第11回目 市場は地球環境を救えるか その2: 環境税の効果と税額

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第11回目 市場は地球環境を救えるか その2: 環境税の効果と税額 環境経済論 第11回目 市場は地球環境を救えるか その2: 環境税の効果と税額

環境税の例 その1      炭素税

地球温暖化対策としての 炭素税 エネルギーは使用禁止は不可能 直接規制には排出源の数が多すぎる End of pipeの排ガス処理が難しい 地球温暖化対策としての  炭素税 エネルギーは使用禁止は不可能 直接規制には排出源の数が多すぎる End of pipeの排ガス処理が難しい 禁止的措置より誘導的措置が望ましい 経済的負担により排出責任を明確化

炭素税のポイント 化石燃料に対し、CO2発生能力に応じて課税 個別CO2排出源ではなく、大元の燃料輸入業者、採掘・精製業者に課税 石炭、石油、天然ガスの順に税額が重い CO2を発生しない燃料には課税しない 個別CO2排出源ではなく、大元の燃料輸入業者、採掘・精製業者に課税 個別の排出源は価格シグナル(高騰した)に応じてエネルギー使用量を調整する

3つの側面 エネルギー効率の向上 (省エネルギー) 代替エネルギー源への転換 (風力、太陽エネルギーなど) エネルギー効率の向上         (省エネルギー) 代替エネルギー源への転換                   (風力、太陽エネルギーなど) エネルギーの他の財への代替                       (自転車(人力)への乗換えなど)

ヨーロッパの炭素税 環境保護より財源調達の側面が強いことに注意が必要

環境税の例 その2 ロンドンの混雑税

混雑税とは 混雑現象は双方向外部性(全員が被害者かつ加害者) 大都市の自動車は世界的に飽和状態 大都市での新規道路建設は事実上不可能 燃料、運転手時間などの損失=年720億ドル(8.4兆円) (米国の68都市の調査、1999) 大都市での新規道路建設は事実上不可能 新規道路建設をしても結果は同じ 道路被覆率世界1のロサンゼルスでも片側5車線道路の通勤所要時間は今後20年で倍になる 交通需要の抑制が今後不可欠 Traffic Demand Management (TDM)と呼ばれる

ロンドンの混雑税(congestion charge) 実施:2003年2月17日より 対象地域:内環状道路内の約21平方キロ 時間帯:午前7時~午後6:30 同時期にバスを増発、座席数確保

ロンドンの混雑税(congestion charge) 税額:1日5ポンド(約1000円) 支払方法:電話、Eメール(携帯電話等から、事前申し込みが必要)、ガソリンスタンド等の取扱店での購入など 電子記録のみでチケットによる支払済み表示などはしない 罰金:40ポンド(2週間を過ぎると80ポンド) 適用除外 区域内住民 90%割引 グリーン・カー(電気自動車、燃料電池車など) 身体障害者用車両、二輪車、バス、緊急車両などは無料

混雑税の監視 監視システムのコスト 自動カメラ 230台を設置 税払い込みデータと自動照合 初期設置費用 2億ポンド 初期設置費用 2億ポンド 維持管理費用 年間5000万ポンド 自動カメラ 230台を設置 通過車両の98%を捕捉 ナンバープレートを読み取り (モノクロ) 運転者、車両型式、色などを撮影 (カラー) 税払い込みデータと自動照合 未払い車のみ記録 夜12時までに払い込みがなかったものは翌日、管理官が照合、反則通知書を発行

混雑税導入の効果 Economist誌(3月20日号)による 効果予測と実際の結果 ゾーン内走行速度 毎時7.5マイル→20マイル 交通量10-15%減の予測→実際は20% 渋滞遅延時間20-30%減の予測→実際は30% ゾーン内走行速度 毎時7.5マイル→20マイル バス利用者:14%増 混雑税支払い件数  1日平均1万件、未納4千件 世論調査(MORI)  賛成50%  反対36%

混雑税の効果 限界私的費用=AC、 限界社会的費用=MC 混雑税を課すと私的総費用が増大し需要が減退する。 これにより、厚生改善が起こる 例:既に20台が走る道路に更に1台が加わると、所要時間が10分から11分に増えるとする。1台追加による限界費用は、  MPC=11分=AC  MEC=20分=MC  MSC=11+20=31分 混雑税を課すと私的総費用が増大し需要が減退する。 これにより、厚生改善が起こる

混雑税の論点 運転者の政治的反応 プライバシーの問題 公平さ 混雑が目に見えて減り、税収が適切に使われば、必ずしも運転者(納税者)の反対は大きくない プライバシーの問題 運転者個人の行動が監視される恐れ ロンドンの場合は「違反者のみ撮影」の措置で回避 公平さ 混雑税は逆累進的(混雑は平等であっても) バスサービス強化など、低所得者に配慮が必要

混雑税の技術革新 Smart card (プリペイドカード)による課金(シンガポール1998年より) トランスポンダー機能付ナンバープレート  (所有者を電子的に本人確認する) GPSによる自動車位置のモニタリング (どのクルマがいつ規制区域に入ったかを確認する) 

所得と混雑税負担 実際は混雑税の負担は概ね均等に分散 低所得者は自家用車を持たないため 負担は中間階層に比較的重い             Institute for Fiscal Studies, 2003 による

他の都市の混雑税 Singapore (1975導入) Trondheim (ノルウェー) Melbourne (2000導入) 朝のピーク時$2 劇的な交通量減少 89年に夕方のピークにも拡大 Trondheim (ノルウェー) 1991年導入、2005年終了 Melbourne (2000導入) Durham (2002導入)

環境税の二重配当 double dividend

環境税は二重配当をもたらす 環境税は大きな税収の候補 環境税は二重配当をもたらす  環境税は大きな税収の候補 例:炭素1トン当たり5万円の炭素税 (ガソリン1リットルあたり約20円に相当)を課すと、我が国のCO2排出量は炭素換算3億2千万トン/年なので →年間16兆円の税収となる 財源は環境保護に活用可能 →ふたつを同時に実施すれば大きな効果(二重配当)

環境税の二重配当 環境汚染(外部費用)を削減(主な目的)        社会的ゲイン(汚染削減ー私的損失) 活用可能な政府財源の調達 

ピグー税の実際的問題点

ピグー税の負担の問題 ピグー税として炭素税を実施すると産業から政府へ大きな所得移転が起こる 一方、政府財政当局には大きな歳入増 徴税額は外部費用総額を超える 一方、政府財政当局には大きな歳入増 政治的にピグー税は産業界からの大きな抵抗に直面する

ピグー税による負担と外部費用 外部費用の総額=b 税の支払い総額=a+b=政府の税収 生産者の損害=a+b+c よって、  よって、 生産者損害>税収>外部費用

ピグー税の実施上の問題 理想的なピグー税の税率=最適汚染水準における限界外部費用(MEC) しかし、 MECを調査等で求めるのは困難 しかも、ピグー税は被害者救済には無関心

BaumolとOatsが 提案する税

BaumolとOatsの提案 政策には目標が必要 あいまいな「最適汚染」の代わりに、まず目標となる「環境基準」を設定することが必要 そしてその目標を達成するために必要な税を遡及的に求める 税の水準(税額)は試行錯誤によって求める (目標達成状況をチェックし、不達成なら税額を厳しくし、超過達成なら緩める)

BaumolとOatsの税の流れ 目標となる環境基準の設定 課税の試験的実施 税率上げる 税率下げる 目標達成状況のチェック 目標未満 目標超過 目標達成 税の完成

BaumolとOatsの税率 試行錯誤による(手間と時間がかかる) 価格弾力性を基準に考える  例:価格が10%上がると、消費が10%低下する場合 ⇔ 弾力性=1 弾力性が1で消費を10%削減したいならば10%の税率で課税する