4-1 鉄骨造建物の耐震安全性 4-2 鉄骨造建物の被害例 4-3 鉄骨造建物の耐震診断と補強 4-4 鉄骨造大空間構造の耐震設計 第4回 鉄骨造建物の 地震被害と耐震設計 4-1 鉄骨造建物の耐震安全性 4-2 鉄骨造建物の被害例 4-3 鉄骨造建物の耐震診断と補強 4-4 鉄骨造大空間構造の耐震設計
建築防災工学のスケジュール 第1回 地震の発生 第2回 地震動と建物応答 第3回 建物の耐震設計法 第4回 S造建物の地震被害と耐震設計 第1回 地震の発生 第2回 地震動と建物応答 第3回 建物の耐震設計法 第4回 S造建物の地震被害と耐震設計 第5回 RC造建物の地震被害と耐震補強 第6回 木造住宅の地震被害と耐震補強
4-1 鉄骨造建物の耐震安全性 (1) 鉄骨造建物の長所 4-1 鉄骨造建物の耐震安全性 (1) 鉄骨造建物の長所 鋼材は引張強度が大きく,非常に粘り強い → 大空間構造や超高層建築に適する 鉄骨部材は指定工場で加工・製作するので,強度や伸び,寸法精度等が確保しやすい 現場での鉄骨部材の組立ては主に高力ボルト接合なので,作業が軽減され工期が短くなる
(2) 鉄骨造建物の短所 火災などで高温になると強度が低下するので 耐火被覆が必要である 錆び易いので塗装やメッキ処理等が必要 (2) 鉄骨造建物の短所 火災などで高温になると強度が低下するので 耐火被覆が必要である 錆び易いので塗装やメッキ処理等が必要 → ステンレス鋼は高価で使用されない 高価なので部材が薄くなり,局部座屈や全体座屈が生じやすい → 軽量になる(長所) 強度に比べて剛性が小さいので揺れ易く,減衰も小さいため,地震時に長時間揺れ続ける
(3)高さ13m以下のS造の2次設計 (ルート①) ・S造建物の水平耐力条件: ① 標準層せん断力係数を1.5倍して構造設計 C 0= 0.2×1.5 = 0.3 → 短期荷重で設計 ② 接合部は保有耐力接合:母材が先に降伏
(4)高さ31m以下のS造の2次設計 (ルート②) ・ 層間変形角の確認:外壁や仕上材の落下防止 1次設計用地震力に対して, 全ての階で層間変形角が1/200以下 ・剛性率の確認:ピロティー階の倒壊の防止 各階の剛性率が全階の平均剛性率の0.6倍以上 ・偏心率の確認:ねじれ振動による倒壊の防止 各階各方向で剛心を求め,重心と差(偏心距離)に対応する偏心率が0.15以下
鉄骨造建物の 耐震安全性と鋼材について
構造別の着工床面積の推移 S造が 最大
S造建物の高さ別の着工床面積 2階建 住宅 が多い
鉄骨生産の推移と新製品
鋼材の製造工程 原料の前処理 製銑工程 高炉(溶鉱炉)で銑鉄を作る 製鋼工程 転炉で,成分を調整し鋼を作る 連続鋳造 (1)鉄鉱石と石灰石を焼結する (2)石炭を蒸し焼きする 原料の前処理 製銑工程 高炉(溶鉱炉)で銑鉄を作る 製鋼工程 転炉で,成分を調整し鋼を作る 連続鋳造 連続した鋳型に入れスラブ等を作る 圧延工程 スラブ等を圧延して鋼材製品を作る
鋼材の製造工程
高炉による銑鉄の生産 焼結鉱 銑鉄 1t 当り ・鉄鉱石:1.6t ・石灰石:0.1t ・石炭 :0.7t コークス 下部から約1200℃ 銑鉄 1t 当り ・鉄鉱石:1.6t ・石灰石:0.1t ・石炭 :0.7t コークス 下部から約1200℃ の熱風を吹き込む 炉内は1500℃以上 約5時間で銑鉄になる 高炉スラグ トーピード カー
転炉による鋼の生産 銑鉄と鉄スクラップ,ニッケルやクロムなどを入れて, 下から高圧の酸素を吹込むと約15分で鋼ができる 酸素
連続鋳造によるスラブの製作 約1600℃の溶鋼を鋳型に 連続的に流し込んで水冷し スラブやブルームなどを作る
連続鋳造の外観
熱間圧延 スラブやブルームを 加熱しながら 連続的に圧延して 所定の鋼材を製造
熱間圧延によるH型鋼の製作
熱間圧延によるH型鋼の製作
建築用鋼材の例 梁材 柱材
建築用鋼材の製造過程 切断 孔あけ
建築用鋼材の製造過程(続き) 柱-梁の 接合部 の溶接
建築用鋼材の組立て 梁の高力ボル接合
鋼材の種類と使用部位
鋼材の種類と溶接性能
角形鋼管の成形の種類 BCR鋼管 :ロール成形 BCP鋼管 :プレス成形
鋼材製品の検査証明書 SN 490 C 降伏耐力:σy >325,強さ:σu >490 ,伸びε >17% Ceq < 0.44% C < 0.18%,Si < 0.55%,Mn < 1.6%,P < 0.03%,S < 0.015%
鋼材の応力-ひずみ関係 SN 490 532N/mm2 (490以上) 386N/mm2 (325以上) 弾性範囲 26% (17%以上)
鋼材製品の証明書
(2) 保有水平耐力と変形能力
変形能力を低下させる要因 ① 板要素の局部座屈 ② 部材の圧縮曲げ座屈や横座屈 ③ 接合部の早期の塑性化や破断 ④ 柱脚の引抜や破断
板要素の局部座屈と幅厚比(B/t): 板厚が薄いと早期に局部座屈が発生 →構造特性係数(Ds)で制限 梁の横座屈とスチフナによる補剛: →スチフナで補剛すると横座屈は生じない 柱の圧縮曲げ座屈と細長比( λ ): →λ = 50 の柱は早期に全体座屈をする 筋交い接合部の早期破断と原因: →高力ボルト本数の不足 →へりあきやボルト間隔の不足
角形鋼管の短柱の応力-歪関係 板厚が薄いと早期に局部座屈が発生 はらみ出る 幅厚比
短柱の幅厚比と圧縮歪比 板厚が薄いと早期に 局部座屈が発生
梁材の曲げ応力-変形関係 スチフナで補剛すると梁の横座屈は生じない × ×
柱材の圧縮曲げ-変形角関係 板厚が薄いと圧縮曲げ座屈が発生
筋交い材の引張力-変形関係 ボルトの本数が少ないと 強度や変形能力が低下 ▼ ▼
へりあきや間隔が不足すると変形能力が低下 筋交い材の引張力-変形関係 へりあきや間隔が不足すると変形能力が低下 ▼ ▼ ▼ ▼
4-2 鉄骨系建物の地震被害 (1)鉄骨系建物の被害の特徴 4-2 鉄骨系建物の地震被害 (1)鉄骨系建物の被害の特徴 建物の変形に追随できない
S造 阪神大震災での建築年代別被害率 修復不可能 無被害 RC造 S造は1981年 以降の建物も 被害を受ける 修復不可能 無被害
柱の溶接部の破断
柱の溶接部の破断による倒壊
梁と柱の溶接部の破断
筋交い接合部の破断
筋交いの座屈,耐火被覆の落下
柱脚の形式と地震被害 ① 露出柱脚(小規模建物):最も被害が多い → アンカーボルトの破断や引抜け → ベースコンクリートの圧縮破壊 → アンカーボルトの破断や引抜け → ベースコンクリートの圧縮破壊 → ベースプレートの曲げ降伏 ② 埋込柱脚: 埋込み長さがあれば被害は少ない ③ 根巻柱脚:根巻高さや主筋・帯筋が重要 → アンカーボルトの曲げ → ベースプレートの引抜き
柱脚のアンカーボルトの破断 教科書の口絵から
柱脚の引抜けによる倒壊 教科書の口絵から
柱脚の引抜けによる倒壊 2011年東日本大震災
柱脚部のコンクリートの亀裂
柱脚部のコンクリートの亀裂
体育館の天井材の落下 地震時の建物の 揺れによる変形 に追随できない
ホールの天井仕上材の落下
体育館の窓ガラスの落下
外壁パネル の落下 地震時の建物の 揺れによる変形 に追随できない
外壁モルタルの落下
渡り廊下の落下
(2)骨組構造の被害例 ・柱梁接合部: スカラップ底を起点として梁フランジに亀裂が入って破壊する ・角型の大断面柱の水平破断: スカラップ底を起点として梁フランジに亀裂が入って破壊する ・角型の大断面柱の水平破断: 瞬時に破壊したので,歪速度や 温度などが原因か?
鉄骨構造の柱梁接合部の破断
鉄骨構造の改良された柱梁接合部
角型の大断面柱の水平破断 瞬時に破壊したので, 歪速度や温度が原因? 破壊した柱が少なかった ため建物への影響は無し
(3)鉄骨製作・施工精度と被害 ・鉄骨系建物の地震被害: 鉄骨の製作や現場での施工の 技術や管理方法に問題がある → 施工不良が主な原因
4.3 耐震診断と補強 (1)耐震診断 ①実態調査に基づき各部位の耐力や変形能力を評価 4.3 耐震診断と補強 (1)耐震診断 ①実態調査に基づき各部位の耐力や変形能力を評価 ②各層の水平保有耐力 Qui と 靭性指標 Fi を評価し, 建物全体の耐震性能を表す ・構造耐震指標(Isi) Isi:Qui×Fi /(Fesi×Z×Rt×Ai×Σ(j=i,N) W j)>0.6 → 過大な損傷が生じない建物の弾性応答せん断力 /C 0 = 1.0 の地震入力 → C 0 = 0.6
・保有水平耐力の指標(qi) qi:Qui×Fi/(0.25×Fesi×Z×Rt×Ai×Σ(j=i,N) Wj) >1.0 →建物の保有水平耐力/C 0 = 1.0で構造特性係数 Ds=0.25での必要保有水平耐力 ① Isi < 0.3 または qi < 0.5 :地震の振動や衝撃で 建物が倒壊または崩壊する危険性が高い ② 上の①と下の③以外: 建物が倒壊または崩壊する危険性がある ③ Isi ≧ 0.6 または qi ≧ 1.0 : 建物が倒壊または崩壊する危険性が低い
(2)耐震補強 ①強度志向型:新たな耐震要素を設置して強度を増す → 筋交いやブレースの新設,間柱の新設 → 柱にコンクリートを充填させる ①強度志向型:新たな耐震要素を設置して強度を増す → 筋交いやブレースの新設,間柱の新設 → 柱にコンクリートを充填させる ②靭性志向型:既存部材の靭性を向上する → 部材に座屈補剛(座屈止め)を行う → 柱端部や梁端部にリブやハンチを取り付ける → 接合部のプレートを厚くする → 溶接範囲を広くするために補強リブを取り付ける
(2)耐震補強(続き) ③強度・靭性志向型: 建物の強度と靭性の両方を大きくする ④振動制御型:制震構造にする 筋交いに油圧ダンパーや低降伏点鋼を挟むなどして 減衰を増大させて地震のエネルギーを低減させる →鉄骨構造はRC造に比べて減衰が小さい (理由)保有耐力接合,柱脚と基礎との密着度
鉄骨構造の耐震補強の例(1)
鉄骨構造の耐震補強の例(2)
鉄骨構造の耐震補強の例(3)
制振構造の例(1)
制振構造の例(1)
制振構造の例(2)
制振構造の例(2)
4.4 大空間構造の耐震設計 (1)力学特性と構造安全性 4.4 大空間構造の耐震設計 (1)力学特性と構造安全性 アーチ(ドーム)やシェル構造: 鉛直荷重による曲げ応力は,スパンの1乗 に比例するので大型化できる
シェル構造の例
(2)大空間構造の阪神大震災での被害 ・構造的被害:きわめて軽かった →地震直後から学校体育館は避難場所や 慰霊式場など重要な役割を果たす →地震直後から学校体育館は避難場所や 慰霊式場など重要な役割を果たす ・非構造部材の被害:非常に多かった 天井仕上げ材窓ガラスや外装材の損傷落下 などが多くの体育館などで見られた → 大きな音がするのでパニックになる
シェル構造の地震被害の例
学校体育館の地震被害の例
体育館の天井パネルの落下 2008年 岩手・宮城内陸地震 (M7.2)
学校体育館の振動モード
(3)大空間構造の振動性状 と耐震設計 ・有限要素法による振動解析: 高次までの固有振動数と固有モードと刺 激係 数が得られる (3)大空間構造の振動性状 と耐震設計 ・有限要素法による振動解析: 高次までの固有振動数と固有モードと刺 激係 数が得られる ・ 小型模型によるインパクトハンマー実験: 数値解析結果を裏付けることができる ・ 学校体育館の地震被害:3.3Hzの地震波による5次固有モードの上下振動が原因
学校体育館の振動実験の試験体