et al. submitted.) Wd2は銀経284度に位置します。 左はspitzerの3.6から8ミクロンの4バンドの合成図です。 星の総質量は4500太陽質量、 年齢は200から300万年とされており、 少なくとも12個のO型星が確認されており、 水素の外層が恒星風によってはぎとられたWR星がふたつ付随しているとされています。 距離は様々な議論がされていますが、本研究では、母体分子雲候補の観測より求まった距離5.4kpcを採用します。 また、この方向でガンマ線源が発見されています。 Spitzer IRAC 3.6, 4.5, 5.8, 8.0 m (Churchwell et al. 2004) ガンマ線源 HESS J1-23-575 (TeV) (Aharonian et al. 2007), Fermi (GeV)(Abdo et al. 2009)

12CO(J=1-0)銀河面分子雲探査 望遠鏡 (口径) なんてん (4m) 輝線 12CO(J=1-0) 静止周波数 115.271 GHz 空間分解能 2’.6 (4.1 pc @ 5.4 kpc ) 速度分解能 1 km s-1 雑音温度 ~1.0 K/ch 観測時期 1996 - 2004 @チリ・ラスカンパナス天文台 用いたデータはなんてん望遠鏡の12CO回転遷移輝線J1から0の銀河面分子雲探査のデータです。 角度分解能は2.6分角で、Wd2までの距離は様々な議論がされていますが、5.4kpcを仮定すると4.1pcの分解能になります。

12CO(J=1-0)による分子雲アークとジェットの発見 母体分子雲候補  Dame 2007 母体分子雲候補 Furukawa et al. 2009,          submitted こちらが12CO(J=1-0)のデータです。 4枚は同じ領域を示していて、横軸が銀経、縦軸が銀緯です。 COのデータは、各観測点に対して、横軸をドップラーシフトから求められた視線方向の速度としたスペクトルが観測され、 これら4枚は異なった速度の成分を表してます。 例えば、母体分子雲の候補とされている分子雲は複雑な構造をしているのに対し、 今回着目した分子雲は、周囲に分子雲が無く、幾何学的な構造をしているのがわかります。 白:Wd2 赤:HESS J1023-575

ジェットとTeV/GeVガンマ線源が直線状に一致 アークがTeVガンマ線源の縁に沿って分布 ガンマ線源との付随 24  VLSR 28 km s-1 ジェット 28  VLSR 30 km s-1 Wd2 HII 領域(電波連続波 843MHz) Whiteoak & Uchida 1997 TeVガンマ線源 HESS J1023-575 GeVガンマ線源の重心 これらの分子雲を拡大して重ねたものが、この図です。 本研究では、アーク状の分子雲をアーク、 直線状の分子雲をジェットと呼びます。 この図は視線速度方向をある範囲で積分した強度図です。 また、Wd2は十字の位置で、ガンマ線源の分布はオレンジのコントア、HII領域は白のコントアで表しています。 これを見ると、ジェットは直線状に整列して分布している事が特徴的で、 投影された長さは約100pcになります。 また、ジェットの直線の延長線がガンマ線源の中心を通り、 ガンマ線源の縁にそってアークが位置する事から、 これらはガンマ線源に付随している可能性が高いと言えます。 ジェットとTeV/GeVガンマ線源が直線状に一致 アークがTeVガンマ線源の縁に沿って分布 ガンマ線源との付随

12CO(J=1-0)高分解能観測 望遠鏡 Mopra 口径 22 m 輝線 12CO(J=1-0) 静止周波数 115 GHz 手法 On The Fly サンプリング間隔 15”(Nyquist) 空間分解能 47” (1.2 pc @ 5.4 kpc ) 速度分解能 0.087 km s-1 雑音温度 ~0.7 K/ch 領域 0.3 degree2 観測時期 2008年7~8月 そこで、より詳細な分子雲の構造を見るために、 同じ12CO(1-0)の高分解能を行いました。 用いた望遠鏡はMopra望遠鏡です。 角度分解能は47秒角で1.2pcの空間分解能に相当します。 オーストラリア

12CO(J=2-1)観測 望遠鏡 NATNE 2 (4 m) 輝線 12CO(J=2-1) 静止周波数 230 GHz 手法 On The Fly サンプリング間隔 30”(Nyquist) 空間分解能 100” (2.4 pc @ 5.4 kpc ) 速度分解能 0.38 km s-1 雑音温度 ~0.4 K/ch 領域 0.7 degree2 観測時期 2008年10月 また、ひとつ高い回転遷移輝線12CO(2-1)の観測をNANTEN2望遠鏡を用いて行いました。 なぜ、観測したかというと、 分子雲が高温または高密度状態だと、COは高励起状態へ励起されます。 例えば、温度の異なるふたつの分子雲の1-0と2-1の強度比を比較すると、 10Kの分子雲では1-0輝線の強度が高いのに対し、 200Kの分子雲では、1-0と2-1はほぼ同じ強度になります。 従って、異なる励起線の強度を観測する事によって、分子雲の物理状態を推定できるためです。 @ チリ・アタカマ高地

積分範囲 Arc 24-28 km s-1 Jet 28-30 km s-1 十字: Wd2 緑:HESS J1023-575 観測結果がこちらです。 一番上がなんてんの1-0で中央がMopraの高分解能の1-0データです。 これを見ると、ジェットの大局的な直線構造に加え、 ガンマ線源の中心に近い方を根元と定義しますが、 根元が折れ曲がった構造をしている事がわかりました。 その他にも複雑な構造が多々見えます。 また、一番下は12CO(J=2-1)です。 Arc 24-28 km s-1 Jet 28-30 km s-1

Mopra 12CO(J=1-0) ジェット先端の 速度分散 大 質量: ジェット M(H2) ~ 1.0-2.7  104 Msun 速度分散 大 質量: ジェット  M(H2) ~ 1.0-2.7  104 Msun アーク  M(H2) ~ 2.0-5.2  104 Msun 仮定: ・COの積分強度と水素分子の変換     ファクター     N(H2)/Wco = 2.0  1020 cm-2 (K km s-1)-1 ・距離 5.4+1.1-1.4 kpc 右の図が観測結果です。 上の3枚は先ほどと同じ積分強度図で、それぞれ積分範囲が異なります。 この図は、ジェットの軸を水平に傾けた図で、 水平方向をS、垂直方向をT軸と定義しました。 黒の十字がガンマ線源の中心、青がWd2を示しています。 下の図は、緑枠をT軸方向に積分した、 横軸が空間、 縦軸は速度を示した図です。 例えば、一番上の図は・・・ と、空間的に重なった成分を一度に見ることが出来ます。 この様に、高分解能で観測すると、直線状の大局構造に加え、 根元が折れ曲がった構造をしていたり、 先端では分子雲が分岐し、複雑な形状をしており、 3つの成分が空間的に良い一致を示すことから、 これらの分子雲が付随してジェットを形成していると考えられます。 また、COの積分強度と水素分子の柱密度の変換ファクターと 距離を仮定し、 分子雲のH2の質量を求めたところ、 ジェットは1-3X10^4太陽質量 アークは2-5X10^5太陽質量と見積もられました。 青: Wd2 緑:HESS J1023-575 (Bertsch et al. 1993)

中性水素原子(HI)ガスとの比較 HIガス ガンマ線中心方向を取り囲むように分布 ガンマ線中心方向に空洞 アークと反相関 アークと共にシェル状の構造 膨張速度 小 ジェットの方向にも豊富に存在 まずは、HIガスの分布です。 グレースケールがHIガスの分布です。 これをみると、HIガスはガンマ線源の中心を取り囲むように分布し、 ガンマ線中心方向は空洞になっています。 また、HIの弱いところにアークが位置する逆相関になっていることから、 これはHIがH2に転換した可能性があると言えます。 そして、アークと共にシェル状の構造をしており、 ジェットの方向にも豊富に存在してます。 従って、このようなアークとジェットとHIガスの分布を説明する形成シナリオが必要です。 グレースケール:HI (McClue-Griffiths et al. 2005) アーク・ジェット12CO(J=1-0) 十字:Wd2 青:ガンマ線源 HESS J1023-575

運動エネルギー ~ 1 1048 ergs ~1-2 1049 ergs アークとHIガス ジェット M(H2)arc ~ 1.0-2.7  104 Msun M(HI) ~ 0.5-1.4  105 Msun アークの平均速度分散 ~ 1 km s-1 ~ 1 1048 ergs ジェット ~1-2 1049 ergs M(H2)jet ~ 2.0-5.2  104 Msun 最大速度分散 ~ 10 km s-1 次に各運動エネルギーを計算しました。 アークとHIはそれぞれの質量やアークの速度分散を用いて、10^48ergsのオーダーと求まりました。 ジェットは、各観測点の各kに対して、重心速度からのずれを速度として運動エネルギーをもとめ、足し合わせて求めました。 10^49ergsになりました。

分子雲とガンマ線源の形成シナリオ 非等方超新星爆発 - 球対称爆発: 球対称+ジェット状の非等方な爆発 アーク+HIガスのシェル Cas A   非等方超新星爆発      球対称+ジェット状の非等方な爆発   - 球対称爆発: アーク+HIガスのシェル    - ジェット状爆発: 分子雲ジェット X線 Cas A 以上の検証を踏まえて、分子雲とガンマ線源をひとつの現象で形成するシナリオとして、 非等方超新星爆発を提案します。 これは球対称とジェット状の爆発をする超新星爆発で、 球対称な爆発でアークとHIガスのシェルを形成し、 ジェット状の爆発で分子雲ジェットを形成、 ガンマ線源は爆発後に誕生した中性子星によるPWNで発生した可能性が考えられます。 このようなジェット状の爆発の痕跡は超新星残骸カシオペアAでも発見されており、 Wd2方向でもこのような超新星爆発が起きた可能性があります。 Hwang et al. 2004

Wd2 HII 領域(電波連続波 843MHz) Whiteoak & Uchida 1997 GeVガンマ線源の重心 TeVガンマ線源 HESS J1023-575 GeVガンマ線源の重心 これらの分子雲を拡大して重ねたものが、この図です。 本研究では、アーク状の分子雲をアーク、 直線状の分子雲をジェットと呼びます。 この図は視線速度方向をある範囲で積分した強度図です。 また、Wd2は十字の位置で、ガンマ線源の分布はオレンジのコントア、HII領域は白のコントアで表しています。 これを見ると、ジェットは直線状に整列して分布している事が特徴的で、 投影された長さは約100pcになります。 また、ジェットの直線の延長線がガンマ線源の中心を通り、 ガンマ線源の縁にそってアークが位置する事から、 これらはガンマ線源に付随している可能性が高いと言えます。 14

非等方超新星爆発の理論モデル 磁場駆動型超新星爆発 Hypernova (極超新星爆発 Eexp ~1052 ergs)のモデルのひとつ 鉄コアの重力崩壊や原始中性子星の高速回転により磁場を増幅 ~1015Gの磁場エネルギーで爆発 立体角の狭い、相対論的速度を持ったジェット状の爆発 中心には高速回転する中性子星   (=マグネター)を形成 非等方超新星爆発の理論モデルは、磁場によって駆動されるメカニズムが考えられています。 これはHypernovaのモデルのひとつでもあり、 鉄コアの重力崩壊や原始中性子星の高速回転により磁場を10^15Gまで増幅して、 磁場エネルギーで爆発させるモデルです。 この時立体角の狭いジェット状の爆発をすることがシミュレーションで得られています。 また中心には高速回転する中性子星(マグネター)を形成します。 観測でもジェット状爆発の痕跡ののこるカシオペアAなど、非等方な超新星爆発の可能性が数例見つかっている事から、 Wd2方向でもこのような超新星爆発が起きた可能性は考えられます。 Sawai et al. 2008 e.g. Burrows et al. 2007, Komissarov et al. 2007

分子雲とガンマ線源の形成シナリオ 非等方超新星爆発 - 球対称爆発: 球対称+ジェット状の非等方な爆発 アーク+HIガスのシェル 超新星残骸   非等方超新星爆発      球対称+ジェット状の非等方な爆発   - 球対称爆発: アーク+HIガスのシェル    - ジェット状爆発: 分子雲ジェット X線 超新星残骸 カシオペアA 以上の検証を踏まえて、分子雲とガンマ線源をひとつの現象で形成するシナリオとして、 非等方超新星爆発を提案します。 これは球対称とジェット状の爆発をする超新星爆発で、 球対称な爆発でアークとHIガスのシェルを形成し、 ジェット状の爆発で分子雲ジェットを形成、 ガンマ線源は爆発後に誕生した中性子星によるPWNで発生した可能性が考えられます。 このようなジェット状の爆発の痕跡は超新星残骸カシオペアAでも発見されており、 Wd2方向でもこのような超新星爆発が起きた可能性があります。 Hwang et al. 2004

ジェット状爆発による分子雲形成のメカニズム マイクロクエーサージェットによる分子雲形成を適用 Yamamoto et al. 2008 相対論的ジェット 衝撃波 相対論的ジェットが密度のむらを持つHIガス(~0.5-50 cm-3)を通過 衝撃波面が円筒状に広がり、HIガスを圧縮して分子雲を形成 ジェット状爆発で分子雲を形成するメカニズムに関しては、 マイクロクエーサーのジェットによる分子雲形成の可能性がYamamoto et al.で研究されており、 これをジェット状爆発に適用できると考えました。 Yamamoto et al.では、相対論的ジェットが密度ゆらぎを持つHIガスを通過し、 衝撃波面が円柱状に広がり、HIガスが圧縮され分子雲が形成されるとしています。 分子雲

CTB37B CTB37A

ジェット状爆発による分子雲形成の検証 1 ヘリカル構造 Wd2の分子雲ジェットの先端でヘリカル構造が多数見られる。 ジェット状爆発による分子雲形成の検証 1 Galactic Longitude (degree) MJG348.5 Yamamoto et al. in preparation. MJG347.5 Nakamura et al. in preparation. ヘリカル構造 Wd2の分子雲ジェットの先端でヘリカル構造が多数見られる。 ヘリカル構造をした分子雲の報告 相対論的ジェットのヘリカルな軌跡を反映している可能性 Wd2の分子雲ジェットがこのような相対論的ジェットによって形成された可能性として、 AGNなどのジェットの構造に見られるヘリカル構造の可能性が挙げられます。 Yamamoto et al.では、マイクロクエーサージェットで形成された可能性のある分子雲でヘリカル構造をしているものが複数報告されています。 Wd2の分子雲ジェットも先端に複数のヘリカル構造の可能性のある成分があることから、 相対論的ジェットの軌跡を反映している可能性があると考えられます。

ジェット状爆発による分子雲形成の検証 2 12CO(J=2-1)/12CO(J=1-0) 強度比 分子雲の先端で比が高い。 ジェット状爆発による分子雲形成の検証 2 12CO(J=2-1)/12CO(J=1-0) 強度比 分子雲の先端で比が高い。   R2-1/1-0 ~ 1.1-1.3 先端で相対論的ジェットと相互作用し、分子雲が加熱されている可能性 ふたつめの可能性は、2-1と1-0の比です。 先端で相対的に比が高いことから、 これは分子雲の先端で相対論的ジェットが分子雲と相互作用し、分子雲を加熱している可能性あると考えられ、 ジェット状爆発による分子雲形成を示唆しています。 赤 HESS J1023-575 白 Wd2

ガンマ線の発生プロセス ・超新星爆発の残存粒子 ・残された天体(e.g. SNR, PWN)での加速粒子 陽子起源 (0崩壊) 陽子起源、電子起源         (逆コンプトン散乱) 候補天体 Pulsar wind nebula (PWN) ガンマ線の広がりは宇宙線のエネルギーに依存 以上まとめです。 ・・・ 今後の課題としては、 形成シナリオを明らかにする為に中心天体の特定が重要と考えています。 そのためにもガンマ線起源を明らかにする必要があります。 また、磁場駆動型超新星爆発の証拠を掴むため、磁場の測定が重要です。 そして、アークも含め、分子雲の力学的な理解を深め、物理状態を推定したいと考えています。

形状とエネルギースペクトルからガンマ線起源天体の正体を解明 ガンマ線の発生プロセス 今後の課題 GeV/TeV比より、陽子起源と電子起源を切り分ける。 形状とエネルギースペクトルからガンマ線起源天体の正体を解明 Wd2方向で起きている現象の解明 以上まとめです。 ・・・ 今後の課題としては、 形成シナリオを明らかにする為に中心天体の特定が重要と考えています。 そのためにもガンマ線起源を明らかにする必要があります。 また、磁場駆動型超新星爆発の証拠を掴むため、磁場の測定が重要です。 そして、アークも含め、分子雲の力学的な理解を深め、物理状態を推定したいと考えています。 RX 1713.7-3946 Aharonian et al. 2007

まとめ 大規模星団(Westerlund 2)方向に、ガンマ線源と分布が一致したアーク状、直線状分子雲を発見 Wd2方向にはTeV/GeVガンマ線が発見されている。 分子雲形成メカニズムとして、磁場駆動型非等方的超新星爆発を提案 ガンマ線・分子雲の起源天体を明らかにする為にもガンマ線発生プロセスを明らかにする事が重要

Wd2 HII 領域(電波連続波 843MHz) Whiteoak & Uchida 1997 GeVガンマ線源の重心 TeVガンマ線源 HESS J1023-575 GeVガンマ線源の重心 これらの分子雲を拡大して重ねたものが、この図です。 本研究では、アーク状の分子雲をアーク、 直線状の分子雲をジェットと呼びます。 この図は視線速度方向をある範囲で積分した強度図です。 また、Wd2は十字の位置で、ガンマ線源の分布はオレンジのコントア、HII領域は白のコントアで表しています。 これを見ると、ジェットは直線状に整列して分布している事が特徴的で、 投影された長さは約100pcになります。 また、ジェットの直線の延長線がガンマ線源の中心を通り、 ガンマ線源の縁にそってアークが位置する事から、 これらはガンマ線源に付随している可能性が高いと言えます。 24

陽子起源  シンクロトロン放射やICによる残存電子の損失が大きい

分子雲の観測方法 典型的な分子雲 ・温度~10 K, 密度~100個/cm3 ・主要成分H2 ・一酸化炭素(CO)の回転遷移輝線 中性水素HIガス (密度 ~1個/cm3) H2 CO H 典型的な分子雲  ・温度~10 K, 密度~100個/cm3  ・主要成分H2 ・一酸化炭素(CO)の回転遷移輝線    - 次に存在量が多い。    ― 化学的に安定    12C16O(J=1-0)    - 周波数 115 GHz - E/k ~5 Kで励起 本研究では、同じ分子雲の研究ですが、範囲をもう少し拡大し、Wd2が星間空間に与える影響を調査しました。 なぜ、分子雲の研究を行うかですが、分子雲は星間空間を構成する物質のひとつであり、分子雲を調査するという事は、 星間空間の低温、高密度の状態を知るうえで大変重要な為です。  典型的な分子雲は温度~10Kで密度数100個/ccの状態で分布しています。 主要成分はH2ですが、H2は電気双極子モーメントを持たない為、この条件下では電磁波を放射しません。 そこで、次に存在量の多いCOを観測することが多いです。 CO1-0は分子雲の中でも比較的密度の薄いところまでトレースするため、分子雲全貌を明らかにする場合にはよく観測されます。  今回は、このCO1-0の広域サーベイデータを用いて、Wd2の周辺を調査しました。

その他の起源天体の可能性 超新星爆発+マイクロクエーサー ガンマ線起源を説明できるかが重要    ガンマ線起源を説明できるかが重要 (例 LS 5039; Aharonian et al. 2006, A&A, 640, 743) (2) 超新星爆発+PWN+PWNジェット   分子雲ジェットを形成するほどのエネルギーが足りず、ジェットのサイズも小さい。    例:Crab パルサー (Gaensler & Slane 2006)     スピンダウンエネルギー:~5 x 1038 erg s-1       サイズ: 0.25 pc

COの他の励起線との比較 高温または高密度状態で、COは高励起状態へ励起される。 異なる励起線の強度比は、分子雲の密度や温度を反映する。 10 K,700cm-3 200 K,700cm-3 回転準位間 1-0 7-6 6-5 5-4 4-3 3-2 2-1 輝線強度 高温または高密度状態で、COは高励起状態へ励起される。 異なる励起線の強度比は、分子雲の密度や温度を反映する。 物理状態を推定できる。

12CO(J=2-1)観測 12CO(J=1-0) 12CO(J=2-1) 左はMopraの1-0の積分強度図で、右が2-1の積分強度図です。

分子雲とHIガスの運動エネルギー ~ 2-6 1048 ergs 運動エネルギー アークとHIガス ジェット T軸  i=1 i=2 j=1 j=2 ・・・ 視線速度 Vk  k=1 k=2 質量  重心速度 VG 質量M(i,j,k) 運動エネルギー アークとHIガス M(H2)arc ~ 1.0-2.7  104 Msun M(HI) ~ 0.5-1.4  105 Msun アークの平均速度分散 ~ 1.9 km s-1 ~ 2-6 1048 ergs ジェット 次に各運動エネルギーを計算しました。 アークとHIはそれぞれの質量やアークの速度分散を用いて、10^48ergsのオーダーと求まりました。 ジェットは、各観測点の各kに対して、重心速度からのずれを速度として運動エネルギーをもとめ、足し合わせて求めました。 10^49ergsになりました。 ~1-2 1049 ergs 上記の運動エネルギーを与える高エネルギー現象が必要

ガンマ線起源 (PWNに付随するガンマ線源との比較) 天体 Photon index  Flux nomalization 0 (10-11 TeV-1 cm-2 s-1) Luminosity L (erg s-1) HESS J1023-575 ~2.5 (PL) 0.45 (PL) ~6.8 x 1034 (5.4 kpc) (>380GeV) Aharonian et al. 2007 HESS J1825-137 ~2.3 (EL) ~2.1 (EC) ~3 x 1035 (>200GeV) Aharonian et al. 2005 A&A, 615, L117 MSH 15-52 ~2.3 (PL) ~0.57 (PL) ~1.0 x 1035 (<40TeV) Aharonian et al. 2005, A&A, 435, L17 Vela X ~1.5 (EC) ~1.3 (EC) ~9.9 x 1032 (550GeV-65TeV) Aharonian et al. 2006, A&A, 448, L43 Crab ~3.5 (PL) ~2.6 (PL) ~8.0 x 1034 ICRC ’07より PWN PL EC

背景 1.大規模星団の一員である大質量星( 8Msun)は、星間物質に大きな影響を及ぼす。 紫外線、恒星風 紫外線、恒星風   ・・・ 周囲の星間ガスを電離・散逸、次世代星形成誘発の可能性 超新星爆発  ・・・ 星間ガスの圧縮、重元素の供給、     宇宙線加速現場の有力候補 Elmegreen & Lada 1977 Hayakawa 1956 大規模星団が周囲に与える影響は、銀河進化において重要 2.系内の大規模星団 1 pc Figer et al. 1999; Genzel et al. 2003 (星の総質量 ~103-4 Msun)  大規模星団に複数含まれる大質量星は、星間空間に大きな影響を及ぼします。 主系列星時の紫外線や恒星風は、周辺の星間ガスを電離・散逸する一方、 次世代の星形成を誘発するとも示唆されています。 主系列星後の超新星爆発は星間ガスを圧縮し、 重元素を星間空間に供給します。 更に、宇宙線加速現場の有力候補ともされています。 従って、大質量星が多数含まれる大規模星団は周囲に多大な影響を与え、銀河進化においても重要な役割を果たしています。 一方、系内には大規模星団が5つ存在し、そのうちの3つは銀河中心に、残りの二つは腕に存在します。 本研究ではWesterlund 2に注目しました。 系内に数例 銀河中心: Arches, Quintuplet, Central   腕: Westerlund 1, Westerlund 2 Arches Cluster, Quintuplet Cluster, Central Cluster HST•NICMOS, VLT•NOAS•CONICA

本研究の目的 大規模星団Westerlund 2(Wd2)周辺の広域に渡る分子雲の研究 - 母体分子雲  - 母体分子雲  - 超新星爆発や恒星風・紫外線の影響を受けた     分子雲 銀河進化における大規模星団の影響を分子雲の観点から探る。 ガンマ線源と付随している可能性のある特徴的なふたつの分子雲を発見 分子雲とガンマ線源の正体と形成メカニズムを探る。 本研究の目的はWd2周辺の広域な分子雲の解明にあります。 これは、母体分子雲や、超新星爆発などの影響を受けた分子雲が存在する可能性がある為です。 これらを発見する事で、銀河進化における大規模星団の影響を分子雲の観点から探ろうと考えています。 そこで、本研究では、ガンマ線とふずいしている可能性のある、特徴的なふたつの分子雲を発見し、 これらの分子雲とガンマ線源の正体と形成メカニズムを探ろうと研究を進めています。

RCW49/Westerlund2 (Wd2) and Molecular Clouds Images : Spitzer IRAC image at 3.6, 5.8 and 8.0 microns (Churchwell et al. 2004) Contours : Integrated intensities in 12CO(J=2-1) by NANTEN2 11 < Vlsr < 21 km/s 1 < Vlsr < 9 km/s -11 < Vlsr < 0 km/s Min. 20 K km/s Interval 10 K km/s Min. 17 K km/s Interval 15 K km/s Min. 30 K km/s Interval 15 K km/s

Contour: 12CO(J=2-1) Image: Spitzer IRAC 8.0 m Furukawa et al. submitted, Ohama et al. in preparation. Contour: 12CO(J=2-1) Image: Spitzer IRAC 8.0 m Blue: +4 km/s Cloud Red: +16 km/s Cloud G.L. 284.2-284.4 16 km s-1

e (CR) + photon  e +  宇宙線電子起源 宇宙線陽子起源 0崩壊 シンクロトロン放射 逆コンプトン散乱 e (CR) + photon  e +  p (CR) + p (proton/nuclei)  0  2  Aharonian et al. 2006 Tanaka et al.

Worrall et al. 2007