多様性の生物学 第4回 多様な生物4 和田 勝 東京医科歯科大学教養部
節足動物門(Arthropoda) 最大の種数を含む動物群で100万種近くが記載されていて、個体数で言うと1018個体はいるだろうと推定。あらゆる場所に適応して生息している。 種の多様性、分布、実際の数から見て節足動物門はすべての門の中で最も成功している動物群だということができる。
節足動物の特徴は、硬いクチクラの外骨格を持っていること、体節構造をもつが環形動物のような繰り返しではなく各節が機能分化していること、節のある付属肢を備えやはり機能分化していること、を挙げることができる。
節足動物のからだのつくり
いくつかの体節から構成される体の各部と付属肢は特殊化し、非常にさまざまな機能を持つことになる。 たとえば、前の図のように、付属肢は鋏、触角、口器、歩脚、遊泳肢に分化している。
クチクラはタンパク質とキチンの層から構成される固い構造。クチクラは厚くて固い部分だけではなく、可動部分のつなぎめでは薄くて柔らかい構造をとることもできる。 クチクラの外骨格は、筋肉の付着点となって付属肢を動かすことを可能にしている。 また、外骨格は水を通さないので、節足動物の陸への進出を可能にした。
節足動物のからだのつくり 前進運動の能力が高まり、感覚器官と中枢神経系が頭部に集中した。
節足動物のからだのつくり 開放血管系で背側に管状の心臓、無色の血リンパ(hemolymph)が組織の間を流れる
節足動物のからだのつくり 呼吸系は、水生種では鰓、陸生種では体表に気門が開く気官系。気管は枝分かれして直接器官を構成する細胞のそばへ。
節足動物の綱 カブトガニ綱(Xiphosura) クモ綱(Arachnida) 甲殻綱(Crustacea) ヤスデ綱(Diplopoda) ムカデ綱(Chilopoda) コムカデ綱(Symphyla) 昆虫綱(Insecta)
カブトガニ綱(Xiphosura) カブトガニも「生きている化石」。化石と現生種の差は非常に少ない。
カブトガニ
クモ綱(Arachnida) サソリ、クモ、ダニを含み、体は頭胸部と腹部に分かれ、頭胸部には6対の付属肢。第1対は鋏角、第2対は触肢、残り4対が歩脚。 クモでは鋏角の先端に毒腺が開口し、これを使って獲物を攻撃。鋏角で獲物を砕いた後、消化液を振り掛け、柔らかく液状になった組織を吸い込み食べる。
クモの体のつくり
甲殻綱(Crustacea) 陸に進出したクモ類や昆虫類と異なり、甲殻類は海あるいは淡水の水中生活をする。したがって呼吸器官としては鰓を備えている。 すでに述べたように、体は、頭部、胸部、腹部の3つに分かれ、付属肢は機能分化していろいろな役割を担っている。
いろいろな甲殻類 ミジンコ
いろいろな甲殻類 エボシガイ(右は脚を出したところ)
いろいろな甲殻類 カメノテ クロフジツボ
いろいろな甲殻類 フナムシ ダンゴムシもこの仲間
いろいろな甲殻類 コメツキガニ アメリカザリガニ
昆虫綱(Insecta) 昆虫は海を除いてあらゆる環境に適応して分布している。またその種数も他の動物群の合計よりもずっと多い。その意味でもっとも成功した生物である。。 昆虫が成功した大きな要因は翅を備えたことであろう。これによって移動が容易になったことは大きい。
昆虫綱(Insecta) 昆虫の体は大きく、頭部、胸部、腹部の3つに分けられる。 頭部には1対の触覚と3対の付属肢が変形した口器(大顎、小顎、下唇)、1対の複眼と3個の単眼があり、胸部は3体節で、それぞれの体節に1対ずつ、合計3対の脚と背側に2対の翅をもつ。
昆虫綱(Insecta) 腹部は7から13体節(ふつうは11体節)、翅のある昆虫では腹部に脚は無い。 カマアシムシ亜綱、トビムシ亜綱、無翅昆虫亜綱、有翅昆虫亜綱に分ける。 有翅昆虫類は、翅の形態によって等翅(シロアリ)目、直翅(バッタ)目、双翅(ハエ)目、鞘翅(コウチュウ)目、鱗翅(チョウ)目などに分けられる。
昆虫の体のつくり
腕足動物門(Brachiopoda) ミドリシャミセンガイ これも「生きている化石」である。
九州柳川に行ったときに、このミドリシャミセンガイが道端で売られていた。地方名ではメカジャという。味噌汁の具としたり、煮付けて前菜にするらしい。 カイと名前がついているが軟体動物ではない。貝殻のつき方が軟体動物とは異なり、左右ではなく背腹に合わさった形をしている。
腕足動物のからだのつくり シャミセンガイは比較的、平たくて薄い殻を持つが、もっと炭酸カルシウムが沈着して厚く、膨らみのある貝殻を持つ種もある(ホウズキガイ)。
触手冠動物 腕足動物の他にも、箒虫動物門、苔虫動物門の近縁グループがあり、これらをまとめて触手冠動物(Lophophorata)とすることがあるが、他の動物門は省略する。
これまでのまとめ
真体腔と口のできかた
新口動物
ウニの発生Ⅰ
ウニの発生Ⅱ
毛顎動物門(Chaetognatha) 毛顎動物を新口動物として扱うかどうか議論があるが、ここでは一応入れておくことにする。 毛顎動物は、ヤムシに代表される動物を含む小さなグループで、すべて海産。
プランクトン生活を送る小さなものから深海性の数cmのものまである。 ミジンコなどを食べる肉食性で、魚の餌となるので、水産資源としては重要である。
ヤムシ
毛顎動物門(Chaetognatha) 最近の分子系統学の研究では、毛顎動物は新口動物のグループには属さないと考えられるようになっている。 それでは真の新口動物は、、、。
棘皮動物門(Echinodermata) 典型的な棘皮動物であるヒトデとウニは脊椎動物はだいぶ形態が異なる。
棘皮動物門(Echinodermata) 棘皮動物は五放射相称を示し、運動性に乏しい。同じ新口動物の脊索動物とは、外見上も内部の器官系なども大きく異なっているが、すでに述べたように、発生の過程を見ると口があとからできるので、類縁関係が分かる。
おそらく、爆発的に適応放散したときに、運動性の必要ない環境に適応して海底でのあまり動かない生活に入り、そのまま、ほとんど進化せずに生き延びてきたのであろう。
棘皮動物のからだのつくり
棘皮動物の綱 ウミユリ綱(Crinoidea) ヒトデ綱(Asteroidea) クモヒトデ綱(Ophiuroidea) ウニ綱(Ecninoidea) ナマコ綱(Holothuroidea) これ以外に、化石種は多数
ウミユリ綱(Crinoidea) 駿河湾戸田沖の水深120mで刺し網にかかったトリノアシ(ウミユリ類の一種)
冠部と柄(茎)部からなるウミユリ類と、柄部が無く冠部から直接、何本かの巻枝がるウミシダ類に分かれる。 上面に口が開き、管足が発達した腕が5本あるいは分岐してその倍数、口を囲む。腕の小枝の上に生えた繊毛を動かし、プランクトンを濾し取り、腕の中心部の溝を流れる粘液にからませて口に運ぶ。
ニッポンウミシダ
ヒトデ綱(Asteroidea) ヒトデは英語でstarfishと言い、海星の漢字を当てるように、五本の腕をもち五角形の星型をしている。 下側に口があり肛門は上側にある。肉食で、いろいろな動物をおそって餌にする。特にアサリやハマグリなどの貝が好物で、五本の腕で貝を捕まえ、窒息させて食べる。
ヒトデ綱
その他のヒトデ アカヒトデ イトマキヒトデ
クモヒトデ綱(Ophiuroidea) クモヒトデは、ヒトデの一本一本の腕をうんと細くしたような形をしている。この腕は自切によって切れやすい。
クモヒトデ 主な器官系は、腕の基部に当たる扁平な盤のなかにあり、ヒトデと違って腕の中にはなく、腕は餌をとったり何かに絡みつくために使われる。 管足は盤の下面にある口の回りと腕の下面から出るが、吸盤とはなっていない。
クモヒトデ 熱帯のサンゴの間に美しい模様をしたクモヒトデを見ることがある。
また、腕が分岐してその数がきわめて多数となるテズルモズルのような種もある。
ウニ綱(Ecninoidea) ウニは卵を食するので、馴染みのある動物である。骨板の組み合わさった内骨格を持ち、棘皮動物の名の由来である棘を多数持った、独特の形態をしている。 管足を使って移動する。口は下側にあり、肛門は上側にある。5対の生殖腺は肛門と同じ上側に開口する。
ウニのからだのつくり
ウニのからだのつくり コシダカウニ
その他のウニ ガンガゼ ムラサキウニ 岩場にいるウニの仲間
その他のウニ タコノマクラ スカシカシパン 泥砂の海底にいるウニの仲間 棘は短くなっている・
Sand dollar 英語ではこの仲間をsand dollarと言って、よくアクセサリーのデザインに使われたり、窓辺の飾り物になったりする。
ナマコ綱(Holothuroidea) ナマコ(海鼠)はキュウリ型をしていて軟らかいので軟体動物のようだが、骨片があり、口のほうから見ると五放射性。棘皮動物である。 マナマコ・キンコ・オキナマコなどは食用とし、生食のほか、干したものを海参(いりこ)と称して中華料理の材料に用い、内臓を塩漬けにして海鼠腸(このわた)にする。
ナマコ ナマコ ナマコの酢の物